表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔女だっておやつが食べたい  作者: 桃酢豚りんご
54/60

福音をなぞる

 小汚い集落。難民キャンプを訪れた二人が最初に抱いたのは、そんな印象だった。


 亜熱帯高気圧帯特有の、乾燥に乾燥を重ねた空気。徐々に進行していく砂漠化に適応できなかった動植物は死に絶え、その亡骸に羽虫がたかる。勿論人間も例外ではなく、度重なる紛争により住む場所を追われ、財産を失った者たちは皆一様に元々の身分から凋落してしまう。


 軍人崩れ、ホームレス、商売女に政治界の元重鎮。多種多様な人間によって作り上げられたコミュニティにおいて共通しているのは、彼らが敗戦国から追われた戦争難民であるということ。そして自分たちの日常を壊した敵対国への怒りと恨み。多額の人道支援金に反対する国民への失望。そういった負の感情が、彼らを生かす原動力となっているのは皮肉なことであった。


 虐げられるのではなく戦うことを選んだ難民たちは、いつの日かこの国を埋め尽くす悲鳴を、散っていった同士たちへの鎮魂とすることを誓った。そのためには文明的な生活を捨て、いくらでも賊徒に身を落とすことさえも厭わずに。死肉を貪るハイエナと揶揄されようが、いずれ来る革命の朝を待つことを誓ったのである。


 しかし廃材を寝床とすることを拒否した者たちは、この過酷な環境に耐えられず死に絶えていく。居住区を一歩外れれば、干からびた死体があちこちに埋まっていた。



(……まるで、あの街みたいだ。いや、もっと酷いかも)

 

 直射日光を避けるように白いマントを羽織り、フードで顔を隠した少年。その目線の先では、つい今しがたキャンプに入ってきた数台のサンドバギーが停車していた。どうやら、どこかから食料や武器、燃料の類を調達してきたらしく、車体から牽引された荷台には、薄汚れた格好した難民たちが列をなしていた。サンドバギーを運転していた男から、順番に缶詰や水の入ったボトルが配給されている。

 食料を受け取った人々は、大人も子供も皆一様に笑顔を浮かべていた。


「……」


 彼らの殆どが、腕や足、目といった体の一部分を失っており、その空白を埋めるが如く義肢や義眼などの人工物に置換されている。

 魔導兵装、というらしい。この国の軍事産業を影で支える、とある天才が生み出した技術は、魔力が扱えない者にも義肢や人工器官を通して魔術の行使を可能にさせた。

 本来は紛争で肉体が欠損した兵士を、内紛制圧や他国への侵略兵器として再び戦線復帰させるために生み出された技術だったはずだが、結果として政府への不満を抱えた難民たちの武装蜂起を引き起こすことなったのは、また皮肉な話であろう。


 肉体を魔導兵装へと換装しているのは大半が大人の男性だが、よくよく見れば少年と同じくらいの年齢の子供たちの中にも、義肢や義足を装着した者が見受けられる。

 少年の顔が、フードの陰で曇る。彼自身の生い立ちも決して幸福なものだったとは言えないが、それでも目の前の痛々しい光景に思わず目を背けてしまいそうになっていた。



「同情してくれるのかい」


 突然背後からかけられた声に、びくりと肩を震わせた少年が振り向くと、そこには顔中に痛々しい傷跡を残す男が彼を見下ろしていた。

 長身に、がっしりとした胸板。無表情の中で光る鋭い目つき。その男もまた、右の肩から先が金属製の義肢に換装されている。その前腕には所狭しと術式が刻まれており、数種類の魔術が行使できる魔導兵装であることを示していた。


 少年は、驚いた表情をすぐに引っ込めると、足元へと視線を這わす。そして、しばしの逡巡のあと、躊躇いがちに言葉を紡ぎ出した。


「同情、という言葉が正しいのかどうか……。僕が抱いた感情が、どういうものなのかよくわからなくて。ただ……」

「ただ?」

「僕は、僕自身に差し伸べられた手に対する感謝と、それから僕自身の無力さを呪うことは、できるかもしれないと……」


 自信なさげに尻すぼんでいく語気と、あちこちに彷徨う視線。自分の言葉を上手く言語化できないもどかしさ。少しでも伝わっただろうかと少年は、黙って耳を傾ける男の顔を盗み見た。

