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第7話 騎士見習い、夢を語る

主様(あるじさま)、これを差し上げるでござる」


 あやめが手に持っていたのは、数本のクナイと、まきびし。


「これ、くれるの?」

「拙者はいっぱい持ってるから心配御無用。主様の護身用として持っといてほしいでござるよ」


 護身用か。確かに必要だろうな。

 納得した僕は快く受け入れた。


「もう夕方か……。夕飯の時間だろうし、そろそろ戻ったほうがいいな」

「そうでござるな。拙者は町の様子を探りましょう。ここら辺の地理を知りたいでござるからな」

「え、いいの? その、飯とか……?」

「心配ござらん。食事はこちらで用意しまする。寝床もくノ一なら野宿も必然。備えは万全にござる」


 くノ一ってスゴイんだな……。あらゆる事態に対する手段がいっぱいあるって訳だ。

 くノ一ガチャ……試しで使ってみたけど、想像以上のスキルを継承してしまったかもしれない。


「えと、明日も会える……んだよね?」

「左様。明日と言わず外へ出て拙者を呼んでくだされば、すぐに参りまする。いえ、そうでなくても主様を見守っているでござるよ」

「そっか、……その、明日も忍法を教えてもらおうと思って」

「主様は真面目でござるな。向上心を持つ主様に仕えて拙者も満足でござるよ」


 真面目だなんてそんな……。

 僕はふと、空を見上げる。目に映るのは、紅色に染まった夕焼け空。


「……主様?」


 あやめが尋ねたところで、僕は言葉を発した。


「僕には夢があるんだ。立派な騎士になりたいっていう夢が」

「夢でござるか」

「僕がまだ小さいころ、遠征から騎士たちが帰ってきてね。そのうちの一人だけが夕焼け空を背景にたたずんでいたんだ。その姿が格好よくてね。そんな姿に憧れて騎士になりたいって思ったんだ」


 僕は思い出していた。かつての光景を。憧れたあの時の気持ちを。


「僕は次男であまり期待されてなかったかもしれない。けど立派な騎士になれるならそれでもよかった。領主にはなれなくても夢が叶うなら、ね。まあ結局、二軍騎士までおちてしまったんだけど」


 貴族が騎士に入団する。これはどの貴族でもやっている事だ。ただし長男は跡継ぎのため任期を終えると辞めていく。騎士として上り詰めようとするのは大抵次男か跡継ぎをしないと決めた者のどちらかだ。

 次男といえど、落ちぶれてしまっては貴族の名に泥を塗ってしまうようなもの。二軍騎士なんかに所属してしまってはもう……言うまでもないだろう。


「まあ、なんて言うか……あやめが忍法を教えてくれるなら、二軍騎士からでも立派な騎士を目指せると思う。……それだけなんだけど」


 それでも、今日学んだ忍法なら可能性がある気がする。今からでも夢を叶えられる……かもしれない。ささやかなものだけど。


「なるほど、そういう事でしたか」


 いつの間にか、僕はうつむいていた。

 顔をあげてみると、あやめがほほえんでいた。


「お安い御用でござる。ならばこのあやめ、誠心誠意を込めて主様の夢のため、忍法を教えるでござる! そして主様の夢を陰ながらでも応援するでござる!」


 あやめにやる気が満ち溢れているのがわかる。

 正直、緊張していたんだ。自分の夢を語るのは初めてだったから、受け入れられるのかどうか不安で。


「っていうか拙者の主様なんですから、堂々と命令すればいいでござる! くノ一とは主様にとって使ってヨシ、愛でてヨシ、触ってヨシ、食べてヨシの何でもアリでござるからな!」

「え、ええ……そんな事言われても……」


 なぜかあやめに怒られてしまった。しかも理不尽な内容で。


「まあいいでござる。今日のところはこれで勘弁しましょう。次からは、主様としての心構えを叩き込むつもりでござるから、そのつもりで!」


 それだけを言い残し、あやめはシュバッと姿を消してしまった。


「あ、そうそう、言い忘れたでござるが」


 と思いきや、即座に戻ってきたのだ。

 急な事ばかりで、僕は混乱する一方だ。


「え、えと……」

「くノ一の事や忍法といった話は内緒にしておいてほしいでござる。くノ一とは忍ぶもの。忍法を使うのは構いませぬが、あまり知られてしまうのも具合が悪いでござりますから……」

