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魔女だっておやつが食べたい  作者: 桃酢豚りんご
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プラスチック・ファンタズム

「こっちに人数回せ!」

「いてぇ……いてぇよぉ…………」

「くそっ、薄汚い難民どもめ!」


 ――銃声、銃声、爆発音。

 湿度ゼロパーセントの高気圧帯を穿つ、火薬と魔力の臭い。

 自動小銃を抱えたキャラバン隊と思われる連中が対峙しているのは、体のあちこちを人工物で換装した集団。キャラバン隊の一人が、彼らのことを難民と口にしていたのを、俺は聞き逃さなかった。


「おい、食料はここだ! 急げ!!」

「俺たちが奴らを抑える! 後列は物資を運び出せ!」

「相手の武器は銃だけだ! 怯まず前に出るぞ!!」 


 難民と呼ばれた奴らは、魔術による高火力攻撃でキャラバン隊を遮蔽物の裏に釘付けにしていた。彼らが魔力を行使する度に、作り物の手足が魔術発動を示す光を放つ。


 義手、義足、義眼に人工臓器。不慮の事故や怪我により失われた、身体部位の機能を補うために使用される後付けパーツ。他国との戦争や内紛の多いムスペルヘイムでは、それらを求める人が後を絶たないという。大量生産に次ぐ大量生産の中で、生産技術の向上は必然。粗悪品は自然と淘汰され、他国で流通する品よりも質の高い義肢生産は、この国の一大産業となったのである。


 そして近年、それは禁断の領域へ足を踏み入れた。

 ――魔術の扱えない者でも、その力を行使できるように。


 遂に魔術が扱えない者でも義肢経由で、圧倒的な力を発動させることが可能になった。触媒となる物質を義肢の中に埋め込み、それを基に魔術を発動させる。

 ムスペルヘイムで最近発展してきたこの技術は、一部では魔導兵装と呼ばれていたりする。


「近づいてみたは良いものの、ここからどうするつもりだ」


 岩陰から戦闘の様子を覗う俺の傍らで、黒いチョーカーから垂れる逆十字を、退屈そうに指で弾く魔法少女。


「いやぁ、窮地を救って恩でも売ろうかなって思ったんだけど……なーんか妙なんだよな」

「ほう?」

「この国の事情なんて、新聞を読まなくたって嫌でも耳に入ってくるさ。国軍と戦争難民の内紛が始まったのは昨日や今日の話じゃない」


「それなら、この乱痴気騒ぎは日常茶飯事なのだろう? それで、貴様はどこに引っかかっている?」


「あの難民たちを見てみろよ。皆痩せて、顔色も悪い。キャラバン隊から食料を奪わなければ生きていけない程に生活は困窮している」


 当然、難民救済のための政策として、食糧支援や仕事提供、衛星環境の整備は行われてきていた。しかし一度甘い汁を啜り、その味を覚えてしまった彼らが、真面目に労働に取り組み社会復帰を果たすかどうかは全くの別問題だ。

 そもそも過酷な自然化環境の中、資源に乏しい土地であるムスペルヘイムに、大量の戦争難民の生活を賄うための余裕などなく、すぐに国民たちの反対運動が広まっていった。


「それにも関わらず、だ。あいつらの武装を見てみろ、魔導兵装だ。それもあの出力を見る限り一等級品(ハイグレード)だ。あれ一本幾らするか知ってるか? あそこに転がってるサンドバギーを全部買い占めてもお釣りがくる」

「……生活水準に不釣り合いな高級義肢。それをあそこにいる全員が、か」


 アルルの言葉に頷く。たとえば、バランサーとして義手や、歩行のためだけの義足程度であれば、大量生産で価格も安価。難民が手にしていても違和感はない。

 しかし、魔導兵装はまだ世に出て新しい上に、ムスペルヘイム政府軍の一部でしか採用されていないと聞く。食糧難に陥っている難民が換装しているのは、あまりにも不自然だった。


「こりゃ何かあるぜ。スルトの言っていた協力者って奴のこともあるし、どっちの味方になるかで、この国での立ち回り方が変わってくるな」

「なるほど、貴様にしては冷静な判断だな」


 アルルがひょっこりと岩陰から顔を出す。俺もそれに倣い、戦場の様子を覗う。

 どうやら話している間に決着がついたらしく、先ほどまでの喧騒は鳴りを潜めていた。見なくてもわかる。間違いなく難民側の勝利だ。魔導兵装相手に自動小銃程度ではとても太刀打ちできまい。


