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第17話 騎士見習い、褒められる

「お前スゲェよ! 大活躍じゃねーか! 何でお前二軍騎士やってんの!」


 オータクマがさっきから僕をべた褒めしてくる。

 オータクマだけじゃない。みんなが一斉に、僕に尊敬の眼差しを向けてくるのだ。


「ま、待ってよ……そんなに褒められるような事した? 徹甲弾恐竜を倒すのに手こずってたのに……」

「それがスゲェんだって! そもそもオレたちD級が、B級のモンスターを倒す……それがもうあり得ねぇんだよ!」


 まあ、それは僕も知ってる。

 さらにキャルキャルも便乗してきた。


「私もそう思う。アンタが手こずったって言うなら、初級魔法しか使えない私はどうなるっていうのよ!」

「そ、それは……」


 うろたえている僕に対し、今度はカリメロが加わってきた。


「私、見てた。ヤークトが詠唱なしで呪文を放ったところを」

「「詠唱なしで!!!!」」


 オータクマとキャルキャルが目を見開いていた。

 まあ、詠唱なしで魔法を使えるのがあり得ないのは僕も知っている。

 けど……。


「そ、そんなに褒めないでよみんな……。僕一人の力じゃ戦いに勝てなかったし、結局みんなに命令なんてして迷惑をかけてしまった事が申し訳なくて……」

「迷惑なんて、思ってないよ」


 オータクマたちの前に出て、僕を励ましてくれたのは、コシギィンだった。


「ナイショだけど、ショーワン団長の突撃命令には参っていたんだ」

「コシギィンさん……?」

「だけど君が的確に指示を出して、俺たちを戦う気にさせてくれた。みんなB級だからって諦めていたにも関わらずだ。騎士として立ち向かえる勇気を持てたのは、君のおかげだと思ってる」

「コシギィンさん……」


 正直、ショーワン団長の後ろについていくだけの人かと思っていた。そうじゃなかったんだな……。

 コシギィンさんとの空気に乗ろうとしたのか、オータクマとキャルキャルまで便乗してきた。さらにカリメロも……。


「そうだぜヤークト! お前のおかげでオレの大剣が披露できたんだ! そこんとこ感謝しねーとな!」

「アンタの魔法、スゴイじゃない! それに指揮もちょっとカッコよかったし。アンタもう一軍騎士に返り咲いちゃいなさいよ!」

「手こずったって言ってたけど、私知ってる。あの火の玉で何匹か瞬殺してたから」

「いや、それは、その……」


 あやめのおかげだから。

 ……とは言えない。どうしようか……と思ったその時。


「キサマら、たるんどる!」


 ショーワン団長の怒鳴り声が、耳に響いてきた。

 ズカズカと歩き、カリメロを押しのけ僕の前に立つ。

 そして、みんなに向けて言い放った。


「キサマらはモンスターを倒したと喜んでいるようじゃが、それがどうした! モンスター討伐など、騎士として当然である!」


 毅然とした態度。僕の事を微塵も褒める気がない様子。


「ヤークトの魔法が強い? そんな物が何だと言うのじゃ! 詠唱破棄に驚いておったようじゃがその程度、一軍騎士なら当たり前に皆できておる!」

「いえ団長、さすがに詠唱破棄はあり得ませんて……」

「鉄拳制裁!」



 ――バコォッ!



 一声ツッコミを入れたコシギィンを、ショーワン団長は殴ってしまった。


「き、キサマは黙っておれ! 余計な事を言うでない!」


 ショーワン団長が理不尽に怒りをぶちまける。

 相変わらず横暴な人だ……と思っていたところで、カリメロが大盾の下敷きになっている事に気がついた。


「カリメロ……平気?」

「ん……大丈夫。ちゃんと起きれる」


 体から大盾をどかせるのにも一苦労なカリメロ。

 手伝った方がいいんだろうか……。



 ――パチッ。



「……ん?」


 ふと、聞こえる火花の音。

 誰も魔法は使ってないはず。あやめだろうか……?



 ――バチチッ!



 先程より大きい火花。

 振り向いた先にあったのは、そばで倒れ、丸焦げになった徹甲弾恐竜。

 いや、正確には僕の火遁の術で殺しきれず、オータクマたちにトドメを刺してもらった個体……。

 首元のエリマキが、パチパチと光る。


(あ……これ、マズイ)


 背筋が凍っていく感覚。

 僕は知っていたからだ。

 モンスターの図鑑に、記されていたから。


 ――徹甲弾恐竜は確実に殺すべし。

 ――なぜなら、死に際にエリマキが導火線となって首を飛ばす。

 ――甲冑を貫き爆発する特攻兵器。それが、徹甲弾恐竜の名前の由来。


 ……カリメロに、狙いをさだめていた。


「カリメロ! 逃げ……!」


 即座に呼びかける。

 しかしほぼ同時。

 徹甲弾恐竜のエリマキが、閃光を放った。



 ――ピカッ!



