よかった、追放されて
ハイファンタジーは初めての投稿になりますで、お手柔らかにお願いいたします。
「ウィルフ、お前をこのパーティから追放する」
パーティハウスでリーダーの勇者セオルから宣告されたのは、あまりにも残酷なものだった。
「そんな……」
俺は寝る間も惜しんでこのパーティに尽くしてきた。荷物持ちである俺は戦闘では何もできなかったものの、夜営の準備やモンスターの解体は全部一人でやっていた。
ここ最近は一日たりとも休んでいない。それなのに給料は雀の涙と来たもんだ。セオルは国やギルドからたくさんの報酬をもらっているというに。
「さっさと出ていきなさいこの役立たず! あなたはお邪魔虫なの、このパーティのね」
追撃を浴びせるかのように言ってきたのは、聖女のセリーヌ。ちなみ彼女はセオルとできている。
「……」
助けを求め他のメンバーに視線も向けるも、目を逸らされてしまった。
他のメンバーは知っていたのだ。俺が解雇されることを。それを知っていて今まで黙っていたのだ。俺を追放するのは前から決められていたことで、覆ることはない。
もう、俺にはどうしようもなかった。
★★★★★
「ヤベッ!」
パーティから追放され、新しい就職先を探さなければと思っていた矢先、ギルドの会員証をパーティハウスに忘れてしまったことに気付いた。
あれがないと仕事ができない。ギルドの依頼を受けることができなくなる。
「はぁ……」
俺はパーティハウスに会員証に取りに戻らねばならなかった。
「なんだよ……これ……」
ついさっき別れを告げたばかりのパーティハウスは跡形も無くなっていた。無数の死体が辺りに転がっている。
上級魔法で焼き尽くされたのか、セオルは黒焦げになっており、セリーヌは胴体を貫かれて絶命していた。
「お主、勇者の仲間か?」
不意に背後から声をかけられた。振り返ってみると、そこに銀髪の幼女が立っていた。
その可愛らしい見た目とは裏腹に彼女は圧倒的なオーラを放っている。勇者達をやったのは彼女と見て、まず間違いないだろう。
下手に刺激するとこちらが危ない。俺は正直に話すことにした。
「い、いえ、先ほどまではそうでしたが、ついさっき追放されました」
「そうか、ならばお主は見逃してやろう」
俺は命が助かったことに安堵する。あのまま荷物持ちを続けていたらどうなっていたことか。
「聞いて驚け! 朕……ええい言いづらい! 妾は魔王! 妾を害しようとする勇者とその仲間を滅しに来たのじゃ!」
よかった、追放されて。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
続編を投稿いたしましたので、よろしければ読んでいただけると幸いです。
『よかった、奴隷になれて』
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