第1話 騎士見習い、追放される
「鉄拳制裁!」
――バコォッ!
僕は怒声と同時に殴られた。
「さあ立て! 話は終わっておらんぞ!」
殴られた反動で僕は地面に倒れている。
それを見下ろす甲冑を身につけた老人騎士、ショーワン団長。
顔を真っ赤にして怒りの形相で僕を睨みつけている。
僕はのそのそと立ち上がった。
どうしてこんな事になったんだろう……と思いながら。
僕の名はヤークト。
バリスタン家の次男で騎士見習いをやっている。
早い話、貴族ってわけだ。といっても、没落寸前のこじんまりとした程度のものだが。
「貴様……何だその目は」
「質問があります。なぜ自分は殴られているんでしょう?」
「鉄拳制裁!」
――バコォッ!
僕は殴られ、地面に倒されてしまう。
「それは貴様が、グズだからだ!」
ショーワン団長は僕に構わず、怒鳴り続けてくる。
「ワシの命令に口答えする! テキパキ動こうとせん! おまけに大声をださん! ワシは今まで何十年も騎士をやってきたがのぉ、お前みたいな根性なしは始めてじゃ!」
「ま、待ってくださいよ……。自分はただ、意見を言おうとしただけだし、アナタが突撃! しか命令しないからどうしようか考えようとしてるだけだし、大声だって……逐一出す必要があるのか疑問に思ったわけで……」
「鉄拳制裁!」
――バコォッ!
僕は立ち上がろうとした。立ったところで、再び殴られ地面に突っ伏してしまった。
「団長、もういいんじゃないですか、そんなヤツ」
ここで、あざけるような声が聞こえてきた。
この声は知ってる。僕の同期だったゴオマのものだ。
「こんなウドの大木みたいなヤツ、さっさと見限ってしまえばいいんですよ。どうせ使い物にならないんだから、二軍にでも落としちゃえばいいんです」
「ふむ……」
ゴオマは僕と違って優等生だった。学業も優秀で剣術も僕より上だ。だからだろうか、ゴオマの僕を見る目がバカにした風に感じるのは。
っていけない。ショーワン団長が考え始めている。何とか説得しないと!
「待ってください! 結論を急がないで! 自分、もっとがんばりますから! 今まで以上に勉強も鍛錬もこなしてその……もっと精進しますから!」
「って、ムダムダ! ムダでしょ、こんなしょぼいヤツ期待するだけムダですって!」
今度は、僕をあざ笑う女の声。振り向くと一人の女と一人の大男。
ヒーキョとダッシミク。コイツらも同期だ。ゴオマと同じく優等生の騎士たち。
「こんなの私たちと同じ騎士として置いておくなんて恥さらしもいいとこじゃないですかぁ。さっさと二軍にでも降格しちゃえばいいんですよ!」
「ヒーキョの言うとおりだ。団長、我からもお願いします。この男と同じ空間で空気を吸うこともおこがましい」
「そ、そんな……」
二人がそろって僕にたいし助言と言う名の罵倒を続けてくる。
あろうことか、ショーワン団長までうなずいていた。
「そ、そうだ! 今日はレアスキル継承の日! 自分たち騎士見習いが一人前として認められる日! その時に高レアなスキルを得られたら不問にするってのはどうでしょ……」
「鉄拳制裁!」
――バコォッ!
またも殴られてしまった。そのたびに、僕は地面に倒れてしまう。
「ワシに意見するでない! しかし……」
少し考えた素振りをみせると、ショーワン団長はニヤリと口角を吊り上げた。
「よかろう。レアスキル継承の儀の結果次第で貴様の処遇を決定する! 忘れるなよ、その言葉? 低レアだった場合は……二軍行きだからな!」
◆◇◆◇◆◇◆◇
「レアスキル継承、成功しました! ダッシミク殿のレアスキルは星三つ、バーバリーシールドです!」
「よし! まずまずだな!」
城内のある一室に敷かれている魔法陣。周りに配置された数人の魔導士たち。
その中央にダッシミクは立ち、レアスキル継承の儀式を済ませていく。
「次! ヒーキョ殿! レアスキル継承成功しました! レアスキルは星三つ、マジックビットです!」
「よっしゃあ! マジックビットか……便利そうじゃん」
ヒーキョも儀式を終える。魔導士からレアスキルの説明を受け、ご満悦な表情を浮かべている。
レアスキル継承の儀式。
僕たち騎士見習いが一人前の騎士として認められるめの通貨儀礼。
僕たちが信仰する神が天から人へ引き継がれる……という伝説からレアスキル継承の儀式が生まれたらしい。
僕たち騎士に平民、貴族に王族、そしてモンスターたちが住むこの世界には、魔法やスキルという武器や打撃と違った特殊な技が存在する。
その中でレアスキルとは、各々の騎士や冒険者が持つことができる自分だけの技だ。
「じゃあ、次はオレの番だから」
余裕の態度でゴオマが先に行く。
そんな彼の背中を見送る僕。
「ゴオマ殿のレアスキル継承の儀、成功です! レアスキルは……ほ、星四つ! パワーボルトです!」
「やったぜ!」