(しまった! 遅かった……!)


 徹甲弾恐竜の頭が飛び出す前兆。

 カリメロが、大盾から離れる様子はない。

 彼女が、死んでしまう。


「まっ――」


 徹甲弾恐竜が、射出された。

 その瞬間、僕は投げた。



 ――キィィィィィィィィィィン!



 破裂する音が鳴り響く。

 爆発……したはず。なのになぜ、その衝撃が来ないのだろうか。


「カリメ……ロ?」


 カリメロは死んだのか。粉微塵になったのか。


「ヤークト……」


 どれも違った。カリメロは生きていた。

 大盾の下敷きになって倒れたままだった。


(……ま、間に合ったぁ〜……)


 僕は安堵し、ホッと息をなでおろした。

 なぜなら間一髪の瞬間、とっさに動いたからだ。


 あやめからもらった、クナイを投げて。


(あやめの言う通りだ……。あらゆる物を砕けるって……)


 あやめからは、護身用としてもらったくノ一道具。

 それがまさか、こんな形で役に立つとは思わなかった。


「ヤークト! カリメロ! 大丈夫か!」


 オータクマたちが、駆け寄ってきた。

 みんな僕たちの事を心配した様子だった。


「うん、僕は大丈夫」

「カリメロも平気? ってか大盾の下敷きになっちゃってるじゃないのよ!」

「平気……どこもケガしてない」

「なら安心ね……ってワケないでしょ! さっさと大盾どかさないと! ヤークトも手伝って!」

「ってか何だったんだよ、さっきの光と爆発音は……」


 僕は早急にカリメロの元に向かい、大盾をどかせようとする。

 そんな時に出た、オータクマの疑問。答えたのはコシギィンだった。


「多分……徹甲弾恐竜の特攻じゃないかなぁ」

「特攻……すか?」

「ああ、徹甲弾恐竜は死ぬ間際に、首を飛ばして相手を道連れにしようとする習性があるんだ。だからアレの近くにいつまでもいちゃいけない。ましてや、身動きがとれない状況なんて……」


 ようやく大盾を動かし、カリメロを自由の身にできた。

 そんな彼女が、ショーワン団長に指をさしたのだ。


「団長が私を押しのけた。そのせいで、倒れてしまった」


 全員が一斉に、ショーワン団長に注目した。


「な、何じゃ! みんな揃って……!」


 僕を含め、みんなが冷たい目でショーワン団長を見ている。

 その空気を察したのか、動揺を隠せないでいた。


「あ、あんなもん、事故じゃ事故! そもそもそんな危険なモンスターを前にして身の丈に合わん盾など持っておるからそうなる!」

「いえ団長、危険なモンスターと距離をとるよう呼びかけるのも団長の仕事だと思うんですが……」

「鉄拳制裁!」



 ――バコォッ!



 コシギィンの正論に苛立ったのか、ショーワン団長が殴ってしまった。

 この事でより一層、僕を含めみんなから白けた空気が漂うようになったのだ。


「は……ハハッ! もちろん、分かっていたさ! これはテストじゃ! ヤークト君ならきっと徹甲弾恐竜から身を守ってくれる! そのポテンシャルを見越し、あえて命令を下さなかったのじゃ! いやあ、結構結構! さすがヤークト君! ワシが見込んだだけの事はあるわい!」


 高らかに笑うショーワン団長。

 しかし僕を含め、みんな思っていただろう。

 ……何て、白々しい人なんだ……と。


「と、という訳じゃ! 二軍騎士ども! さっさと出るぞ! 目標の水霊のほこらまでまだ先なのじゃ! 行くぞ!」


 そんな僕たちの視線を振り切るように、ショーワン団長は啖呵を切った。

 相変わらずな人だなあ……と、僕が呆れていると。


「……今度は、ちゃんと主様(あるじさま)の力で守れたでござるな」


 あやめ声。ささやきが耳に届いた。

 振り返っても、彼女の姿はない。きっと隠れているんだろう。


「そうだね……ありがとう、あやめ」


 きっと、自分の実力のなさに落ち込んでいた僕を励ましてくれたのかもしれない。

 今度会ったらちゃんとお礼を言おう。

 そう決めた僕は一歩、歩き始めた。

次話は20時以降に投稿予定です。


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