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第11話 騎士見習い、二度目の召喚

「よ、よーし……」


 僕は緊張していた。

 慣れないスキルを使う事もあったが。

 何より、どんなくノ一が召喚されるのか分からない。僕の鼓動を速くする原因だった。

 どんなくノ一が現れるんだろう。優しいくノ一だろうか? それとも怖いくノ一で、僕と気が合わないくノ一だったら……。


主様(あるじさま)、心配しなくていいでござる」


 そっと僕に寄り添い、あやめが声をかけてくれる。


「確かにくノ一といっても色々いるでござる。ですが皆、主様の味方でありたいし、主様の役に立ちたいと思っているでござるよ」

「あやめ……」

「その小判をかざして召喚する。それだけでござるよ。なぁに、危ないくノ一だとしても、拙者が守ってみせるでござるよ!」


 そうだった。あやめは最初から僕に好意的に接してくれていた。彼女を疑っていたのは僕の方だったんだ。


「ありがとう、あやめ。……やってみるよ」


 そうだ、自信を持てヤークト。大丈夫、きっとあやめみたいなくノ一が出てくるから。


「――レアスキル発動! レアスキル★0【口寄せ:くノ一ガチャ】!」


 以前と同じように、僕は手をかざす。輝く小判を持って。

 そして、スキル名を声高に叫んだ。

 すると――



 ――ドロン!

 ――ドロロロロロロロロロロロロロ……!



「きた……!」


 どこからともなく、太鼓の音が聞こえてきる。以前と同じだ。

 そして――



 ――パンッ! パンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパン……。



 ――パン!

 ――ブワワワワワワ……!



「煙……! きた……!」


 僕の眼前で湧き上がる、白い煙。

 木を叩く音が何度も鳴り続く。

 白い煙がこちらを覆ってくる。咳込まないよう袖で口を塞いだ。


「くノ一は、増えるか否か」


 その煙の先から、女の子の声が聞こえてくた。


「くノ一は忍ぶもの。人前に姿を見せぬ。しかしくノ一は尽きず闇夜を駆ける」

「この声……あやめと違う……!」


 煙が晴れていく。

 人の形をした輪郭がぼんやりと、少しずつはっきりと見えてきた。


「くノ一ガチャの召喚に応じNR(ノーマルレア)、くノ一はっとり。闇夜から喚ばれ馳せ参じました!」


 姿を見せたその人は背が高く、あやめと比べてお姉さんといったいでたち。


「これよりアナタ様に仕え、以後この身を捧げくノ一として貢献する所存でございます! どうぞよろしくお願いしますね!」


 はつらつとした声で、僕に挨拶をするのだった。


「はっとり……」


 はっとりと名乗るくノ一。

 あやめと似たような装束を着ているものの、幾らか違いがある。


 まずは髪型。あやめは短いが、はっとりはストレートなロングヘアー。

 装束の上、左胸に胴当てをつけている。肩にも武具をつけていた。

 それと下半身はロングスカートかと思ったが、スリットがついている。そこから生足が覗いて見える。


「ほう、はっとりを召喚したでござるか……」


 ここであやめが口を開く。何やら期待を込めたような声で。


「はっとりは指導がうまいでござる。彼女の元で忍法を教わったくノ一見習いは大勢で、そのほとんどが立派なくノ一へと成長したのでござる」

「あら、ほめてくれるなんて嬉しいわ、あやめ」

「喜ぶのはまだ早いでござるよ。おぬしには主様にいかに役立てるかアピールしてもらわねばならんでござるからな」

「それもそうね! 主君に私の力を見せて優秀なくノ一だって事を教えてあげなきゃね!」


 あれ、何だろう? 二人とも仲良さそうに喋ってる……。

 二人は知り合いだったんだろうか。召喚される前に会っていたとか……?


「ささ、主様。さっそく本題に……」

「その前にいいかしら! 主君(あるじくん)!」

「え? 主君? え、……何?」


 指導がうまいと言っていた。せっかく召喚したので、忍法を教えてもらおうと思っていた。

 なのに止められてしまった。どうしてだろうか。


「主君にはこれから、私の質問に答えてもらいます!」

「し、質問……?」

「くノ一って、どうして増えると思う?」


 は? え、何? 何言ってるの?

 くノ一が? どうして増えるって……?