 そんな彼の未熟な意志表示を笑うことなく、神妙な表情で頷く男。


「そうか……。だが自分の置かれた環境から一度離れてみて初めて、見えるものはとても多い。それに気づけただけでも、君もそして我々も、ある意味幸福だったのかもしれない」

「僕は…………」

「君は優しい。そうやって他人のために心を痛ませることができる。世界に君みたいな人間が後一人でも多ければ、あの子たちはきっと普通に学校に行って、普通に友達を作っていたかもしれない」


 男が視線を巡らせる。その先には、たった今受け取った一つの缶詰を大事に抱えた子供たちの姿。

 有り得たかもしれない、しかし実際には有り得なかった話。それはただの空想話で、慰めの意味しか持たないが、拙い思いを精一杯読み取った男の誠実さは少年にも伝わった。


「だが、起きてしまったことは変えられない。我々は、今できることをするまでだ。……というわけで、俺は君を迎えに来た。連れの人は既に指導者のところへ案内している。さぁ着いて来てくれ」


 少年の返事を待たず男は踵を返した。その背中を見つめる少年の拳に、力が入る。


「あ、あの……指導者って」

「素晴らしい人だ。彼女がいなければ、今の俺たちはなかった。ここに居る者たちは皆、彼女に感謝している」


 振り向いた男は、笑みを浮かべ再び歩き出す。

 絶対的な信頼。たったの一言で、男の指導者に対する感情が読み取れた。


 

 少年は、瓦礫の街を振り返る。



(僕は……この国で、一体何ができるんだろう)

 

 黒い影を湛えた、瑠璃色の双眸が静かに揺れた。

 


 ***



 難民の男に導かれ辿り着いたのは、客人をもてなすには質素すぎる部屋だった。雨風が凌げる、必要最低限の天井と壁。一部にヒビの入った小さな窓からは一面に砂の大地が望める。椅子も、机もない。床には絨毯が敷かれているが、ざらざらとした砂の感触が靴底から伝わってくるような、この場所では珍しくもない空間。

 しかし直射日光を避けられるだけでも、幾分かマシであろう。日中の屋外活動は、寒冷地の気候に慣れた少年にとっては、拷問かと思えるくらいに辛いものであった。

 


「……遅かったな」


 軋む音に、思わず眉をひそませながらドアを開いた少年を待っていたのは、四つの瞳だった。声を発したのは、絨毯の上に腰を下ろした青年。口元をマスクで隠した彼は、汗もすぐに乾いてしまうような気温にも関わらず、全身に黒衣を纏っていた。


 見知った顔を認めた少年の表情に安堵の色が浮かぶ。青年は、共にこの国へ足を踏み入れた同僚だった。少年を見据えるその瞳にはどこか冷たさを感じさせるが、決して怒っているわけではなく、ただ無感情から生じるものであると、ここまでの旅路の中は少年は理解していた。


「すみません……。少し、散策していました」


 ドアを閉め、少年が応える。家具のない空間に再び響く、不快な音に戸惑いの表情を浮かべた。


「ああ……、気にしないでくださいね。本当はもっと綺麗な場所もあったのですが、怪我をしている方々が運ばれてきて、その療養に使っていまして。こんな所にお招きするのは忍びなかったのですが、どうかお許しください」


 透き通るような声が鼓膜をつついた。

 細い体に灰色のガラベーヤを纏い、葡萄酒を思わせる色のロングヘア―を床に垂らした妙齢の女性。布の隙間から覗く白い肌は陶器のようだ。皆浅黒く焼けた肌をした人ばかりのこの国では、一層目を引く外見をしていた。


