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078 目障りな存在

(およそ3,700文字)

「これは…どういうことだ?」


 辺り一面から戦う音、叫び声が木霊する中、ベイリッドは訝しげな顔をする。


「こちらから仕掛ける手筈ではなかっただろう? ヴァルディガ」


 後ろから走り寄ってくる気配に、ベイリッドは咎めるように言った。


「すまねぇ、ベイリッド様。事故だ。制御ができなかった…」


 申し訳なさそうに言うヴァルディガを見やり、ベイリッドは目を細める。


「制御できないだと?」


 ヴァルディガは腕を上げて見せる。そこには壊れた腕輪が、今にも落ちそうにぶら下がっていた。


「悪魔をコントロールする魔法アイテムが壊れやがった。ニセモノを掴まされた」


「オクルス…か?」


 ヴァルディガは頷く。


「俺としたことが……本当にすまねぇ」


「……ならば、悪魔100体(・・・)が敵味方関係なしに無差別に暴れているということか?」


「ああ。そうなるな…」


 いつになく自信なさげに言うのに、ベイリッドは少し考えるようにして顎を撫でた。


「範囲が広すぎて“竜圧”での制圧は難しい。一時的にでも、ハイドランド側と協力して1匹ずつ駆除する他ないか…」


「いや、待ってくれ。それはどうかと思うぜ。このままじゃ、悪魔を使ったっていう悪名だけが残ることになる…」


「事実だ。構わん」


 ヴァルディガは不服そうに眉を寄せた。


「構うぜ! そうやって、今までハイドランドに汚名を着せられてきたんじゃねぇか! なんで否定しねぇ!?」


 ヴァルディガが悲痛に叫びを上げるのに、ベイリッドは一瞬だけ呆気にとられた顔をした。


「……お前の言い分もわかる。権力者になる為に、時には汚い真似をしなければならないということもな。だから、今回、悪魔を使う作戦を私は許可した」


「そうだろ! まだ作戦は終わってねぇ! この機会を利用して、危機をチャンスにだって…」


「私にはこういうやり方は好まん」


 ベイリッドはそう呟いたかと思うと、ヴァルディガの返事も待たずに走って行ってしまう。


「ベイリッド!!」


 叫ぶように名を呼ぶが、ベイリッドは振り返ることはなかった。


「……そうかよ。だけど、こっちも“はい、そうですか”ってわけにはいかねぇんだよな」


 首を回すと、ヴァルディガは不敵に笑ったのだった。




□■□




 デビルハンターたちの動きは早かった。戦場に悪魔が出現したことを確認するや、当然の敵の対応に苦慮している兵士たちの前に躍り出る。


「どけどけい! 俺の獲物だッ!!!」


 ジャコモが2本の大剣を構えて猛進してくると、兵士や僧兵たちは驚き、ただ道を開けるしかなかった。


「この邪悪な悪魔どもめ! 俺が成敗してくれるわッ!」


 暴れ回っている悪魔を見るやいなや、血走った目を見開き、ジャコモは咆哮しつつ上段に構える。


「【悪魔退散】ッッッ!!!」


 振り下ろされた巨大な剣が当たった瞬間、悪魔は血と臓物を撒いて爆散した!


