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第31話 騎士見習い、お手並み拝見する

「ここが、盗賊たちのアジト……」


 月の輝きに照らされる、古びた教会。

 いや、元教会と言った方がいいのか半分位が倒壊しており、いかに長い間放置されていたのかがよく分かる。

 その廃墟の中で焚き火がボウッと燃え、光っている。


 その火を囲っている男たち三人。

 ちよじょが言っていた盗賊とは、彼らの事だろう。

 僕たちは教会の近くの木々に身を隠し、様子を伺っていた。


「間違いありません。馬車を走らせていたのも彼らです」

「見て! あの奥、大きい甲冑があるわ!」


 はっとりが声のトーンを落としつつ、いつもの口調で指をさす。

 その方向、奥の暗がりにボンヤリと、甲冑の輪郭が見えているのが分かる。


「本当にあったんだった……」

主様(あるじさま)、ちよじょの索敵能力は随一でござるよ」

「うん、それはよく分かった。けど……」


 僕は改めて、ちよじょの格好に注目した。


「どうして、シスターに変装なんかしたの?」


 彼女の格好が、修道服に変わっていたからだ。


「えへへ、教会だったので着替えようかと」


 まあ、あの巫女装束では違和感があるだろうから、分からなくはない。

 しかし、黒を基調とした修道服。それにしては生地が薄いのか、胸の膨らみや腰のラインが出ている気がする。

 何より髪の色まで金色に変わってしまっているのだ。ちよじょ曰く、カツラを被っただけとは言っていたけど……。


「では私、行きますね」


 当然と言うように、ちよじょは教会へと向かっていってしまった。


「え、ちょっと! 一人で、っていきなり行かないで! せめて僕もいっしょに……」

「主様、ここはちよじょの言う通り、任せて大丈夫にござる」


 僕が慌てて駆けようとするも、あやめに止められてしまう。


「な、どうして……?」

「ちよじょちゃんには分身の術があるからよ! 見ていれば分かるわ!」


 はっとりまで、僕の手を握って止めようとする。


「あ、ちょっと……」


 思いがけず女の子の手に触れてしまったので、ドキリ、と体が固まってしまった。


「ズルイでござる! 拙者も!」

「あ、待って……」


 対抗したのか、あやめまで僕の手を握ってくる。温かくも瑞々しい感触が僕の手に伝わってきた。

 女の子二人に手を握られ、いや捕まって、色んな意味で身動きがとれないでいる。

 そうしている内に、ちよじょが教会の奥へと進んでいく。

 そして、盗賊たちと対面してしまったのだった。


「あなたたち、そこで何をしているんですか!」


 焚き火を囲い、談笑していた盗賊たちがちよじょの方に振り向く。


「ここは教会ですよ! 焚き火なんかしちゃダメです!」

「あ? 何だお前?」

「何でここにシスターが?」


 盗賊たちは聞く耳を持っている様子はない。突然のシスターに訳が分からない、と言った感じだ。


「お嬢ちゃん、ここは廃墟だぜ? オレたちがどう使おうと勝手じゃねぇか」

「例え廃墟でも教会です。今出ていくなら見逃してあげます。奥の甲冑も置いていったうえで!」


『甲冑』を口にした途端、盗賊たちの空気が変わった。


「何だ? 偉そうじゃねぇか」

「いやいや、こりゃお恵みだよ。あの服と体つき、間違いねぇや」


 盗賊たちが立ち上がり、ちよじょと距離を詰めてくる。ニヤニヤとゲスな笑みを浮かべながら。

 盗賊のうち一人が、両手でちよじょの肩を掴んだ。


「お嬢ちゃん、ちょいと遊ぼうぜ」

「な、何を……あっ」


 ちよじょが言い切る前に、修道服が真っ二つに引き裂かれた。



 ――ビリビリィ!



