そいつは突然やってきた。~不法侵入じゃね?
よろしくお願いします!
そいつは突然やって来た。
「なんだ私は鏡を見ているのだろうか?それにここはどこだろう?」
「むしろ、お前は誰だ?どうやってうちに入ったんだ?」
そいつは俺の双子のようだった。
ただ……衣装が……中世のコスプレのようだ。
向こうでは俺の両親が喧嘩をしている。
「私は一人しか産んでないわよ!あなたが浮気をしたんじゃないの?」
「しかしだなぁ、あれはお前に似ているだろう?」
……の堂々巡りをしている。
俺はそいつと自己紹介をすることにした。
「俺の名前は如月涼真だ。高校2年。まぁ、帰宅部だな。で、お前は?」
俺は俺とそっくりな奴に話しかけた。勇気をもって話しかけている。帰宅部頑張った。
「私はトーマ・チェダーズだ。公爵家の長男だ。市井の者なら私と口をきくのもおこがましい。跪け、下民」
この瞬間、親父の脳天かかと落としが決まった。
「うちに来たならうちのルールってもんがある。公爵家とかなんだ?いつまでコスプレ気分なんだ?」
親父も相当頭にきているようだ。夫婦喧嘩の後だもんなぁ。
「まぁまぁ、昨今流行りの異世界転生の逆バージョンかもしれないし」
俺は言ってみた。本当にコスプレかもしれないが、俺と同じ顔の人間が親父のかかと落としをクラっているのを見るのは正直心にクルものがある。
「あー、トーマ。ここは日本で公爵とかないんだ。身分制度がないんだ」
「では、どうやって暮らすのだ?」
「それは自分でお金を稼ぐしかないよね?」
「私に商人の真似事をしろというのか?」
「……うーん。真似事というか、稼ぎ方にもいろいろあるんだけどね。俺がちょくちょく教えるよ。俺が帰宅部で良かったなぁ。ところでトーマ、しばらく出歩くなよ!」
「なに!?この馬小屋よりも狭い空間に閉じ込めるのか?」
と言い終わるかどうかというところで親父のかかと落としが炸裂した。
「……学習しないなぁ。ここのルールってもんがあるんだよ。ここのルールはうちの親父かな?なんかあったら親父のかかと落としが来るから、気をつけろよ。ってトーマは気絶してるか。親父―、おふくろー、トーマを開いてる部屋に寝かした置いて」
「いいけど、お前と同じだし。何もかも……。多分、息子の息子も同じ……」
親父がおふくろに睨まれた。
あぁ、うちは所謂かかぁ天下というやつだな。
それにしても、こいつにまずはこっちの世界の常識を教えないとな。憂鬱……。
四則演算とかできるのかな?
商人の真似事が嫌みたいだからできないのか?俺が教える事に……なるんだろうなぁ。帰宅部だし。憂鬱だなぁ。同じ顔だけど、態度デカいし、なーんか嫌なんだよなぁ。
********
翌朝はトーマが俺を起こした。
「なんだよ?今日は学校が休みだから一日ダラダラ過ごそうと思っていたのに……」
「私は何故貴様と同じ部屋で寝ているんだ?」
あー、それ言っちゃう?親父の稼ぎでこの大きさの家になったんだけど?無駄な部屋がない。……と言えば聞こえがいいけど、まぁ小さくて狭いんだね。
「普通侍女が起こしに来るものではないのか?」
「普通の家では侍女というものは存在しません。ごく一部の大金持ちの家にいるのかなぁ?って感じだけど?ちなみに起床は自分でする!えーと、目覚まし時計というものがあってなぁ。自分が起きる予定時刻にセットすると音が鳴るんだよ」
「ほう、それはどういう魔法だ?」
「魔法というものはこの世界には存在しません!」
「……ではどうするのだ?」
理解が追い付かないようだ。仕方ないか、そういう世界から来たら目覚まし時計はミラクルだよな……。
「仕組みはよくわからん。まぁ、そういうものだ。この世界の住人は『そういうものだ』と思っていろいろ使っているんだ。で、目覚まし時計なんだけど……」
トーマは興味深そうに目覚まし時計を見ている。むしろ見過ぎだ!
「トーマ……。別に減るものでもどっかに行くものでもないから落ち着け!」
「ミラクルなんだろ?奇跡の一品!!」
大袈裟だなぁ。
俺は使い方を説明した。
「私はこれで明日から起きるぞ!ミラクルだ!!」
はぁ、頑張れー。
「因みになぁ。俺はこのスマホ、スマートフォンのアラーム機能で起きている」
「何だ?それは??」
「スマートフォンの略がスマホ。それで、その中にアラーム機能があるってわけだな。お前にはまだ早い」
目覚まし時計に感動している人間にスマホは難しいだろう。
「なんだそれは?よく見せろ!」
「スマホはデリケートなんだよ!お前が扱うのはまだ早い!もっとこっちの世界の事を勉強してからだな」
なんだ?トーマがなんかガッカリしているような?