「◎▲◆♆Ω!」


 リネドが錫杖の先の紐を勢いよく引っ張ると、円環の形をした先端が飛び、悪魔の首を次々と()ねていく。

 刎ねられた首と胴体は、ジャコモが斬った時のように爆発して辺りに飛び散った。


「タハハ。いやァ、出遅れましたな〜、おふたりさんとも足の早いのなんの」


 腰を拳で叩きながらウェイローが出てきた頃には、周りの悪魔はほぼ殲滅し終えていた。


「な、なぜ爆発するんだ? 魔法なのか?」


 兵士たちはジャコモたちの戦いを見て狼狽えている。


「あ~、神殿で聖洗された“聖銀”を使った武器だからねェ。悪魔どもにはコレが一番効くんでさァ」


 ウェイローは自身の腰のナイフを指差し、それも聖銀製なのだと示す。


「弱いぞ! 弱すぎるッ!!」


 敵を倒し終えたジャコモが吠えた。


 リスネはしゃくりあげるように顔を前後に揺らしている。


「はぁ〜。確かに、ずいぶんと妙にアッサリと倒せましたなァ?」


「コイツらが上位悪魔か検分しろ!」


「検分しろと言われても、こうバラバラになっちまうとねェ〜」


 ウェイローは死体の破片を見て頬を掻く。


「まァ、とりあえず敵さんはまだおるようですし、たまたま弱い連中に当たっただけかも、とォ〜」


 ジャコモは強く舌打つと、プイと顔を背けて行ってしまう。


「Ω✕♢△…」


 リネドは何事か呟くと、ウェイローが手を挙げ、そのままジャコモとは反対方向へと跳ねて行った。


「あの小さいのはなんだって?」


「さてね。たぶん、“こっちは任せろ”って意味でしょうなァ」


 軽薄にそう言って笑うウェイローを、兵士たちは胡散臭そうに見やる。


「まあま、悪魔は専門家たるアタクシらに任せて下せぇよ。そちらさんは“戦争”に集中して下さって結構ですからねェ〜」




□■□




「あれが悪魔?」


「でも、何かおかしいぞ。ベイリッド軍にも襲いかかっている。もしかして同士討ちしてるのか?」


「一体、何がどうなってるのさッ?」


「お、俺に聞かれてもわからないって……」


 サニードとレアムは見張り台で、困惑した表情を見合わせた。


「サニード」


「え? うわッ!」


 声がした下側を見ると、黒い影がサニードの鼻先を掠めた。


「え!? オクルス!?」「お前ッ!!」


 驚くふたりの間に、音もなく横に着地したのはオクルスであった。


「この高さを…どうやって?」


 梯子も使わずに跳躍だけで昇ってこれるものかと、下の骨組み部分を見てレアムは目を瞬く。


「な、なんだよ…何しに来たんだよ……」


 サニードは気まずそうに言うが、オクルスは無表情のまま外を見やる。


「予定が変わりました」


「予定が変わった? 何の話?」


「あれは私が用意した悪魔ではありません」


「は? どういうこと? オクルスじゃないなら、誰が……」


「それは私の知る由もない話です」


「はー。またそれぇ〜?」


 サニードは肩を落とし、そんなふたりのやり取りをレアムは怪訝そうに見る。


「状況がどうなるのか私にも見当がつきません。この場にいるメリットはもはや…」


「イヤだ! 言っただろ! ウチはこの戦いを見届ける!」


 オクルスは無表情に、サニードを見やる。


「仕方ありませんね。それならば、無理にでも…」


「な! ちょっと!」


 おもむろにサニードの腕をオクルスは掴んだ。


「おい!」


 レアムが割って入り、オクルスの双眼がギョロッと動いた瞬間、ふたりは非生物的な気味の悪さを感じ、背筋に氷を当てられたような感覚に陥った。


「邪魔をするなら殺しますよ。少年(ラガツッオ)


 オクルスが何の抑揚も見せず静かにそう言うのに、レアムは全身総毛立つ。


(なんだ、コイツの殺気。何か普通じゃない……)


 レアムは剣を抜こうとしたが、そうした瞬間に自分の胴体が真っ二つになる予感がしてならなかった。


「オクルス! やめて! レアム! 逃げて!」


 サニードが真っ青な顔で悲鳴を上げ、オクルスの

手をほどこうとするがビクともしない。


「……貴方は少々目障りだ」


「……なんだと?」


 レアムが問うが、なぜかそう言ったオクルス自身がわずかに驚いたような顔を浮かべる。


「……“目障り”? いま、私がそう言ったのか?」


「は? さっきから、お前は何を言って…!?」


 オクルスの口角がグイッと不自然に上がったのに、レアムは目を見開く。 


「シヒヒッ! …失礼。自分の“感情”というものに少々戸惑いましてね」


 そう言って、オクルスはサニードをチラリと見やる。


「サニード。私は……」


「よくわかんないけどさぁ! グリン!! やってッ!!」


 サニードがオクルスを指さすと、床で揺れていたグリンが飛び上がる。


「!」


 オクルスは、グリンの存在には気がついていた。しかし、それが自分に飛びかかってきた時、オクルスは一瞬だけたじろいだ。


(“同族”…)


 “同化”していたわけではないが、それでも同じ肉体を構成していた要素……だからこそ、オクルス“本体”ではなく、“身体”がそれを攻撃と認識するのがほんのわずかに遅れたのだ。


 脅威の程度を把握するのが遅れたオクルスは、“強制的”に右手と左手を動かし、防御姿勢を取る。


 それが過剰反応だとオクルスが思った時には、グリンはボヨンと、腕に軽く当たっただけだった。


「ダメージ……は、ない?」


 当たり前の話だ。


 最上位種たるオクルスが、最も弱いグリーン・スライムに傷を負わされるはずもない。


 そうこうしているうちに、サニードがレアムの手を引いて階段を駆け降りて行くのを、オクルスは唖然とした顔で見やった。


「まさか。知性のないスライムが……命令を聞くとは」


 自分の足元で跳ねていたグリンが、自分も遅れまいとサニードを追って行くのに、気概を削がれたオクルスは、さっきまでサニードを掴んでいた自身の手をじっと見やる。


「……この短期間で、スライムを手懐けるとは思いませんでしたよ。サニード」

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