第15話 騎士見習い、モンスターと遭遇
「二軍騎士、番号ぉー!」
「イチ!」「ニ!」「サン!」「シ!」「ゴ!」
「よぉーし! コシギィン、オータクマ、キャルキャル、カリメロ、ヤークト、全員いるな! このまま前進ンーーー!」
ショーワン団長が号点呼をかける。
僕たち二軍騎士はそれに答え、行軍は続いていく。
「ったく、こんな朝っぱらからやってらんね、……ファァァ〜」
「ちょ、オータクマ、バカ! アンタやめ……!」
「キサマ! 何をあくびしておるかぁ! 鉄拳制裁!」
――バコォッ!
オータクマが殴られてしまった。
これから先は長いのに、大丈夫なんだろうか……。
と思いつつ、僕はすこぶる調子がよかった。
あやめと別れてから、興奮した気持ちを残しつつもその後、グッスリ眠れたのだ。
案外、あやめの侵入が効果あったのかもしれない。忍法でも使ったんだろうか。
と言っても、あんな緊張する夜は勘弁してほしいけどね……。
んで、僕たちは日が昇ると同時に体を起こし、硬いパンひと切れとミルクで朝食をとり、ショーワン団長の号令のもと集まった。
そして今、甲冑に剣を身に着け、山岳地帯を進んでいる訳だ。
ゴツい甲冑を装備したショーワン団長が先頭に立ち、その後ろをコシギィンがついていく。
オータクマは背丈並の大剣を担いで、キャルキャルは魔法使いらしい格好で杖を持ち、カリメロは背丈以上の分厚い盾を引きずって行軍し続けている。
カリメロの盾、重そうだけど大丈夫だろうか。
「……………………」
僕は気になっていた。今朝からあやめの姿が見えない事についてだ。
昨日は彼女、ついていくと言っていた。やっぱりどこかで忍んで僕を見守ってくれているんだろうか。
「ヤークト、どうしたの? キョロキョロして」
「あ、いや、何でもない」
僕の仕草を、カリメロに尋ねられてしまった。
いけない、怪しまれる所だ。気をつけないと。
昨日からカリメロとは何度も接触している。変な風に思われなきゃいいけど……。
「んっ、んっ……」
カリメロの盾、本当に重そうだ……。歩くたびに息を切らしている。こんなんで水霊のほこらまで持つとは思えない。
「……持つよ」
見ていられなかったのだろう。
僕はカリメロの大盾の端を持ち上げていた。
「ヤークト、軽くなった」
そりゃあ、二人で持っているからね。
それにしても、何やってるんだろう僕は。ここは怪しまれないよう自重するところなのに。
「ありがとう、ヤークト」
「あ、うん、別に」
「昨日の事も、ありがとう」
昨日の事……。
どさくさにまぎれて、何て話題を出すんだろうこの子は。
「いや、別に……」
とりあえず言葉を濁しておく。追及されちゃいけない理由が色々あるからね。
「何も言わないならそれでいい。ヤークトへのお礼、忘れないから」
いや、忘れて下さい。
カリメロの裸を見た事を覚えられたら……それが周囲に広まりでもしたら……。
「あれぇ? 仲いいじゃんアンタら」
そんな時に、キャルキャルが首を突っ込んでくる。
「しかもカリメロの盾を二人で持っちゃってさ。何それ、共同作業? あ、もしかして二人ってもうデキてたりする?」
「いや、そういうんじゃ……」
ああもう、キャルキャルがからかってくる。
ちょっと盾持ちを手伝って、ちょっと喋っただけなのに。どうしてこう恋愛話に持っていこうとするんだろう。迷惑を考えられないんだろうか。
カリメロだってきっと迷惑している。そう思ってカリメロの顔を覗いてみる。
「……………………」
カリメロがうつむいている。頬を紅く染めながら。
(ど、どういう事……? 何なのその反応……?)
僕には意味が分からなかった。ただ冷静に『別に。そんなんじゃない』って返すものだと思っていたから。
微妙な空気になってきた。キャルキャルはニヤニヤしているし、カリメロはうつむいたままだし……。どうしたらいいの、これ?
