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猟師は笑う

名乗りを上げれば、男たちがひるんだ気配がした。しまった。もっと前に名乗っておくべきだった。騎士団を辞めて6年も経つが、まだその虚名が役立つとは思わなかった。

動揺に付け込んで、それから更に2人倒した。既に疲労は隠しようもなく、剣にすがって立っているありさまだ。小さな傷は数知れず、比較的大きい傷も、まぁ2つほど。女房も似たようなものだろう。始めから負傷していた左腕は、もう握力を失いかけている。

組み合っていた女房が、バランスを崩して倒れこんだ。嵩にかかって乗り出した男の下肢を、倒れたまま下から切り払う。女房に向かったもう1人を俺が後ろから切った。無理な体制だった分、がら空きになった背中に一太刀入る。真後ろに剣をぶん回して、そいつの腕を落としてやる。勢いのまま振り返れば、倒れたままの女房を背にかばう形になった。


「大丈夫か、ビー?」

「…もう大丈夫。あんたも私も」


女房が泣き笑いの声になった。地面に耳をつけたまま言う。


「馬蹄の響きが聴こえる。7騎か8騎、全員武装してるよ」


その音は、立ったままの俺の耳にも間もなく届いた。まだ動けた10数人は蜘蛛の子を散らすように逃げ出そうとしたものの、騎士たちはそれを許さない。騎乗のまま包囲して追い込み、ほぼ全員を錘の付いた網に捕えてしまった。まさに一網打尽だ。何人かに目で指示すれば、洞に詰め込んでおいた4人も捕まえてくれる。


「ブラッドさん!ビーさん!良かった、間に合った」


ジョゼが泣き笑いの顔で馬を飛び降りてやってきた。俺が結局最後まで沢を離れなかった最大の理由がこれだ。街道を除けば、馬で駆けられるのは、漠のないこの川原をおいてないのだ。安堵で膝が崩れたら、もう立てなかった。


「ジョゼ、お前も無事でよかった。よく間に合ったな?」

「ソフィア様が既に一軍を国境の砦から呼び寄せておいででした。境界門の町と麓の町に。

 麓の町ではブラッドさんを助けるようにと、2小隊分けてくれていて」

「巫女が?」


境界門の町の巫女ことソフィア。領宰に次ぐ能吏として知られているが、有事には軍参謀として遇される異能だ。領内のあらゆる地理に通じ、気候を把握し、産業に明るい。その豊富な知識を基に立てる予測の数々が、大きく外れたところは誰も見たことがない。仲間内ではよく「ソフィアはどこからか託宣を受けているに違いない」と言い合っていたものだ。それを訊いた領主のバートン様と前領主のナサニエル様が、面白がってソフィアを巫女として派遣した。中央との領境にあり、北の領地と南の領地を結ぶ街道を扼する最重要拠点にして、領都から最も遠い境界門の町に。


「俺が麓の町に向かった直後には、国境の砦にも有事を知らせて派兵を求めたそうです。

 砦から領都と街道の町にも報せを出して、昨日のうちに出陣準備を進めていたとか」


さすがソフィアだ。やることにそつがない。時間勝負は俺でも組織の連中でもなく、最初から巫女の勝ちだったようだ。


「今頃は一斉に検挙が始まっているはずです。あの男も随分協力してくれましたから。

 ソフィア様様です」

「巫女は何したんだ?」

「ご自分では何も。ただ、男の前で俺に『薄く削った竹串を用意して?』と。笑顔で」


拷問じゃねぇか…って、まだ何もしてないな?脅してすらいないと言える。ある意味では女房より怖い。俺は片手で顔を覆った。抑えきれない笑いがこみ上げてくる。死を覚悟した。生き延びた。友の頼もしさに、誠実さに、愛情に。すべての思いが腹の底から笑いとなってこぼれていく。


「もうすぐ小荷駄隊が着きます。ルカとロッドはどうしました?」

「船で逃がしたよ。今頃はウェスタド川の近くじゃねぇかな」


ようやく起き上がった女房が、少しだけこちらに身を寄せる。


「アジトのことを話したおしゃべり野郎は?」

「さっき騎士が捕えてたよ。ああ、あっちで繋がれてるみたいだね」


ジョゼの笑いが獰猛になった。色々と訊きたいことがある様子だ。到着した小荷駄隊に服を引っ剥がされる。応急処置を始めてくれたが、改めて満身創痍だ。いっそ沢できれいさっぱり洗い流したいところだが、激しい戦闘の名残で水が濁ってしまっている。残念だ。女房の方はさっき転んだ時に痛めた足首と、最初に射られた左腕以外は、そう大きな傷はないらしいが、如何せん疲労が激しい。ふらふらしていたので、抱き上げて馬車に乗せてやる。男のやせ我慢というやつだったが、背中の傷が開いて応急処置してくれた隊員と女房にひどく怒られた。

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