「よし!私はスマホを目指して頑張るぞ!!」
「おう、頑張れ」
とは言うものの、目標が微妙だなぁと思う。
*************
「二人ともおはよう、今日は早いのね」
「ああ、こいつに起こされた」
「私はてっきり侍女が起こしに来るものだと思っていたのだが、思いもかけず『目覚まし時計』というこの世のミラクルに出会ってしまったからな。明日からは更なる早起きを……」
「ちょっと待て!うちの朝はだいたい6時だ。時計も6時にセットしろ!」
「おふくろさん!」
「アラヤダ、『おふくろ』でいいのよ?」
「ではおふくろ!なんと着替えも自分でするのだな!私は初めて自分で着替えをした!」
「……俺……手伝ったんだけど?」
「いい匂いがするなぁ。今日の朝餉はなんだろう?」
「うちは朝食はパンなのよ。だから、スクランブルエッグとカリカリベーコン作った」
「なんと!おふくろ手作り?朝からご苦労様です!」
「普通よ?」
「普通は料理人がするものではないのですか?」
「おかかえの料理人がいる家なんてそうそうないぜ?」
「そうなのか……。私はまたひとつ賢くなったな!スマホに近づくってもんだ!」
ポジティブだよな……。朝からテンション高いし。
「スマホに近づくってなんの話?」
あぁ、おふくろが食いついた。
「こいつ、知識が足りなすぎて現段階でスマホを持たせるのはどうかと思うんだ。せめて義務教育終了の知識とこの世界での常識を知ってないと」
「そうねぇ。テレビも知らないでしょ?」
そう言って、おふくろはテレビの電源を入れた。朝の天気予報が画面に映った。
「おい!あの薄い箱に小人でも飼っているのか?」
なんて常識を知らない人のテッパンのようなリアクションでしょうか。
「放送局ってのがあってだなぁ。そこで普通の大きさの人間をビデオで写す。それを電波で飛ばす。うちのテレビはその電波を受信する。テレビに画像が映るって言うのが流れなんだけど……。ってうちのテレビを超見てるじゃねーか!俺の説明も聞けよ!あー、この分じゃ写真撮る時に『魂を取られる』とか言いそうだな」
あとでスマホで写真と動画を撮って説明してやるか……。
「あ、親父殿。おはようございます!」
「うむ」
おやじも「うむ」じゃねーよ!朝からよくそのリアクションできるな。
「『親父』でいいだろ。呼び方」
「えー、『親父殿』って新鮮で心地よかったのに」
親父もいい歳してぶーたれるなよ。
「今朝から私は『目覚まし時計』と『スマホ』と『テレビ』というミラクルに出会いました。この世界にはいろいろとミラクルがあるのですね」
「おい、涼真。ミラクルとか大袈裟だな。トーマがスッゲーきらきらしてるんだけど?」
「トーマくーん、もしかしてこれも『ミラクル』なのかしら?お父さんがコーヒー飲むからお湯を沸かすんだけど?」
おふくろはコンロでお湯を沸かした。
「おふくろ……。やはり、魔法では?」
「やーねぇ、トーマ君。ただのガスコンロよ。詳しい説明は涼真君に聞いて」
俺に丸投げかよ。酷くね?
「……あー、もっと勉強しよう。そしたらわかるから」
俺は誤魔化した。俺も詳しいことはわからないから。火が付く説明と一酸化中毒に気を付けようってことくらいしかわからん。
************
「シソクエンザン、それは何だ?」
あぁ、やっぱりな。簡単な計算はできるだろうけど、俺が通ってる高校は一応進学校だし、少なくとも方程式くらいできないと。というか、1週間で義務教育をマスターしてもらう。これはあいつの義務だ!
「まぁ、俺らの年齢だとジョウシキみたいな?簡単な計算だな」
「簡単な計算ならできるぞ」
「ほう。では、どの程度か俺がテストしてやろう。まぁ、貴族様なら簡単だろう?まっ、軽~く満点みたいな?」
俺はトーマを挑発した。俺に似ている(性格を含め)なら、簡単な挑発に乗ってくるだろう。まだ精神年齢が小学生並みみたいだし?
「俺を馬鹿にしているのか?見てろよ?ちょちょっと満点を取って吠え面をかかすからな!そしてスマホだ!」
テスト(by俺監修)が終了した。結果、時間をかなり要して極簡単な問題しかトーマは解けなかった……。
俺の方が落ち込む。こいつにこれから知識を詰め込むのか……。
「おい!涼真!問題を難しくしたんではないか?俺がちょっと麗しいからといって」
おっとぉ、こいつはナルシストなのか。問題発言だ。俺は決してナルシストではない!
「いや、これはうちの両親でも全問正解するだろうな。時間をかければ確実だ」
「……」
黙ったけど、事実だからなぁ。
そうだ!俺が所有する漫画で日常の常識は学習してもらおう。
勉学みたいなものは……仕方ない、俺が直々に教えるか……。何しろ1週間で義務教育をマスターしてもらうからな。スパルタ決定!
俺が学校に行っている間は、家で漫画を読んでいてもらう。それでこの世界の常識を学んでもらう。漫画というもので、トーマがふらふらと家から出ることも防ぐ完璧な作戦だ!
