第10話 騎士見習い、新たな任務を頂戴する
「あやめ……どこ行ったんだ?」
ソファーの下に、彼女の姿はない。
そういえば、ランニングをしている時もそうだ。忍ぶものと言って姿を消したんだ。
お礼を言おうと思ったんだけど……。明日探してみようか?
「……ヤークト」
僕のそばで呼ぶ声がする。
カリメロだった。ジッと僕を見つめている。
「な、何……?」
「この服は、ヤークトのもの?」
僕はギョっとした。忘れていた。カリメロの裸を隠すため上着を脱いで渡した事を。
「う、うん……多分」
僕はとりあえず、うなずいておく。
「私、殴られそうになった時、誰かに足を引っ張られた気がしたの。おかげで殴られずにすんだ」
あやめの事だろう。気を失っていたのに、ちゃんと覚えていたんだな。
「あれは、ヤークト……? ヤークトが助けてくれたの?」
どうしよう……忍法の事とかあやめの事は隠しておいた方がいいよな。
そう思い、僕は首を横に振った。
「そう、お礼が言いたかったのに……」
カリメロはどうも、しょんぼりしている様子だ。自分を救ってくれた事への感謝の気持ちが、宙ぶらりんになっているかもしれない。
しかし、僕はそれを説明する訳にはいかなかった。忍法を秘密に……という件もそうだが。
(カリメロが裸だった件に触れる訳にいかないからね!)
この話題を続けていれば、いつかその話にたどり着くだろう。
オータクマとキャルキャルはまだ放心している。とはいえいつまでも保つものではない。
「ほ、ほら、今日はもう寝よう? ショーワン団長がやってきて緊張しっぱなしだったし……。僕はそろそろ休むから、それじゃあ……」
この場をやり過ごそうとベッドへ向かおうとした、その時だった。
「み、みなさん、大変です!」
デイタナがやつれた表情で駆け寄ってきたのだ。
その大声に、オータクマとキャルキャルも彼の方に振り向く。
「じ、実はですね……さっきショーワン団長から辞令が下りまして……」
焦っているのか、呼吸が整ってない。
大丈夫だろうか。僕を含めみんなが注目している中で。
「二軍騎士全員、出撃命令です!」
「しゅ、出撃!」
最初に声をあげたのはオータクマ。
当然、僕も驚いている。二軍騎士に任務って事だよな……掃き溜めじゃなかったのか?
「二軍騎士全員、早朝からショーワン団長の指揮のもと、水霊のほこらへ調査任務におもむくように……との事です」
「水霊……」
水霊のほこらの調査任務。
それを聞いた途端、二軍騎士全員が暗い空気に落ちていくのが分かった。
「す、水霊のほこら……って?」
僕には何の事だか分からない。
オータクマが答えてくれた。
「この宿舎から数十キロ離れた山岳地帯の先にある、大きな川と湖が大半を占めている洞窟の事だよ。んで、その中にほこらがあって、精霊が封印されてるっていう神聖な場所さ」
「そ、そうなんだ。それだけ聞くと聖地巡礼って気がするけど……」
「バカ言え。洞窟の周りにゃB級クラスのモンスターがウヨウヨしてやがんだよ。とてもオレたちや、並の冒険者なんかが寄れる場所じゃねぇ」
「び、B級……」
B級。
まさに強敵といえるモンスターの指標。一匹でも町を破壊しかねないほどの凶暴性をもつという。上級冒険者や一軍騎士でようやく戦える強さだ。
「ちなみに、二軍騎士のみなさんはどれくらい……」
「あ? オレたちはD級だよ」
D級……。
強さで言うところ、並の人間より強いっていう程度。
なるほど。町を壊すようなモンスター複数に対して、自殺行為はなはだしい。
ちなみに、僕もD級だ。
ああどうしよう。これ、死ににいくようなもんじゃないか。
「ワタシたち……もう終わりね……」
「……だな」
オータクマとキャルキャルが息ぴったりでため息を吐く。
カリメロもうつむいている。
