092 哀愁のセンティネルズ③
(およそ2,500文字)
討伐専門ハンターチーム“センティネルズ”の躍進は目覚ましいものがあった。
リーダーであるベイリッドはレッドランクへと昇格するが、彼の実力はそれ以上で間違いないと誰からも思われていた。
事実、冒険者ギルド本部も、本来は秘匿されるような情報まで提供するといった優遇措置を行ったり、“センティネルズ”へ大きな期待を寄せていることは疑いようもなかった。
そして、彼らに訪れる機会。
『古代竜』討伐。
リヴァンティズ大陸中央ルベド。“重なりの塔”と呼ばれる謎の巨大建築物、禁足地と知られる巨大な山脈の間に、一際大きな山“イロコニア峻厳”がある。
そんな前人未到の地に、竜の中の王であり、“天帝竜”とも称されるドラゴンが棲んでいるのだと昔から語り継がれていた。
誰も手出しができぬほどの強大無比、もはや魔物などという範疇には収まらないような、神々や魔王に並ぶ伝説の存在が古代竜だった。
ベイリッドは依頼を受けた時点でレベル50台。仲間たちも当初いた10人から、今では30人を越える大所帯となり、誰からも一目置かれるレンジャーチームである。
それでも、この依頼を出したセルヴァン本部の中ですら、「はたしてベイリッドに天帝竜を討てるのか?」という疑問の声が上がっていた。
実の話、古代竜による実害などは出ていない。
しかし、太古の昔から、“伝説”や“神話”に挑む者……長らく平和な時代を送る者たちにとって、“英雄”を待ち望むがゆえに、この依頼は冒険者ギルド本部から直々に与えられたのである。
そして──
ベイリッドは、多くの期待に応え、古代竜を倒して帰ってくる。
しかも、誰も予想しなかったことに、彼は“人知を超えた強大な力”を携えて──
──
「ドラゴン討伐を専属にするだと?」
「それ、他のモンスターは相手にしないって意味かにゃ?」
ヴァルディガもシャルレドも、難しげな顔を浮かべた。
「そうだ。他にも人々を苦しめている悪しき竜たちがいる。私はそれを討伐せねばならん」
いつになく、真剣な顔でベイリッドは言う。
「討伐せねばならん……って。そんなの冒険者ギルドの仕事じゃないぞ?」
「セルヴァンには私から話した。この活動の理解、承諾も得ている」
「おいおい。副隊長の俺にも何も言わねぇで……」
ヴァルディガが拳を握り締めるのに、ベイリッドが「すまない」と頭を下げたことで、その握る手から力が抜ける。
「まさか、より強い敵と戦いたいって理由からかにゃ?」
「違うよ。難度が高いモンスターであったとしても、他のレンジャーで対応が可能だ。だが、ドラゴンは弱くてもSランクだ。中にはギルドが把握できていないだけで、SSSランクより上がいる可能性もあると聞く」
「……古代竜みてぇのがまだいるってのか?」
ヴァルディガは喉を鳴らす。
「世の中は広い。ヴァルディガ、シャルレド。これは我々にしかできない仕事だ。私の力、そして君たちの力……どれが欠けたとしても、上手くはいかない難しい仕事となる。
勝手を承知で言う。どうか、私に力を貸して欲しい。頼む」
深々と頭を下げるベイリッドに、ヴァルディガとシャルレドは顔を見合わせたのだった。
──
ベイリッドが退出した後、ヴァルディガが落ち着かなそうに部屋の中を行ったり来たりする。
シャルレドは鬱陶しそうに「座れにゃ」と言った。
「……どう思う?」
「どうもこうもないにゃ。そもそもアンシェント・ドラゴンの依頼を受けてから、ベイリッドはちょっと変にゃ」
「変って? ベイリッドの強さは確かにとんでもなくなったが、話している感じは普通だろ」
「……確かに。けど、なんか考え込んでることが多くなったにゃ」
言い返そうとしてできず、ヴァルディガは鼻頭にシワを寄せる。
「そもそも、ウチたちはその伝説のドラゴンを見てにゃいにゃ。ベイリッドだけにゃ」
「【竜縛領域】を使われたんだ。俺たちが入れないのは仕方なかったろ」
【竜縛領域】は、敵対者を指定して1対1の対決に誘い込むという設置型魔法であり、古代竜がこれを仕掛けていたせいで、ベイリッド以外は戦うことができなかったのだ。
「神々に匹敵すると言われた竜……それをベイリッドは単独で倒したにゃ」
「まさか。……ベイリッドが倒したのを疑うってのか? シャルレド」
「違うにゃ。疑ってはいない。けれど……何があったかをベイリッドは言わないにゃし」
「くだらねぇ! 事実、ベイリッドは生きて戻った! しかも竜の加護を得てる! 倒したんじゃなきゃどうやったってんだ!?」
ヴァルディガは吐き捨てるかのように言った。
「別に否定するつもりで言ったわけじゃない……」
「じゃあ、なんだってんだ?」
「アアシは……」
「ただでさえ、名が売れて目立ってきてるんだ。それを故郷に知られたら……」
「故郷? それが今なんの関係があるってんにゃ?」
シャルレドに聞かれ、ヴァルディガはあからさまに、しまったという顔を浮かべた。
ヴァルディガは誤魔化すように大きく咳払いをしてみせる。
「いずれにせよ、俺はベイリッドを信じる。それだけだぜ」
「そりゃ、アアシだって……」
切なそうな顔をするシャルレドに、なぜかヴァルディガは歯軋る。
「……ベイリッドに惚れているからか?」
「な! ……今はそれは関係ないだろ!」
しばらくシャルレドとヴァルディガは睨み合う。
最初に視線を逸らしたのは、ヴァルディガの方だった。
「……悪かった。言うべきじゃなかった。忘れてくれ」
「……ああ」
気まずい雰囲気が漂う。そんな中、ヴァルディガは「俺は最後までベイリッドについて行く」とだけ言って部屋を出て行く。
残されたシャルレドはベッドの上で膝を抱え、顔を埋めた。
「……当たり前だろ。いまさら、“センティネルズ”から……ベイリッドから離れられるわけないじゃないか」




