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第24話 騎士見習い、求婚される

 衣服を着た。裸のままではいたたまれないから。

 甲冑は装備していない。ミスリムゴーレムの一撃で、原型を留めなくなってしまったから。


「……今までありがとう。ゆっくりお休み」


 僕は甲冑に礼を告げる。入団した時から世話になった、安っぽくも身を守ってきた相棒に。


「物に話しかけるなんて、カワイイ所もあるのね」


 セイレーンがつぶやいていた。

 その様子はバカにしたものというより、穏やかな口調で。


「まあ、その、一応……」

「さっきの戦い、見事でした。最後に溜飲が下がっていい気分だったわ」


 セイレーンは落ち着いた表情を見せている。

 けど、おかしいな……。最後って……?

 不思議に思って、声をかける。


「どうしたの? もう死ぬみたいな事言って。まだやる事があるのに」

「え、でも……」

「待ってて。次は手錠だから」


 鞘におさめていた剣を、もう一度抜く。

 もちろん、切る訳じゃない。

 セイレーンの手錠をあけるために。


「え、待って。まさか本当に……?」

「少し静かにして。気が散るから」


 僕は剣先を手錠の鍵穴に刺す。

 そして、忍法を唱えた。 


「……忍法、解錠の術」

 


 ――カチカチカチ……。



 歯車だろうか。

 手錠の中で、金属音が鳴り続けている。


「……………………」


 実は内心、緊張していた僕。

 忍法の成否もそうだけど、さっき鍵穴を刺しただけでミスリムゴーレムが襲ってきたからね。同じような事が起きたらどうしようとハラハラしていたんだ。

 一応、あやめは何も言わない。だから大丈夫って事なんだろうけど……。



 ――カチャン。



 金属音が止まった。

 なぜだか手応えを感じる。繋がっていた物同士がほどかれていくような感覚が。



 ――バチン! ――ガチャ。



 手錠から再び金属音。

 すると、手錠が真っ二つに割れてしまった。

 両手とも。セイレーンの腕が解放されたのだ。


「なっ……!」


 セイレーンは驚いているようだ。何度も自分の両手とバラバラになった手錠を交互に見つめている。


「う、うまくいったぁ……」

主様(あるじさま)、解錠の術、成功おめでとうでござる」

「はは……一度見た忍法だからね……」


 あやめが僕のそばに来て褒めてくれる。それは嬉しいんだけど、くノ一ガチャの特典だからなぁ。

 と、複雑な気分でいると、聞こえる腹の音。

 僕じゃない。あやめも首を横に振っている。セイレーンが恥ずかしそうにうつむいていた。


「もしかして……お腹すいた?」

「う……ごめんなさい。ずっと食べてないから……」


 ボソボソと小声で話すセイレーン。

 多分、緊張が解けてしまったんだろう。ミスリムゴーレムも倒れて、手錠からも解放されたんだから。


「あやめ、さっきの携帯食、用意できる?」

兵糧丸(ひょうろうがん)でござるな。どうぞこちらに」


 あやめが装束をまさぐり、取り出す。

 黄色い粉をまぶした白い物。甘い匂いはするけど、本当に食べ物なのか未だ疑問を抱いてしまう。


「……………………」

「いや、大丈夫。これ食べられるから。少しだけでもかじってみて、ね?」


 案の定、首をかしげたセイレーンを僕はなだめる。僕と同じで食べ物なのか迷ったんだろう。恐る恐る手に取り、小さくかじり始める。


「……おいしい」


 一口食べて、セイレーンの表情が明るくなった。興味がわいたのか、続けてかじり、やがて一気に飲み込んでしまう。


「ど、どう……?」

「おいしい……こんな食感初めて」


 食べながらのセイレーンの感想。確かに、甘くモチモチとした食べごたえ。不思議だけど悪くない。僕もそんな気持ちだったからよく分かる。


「お腹は……どうでござるか?」

「あ……もう膨れてる。体もなんだろう……元気になったっていうか、みなぎってくるっていうか……」


 あやめの質問で、セイレーンは兵糧丸の効果を実感したらしい。

 見るからに血色もよくなっている。暗く沈んだ表情はどこにもない。明るく元気な顔つきに変わっているのだ。

 本人も戸惑っているのか、何度も僕の顔をチラチラと見ていた。


「これ、どういう……?」

「兵糧丸の効果が効いたみたいだね。不思議だと思うけど、一粒食べただけで腹も体力も満たされちゃうから」

「えっと、それもあるけど、どうしてそこまでしてくれるのかしらって……!」

「あ、えーと……」


 セイレーンがまじまじと僕の顔を見つめている。

 不思議でならないんだろう。いくら人とモンスターの共存を目指しているといっても、相手は騎士だ。冒険者もそうだが、騎士はそれ以上に平和のためにモンスター討伐を掲げているという面もある。

 きっと彼女を助けたのには、何か理由がある。そう思っているんだろうけど……。


「とくに、……ないかな」

「え、でも……」

「騎士ってさ、か弱い女性を守るものでしょ。助けたいって思う人に手を差し伸べたいって気持ちに理由とかいらないよ」

「……………………!」


 セイレーンが目を見開いている。

 口を少し開け、驚いたという表情で。

 ああ、さすがにおこがましいよな。騎士見習いの僕が騎士の話なんかしてしまって。


「ところで主様」

「う、うん?」

「二軍騎士たちの件ですが、そろそろ戻られた方がいいのでは?」


 あ、そうだった。

 あやめに言われるまで忘れていた。

 自ら湖に潜ってずっと、何も言ってないもんな。もしかしたら、ずっと待っているかもしれない。


「あやめの言う通りだ。……戻らなきゃ」

「あ、もう行かれるのですか?」


 セイレーンが呼びかける。

 ああ、そうだ。別れのあいさつくらいはしておかないとな。


「仲間が待っているからね。一度合流しないと」

「また、会えますよね?」

「まあ、きっとね。今度は外の方がいいけど」

「はい、ぜひ! 今も残っていればですけど私の理念に賛成した里があるんです! よければそこで会いたいですね!」


 なんだろう、セイレーンの声のトーンが少し上がっている気がするけど。


「それじゃあ、僕は行くよ。あやめはどうする?」

「拙者は後から行くでござる。ですので先に行ってくだされ」

「分かった。じゃあ……」

「あ、あの!」


 部屋を抜け、階段へ向かおうとしたところで、セイレーンに呼び止められてしまった。


「わ、私、セルリーっていいます! よければお名前を教えていただいても……」

「あ、ああ。僕はヤークト。自己紹介がまだだったね」

「ヤークト、……覚えておきますね!」

「うん、セルリーも元気で」

「はい! また会いましょう! 未来の伴侶様!」


 こうして僕たちは別れを告げていく。

 早いとこ戻ってやろう。カリメロたちに会わないとね。

 ……ところで、『未来の伴侶』とは、どういう事だろうか……?




 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




「お主……セルリーどのと申したか」


 ヤークトを見送ったところで。

 あやめが声をかける。


「セルリー殿は確か、水を操れる……でござったな?」

「ええ、セイレーンの得意技ね。この洞窟だけだけど、水路を変える事だってできるわ」

「何と、水路を! でしたら少し、主様のため力を貸してもらえればと……」


 あやめには思惑があった。

 ヤークトのため、ヤークトに仇なす者への鬱憤を晴らすために――

次話は20時以降の予定です。


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