「わ、分かった。約束するよ」

「かたじけない。では」


 再び、あやめは僕の前から姿を消す。

 少し待ってみたけど、現れる様子はなかった。


「……………………」


 何だか慌ただしい流れになってしまった。

 けど、初めてだった。自分の夢を語ろうと思ったのは。


「……帰ろう」


 日が沈む様子を見て、宿舎の事を思い出した。




◆◇◆◇◆◇◆◇




 僕は戻った。

 ちょうど小間使いのデイタナが食事の準備を進めていて、僕は剣と甲冑と壊れた剣用サンドバッグを片付けたのち、居間へ行った。そこで集まって食事をすると聞いたからだ。


 一応、剣用サンドバッグを抱えるように持って帰った。そして隠すように、ベッドの下にしまっておく。……あまり人目について質問されるのも面倒な気がしたからだ。


「来たか。お前が最後だぞ」


 オータクマが呼びかける。すでにみんな席についていた。カリメロの隣が空いていたので、そこに座らせてもらう。彼女は変わらず、兜をかぶったままだった。


「いただきます」


 オータクマが手を合わせ、キャルキャルとカリメロもそれにならう。僕もみんなに合わせる。


「へっ、相変わらずシケた食事だぜ」

「うるさい、黙って食いなさい飯がマズくなるでしょ」


 オータクマがケチをつけ、キャルキャルがたしなめ、カリメロは黙々と食べている。


 僕の前に並べられている食事は硬いパンに、野菜を煮て作ったシチュー。ほとんど平民と変わらない程度だ。

 実家はもちろん、騎士見習いの頃でも豚肉か鶏肉は食べられた。こんな食事だけで大丈夫なんだろうか。


「あ、そうだ。ヤークトだっけ?」

「はい?」

「何か剣用サンドバッグが壊れてたんだけど、アレお前がやったの?」


 僕は少し、シチューを吹き出してしまった。


「な、何でそれを……」

「いやな、見たんだよ。お前がコソコソしてるのをよ。大事そうにサンドバッグ抱えてよ。オレ、ソファーの下から見たんだわ」


 ……気づかれてたのか……。

 っていうかソファーの下って何だよ、そんな所で寝てたっていうのかよ……。


「あ、あー、えと、壊れちゃって……」

「壊れたっ!」


 突然声を荒らげる。オータクマだ。驚いた形相で僕を睨んでいる。

 カリメロはパンを食べる手を止めていた。キャルキャルも、僕とオータクマを交互に見ている。


「一軍騎士でも数千回以上は斬らないと壊れねぇ丈夫さだぞ? それを二軍騎士、いや騎士見習いのお前が一日で破壊したって?」

「いや、もしかしたら老朽化が進んでたかもしれないし……」

「ウソ。新品に決まってるじゃん」


 今度はキャルキャルから追及が入る。


「本当かキャルキャル?」

「ええ、だって鑑定スキルで毎日見てたもん。それにウチらでほとんど使った形跡なかったし」

「マジかよ……お前、もう一回聞くけどどうやったんだよ……?」

「アレの頑丈さは知ってるでしょ? 『偶然壊れた』以外で答えないと怒るから」

「え、えと、えと……」


 オータクマだけではない。キャルキャルからも追及の手が止まらない。二人して身を乗り出して迫ってくるのだ。

 どうしよう……ロクに言い訳を考えてなかったぞ。忍法の事は内緒にするってあやめと約束したし……。

 僕が困っていた時、テーブルを叩く音が響いた。



 ――ドンッ!



「うるさい。静かにして」


 それと同時に場を制する怒声。カリメロから発したものだった。オータクマとキャルキャルを睨んでいるのだ。


「か、カリメロ……」

「その、スゴイ事なのよ……? 剣用サンドバッグが壊れるって……」

「ヤークトはまだ新人。いきなり追及するのは可愛そう。壊れたならまた買えばいい。いい加減食事のジャマ」


 有無を言わさぬ態度を見せつける。

 カリメロの迫力に、二人は黙ってしまった。

 何だか申し訳ない気持ちになってきた。謝っておこうか。


「す、すみません……これ、弁償しなきゃいけませんよね……?」

「いや、いい。これくらいなら経費でおちる」

「まあ、言いたくない事くらいあるわよね……。食事にしましょ」


 二人は大人しい様子でシチューに手をつけ始めた。

 カリメロもいつの間にか食事をとっている。もしかして僕をかばってくれたんだろうか。


「た……大変です、みなさん!」


 と、その時。デイタナが騒々しく駆け寄ってきた。


「なんだ? そんなに慌ててよ」

「そ、その……来たんです! ショーワン団長が!」


 かすれた声でデイタナが叫ぶ。


「ショーワン団長が、い、怒りの形相で訪ねてきたんです! 二軍騎士たち全員に聞きたい事があるって……!」


 その名を聞いた途端、二軍騎士たちが凍りついたように見えた。

 いや、見えたと言ったが、実際のところは分からない。少なくとも、僕はそうだった。


 ショーワン団長。

 その名を聞いた途端、僕は思い出していたからだ。


 理不尽に暴力をふるわれた、あの日々を。

次話は9時の間に投稿予定です。


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