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平井のエッセイ・雑学&考察系

名は体を表す?表さない? 学名についてのあれこれ

作者: 平井敦史

 なろうエッセイ界の癒しの天使ことひだまりのねこ様が先日投稿された、竜についてのエッセイの中で、マチカネワニのことに触れられていましたね。

 マチカネワニとは、1964年に大阪府豊中市の待兼山(まちかねやま)丘陵で発見された、30~50万年前くらいに生息していた巨大なワニです。

 その学名が、「トヨタマヒメイア・マチカネンシス(Toyotamaphimeia machikanensis)」。古事記に登場する、海神の娘にして山幸彦(やまさちひこ)こと火折尊(ほのおりのみこと)の妻、豊玉姫(とよたまひめ)――その正体は「八尋和邇(やひろわに)」(ワニ説、サメ説、ウミヘビ説など諸々あるようです)――にちなんだ名前です。

 うーん、ロマンですねぇ。


 てな話を枕にいたしまして、「学名」というものについてとりとめもなく語っていこうというのが本エッセイです。



 そもそも学名とは。生物学の手続きに基づき、世界共通で生物の分類群に付けられる名称を指します(Wikipediaより)。


 生物の(しゅ)の学名は「属名(ぞくめい)」と「種小名(しゅしょうめい)」の組み合わせで表されます。これは二名法(にめいほう)と呼ばれ、分類学の父と呼ばれるカール・フォン・リンネによって体系化されました。


 われわれ人類の学名「ホモ・サピエンス(Homo sapiens)」でいうと、「ホモ」が属名、「サピエンス」が種小名ですね。

 ちなみに、人類を生物分類学的に言うと、「脊索動物門 哺乳綱 サル目 ヒト科 ヒト属 ホモ・サピエンス種」となります。途中、 亜綱だの亜目だの上科だのと色々あるようですが、煩わしいので省略。

 なお、「ヒト科」にはヒト属(Homo)の他、チンパンジー属(Pan)、ゴリラ属(Gorilla)、オランウータン属(Pongo)も含まれます。



 さてこの属名と種小名、まったく同じものが連なる場合もあります。これを反復名(トートニム)と言い、アメリカバイソンの「バイソン・バイソン(Bison bison)」などの例が挙げられます。トキの「ニッポニア・ニッポン(Nipponia nippon)」もこれに該当するでしょう。

 ただしこれは、動物の場合のみ。植物・藻類・菌類の命名においては認められていないのだそうです。


 学名といえば、それこそ「トヨタマヒメイア・マチカネンシス」のように、長ったらしいイメージが強いと思いますが、中にはシンプルなのもあります。

 中でもシンプル イズ ベスト感が強いのが、海鳥の一種アカアシカツオドリの学名。その名も「スラ・スラ(Sula sula)」。


 ちなみにこのスラスラさん。白い羽に、翼の風切羽部分のみ黒い……ところまではまだいいのですが、くちばしから目元あたりまで鮮やかなライトブルー、脚は目の覚めるような赤、という、造物主(デザイナー)玩具(おもちゃ)メーカーの要望を無理やり飲まされたかのようなカラーリングの、とてもキュートな海鳥です。


 ところで、「スラ」というのはノルウェー語で「シロカツオドリ」を指す呼称に由来するそうなのですが、当のシロカツオドリの学名は「モルス・バサヌス(Morus bassanus」。どちらもカツオドリ科の海鳥ですが、カツオドリ属(Sula)とシロカツオドリ属(Morus)に分かれているのです。

 だもんで、「スラスラと呼ばれているのはスラではなく、スラはスラとは呼ばれない」という、わけのわからないことに……。

 推測ですが、おそらく、カツオドリの仲間の属名に「スラ」と名付け、いざ本家スラであるシロカツオドリにも学名を付けようとしたら、「あれ? こいつ実は属レベルで違ってるんじゃね?」ということが発覚し、やむを得ず別の属を立てた、といったところなのでしょうか。ややこしいですね。



 学名は、ラテン語をベースとしつつも、その生物の特徴を表す語のみならず、発見者や命名者、あるいは地名、さらには神話・伝承など、様々なものから名付けられます。だから「豊玉姫」なんてのもあるわけですが、近年では、特撮やアニメなどのサブカルチャーに由来するものも見られます。


 有名どころでは、中国で発見された中生代白亜紀のカメ(絶滅種)に付けられた「シネミス・ガメラ(Sinemys gamera)」。甲羅の長さは13~20cm程度ですが、甲羅の後方に翼のような突起が飛び出した、中々に中二心をくすぐるカメさんです。