 青年と同じく絨毯の上に直接座ったその女性が、少年に向かって頭を下げた。

 思わず見惚れてしまっていた少年が我に返り、それに応えるため頭を下げようとして――自分の顔が隠れたままであったことに気づき、慌ててフードを外す。

 

「い、いえ! お気遣いありがとうございます。こちらこそ、本日はお忙しい中お時間を頂いたみたいで、申し訳ありません」 

 

 瞳と同じ、瑠璃色の髪が跳ねる。眉上の前髪は、彼の真面目さを表すかのように真っすぐと切り揃えられていた。

 まだあどけなさを残す少年の姿に柔らかく微笑む女性が、彼に座るよう促す。じゃり、と砂粒を踏みしめる音を立てて腰を下ろす少年を待ち、マスクをしたままの青年が口を開いた。

 

「……揃ったところで、話を始めようと思う。君もしっかり聞いておけ――テオー」

「は、はい。わかりました。エーギルさん」


 少年――テオー・レイヴンが緊張した面持ちで姿勢を正す。


「……テオーが来る前に少し触れたが、今日あなたを尋ねたのはフレイ――いや、ここではフロージの名で活動していた男の消息について、だ」


 エーギルと呼ばれた青年が口にしたのは、つい先日、魔導研究所ペルアンクを襲った賊の鎮圧に向かった男の名であった。


「表向きはムスペルヘイム政府体外諜報員の顔を持つユングヴィ・イン・フロディとして。そして難民キャンプをまとめる幹部、フロージとしての裏の顔。その真の正体は――」


 エーギルから語られる、偽名と偽りの身分の数々。


「ミッドガーデン中央教会に所属する異端審問官――イングナル・フレイ、というのが彼の本当の呼び名だ。テオー、君に話していたのはここまでだったな」

「ええ……」


 ここまでの道中で、エーギルから伝えられた概要を思い返すテオー。あまり人の名前を覚えるのが得意ではない少年にとって、今回の任務の目的である、その男の話を聞いたときは、幾つもの名前を使いこなすその器用さに思わず舌を巻いたものだった。


「彼に与えられた任務は、ムスペルヘイム政府軍に潜り込み魔導研究所ペルアンクで開発される兵器の情報を教会に持ち帰ること。そして」

「その兵器を基に教会が手を加えた魔導兵装を、ムスペルヘイム政府に反感を抱く難民たちへ流出させる。そしてそこで得られたデータをフィードバックすること、でしたね」


 エーギルの言葉に頷きながら、その続きを引き継いだ女性。先ほどエーギルが言ったように、ある程度の概要を把握していた二人の表情は、これまでと変わらない。顔の半分が隠れた青年は淡々と。その前に佇む女性は柔和な笑みを浮かべて。


 しかし、それを初めて聞いたテオーにとってはあまりにも衝撃的な内容で、驚きを隠すことができなかった。


「……! そ、それって!」

「体のいい人体実験、ですよ。でも、心配しないでください。勿論、私たちもそれは承知の上ですし、感謝もしているのですよ。事実、無力な難民たちは戦う術を得て、そのための資金だって教会から援助してもらっている。あなたたちの助力がなければ、ここで暮らす難民たちは皆、砂漠の海で溺れ死んでいたことでしょう」


 教会の持つ裏の顔。その一つ。

 神父見習いとして、清廉潔白を志していた少年にとっては、あまりにも現実離れした話。

 思わず腰を浮かしかけた彼を制止したのは、目の前に座る難民キャンプの指導者と呼ばれる女性だった。


「…………」


 信じ難い事実に、わなわなと口を震わせるテオーを横目に、エーギルは言葉を続ける。


「フレイに妙な動きがあることは以前より情報部から報告が上がっていた。ただ、任務自体は問題なく遂行していたし、大司教はそのままにしておけ、と。ストレス発散も必要だとかなんとか言っていたが」


「ええ、そんな彼が、先週起こった魔導研究所ペルアンクでの騒動以来、行方をくらませている。この自治区に関しては、彼に一任していたのですが、彼が不在となったために急遽私がここに召集されることに……」


