猟師の後悔
あれから何回かに分けてルカから聞き出したことには、ルカが会った子どもは全部で15人。何人かずつ連れて来られて、何人かずつ連れて行かれるらしい。ルカは3人の子どもと一緒に馬車に乗せられたようだ。4人の中では6才のルカが一番年下で小さかった。だから他の子どもたちが何とか檻を広げて逃がしてくれたそうだ。お前だけでも、と。まぁ、その後すぐ別の檻に捕まった訳だが。
ルカを拾ってから1ヶ月が過ぎようとしていた。簡単な顛末は報告して、ルカの親元については調査してもらっているが、結果は芳しくない。今日はルカが連れて来られた場所を少しでも探ろうと、罠に掛かっていた場所に来ている。
「お前、どっちから来たか覚えているか?」
ルカは辺りをキョロキョロと見回して、首を振った。
「判らない。でも、上から降りて来た」
「来る途中に川はあったか?」
「なかった」
川がない方向で、ここより上にあって馬車が通れる道は多くない。当たりの道は2本目だった。
「ここ通った!あの門、布の隙間から見えたんだ」
と、言うことは境界門のある町から来たことになる。そうすると更に厄介なことに、ルカは他領から連れて来られた可能性がある。道理で領内を探しても手掛かりがない訳だ。境界門の町に巫女がいるのは行幸だ。彼女に丸投げしてしまえば、いずれ情報が入ってくるに違いない。このまま自分で話しに行きたいところだが、ルカを連れて行くのはいかにもまずい。万が一にも一味のものに見つかっては大事になる。時間はかかるが、つなぎをつけた方がいいだろう。
真新しい鹿皮の靴を履いてはしゃぎ回るルカを見ながら下したこの判断を、俺は後に悔やむことになる。
事態が動いたのはその3日後だった。巫女へのつなぎのために、山を回り込んだ最寄りの町の問屋に獲物の皮や角を卸に行く。巫女側の遣いが折よく問屋を訪れていた。
「ジョゼ、ちょうど良かった」
「ブラッドさん!良くないですよ!遣いに会わなかったんですか?!」
珍しく焦った様子のジョゼに、俺の顔も強張っていく。ジョゼが言うには、境界門の町の近隣で怪しげな男たちが見慣れない子どもを見なかったか聴きまわるようになったらしい。主の子どもがいなくなったと言ってはいるのだが、どう見ても主持ちには見えない連中なので、町の者達が気味悪がっているというのだ。山麓の町の全てで同じ状況が起きているのを確かめた巫女が、俺に知らせるべく支度している間に新たに情報が入った。10人を超える男たちが得物を持って山狩りに入ったらしい。荒事の予感に巫女が俺の家に直接警告の遣いを寄越し、ジョゼは避難してくるはずの俺たちを拾うためにここに来たのだと言う。
皆まで聞かず身をひるがえした俺に、ジョゼがついてきた。
「私もいっしょに行きます。隊長」
「俺はもう隊長じゃねぇ」
町の中を通らずに山に入れる裏手に、準備よく馬が2頭繋がれている。問屋の主が馬にまたがった俺に長剣を手渡して言った。
「ご武運を」
馬に鞭を入れながら、片手をあげて返事に代えた。