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追跡

改めて襲撃の痕跡を読み解いていく。最初は玄関の男だ。抜き身の得物が近くに落ちている。そんな物騒なものを持っているから、室内に押し入ったところで女房に倒されるのだ。抜刀と同時に下から上に一閃。振り返りもせず、そこから前庭の男に向けて突進だ。次第に間隔の広がる深い踏み込みの跡が6歩。跳躍しながら上から振り下ろして7歩。その間に呼子が吹けたかどうかは微妙なところだが、慌ただしく家を離れている様子からすると、おそらく吹かれてしまったのだろう。

前庭から物置小屋の方へ向かう足跡が、裏手で一つ消える。遣いの男がルカを抱き上げたようだ。そこから足跡が深くなっている。


「ブラッドさん、すっかり猟師が板についてますね」

「俺は元々猟師だ。途中寄り道して騎士になったりもしたが、猟師の息子だしな」


そもそもがこの追跡能力を見込まれて、領都警護の騎士団に勧誘されたのだ。正直、山の獣を狩るより、人間を追いかける方がよほど簡単だと思う。得物がなければ、人間は獣より弱い。足も遅ければ、気配にも疎いし、身一つで戦える牙も爪もない。その上、得物があっても大概俺よりは弱い。人間を狩る仕事は、それが誰かを助けるものでなければ、ひどく退屈だった。


山の中には避難場所を幾つか設けてある。山の天気は変わりやすく、ちょっとした油断が命にかかわるからだ。退却ルートを追っていけば、女房の一行はそのうちの一つに向かっているらしいと判る。奇岩地帯になっていて、隠れるところが沢山あり、奇襲にも向いている。独りで大勢を相手にするには良い選択だ。そんな覚悟はしないでほしいんだが、物置小屋からほど近いところにもう1人倒れていたので仕方ないのかもしれない。

目的地が判れば、追跡の速度も上がる。時折痕跡が道をそれていないか確認しつつも、ほぼ一直線に奇岩地帯に向かっていた俺は、ついに見たくない痕跡を発見した。何人かの人間が争った跡と、木に刺さったままの矢、折れた弓を持って死んでいる男、そして血痕だ。


「負傷を覚悟で弓使いだけは倒したんですね」


ジョゼがポツリとつぶやく。切り払われた矢が落ちている場所に沿って2ヶ所、血が飛び散っていた。弓の男のほど近いところに大きな血だまり。そこから2人がかりで誰かを引きずっていった跡が残っている。あえて殺さなかったな、と俺は思う。死んでいれば死体をおいて追ってくるが、生きている仲間なら普通は助ける。そうやって戦線離脱をさせたのだ。負傷で全員を倒す余裕がなくなったことが解った。


「~~、~、、~~!!」


合図の指笛を吹く。聴こえる範囲に入れば、返事があるだろう。血の乾き具合からして、もうさほど遠くはないはずだ。ついでに追跡者をこちらに引き付けられればなおいい。

痕跡を追いながら指笛を吹くこと4度、襲撃にも殆ど立ち止まることもなく走り続けていると、あちこちから指笛が響き始めた。攪乱を狙っているのだろうが、却って相手の場所をこちらに教える羽目になっている。更に2組を倒して、ついに返事が聴こえた。


「~~、、~、~~!!」


急いで駆けつければ、5人の男に囲まれて、遣いらしい男がルカを木の洞にかばい、さらにその前に女房が立ち塞がっていた。左腕に矢が刺さったまま剣を構え、目をギラつかせている姿は、怖ろしいと同時にひどく美しく思える。俺が女の趣味が悪いと言われるゆえんだ。


「ビー!!」


俺の叫びに意識がそれた男に向かって、女房が突進した。怪我人とは思えない勢いだ。俺も一番近くの男に飛び掛かる。ジョゼがもう1人に向かっていき、瞬く間に3人が倒れると、残る2人は逃走にかかった。もちろん逃がしたりはしないが。捕まえた男たちはジョゼに任せて、俺は女房のところに駆け寄る。


「大丈夫か?」

「これが大丈夫に見えるのかい、この唐変木が」

「いや、大丈夫じゃない人間は、普通突進しない」


殴られた。痛い。とりあえず手早く矢を抜いて応急処置を施す。もう1ヶ所の矢は刺さったのではなく、裂いて行ったようだ。傷は浅いが長さがある。こちらは血止めを施せば済みそうだ。一通り治療が終わったところで真っ青な顔をしたルカが寄ってきた。


「おばさん、大丈夫なの?」

「大丈夫だ。おばさんは強いから」

「なんであんたが勝手に答えるんだい」


また殴られた。その様子はルカにも大丈夫そうに見えたようだ。目に見えてほっとした顔をしている。それから一転して目を尊敬に輝かせて言う。


「おばさん、ほんとに強かった!すごい!僕もあんな風に強くなりたい」


そんなこと言うと知らないぞ。鬼の訓練教官を目覚めさせることになるかもしれないぞ?俺はそんなことにならないよう、ルカのためにこっそり祈りを捧げた。

襲撃者は2人組で行動しています。

物置小屋の裏の襲撃者を1人取り逃したので、その後襲撃者が増えました。

ビーは独りで襲撃者5人を倒し、1人に重傷を負わせて戦線離脱させました。

強いです。


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