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067 爆発するサニード

(およそ2,000文字)

 ハイドランドの部屋から退出したサニードをレアムが呼び止める。


「なに?」


「…悪かったな。不審者扱いして」


 後ろ手で扉を閉めながら、まるで不貞腐れた子供の様な顔をしてレアムは謝る。


「……ううん。気にしてないよ」


 サニードは力なく頭を左右に振った。


「あ、そうか。ルデアマーなんだよな。なら、敬語で話さなきゃ不味いか…」


「やめてよ。あんた、そういうことする感じじゃないでしょ…」


「まあ、そうだけど…」


 レアムは暗がりで、サニードの白銀の目が光ったのに気づく。


「? お前、まさか泣いてるのか?」


 レアムは少し驚いた顔をする。サニードは「泣いてなんかない」と顔を背けた。


「いや、だって…」


「違う! なんでもないから!」


 グリンを抱き締めて逃げ出そうとしたサニードの肩をレアムは掴む。


「待てよ。なんか俺、変なこと言ったか?」


「だから違うって…離してよ…」


「泣いてる女の子を放っておけるかッ」


 サニードはハッとした様に顔を上げ、それからヘナヘナと力を無くしたようにしゃがみ込む。


「お、おい…」


 声を殺してグスグスと泣き出すサニードに、レアムは気まずくなって頭を掻いた。

 誰か助けてくれないものかと果樹園の方を見やったが、僧兵たちは相変わらず“緊急事態ではない”と動く気配はない。


「あ、あのさ…」


「ああもう! しつこい! 放っておいてくれよ! ウチ、いまもう頭ん中がグチャグチャなんだよ!」


「そりゃあ、いきなりルデアマーの一員だと言われても混乱…」


「違うよ! 決意して村を出たのに! 村を出ればもっと沢山のことできると思ってたのに!」

 

「村…エヴァン郷のことか」


 さっきのハイドランドとのやり取りを聞いていて、サニードが色々と苦労してきたことをレアムもなんとなく把握し始めていた。


「結局、レンジャーにはなれなくて、他の仕事でも魔法の使えないハーフエルフなんていらないって雇って貰えなくてさ! お腹空いて行倒れそうな時に変な娼館にダメ元で乗り込んでって、やっとこさ娼婦になったってのにさ!」


「しょ、娼婦!?」


 サニードの唐突な発言に、レアムは真っ赤な顔になる。


「トロスカルには『アータは物覚え悪いバカなんだから、せめて元気で愛嬌よくしなさい』って言われたから頑張ったのに!」


「と、トロスカル?」


「教官だよ!!」


「トロルの???」


 レアムはなぜか半巨人(トロル)の姿を思い浮かべていた。


「そんで初めてのお客さんがオクルスで、なんか色々あって気に入ってもらって、これで終わりかと思ったらまた会えたから、これはチャンスなんだって思って、このままウチは商人のノウハウ教わって…なるのは商人でもテイマーでもいいけど…それで上手くやっていきたいだけなのに!!」


 レアムは混乱する頭の中で、トロルにアドバイスを貰ったサニードが、頭にターバンを巻いた偉そうな男性に色目を使っている様を思い浮かべる。


(…なんか腹が立つのはどうしてだ?)


 レアムは腹の奥底で熱いものが滾り、手当たり次第に壁を殴りつけたくなる衝動を感じた。


「全部うまくいかないの! みんな言ってること難しすぎるし!」


「あ、ああ…」


「いきなりベイリッドが父親だって言われて、お母さんの恨みなんてウチには関係ないと思ってたけどそうもいかなくて!」


「そ、そうか…」


「でも、オクルスはイマイチ協力してくれないし、セフィラネはなに考えてるのかよくわかんないし、ルデアマーに歓迎されたいなんて一言も言ってないのに今そう言われたし!」


「う、うん…」


「ゼリューセさんやハイドランドさんはキライじゃないけど、そんなこと急に言われたってウチだってどうしたいのか考えても考えても、ウチはバカだからわかんないんだよぉ!!」


「お、おおぅ…」


 グリンをグニグニとこねくり回しながらワンワンと泣くサニードに、レアムはキョドる。


「あのさ…」


「……ウェンティに会いたい」


「?」


 サニードがボソリとそう呟いたが、きっと聞いても答えないだろうと思ったレアムはただ頷いてみせた。


「あー、とりあえず気がすむまで泣けよ…」


 レアムはサニードの横に座り、その肩に自分のマントを掛けた。


「うるさい! よるな! かまうな! もう泣いているよ!!」


「わかった。そうだな…」


「なにがわかるんだよ!」


「そうだな」


「適当に返事するなよ!」


 悪態をつくサニードに、レアムは反論せずにただ頷く。


「……ホント、人生ってままならないよ。それは俺もそう思う」


 一瞬だけムッとしたサニードだったが、レアムが光る星々を見ているのに気付き、下唇を突き出したまま同じ様に空を見上げた。


 2人ともその後は特に口を開くことはなく、しばらく何も考えずに星の輝きを見やっていたのだった──。


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