正直、僕もため息を吐きたい……。
◆◇◆◇◆◇◆◇
満月が輝いている。
月が照らしてくれるおかげで、森の中を迷わず進んでいける。
「ここだ……ついたぞ」
僕は宿舎を抜け出し、広場に到着した。
みんなが寝静まった頃を見計らい、こっそりとやってきたのだ。
そうでもしないといけない理由が、僕にあったからだ。
「ここまで来れば……呼べるでしょ」
僕は深呼吸をした。声を出すために。
「あやめ、いるんでしょ。出てきて!」
「はっ! ここに!」
一瞬だった。あやめが膝をついて僕の前に現れたのは。
「あ、あっさりと来るんだな……」
「それは当然。主様のためなら、たとえ火の中水の中いつでも駆けつけるでござる」
あやめの登場が早すぎる……。
ちょっと心臓がドキドキしちゃったじゃなか……。もう少し呼ぶのに手こずるんじゃないかって思っていたのに……。
「それで、拙者に何か用があったのでは?」
「あ、う、うん。それはだな……」
どうもあやめにペースを握られている気がする。
けどそんな話をしに呼んだ訳じゃない。
僕はあやめが姿を消してから起きたいきさつを語っていく。
「なるほど……水霊のほこらでござるか」
「その……こんな事になったのって、僕のせいだって思ってる。ショーワン団長の前で出しゃばったマネをしたから……」
調査任務を言い渡された原因を作ったのは、きっと僕だろう。大人しく殴られておけば、こうならなかったかもしれない。
あやめは、そんな僕の気持ちを否定した。
「しかし、主様が助けようと思わねば、あの少女は殴られていたでござる」
「そ、それは……」
「そして主様が殴られずに済んだのも、主様が最初に抱いた少女を助けたいという気持ち……これがあったからこそあの場を乗り越えられたでござる」
「でも……」
「主様……少女や二軍騎士たちを気遣うのは結構。ですが、主様が心を痛めて悲しむ者がここにいる事も分かって下され……」
「…………」
あやめ……僕がそうしたように、彼女も気遣ってくれてるんだろうか。
「元気出すでござる。もし主様が殴られでもしたら……今度は拙者がぶち殺してやるでござるよ!」
「こ、殺すのはナシで……」
あやめがクナイを握り、声を荒らげていた。
ちょっと怖かったので、思わずなだめてしまう。
「ふむ……確かに水霊のほこらは高レベルのダンジョンにござる。まともに向かっては瞬殺されるのがオチであろう」
「まあ、そうだよね……」
「ここは一つ、拙者が……」
あやめが何かを提案しようとした、その時。
僕の頭上から、何やら気配を感じ……。
――チャリーん!
金属が転がる音が鳴る。
「……え?」
その直後だ。
ある物体が、僕の脳天を直撃したのだ。
「――って!」
その衝撃に、思わず声を出してしまった。
「な、何なんだよ……これ」
痛い……頭頂部がジンジンする。
兜を被っていなかった事が災いした。頭をさすってみる。血は出てないだろうか。
「おお……とうとう時間でござるか」
痛がる僕とは対称に、あやめの目が輝いていた。
「主様、見てくだされ。小判にござる」
あやめは地面に落ちた物体を拾い、僕の前に突き出してくる。
それは、楕円形のキラキラと輝く、金色の物体。王族がつけている宝石に匹敵するようなキレイさを思わせる、高価そうな印象を感じさせる。
「こ、小判って……?」
「くノ一ガチャにござる。初回特典で小判一枚あれば、新たなくノ一を召喚できるでござる」
「しょ、召喚……」
一瞬、戸惑った。
だけどすぐに思い出した。
ああ、そういえば言っていたな、そんな事。
正直、胡散臭いと思って聞き流したんだった――
次話は20時以降に投稿予定です。
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