ゴオマが大声で喜んでいる。実際、ゴオマが手に入れたレアスキルは、かなりのレア度だからだ。
さっきまで魔術師が言っていた星について。星が多ければ多いほどレア度が高い。
ゴオマの星四つのレアスキルでいえば、三年か五年に一人しか授かれないとされていて、大抵の騎士のレアスキルは星三つ。それ未満のレアスキルだと冒険者が授かるもので、騎士として低能だと言われてしまう。
反対に星五つとなると、これはすごい。騎士と冒険者含め千人に満たない中で、たった五人しか継承できていないのだから。
「うむ。さすがは我が優秀な騎士見習いゴオマ。それだけのレアスキルを継承できたのも当然といえよう」
「褒めないでください、ショーワン団長。こんな二軍落ち予備軍とは違いますんで」
隙あらば僕を侮辱してくるんだな……。
しかも、二軍落ち予備軍だなんて決めつけてくる。
二軍落ち。
それは事実上の戦力外通告。
才能もなく、戦力にもならない。クビにしようにも貴族なので無下にできない。役に立たないのに食料と予算だけは食いつぶす。
例えるなら、騎士団の恥部のようなもの。
そんな穀潰し連中と、僕が同類になると決めつけてきやがるんだこのゴオマは。
いいさ、言ってろよ。僕だって立派なレアスキルを継承してやるんだからな。
「次! ヤークト殿!」
いよいよ僕の番だ。
心臓がドクドク鳴っている。緊張しているのが分かる。
それでも僕はツバを飲み込み、足を前に出す。数歩歩き、魔法陣の中央まで来たところで、僕は目を閉じ意識を集中した。
「――では、始め!」
魔術師の号令。
僕の全身に何かが降りてくる感覚。
ああ、始まったんだ。僕にもとうとう、レアスキルが継承される。
「ヤークト殿のレアスキル継承の儀、成功です! 星は……」
魔術師の声を聞き、僕は目をあけた。
いよいよだ。星は四つか? いやせめて三つでも……。
「星……ゼロです」
「えっ」
魔術師の戸惑う声。
「スキル名は……く、口寄せ……クノー……ガチャ……?」
「は?」
何? 何だって?
星がゼロ? 星が無いって?
ってかスキル名……何? クノー……何だって?
「あの、ステータスオープンを使ってご自身で確認を……」
弱々しい声で、魔術師がたずねてくる。
恐る恐る、僕は自分が継承したスキル名を確認してみると……。
レアスキル★0【口寄せ:くノ一ガチャ】
「……………………」
本当だ、何て読むんだろうこれ。
クノー……だよね? いやクノーは分かったけど、何で『く』と『ノ』の字の種類を変えてるのか……。
いや、他にもツッコミどころがあるけど……。
いや、いや、いや……。
沈黙がおとずれる。
それを破ったのは、ゴオマだった。
「ぷっ、プクククク……」
儀式の間に響く、吹き出しそうな声。
「アッヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャッーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!」
堪えられなかったのか、ゴオマが大笑いしだしたのだ。
「お、お前……まじか……星、ゼロって……! 星、無いって……そこらの冒険者だって星の一つや二つくらいあるぞっ! なのにお前……星ゼロって……!」
ゴオマの笑い声は止まらない。
「し、しかも……何だよそれ! そのスキル名! 『クノー……』って! 苦悩かよ! お前にピッタリなスキル名じゃねぇか! お前苦悩してるもんな……! 才能ないくせに騎士なんかやって……もいいっそ辞めちまえ……ブフォッ!」
再び吹き出したかと思うと、大笑いし始めるゴオマ。永遠に続くかと思わせるような長い笑いで……。
「あ、……アハハハハハハハハハ……アハハハハハハハハハ!」
「ククック……クフフフフフフ……フフ……ククッ……」
ゴオマにつられたのかヒーキョとダッシミクまで笑いだしたのだ。
いや、よく見てみると、魔術師の何人までも笑う素振りを見せている。
僕はもう、呆気にとられていた。この有様に、この笑われぶりに。
「のう、ヤークト」
ただ一人、重い口調で俺に話しかける人物がいた。
ショーワン団長だ。
しかし、その目はまるで汚物を見るかのようなもので。
「はぁ……怒る気も失せたわい」
「だ、団長……」
さすがに察する。
この中で、僕の味方になってくれる人は一人もいないんだと。
「決定じゃ」
「えっ……」
「鉄拳制裁!」
――バコォッ!
僕はその場で殴られ地面に倒れてしまった。
そしてショーワン団長から、事実上の死刑宣告が言い渡される。
「ヤークト・バリスタン! 本日付でお前は二軍騎士配属とする! 荷物をまとめて、さっさと二軍騎士の宿舎へ行けぇ!」
僕の、騎士としての未来が閉ざされた瞬間だった――
8時半までに第2話投稿します。
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