血戦
道程の半ばを過ぎた辺りの渓谷で、俺は連中を迎え撃つことにした。これ以上の行軍はルカとロッドが保たない。幅が狭く、覆いかぶさるような岩陰が上からの視線を塞ぐ、大人数であるほど不利な場所を選んだ時には、パッと見た程度では数えられない人数が迫っていた。ここを過ぎれば包囲されて終いだ。悪あがきかもしれないが、簡単に諦めるのは性に合わない。
最初の男は女房が倒した。喊声を上げながら我先に女を狙う卑怯者を最小限の動きでかわして、最速の抜き打ちで切り払う。腰をひねりながら2人目、踏み込んで3人目。惚れ惚れするような動きだ。俺もせいぜい働かねばならない。5歩前に出る。3歩目で1人の脚を断ち、4歩目で2人の胴をなぎ払い、5歩目でもう1人の肩を割った。さらに2歩踏み込んで1人の頸を裂く。遅れて噴き出した血が、地面をたたく音がやけに響いた。
立て続けに8人。これで引いてくれれば良いんだがな。そう思ったが、さすがに相手の人数が多い。長物を持った連中がそろそろと前に出てきだした。熊手や鋤まで混じっているじゃねぇか、おい。下手に金物部分に当てればこちらの刃物が持たない。その上、戦いなれていない連中だ。動きの予測もつかない。厄介なことだ。
「ビー!」
呼びかければ、それだけで女房が位置を変える。互いの背を守るように、互いの敵を倒すように。30年来の相棒に背中を預けて、俺は敵の只中に飛び込んだ。
切る。突く。薙ぐ。払う。
走る。飛ぶ。屈む。回る。
踊るように。舞うように。
剣の動きに墜ちていく。
ただ砕いて、割って、裂き続けて。
限界は唐突に訪れた。
息が続かない。剣が上がらない。足が錘を付けられたように重い。相手の人数は半分をだいぶ割った。だが、ここまでか。
「やれやれ。年は取りたくないもんだな」
天を仰げば、太陽は中天を超えている。これだけ減らしとけば、ジョゼなら逃げることくらいはできるだろう。そう思えば、口元は自然に弧を描く。女房も似たような心情らしい。
「ルカたちは、どこまで行けたかね」
「そうだな。さすがにもう追いつくことはなさそうだ」
この場所の近くには、俺の避難場所の一つがあった。近くの支流からつながる小さな湖は、水鳥がやって来る秋から冬にかけてはいい猟場になるのだ。だから避難所はカヌー小屋になっている。まず兄弟を、次に嘘つき連中を別々の洞に隠れさせ、ルカとロッドも他の場所に隠すように見せかけてカヌーに乗せた。
「ここを北西に抜けるとウェスタド川に向かう支流に抜ける。漠はないから安心していい。
振り返らずに逃げきれ」
黙って頷いたロッドにルカを託して、女房の待つ戦場に戻ったのだ。心残りはないでもないが、俺たちには何もかもを託せる仲間がいる。だからここまでお互いと戦いだけに集中できた。後は。
「お前より後には死なないからな」
「何言ってるんだい。あんた私より2つも若いんだから、最低2年は私より長生きすべきだろ」
「女房を目の前で死なせたら、男が廃るじゃねぇか」
血塗れの顔を合わせてそういうと、女房がふてぶてしく笑う。
「ダメだ。私より先に死んだら、ぶっ殺すよ!」
「おっかねぇな、まったく。仕方ねぇ。2人で生き残るか」
重くなった剣を担ぐように構える。腕だけでは支え切れないのが本当のところだが、傍からは余裕の挑発に見えるだろう。
「血塗れブラッドの剣の雫になりたい奴は、あと何人だ?」