「キャアアアアア!」


 ちよじょの上半身が晒されてしまう。

 膨らんだ胸、幼さを残しながらもメリハリのある腰つき。力いっぱい引き裂かれたせいか、下半身も露わになっている。必死になって隠そうとするも、盗賊たちに押し倒されてしまった。


「ち、ちよじょちゃん! ……助けに行かないと!」

「いいえ主様! その必要はありません!」

「な、どうしてさ……!」

「いいから見てて! ちよじょちゃんの本領はここからだから!」


 何が本領だ……と思っているうちに、抵抗しようと暴れるちよじょの両手両足を、盗賊たちの太い手で掴まれてしまっている。

 盗賊のうち一人が足を開かせていった。


「いやぁ、ダメェ……」

「それじゃあ、いただきますか」


 盗賊が自らの服を脱ぎ捨て、裸になる。

 開脚したちよじょに迫り、覆い被さろうとした。


「……やめなさい!」


 その時だ。

 教会の端から、ちよじょの大声が響いてくる。


「あん? またシスター?」

「ここは教会ですよ! 神聖な場所ではしたない……キャア!」


 もう一人のちよじょが止めようとするも、背後から現れた盗賊に抱きつかれてしまう。


「やっ……離して……あんっ!」

「ジャマしちゃいけないよぉ。お嬢ちゃんはボクと遊ぼうねぇ」


 盗賊がちよじょと完全に密着している。抵抗しようとも太い両腕でホールドされてびくともしない。盗賊はちよじょを見てニヤニヤと笑っている。


「そんな、二人目まで……」


 二人のちよじょが襲われている。

 このまま見ているだけでいいのか……。そう思った時だ。


「やめなさい!」


 三人目のちよじょが現れた。


「うるせぇ!」

「あぁん!」


 またも、教会の影から現れた盗賊に捕まってしまう。修道服を捲られ、うつ伏せに倒されてしまう。小さくもプリッとしたお尻を突き出す形になっていた。


「そこまでです!」

「オラァ!」


 また現れたちよじょが襲われ……。


「待ちなさい!」

「お、女じゃねぇか!」


 即座にちよじょが捕まり……。


「何やってるんですか!」

「触らせろや!」

「観念なさい!」

「お前がな!」 

「いい加減に……!」

「カワイイなあ! カワイイなあ!」


 盗賊たちにいいようにされる。そんな光景が何度も続いてしまう。

 一体いつまで見ていればいいのか。さすがに焦りが見え始めた時……。


「御用です!」「年貢のおさめ時です!」「全員こっちを見なさい!」「これ以上はさせませんよ!」


 ちよじょたちが続々と姿を現していく。

 最初はそれに合わせてやってきた盗賊たちだが、十人目を境に姿を見せなくなる。一方のちよじょたちは、どんどん増殖するばかりだ。


「な、なぁアニキ……」

「んだよ! これからが気持ちいいのによぉ!」

「いや、シスターいっぱいいねぇか……?」


 盗賊たちもこの事態に気がついたのか、手を止め周りを見回している。

 しかし手遅れだった。広場の時と同じように、中にも外にも何十人ものちよじょたちで溢れ、教会の周りを囲っているのだ。


「あれは、分身の術……!」

「言ったでござろう。ちよじょの本領発揮でござると」


 ざっと数えただけでも、ちよじょたち修道服の女の子が百人はくだらない。対して盗賊は十人。しかも囲まれているから逃げ道はない。多勢に無勢だ。


「な、何だよこれ……! どうなって……!」

「盗賊さん。全員で十人。間違いありませんね?」

「あぁ! そうだよ、だからどうした……」


 一番最初に裸にされ、両足を広げられたちよじょが問う。

 盗賊は怒った様子でぶっきらぼうに答えた。 

 その瞬間。


「――んぁ?」


 盗賊の腹にクナイが刺さってしまう。

 その場で倒れる盗賊。周囲が静まりかえった。


「ではもう、私たちの番ですね」


 ちよじょが発言すると。

 一斉に盗賊たちが切り捨てられていく。


「な、なん……グギャア!」


 ある盗賊はクナイで両目を切られ、


「おま……グフッ!」


 ある盗賊は眉間をクナイで刺され、


「おのれ……ガッ!」


 どこからか取り出したくノ一刀で、ある盗賊が一刀両断されてしまう。

 盗賊も抵抗しようとナイフや剣を取り構える。しかし四方八方から迫るちよじょたちになす術もなく、メッタ刺しにされてしまった。


「す、すごい……」


 僕は思わず声を漏らしてしまう。

 が、そうしている内に盗賊たちが沈黙した。動かなくなってしまったのだ。

 まさに、一瞬の出来事だった。


 追い詰められていたはずのちよじょが、瞬く間に逆転してしまったのだから。

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