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猟師の決断

夜明けと同時に行動を開始する。沢伝いに麓を目指すのだ。歩きやすい街道を行く方が時間は短縮されるかもしれないが、囲まれにくい分、山の中の方が俺には有利だ。こちらには怪我人もいれば、いざというときには敵に回るかもしれない連中がいる。特にあのおしゃべり男が俺には信用できなかった。


嘘つき男の嘘は単純で、すぐに嘘とばれるものだ。後先考えずに適当なことを口に出す。感情は剝きだしで、良い意味でも悪い意味でも解りやすい単なる馬鹿だ。だがおしゃべり男の嘘は、あの炭焼き小屋に複数の馬がいるのを知るまで気付かなかった。あの男が俺に告げた行動は、時間的に不可能ではないものの、余りにギリギリで運任せの要素が多すぎたのだ。ただし、あの男が馬で移動していたとすれば話の様相は一気に置き換わる。時間的な余裕は、偶然の遭遇をただの追跡に換えた。

物置小屋の襲撃から逃げたのは、このおしゃべり男かもしれない。だが、女房に弓を射た現場にいたのはこの男ではない。こいつだったなら女房が覚えていたはずだ。仮に女房が覚えていなかっとしても、怪我をした兄を弟と一緒にアジトへ連れて行った男なら、兄弟の少なくともどちらかは何がしかの反応を見せるだろう。昨夜、女房にはいたたまれない様子を見せていた2人だ。今朝の様子を思い起こせば、あの男とは明らかに初対面かそれに近い間柄だと判る。

いみじくも昨日俺が言った通りだ。うちの女房を3度も襲撃して、生きていられるはずがない。


では怪我人を運ぶのを手伝った男はどこに消えたのか。そいつと、もしかするともう1人。他のアジトに走って、荒くれ連中と夜明けを待っている可能性があるということだ。そしてもう一つ。馬に乗っていたとするなら、おしゃべり男は指揮官クラスかもしれない。この先の捜査を思えば、逃す訳にはいかなかった。

手早く怪我人の治療と身支度を済ませ、おしゃべりな嘘つき男と嘘つきなおしゃべり男、怪我を負った男とその弟を含めた一行で、俺は山を下り始めた。


怪我人や子どもを含んだ一行の足は遅々として進まない。それまでより少し長めに休憩をとっていた時、最初の兆候が現われた。それは水の中に、ほんのわずかな濁りとして追跡者の存在を知らせてくれる。野営地が見つかったのだろう。


「ビー。ロッド。急ぐぞ」


2人にはそれだけで伝わった。ビーの気配が戦士のそれに替わり、少し硬い顔のロッドがルカを背負って歩き始める。男たちを追い立てるように、先を急いだ。

2つ目の兆候は音だった。遠く微かに聞こえるのは呼子の音だ。野営地で新しい痕跡を探って分散したはずの追跡者たちが、この先は固まって追ってくる。予想よりもだいぶ早い。


ここで決断を迫られる。このまま沢沿いを逃げるか、山の中に紛れ込むかだ。


俺は昨夜ジョゼに「沢伝いに麓の町を目指す」と告げた。これは迎えを求める言葉でもある。だが領兵の最寄りの駐屯地は街道の町だ。番所ごとに馬を乗り継いで伝令させても、どれほどの時間がかかることか。しかもこの一件は規模が大きい。北の漁師町や谷間の町、境界門の町にも人を向かわせて、一網打尽にしなければならない。()()()引退した騎士2人と数人の証人のために、貴重な戦力を割くことが出来るだろうか。

無理だ。と結論は早々に出る。ただジョゼは。あの生真面目で律儀な男は、例え独りでも沢をやって来るだろう。


「余計なことを言ったか」


心に苦く呟いて、俺はそのまま沢沿いを行くことを決めた。

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