「はっとり、そんな場合じゃ……」

「いいえ、これは大事な事なの。私が役立つところを見せるように、主君もくノ一の主にふさわしいか確かめる必要があるの」


 あやめの制止を聞こうとしない。

 何でこんな事を聞かれなきゃならないんだろう。忍法を教えてほしいと思っていただけなのに。


「え、えーと……」

「主君、世の中にはね、困った人が多くいるの」


 僕が戸惑いながらも考えていると、はっとりが語り始める。


「お金に安全、地位に天変、そんな不確実のため、あるいは多くの人々を救いたい、けど時には手を汚さなければならない……。理想と現実の狭間に悩む主〈あるじ〉のため、くノ一は影から現れ、力を貸そうとするの」

「悩む主……それって領主とか王様って事……?」

「確かに、くノ一の依頼主にそういう人は多かったわ。けどね、悩みは身分が高い人が持つ訳じゃない。誰しもが抱えているものなの」


 悩みか……確かに、騎士見習いの僕だってこうして悩んでいる訳だし。

 僕の反応を見てか、はっとりが姿勢を低くし、ゆっくりとした口調で話しかける。


「身分の高い人からは偵察に護衛、時に暗殺も請け負ったわ。一方、身分の低い人からは仇討ちに調査依頼、そして身寄りがない人がからは……?」


 身寄りがない……? あ、これ、問いかけてるのか。

 身寄りがない人がお願いするって言ったら……。


「僕たちで言うところの……傭兵? いや、冒険者」

「そう。正解。そんな子たちをくノ一として育てるの。じゃあ、最初の疑問に戻る前に……」


 はっとりがコホン、と咳払いをした。


「くノ一に対して依頼をするのは……どうしてだっけ?」

「えと、悩みがあるから……?」

「正解。人はみんな、悩みを抱えてます。……最初の疑問。くノ一が増えるのは?」


 くノ一が増える……。悩み……。

 ここまでお膳立てされたおかげだろうか。おぼろげながら答えが見えてきた気がした。


「人はみんな悩みを持つ……。いや、人がいるから、悩みがある……」


 手さぐりだ。思いついた言葉をそのまま口に出す。


「そこに人がいるから。悩みを抱える人がいて、くノ一になる可能性があるから、……くノ一が増えていく!」


 二人が、僕に注目している。

 これで正解なんだろうか……?

 正直、僕が言った事は口からでまかせだ。正しいと言える自信はない。

 どうしよう……緊張してきた。間違っているならいるって早く言ってくれよ……。


「さ……」


 すると、はっとりが微かに口を動かし。


「さすがね! 正解、大正解よ!」


 大声で祝い出す。

 そしてまたたく間に僕に抱きついてきたのだ。


「もガッ……! ちょ……!」

「すごいわ! さすがね主君! 大好き! 私の問いに答えられるなんて……もうスキスキ好き! 大好き!」


 好意を連呼しながら、僕を抱きしめて離さない。

 僕の顔と肩に、柔らかい感触と温もりが襲いかかってくる。さっきの一瞬で見えたけど……これ、はっとりの胸だ。

 はっとりの巨乳に挟まれて、顔をうずめている状態なんだ!


「はっとり! 離れるでござる!」


 そんな僕とはっとりを、あやめが力づくで引き離した。


「あら、主君をとられてヤキモチ焼いちゃった?」

「べ、別に違うでござる! 主様が苦しそうだから助けたでござる!」

「そう? 男の子って、こういうの喜ぶものよ?」

「いや、ちょっと、何を……うわっ!」


 僕は見てしまった。

 胸当てに覆われてない方の服がはだけている。

 はっとりの大きな胸がこぼれそうになり、今にも大事な部分が露出しかけているのだ。

 あのふっくらと柔らかそうな胸に包まれて、しかもあと少しで……って思ってる場合じゃない!


「はっとり! 服なおして! っていうかそろそろ僕の話を聞いてほしいんだけど!」

「そういえば言っていたわね……。分かったわ、話してみなさいな!」


 ようやく話を進められる……。

 僕とあやめは、はっとりに今日までのいきさつを説明した。


「なるほど……水霊のほこらね」


 はっとりは何やら、考えている様子だ。


「水気が多い洞窟、レベルが高い……。確かに私の力が必要かもね」


 ここではっとりが顔をあげ、僕に宣言した。


「それじゃあ主君には、水遁の術を教えます! 今夜中と聞いて時間がないから、テキパキいくわね!」

「は、はいっ、お願いします」


 ようやく、はっとりの指導が始まるらしい。

 ここまで長かった気がする……。なんて言うか……。



 話の途中でクイズを織り交ぜられる、めんどくさい人だなあ。

読んでいただきありがとうございました。


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