 ふぅ、と息を吐き、額に手をやる女性の表情が初めて陰りを見せた。


「奴が、独断でムスペルヘイム政府軍の部隊を動かし、ペルアンクに向かったことはこちらも把握している。そして、そこから賊に持ち出されたという“とある兵器”に執着していたということも。政府は……その賊が難民の手の者ではないかと疑っているようだが」


 魔導研究所ペルアンクへの襲撃事件は、テオーの耳にも入ってきていた。しかし内紛の多いムスペルヘイムでは、そう珍しくはないニュースであり、市民には新聞でも襲撃が起きたことと、それが無事に鎮圧された程度の簡単な概要だけが伝えられていた。

 しかし目の前の女性を無感情に見やるエーギル、そして教会の思惑は――


「以前から、難民キャンプにおける魔導兵装と資金の流れについては、度々政府からの追及がありました。今までは上手く躱していましたが、フロージ……いえ、イングナル・フレイがその件に絡んでいると発覚すれば……」

「君たちの背後にいる我々教会にも、ムスペルヘイム政府の手は及ぶだろう」


 独自の宗教形態を築くこの国においては、ミッドガーデンに本拠地を置く教会の勢力はそう強くはない。排斥されるはずの魔女すらも兵器として扱うムスペルヘイムと、その魔女の根絶を目的とする教会は相容れない間柄であることは間違いないのだ。

 その教会と、政府へのクーデターを企てる難民たちが繋がっている。その事実が明るみに出れば、ムスペルヘイムはその圧倒的な軍事力を以て教会との戦争に踏み切るだろう。


「私たちが、匿っているのではないか……と教会は危惧しているのですね。だからこそ、その真偽を確かめるためにあなたたちが派遣された」

「……理解が早くて助かる。だが、いくら疑いがあるとはいっても、何も今すぐに資金援助を取り止めるというわけではない。大司教は、あなたのことをいたく気に入っている。あなたの態度次第では、引き続き魔導兵装と資金の援助を続けていくということだ」


(……僕は本当にここに居ていいのでしょうか)


 テオーの目の前で交わされるデリケートな会話の応酬。

 あくまで淡々と告げるエーギルの隣で、テオーは飛び交う情報を整理することで精一杯といった状態であった。


「……ありがたい話、なのでしょうね。しかし、私も彼を信頼してここを任せていたので……。こう見えても正直、私も今回の件についてはショックを受けているのですよ」


 悲痛そうな面持ちを見せた彼女は、膝の上で両手を握り締める。


「……何も話すことはない、と?」

「何も知らない、という方が正確でしょうね」


「…………」

「…………」


 二人の視線が交差する。嫌な沈黙が、室内に降りた。

 エーギルと指導者の顔を、おっかなびっくりといった仕草で往復するテオーは、ますます自分が場違いなのではないかという感覚に陥り始める。


「……そうか。では、我々がここに滞在する意味はなくなったな」


 一息。エーギルがかぶりを振り、部屋の中に満ちていた緊迫した空気が緩和される。

 思わずほっと胸を撫で下すテオー。そんな彼を見て指導者は苦笑を浮かべた。


「お役に立てず、申し訳ありません。指導者、などと祀られていても所詮はお飾りなのです。難民たちは……彼らは、皆とても強い。本当は私などいてもいなくても、変わらないでしょうから……」


「……君は…………いや、なんでもない」

「あ、あの……」

「?」


 テオーがおずおずと声を上げた。先ほどまでと変わらず自信なさげな表情であるが、瑠璃色の瞳には、ある一つの思いがあった。

 頭に浮かぶのは、テオーをここまで案内した難民の男。その鋭い瞳の中に見え隠れしていた、後悔と決意。そして最後に浮かべた笑顔。


 少年にはその男の姿と、目の前の女性の姿が被って見えていた。


「さっき外で見た人たちは、みんな笑っていました。国を失って、体も……その、傷ついて…………。きっと、僕には想像もつかないくらい辛いことがあって、本当は平和に暮らしたいって、そう思ってるはずなのに」