 予想通り、倒れて動かないキャラバン隊の連中と、せっせと物資をサンドバギーに積み込む難民たちの姿があった。

 最早、キャラバン隊を助けに入るなどといった段はとうに過ぎていた。今更ノコノコ出て行っても、残った難民たちに友好的な目で見られることはあるまい。


「仕方ない。ここはやり過ごそう。死体を漁れば、地図かコンパスでも残ってるかもしれねぇ」


 俺と、魔力の戻ったアルルがいれば制圧は可能かもしれないが……ここは短絡的に動くべきではないと判断した。スルトの求める探し人が、()()()であった場合、ここでの行動が尾を引く可能性はある。今はまだ慎重に動くべきだろう。


「何も残っていない場合は?」

「そのときはコイツらが去った跡を追いかけりゃいい。もし居住区でもあれば……御の字だな。難民に紛れ込んで情報を集める」

「……また鼠の真似事か」


 やれやれとかぶりを振ったアルルだが、異論はないようだ。


「情報が少ない以上、仕方がないか。ま、私は荒事専門だ。向こうで何かあれば容赦はしないが、それで良いな?」

 

 可憐な外見に似つかわしくない物騒な物言いに、苦笑しながら頷く。しばらく大人しかったため失念していたが、そういえばこの金髪ロリは結構なパワータイプであった。


「おい、もう誰もいないみたいだぞ」

「オーライ、なにか残ってりゃいいけどな」


 岩陰から、戦場跡に目をやりながら立ち上がる――立ち上がろうとして、後頭部に何か固い物がぶつかった。

 反射的に振り向こうとした体を全力で固める。突然背後に現れた気配が一つではなく、複数だったから。

 頬に伝う汗は、この馬鹿げた気温の所為だけじゃない。ぽつぽつと地面に滴る汗が蒸発していく様を見ながら、後悔の念に襲われる。


「……潜伏系の魔術まで搭載してんのかよ」

「そういうことだ。死にたくなければ大人しくしていろ。何者かは知らないが捕縛させてもらう」


 油断していた……。

 ここは、大人しく従うべきだ。眼球だけで横を見れば、アルルが俺と同じように両手を上げている。

 その事実に少しだけ安堵。さっそく実力行使に出るかとも思ったが、敵戦力がわからない内から暴れるほど、こいつは馬鹿じゃない。


 膝立ちとなり、後ろ手に両手を縛られる。砂交じりの縄が手首に食い込み、痛みを発する。


「おい、もっと優しく扱え」

「お嬢ちゃん、そこの商人どもみたく真っ赤なディップになりたくなけりゃ黙ってな」


 隣で愚痴を溢すアルル。こいつ……肝座りすぎだろ。


 確かにすぐさま殺されないだけでも幸運だ。拘束されるアルルと目配せし、とりあえずは抵抗しない意志を伝える。

 少し不満気な表情を見せた彼女はしかし、大人しく拘束に従った。


「おいおい、さっさと殺しちまえばいいだろうが。こんな奴らを連れて行って、いたずらに食料を消費する必要はない」

「落ち着け。よく見ろ、こいつらは外国人だ。政府との交渉に使えるかもしれない。こいつらはこのままキャンプに連れていく。但し、油断はするなよ。抵抗するようなら片方ずつ、目の前で殺せ」


 頭上を飛び越え交わされる物騒な会話。ミッドガーデンにいたチンピラやマフィアとは違う。こいつらは生きるか死ぬかで飯を食らってる連中だ。やると言えばやる。



 ――ああ、奈落へ落ちていく音がする。


 エンジン音と振動が、まるで地獄で奏でるマーチのような音階を刻んでいる。

 サンドバギーの後部座席へ乱雑に叩き込まれた俺は、芋虫のように身を捩りながらアルルの姿を探すが、どうやら別々の車両に乗せられたらしい。 

 本当に人生は上手くいかない。ただでえもハードなミッションが、更に難易度を上げてきやがった。


「はぁ……」


 何度目かわからない溜息。

 今はとにかく、体中に纏わりつく砂が不愉快だった。

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