僕は途方に暮れてしまっていた。
その時だった。
「敵襲ーーー!」
ショーワン団長の怒声が響く。
その声を聞いて、みんなの空気が一変する。
敵襲。
そのかけ声はまさに、モンスターとの会敵だ。
「総員武器を構え! 戦闘に備えよ!」
ショーワン団長の号令は続く。
二軍騎士たちが各々の武器を取り出す。
カリメロは盾を構えるのが苦しそうだったので、僕が支えてあげた。
「団長! モンスター、現れました!」
コシギィンが叫ぶ。
モンスターとの戦闘は近い。僕の鼓動が高鳴っている。緊張しているせいだ。
足音が響いてくる。巨大なモンスターだろうか。
「総員、戦闘用意! モンスターがやってくるぞぉ!」
ショーワン団長が怒鳴る。
それと同時に、山岳地帯の奥の方から巨大な影が見えた。
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」
モンスターの叫び声。
それは二本足で走っていた。
大きな口を開け、鋭いキバを見せている。体中がウロコで覆われていてとても頑丈そうだ。
羽はない。爬虫類のようにエリマキを巻いている。
「て、徹甲弾恐竜……」
巨大なトカゲ。恐竜が、僕たちに向け吠えていたのだ。
しかも一匹ではない。複数だ。十匹はいるだろう集団で。
「あれ、B級モンスター……だよな?」
オータクマがつぶやく。
僕たち二軍騎士は全員D級。
B級とD級は天地の差。
うん、死ぬな。これ。
「総員突撃! 突撃開始!」
みんなが絶望的な空気に包まれている中で。
ショーワン団長だけは元気いっぱいだった。
「何をしておるか! 全員突撃せんか!」
「え、何言ってんすか? 死ぬに決まってるでしょ?」
「鉄拳制裁!」
――バコォッ!
オータクマが殴られる。
その反動で地面に突っ伏してしまう。
「軟弱者! キサマそれでも騎士か! それを平民の前でも言えるのか!」
モンスターを前にしても、ショーワン団長の怒りが炸裂する。
「ちょ、ちょっと、私らD級ですよ! 突撃して何になるんですか? せめて戦術を……」
「鉄拳制裁!」
――バコォッ!
今度はキャルキャルが抗議するも、ショーワン団長に殴られてしまった。
「バカ者! 何が戦術じゃ! モンスターが目の前にいるんじゃぞ! そんなもん悠長に考えていられるか!」
「そうだぞー、お前たち。我ら騎士団のモットーは『全軍突撃!』どんなモンスターにも体当たり! これしかない!」
「ウダウダ言わずにキサマも行かんか! 鉄拳制裁!」
――バコォッ!
同意したはずのコシギィンまで殴りつけるショーワン団長。
「ガオオオオオオオオオオオオオオン!」
そうこうしているうちに、徹甲弾恐竜たちとの距離が縮まってきた。
走るたび、地面が鳴る。いかに巨体な体躯であるかを教えてくれる。
「何っ、もうそこまで! ……キサマら何を倒れておる! さっさと立たんかモンスターはすぐそこまで迫っておるぞ!」
「あの、ショーワン団長が殴ったからそうなったんじゃ……」
「う、うるさーい! ワシは悪くない! キサマらがワシの言う事を聞かんからこんな事になる!」
自分で殴ったくせに……。それなのに逆ギレして抗議しようとする。
敵うはずのないモンスター。怯える騎士たちに暴力で強行させるやり方。
はっきり言って、メチャクチャだ。端から見た人たちはあり得ない……と口を揃えて言うだろう。
けれど僕は知っている。騎士見習いとして訓練に励んでいた頃から、ショーワン団長はあんな風だった。
怒声と暴力でしか人を従えられない、そんな老獪なのだ。
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
「き、キサマら! 何とかせんか! 何とかしてワシを守らんか!」
「ヤークト! そこまで来てる!」
「くっ……!」
徹甲弾恐竜とはもはや眼前の距離。
「――グゥアオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
まともに立っているのは僕、カリメロ、ショーワン団長の三人。
ダメ……! とても太刀打ちできない……!
「――ヒィィぃ!」
徹甲弾恐竜が大きく口を開く。
そのキバが僕たちを砕こうとした、その時だった。
――ドッドッドッドッドッドッドッドッド……!
徹甲弾恐竜の足踏み。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア……!」
徹甲弾恐竜の雄叫び。
いずれも胸に響く強烈な音だ。
しかし、肝心のキバが僕たちには届いていなかった。
「……あれ?」
僕も、カリメロも、ショーワン団長もみんな五体満足。
どういう事だろうと見上げてみると……。
「ギャア! ギャア! ギャア! ギャアア!」
――ドッドッドッドッドッドッドッドッド!
徹甲弾恐竜がみんな、その場で足踏みをしている。
悲痛な声雄叫びをあげながら。
「……タップダンス?」
いや違うな。楽しそうじゃないし。
どうしてだろう。目を凝らして見てみると……。
「これ……まきびしか!」
徹甲弾恐竜の足元にくっついている、黒い物体。
あやめが僕を影から支えているという事が、よく分かった。
次話は20時以降の予定です。
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