 ガメラと来れば、そう、ゴジラ。

 「ゴジラサウルス(Gojirasaurus)属」と名付けられたのは、中生代三畳紀の北米大陸に生息していた中型肉食恐竜。「Godzilla」(英語版ゴジラの表記。「ガッヅィーラ」みたいな発音)ではなく、「Gojira」なのがミソです。ちなみに、「ゴジラ()ウルス」ではないので注意。

 現在のところ、アメリカ合衆国ニューメキシコ州クワイ(Quay)郡で発見されたゴジラサウルス・クエイイ(Gojirasaurus quayi)の1種のみですが、いずれは仲間が増えていくかもしれませんね。


 さらに、「のび太の恐竜」も実在します。

 中国四川省で白亜紀前期の地層から発見された大型肉食恐竜の足跡化石には、「エウブロンテス・ノビタイ(Eubrontes nobitai)」という名が付けられました(最後の「i」は人名を示す接尾辞)。

 足跡の長さが30cmほど、本体は推定2~4m程度なのだそうです。

 と言うか、足跡しか見つかってない段階でも新種と特定されれば学名が付けられるんだ、ってことにびっくりですが。



 さて、本稿のタイトルに名は体を表すか、表さないか、というのを掲げましたが、名前と実態の落差がエンジェルの滝級なのをご紹介しましょう。


「アフロディータ・ジャポニカ(Aphrodita japonica)」――。アフロディーテといえば、ギリシャ神話の愛と美の女神(淫乱ク〇ビッチ)。ローマ神話でいうヴェヌス(英語読みでビーナス)です。

 日本のアフロディーテ! さて、この麗しい学名を奉られたのはどんな動物でしょうか。


 環形動物門 多毛綱 サシバゴカイ目 ウロコムシ亜目 コガネウロコムシ科――。早々に回れ右をしたそこのあなた、その判断は間違ってません(笑)。


「ニホンコガネウロコムシ」。昆虫ではなく、金持ちでもなく、ゴカイの親戚の海に棲む底生生物(ベントス)です。

 5~10cm程度の扁平な楕円形で、背面は薄い鱗の上を黄金色の剛毛で覆っており、泥や砂を背負って身を隠していますが、体側(たいそく)に伸びた毛は、いわゆる構造色で、光の加減によって虹色の輝きを放ちます。

 まあ確かにそこだけ見れば、美の女神の名を冠するのも理解できなくはないのですが……。画像・動画検索は自己責任でお願いします。

 鶴岡市立加茂水族館さん――山形県にあるクラゲで有名な水族館。一遍行ってみたい――のfacebookに上げられている動画は一見の価値ありですが……、閲覧は自己責任でお願いします(大事な事なので二回言いました)。



 最後に、我々にとって身近なイヌとネコの学名を見てみましょう。

「そう言えば聞いたことないなぁ」とおっしゃるあなた。安心してください。私も今回調べるまで知りませんでした(笑)。


 まずはイヌ。

「カニス・ルプス・ファミリアリス(Canis lupus familiaris)」と言います。

 あれ、二名法じゃないの? 三つあるじゃん、とお思いでしょうか。

 実は、「カニス・ルプス」はオオカミの学名で、家畜のイヌ――イエイヌは、その亜種扱いなのです。もっとも、家畜化されたイヌを野生種から独立した種と見做(みな)し、「カニス・ファミリアリス」という学名を当てる考え方もあるようですが。

 チワワもチベタンマスティフも種レベルで見れば同一、というのは何となく知っていましたが、そもそもオオカミとすら同一種で括られてしまう、というのは正直驚きです。


 続いてネコさんですねぇ。

「フェリス・シルヴェストリス・カトゥス(Felis silvestris catus)」と言います。

 また三つです。そう、家畜のネコ――イエネコも、原種であるヨーロッパヤマネコ、学名「フェリス・シルヴェストリス」の亜種扱いなのです。ただし、独立した種と見做して「フェリス・カトゥス」という学名を当てる考え方もある、というのもイヌと同様です。



 身近な生き物から、化石でしかお目にかかれないものまで、ありとあらゆる種に付けられていながら、普段あまり気にすることのない「学名」ですが、調べてみると色々おもしろいですね。


 今回は動物の話ばかりになってしまったので、植物の学名についても、ネタが集まったら書いてみようかと思っていますが――。いやいや、俺が、私が、先に書いてやらあ、という方がいらっしゃいましたら、どうぞご遠慮なく。なろうエッセイ界は書いたもの勝ち、熾烈な生存競争の世界ですから(笑)。

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― 新着の感想 ―
[一言] 唯一知っている学名ネタ。 ニシローランドゴリラの学名は『ゴリラ・ゴリラ・ゴリラ』
[良い点] ずっとニマニマしながら読みました〜!! これは私得なエッセイなのです〜ヽ(=´▽`=)ノ 増えろ学名エッセイ!!
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