*********
1週間後トーマは常識を覚え、さらに義務教育もマスターした。
「見ろ!これが俺の実力だ!」
「はいはい。まだ基礎だからそこのところ覚えておくようにな」
漫画はスゲーな。この世界の基本常識が詰まっているようだ。
「私は…」
「はい、一人称は『俺』に変更しましょうね。男で、『私』という一人称を使っているのは……うーん……偉い人?」
「俺は偉い人ではないのか?」
「トーマは一般人です。加えて、……俺と同じ容姿なら高校生です。17才です。未成年です。酒もタバコもダメです」
「何?酒を嗜んではダメだったのか?……夜な夜な親父と酒を……」
親父何やってんだよ!
「前の世界でどうだったかは知らないけど、この世界で20歳前の飲酒はNGです。法律で禁止されています。漫画で読んだだろ?」
「まぁ、読んだけど実生活が……」
親父の仕業か……。
*********
「えーと、そのほかの知識だけど……。トーマは何を知りたいんだ?」
「とにかく知識を習得して目指すはスマホ!!」
目標設定がおかしいよな……
「そうだなぁ、俺の高校の教科書を勉強するように!俺が今高校2年だから、高校1年の時の教科書をじっくり勉強するように!わからないところは俺に質問しろ!」
俺の復習にもなって一石二鳥か。
「そうだ!いい加減外出歩いてもいいぞ」
「それなんだけど、おふくろの買い物につきあってちょくちょく出てる」
はぁ!聞いてないんだけど?!
「おふくろ!トーマを買い物に連れて行っていたのか?」
「ええ、そうよ。トーマ君、『いい息子さんね』って大評判なの」
俺は?その時間学校に行っている時間なんだけど?大丈夫なんだろうな……。
「大丈夫よ。トーマ君常識が身に着いたから、涼真君の双子で、最近まで留学してたって設定にしたから」
設定を勝手に作るなよ。
「どこに留学してたんだよ?そこの国の言葉話せないと不自然だろ?」
「あら、そこまで考えてなかったわ」
考えろよ。気が重い……。英語なら気合いで覚えてもらおう。
***********
「トーマは漢字表記で斗真って書くことにする。名前は『如月斗真』。涼真の双子の弟だ。最近まで他国に留学していた」
他国ってどこだよ……。
「親父の設定って結構穴があるんだけど?」
「むっ?どこだよ?」
「『他国』ってどこだよ?」
「……」
「英語を使う所なら英語を覚えてもらわないとなぁ。イギリスとかにすると経験者とか、イギリス英語がわかるやつとかいて面倒だ」
「英語を使う所だけど、親戚にまかせっきりだったからどこだかうちはわからない。とかは?」
「無責任すぎないか?まぁいいけど?実の子供をそんな扱い……。外道……。そう言うわけで、斗真はこれから英会話をマスターしてもらう。片言になった場合、『日本の生活が長くなって英語を忘れてきちゃった』とほほ笑め!」
まぁ、俺と同じ顔だからほほ笑めば事は収まるはずだ!
うーん、こういうのって結構難しいな…。
生まれてすぐに子供に恵まれない遠くの親戚に預けられたけど、その親戚が最近亡くなった。という設定ではどうだろう?
日本語しか話せないのもそれでわかるし、親戚の介抱で最近はあまり学校に行っていなかった。故に学力が芳しくないということで……。
しっかし……俺と同じ顔して学力が芳しくないのはなんか腹に据えかねる。
やっぱり、みっちりと勉強してもらおうか?英会話も少しはできて当然って時代だし?
「生まれてすぐに子供に恵まれない遠くの親戚に預けられたけど、その親戚が最近亡くなった。という設定にしませんか?日本語が達者な理由も学力が芳しくない理由もこれで克服できるし……」
「流石は涼真君ねー、それでいきましょう!」
おふくろ……最初からほぼ丸投げだったじゃん。斗真そっちのけで夫婦喧嘩してたし。
「そういうわけで、斗真よ。俺の事は兄貴と呼べ」
「すごく庶民な感じだな」
「うちは極・庶民です!」
おっとぉ、あんまり言うと親父が怒ってかかと落としを繰り出す。
「おふくろは所謂‘お嬢様’だったんだけどな。そこは親父が色々と……。まぁ話が長くなる」
「失礼ね!二人のラヴロマンスを語っているのよ!斗真君もいつか聞いてね!」
あぁ、斗真もおふくろの長話の餌食になるのか……。
************
「斗真-、漫画もいいけど、俺が学校に行っている間に勉強をしておくように!学力がそこそこついたら俺と同じ高校に転校してもらう。ただ……俺が通っている高校の偏差値は高くてなぁ。学力が高くないと入れないんだよ。よって、めっちゃ勉強するように!スマホは高校生の必需品だ。持ってない方がオカシイ」
「ほう、そういうことはめっちゃ勉強して涼真と同じ高校に通えるようになれば、スマホを手にできるのだな?すごくやる気が出た!」
やっぱり目標設定おかしいよなぁ。スマホ持った後はどうするんだろ?
読了ありがとうございます‼
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