「テオーさん……」


 言葉を選ぶように、ゆっくりと紡ぎ出される言葉。指導者もエーギルも、彼が吐き出そうとしている本心へと、静かに耳を傾けている。


「僕よりも小さい子供だっていました。僕が同じ立場だったら、きっと耐えられずに逃げ出していた。それでも、ここに住む人たちはみんな笑顔だったんです。苦しいはずなのに、悲しいはずなのに、それでも明日の希望を失っていなかった! それはきっと、あなたがいたから……!」


 テオーは思わず立ち上がっていた。両手を一杯に握りしめて、最後はまるで叫ぶように。

 汚れを知らない、少年の青臭い言葉。しかし、だからこそ理想を抱くことを忘れてしまった大人たちへと、無遠慮に、無責任に突き刺さる。


 ぽかんと、口を開く女性。


「……」

「あ…………い、いえ。その……すみません、知ったようなことを…………。ええと」


 そして、微笑んだ。


「……ロキです。ここでは、そう呼ばれています」


 指導者――ロキがテオーの手を取り、そっと握りしめた。


「あ……、ロキさん、だからその……」

「……ありがとう。あなたは、とても優しいんですね。きっと良い神父様になるわ」


「あうう……」


 顔を真っ赤にし、俯く少年。ふわふわとした空気が、部屋に漂い始める。


「……ンンっ」


 その空気を引き締めるように、一つ咳払いをしたエーギルが立ち上がった。


「……そろそろ失礼するとしよう。また教会から“フロージ”が派遣されてくるだろう。何かわかったことがあれば、その者に情報提供を」

「ええ、わかりました」


 まだ赤面しているテオーを出口へと促しながら――


「……そういえば」


 立ち止まった。


「怪我人が運ばれた、と言ったが……。それは、二人組じゃなかったか? 一人は首に逆十字のチョーカーを巻いた少女で、もう一人は……そう、君と同じ髪色をした冴えない男だ」


 ロキを見つめるエーギルは、相変わらずの無表情。しかし、その目が僅かに鋭さを増したと思ったのは、テオーの思い違いだったのだろうか。


「…………いいえ。違いますよ」


 再びの沈黙。


「…………そうか、ならいい。行くぞ」

「は、はい!」


 もう用はないと言わんばかりに、足早に部屋を出ていく黒衣を追うテオー。出口で振り返った彼は、静かに佇むロキへと軽く頭を下げた。



「…………」


 二人が去り、部屋の中に静寂が満ちる。

 残された彼女の肩から、ふっと力が抜けた。背中を伝う汗の所為で、ガラベーヤが肌に張り付いて下着の輪郭が浮かぶ。


「……ダウワース。そこに居ますね」


 彼女以外誰もいない空間。しかし、彼女の声に反応するように、無機質な背景が()()()


「は」


 背景が滲む。まるで騙し絵のように、突如としてそこに現れた男。顔に刻まれた傷と、右肩から先の無骨な義肢。歴戦の兵士を思わせるその男の前腕に刻まれた潜伏魔術の術式が、一瞬の光の後、消えた。

 

「少し計画を早めます。シンモラ・ノルシュトレームの容態はどうですか?」

「先ほど、目を覚ましたと通信が。しかし、勝利の剣(レーヴァテイン)は……」


 ダウワースと呼ばれた難民が、その鋭い双眸を揺らす。


「……アレが奪われたのは計算外でした。まさかフレイがあそこまで大胆に動くとは。しかし教会が出張って来ている以上、これ以上の猶予はありません。あとは、彼女の頭脳に賭けるとしましょう」


 悔し気に目を瞑るロキ。噛みしめた唇から絞り出した主の言葉に、深く頷くダウワース。


「すぐに手配を」

「ええ……では始めましょう。教会崩しを」


 ロキがゆっくりと瞼を開く。

 力強く紡ぎ出された言葉。


 その金色の双眸には、確かな決意が宿っていた。  

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