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夜間行軍

アジトの場所はすぐにわかった。この時期は使われていない炭焼き小屋の一つだ。思った以上に近いところまで迫って来ていたらしい。いきなり物量で攻めて来られなかったのは幸いだった。俺だったら相手の隠れ場所を発見したなら戻って仲間に知らせ、大勢で取り囲んで火を掛けるだろう。山中の一軒家だ。煙に気づいて人が来る前に悠々逃げられる。まぁ、俺たちは隠れていた訳ではないが。


「用意はいいか?」

「いつでも」


炭焼き小屋は明かりを漏らさないよう窓が塞いであった。逃げ場がなくて、こちらには好都合だ。俺は裏口から入って1階を制圧し、ジョゼは表口から2階に駆け上がって、主犯格をとらえる。そういう役回りだ。主犯格の捕縛を現役の騎士団員に譲ったのであって、別に階段を上がるのが厭な訳ではない。

二手に分かれて配置につく。表で騒ぎが聞こえた後、一拍遅れて裏口に飛び込む。案の定、慌ただしく逃げようとした男2人と鉢合わせた。


「大人しくすれば、命までは取らない。そっちの男は怪我人だろ?

 悪いことは言わないから、ホールで大人しくしてろ。それ以上、動かさない方がいい」


ほら、行け。と顎をしゃくると、男たちは諦めたようにホールへ向かって歩き出す。2人が長椅子に落ち着いたころには、2階の方も決着がついたようだ。ジョゼが気を失った男を片手で引きずりながら降りてきた。さすがのジョゼも相当疲れているらしく、階段から突き落とさなかっただけでも上出来の様子だ。とても気の毒だが、まだ休ませてやる訳には行かない。


「この先は時間勝負だ。馬が何頭かいるようだぞ、ジョゼ。お前はそいつで繋ぎの町に降りろ。

 ここから西街道はすぐだ。街道なら馬に任せれば夜でも走れる」


ここには連絡役の男がいた。山狩りの男たちの元締めであるだけなら良いが、恐らくそうではあるまい。いずれ誰かがやってくる。寄せ手の人数にもよるが、ここでは防ぎきれない。それこそ火を着けられたら一巻の終わりだ。


「俺はこの2人を連れて女房たちに合流する。その男は馬に括って連れて行け」


ジョゼが黙って頷いた。その顔が固い。流石に解っているようだ。逆に怪我を負っていない方の男は激高した。


「どこに行くつもりだよ!兄貴は動かさない方がいいって、さっきあんたも言ったじゃないか」


そう言えばこいつらは兄弟だって、さっきの男が言っていたか。


「殺されたければここにいろよ。俺は死にたくないから隠れる。勝手にして構わんぞ?

 ただ、一緒に来たいんならお前らも連れて行ってやる。それだけだ」

「殺されるってなんだよ!誰にだよ!」

「お前らの仲間さ。お前らは俺たちを殺すのに失敗した。それなら次はお前らの口封じだ」


赤くなったり青くなったり忙しい男だ。そう思って眺めていると、弱々しい声がした。


「…俺は行くよ。死にたくないからな」

「決まりだな」


時間を無駄にする暇はない。弟には男を馬にくくるのを手伝わせ、俺はその間に椅子の足をぶった切って、簡単な背負子を作った。それから怪我人の手当だ。なるべくきれいな布を折りたたんで傷に当て、さらに木っ端を乗せて上から強めに布を巻いていく。


「俺を刺したあの女が、あんたの女房か?」

「そうだ」

「他のやつはどうだか知らないが、俺と弟はあんたたちを殺す気はなかった。本当だ。

 ただ捕まえるだけのつもりだった。だからあの男がいきなり弓で射て驚いた」

「だろうな」


俺がそういうと、怪我をした男が驚いた顔になった。


「なんでそう思った?」

「お前がまだ生きてるからな」


俺は肩をすくめる。


「お前に女房を殺す気がなかったから、女房もお前を殺さなかった。器用にはらわたを避けてるよ」

「…怖いな。あんた、女の趣味はどうなってるんだ」

「いつもそう言われるよ」


男が顔をしかめた。笑おうとしたようだった。


怪我人を弟に背負わせ、ジョゼの見送りに立つ。そうなるまでには一悶着あったのだが、「熊に遭ったときにお前が勝てるって言うなら俺が背負ってもいい」と言ったら、大人しく背負ってくれることになった。熊は夜には山を歩かないものだが、もしもの話だからな。

荷を括り付けた馬を引き連れ、馬上の人になったジョゼは、短く言った。


「ご武運を」

「お前もな。俺たちも夜が明けたら沢伝いに麓の町を目指す」


夜の森の静寂を馬蹄の響きが割り始めた。

登場人物のタイムテーブルを書いて、自分でもやっと時系列を理解できました…。

作中の現在時刻は、22時近くになっています。

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