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破壊先に現れたし多彩な異世界  作者: 桜音愛花
第三章 選んだ道
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夜明け

「あー、痛ってぇ」

 右腕の感覚はないが、付け根辺りに感じる重怠さとジンジンと脈打つ痛みに朝陽は声を漏らす。

 すぐにでも応援を呼びたいが、右腕を庇い駆使した左腕は疲労で思うように動かず連絡の取りようがなかった。


 術者一人一人に与えられている天睛班との連絡手段。

 術者の存在を知らない一般人に疑問を持たれないよう、日常に溶け込んだ物へと形を変え、術者はそれを四六時中身につけている。


 朝陽は片耳に光るピアス。

 一見ただのファッションのように見えるが、それこそがこの役割である。

 ピアスを押すと天睛班と繋がるようになっており、オンオフが自由に切り替えができる。


 何か重要な情報が入った場合耳元で振動するため、交戦中はオフにしていることが仇となった。


「連絡……つけられないな」

 雪の中に身を投げ、痛みで火照る体を冷ましながら朝陽は呟いた。



 目の前の敵が姿を消した。

 天睛班、そして他の術者からの連絡を受けていない朝陽は、まだ戦いが完全に終わったことを知らないのである。


「朝陽さん!!?」

 突如聞こえた声に閉じていた目を開けると、そこには十歳年上の天睛班の男が経っていた。

「やめてって、それ」

「そんなことよりどうし――」

 男は視線を巡らせ、目に入った朝陽の右腕に言葉を失った。



「どうしたんですか、それ」

「ちょっとな」

「早く治療を……待っていてください。


 天睛班本部、天睛班本部。

 こちら蓮水家敷地内。


 蓮水朝陽が右腕を負傷。

 動かすことが出来ません。


 回復術者を直ちにお願いします」


『了解。


 こちら天睛班、報告致します。

 蓮水朝陽が右腕を負傷し動作不可能。


 鳳莱茉莉、鳳莱景。応答願います』



 ※ ※ ※ ※


 天睛班からの連絡を受けた羽花と優美は動きを止めた。

「お兄ちゃん……?」

「朝陽さん……」


 二人は顔を見合せる。

 ただではいかないことは分かっていた。

 相手はそれほど強かった。


 それでも朝陽なら元気に戻ってくると思っていた。


「あ……」

 震える口から声が漏れた時、再び声が聞こえてきた。



『こちら天睛班、天睛班。

 地下稽古場にて横たわる鳳莱景と放心状態の鳳莱茉莉を発見。

 こちらも直ちに回復術者をお願いします。


 鳳莱景は腹部からの大量出血に加え、脈拍低下。

 呼吸も弱まっています』


『了解。大至急そちらに向かいます』



 プツリと音を立て切れたそれは、それから何の音も聞こえなかった。



「羽花様、優美さん。車来ました!」

 先に我に返ったのは羽花の方だった。

 羽花は未だ目を泳がす姉の手を引き、車へと向かう。



「すみません、よろしくお願いします」

 頭を下げた羽花に、

「ゆっくり休んでくださいね!」

「お疲れ様です」

「お疲れっす」

 とあちらこちらから労いの声が聞こえ、二人は車に乗り込んだ。



「よろしくお願いします」

 羽花の運転手への言葉を最後に、車内には静寂が訪れる。


 運転手も天睛班の一員だ。

 きっと既に情報が入っているのだろう。


 互いが互いに口を開けないまま到着した車はゆっくりと速度を落とし、蓮水家の前に止まった。


「到着致しました」

 運転手の言葉に「はい」と返事をしたが、二人は顔を上げることが出来なかった。



 兄は決して弱くはない。

 両家の現若者世代のツートップである。

 この世代の最年長者としてみんなをまとめ、引っ張り、優しく見守ってくれた偉大な先輩なのだ。


 そんな彼がやられたという現場を見るのが怖かった。

 どれだけ悲惨な光景が広がっているのか、二人の頭の中にはその事で埋め尽くされる。



 二人の心情を察した運転手はハンドルを握り、後ろを振り返った。


「このままドライブされますか?」

 ”逃げる”という選択肢を作ってもらい、羽花は少しだけ落ち着いた。



 何度か深呼吸をし、拳を握りしめ

「いいえ、降ります」

 そう告げた。


 繋がれた手を辿り隣の姉の顔を視界に入れた羽花は静かに問いかける。

「お姉ちゃんはどうする?」


 暫くの沈黙後、静かに答えた優美の手を離し車を降りる。


「ありがとうございました。

 姉をよろしくお願いします」

 運転席の窓を開けた運転手は優しく微笑み車を発進させた。



 一人残された冬の外。

 体の震えが止まらないのはこの気温のせいか、はたまた恐怖のせいか。

 意を決して振り返った先に広がる光景は想像を絶するものだった。



 壁は大きく窪み、至る所に血飛沫がベットリと付着している。

 屋根はボロボロに砕かれ、その破片が地面に散乱していた。


 地面も不自然に雪が山を作っている所もあれば、逆に抉られているところもある。


 この光景だけでも、どれほど激しい戦いだったのかわかってしまう。


 忙しなく復旧作業を行う天睛班の一人がぽつりと佇む羽花に気が付き声を上げた。


「羽花様、ご無事で何よりです」

 目を細めた女性に羽花は問いかける。

「お疲れ様です。

 …………あの、兄は?」

 女性は目を伏せ、小さく答える。


「今、回復術者の方がお見えになっています。

 おそらく診断が終わる頃かと」


 羽花は教えられた部屋へゆっくりと歩を進める。

 兄の状態を早く知りたい気持ちと、見たくない気持ちがぶつかり合い、彼女の歩幅を狭める。



 天睛班に所属する千美は別の場所に避難し、仕事中らしく家の中は静まり返っていた。

 角を曲がれば目的地。


 そこまで辿り着いた羽花は意識的に閉じていた聴覚を解放する。

 微かに聞こえてきた声に耳を澄まし、回復術者がいないことに気づくと部屋の扉をゆっくり開けた。


 キィイイ


 静まり返った部屋に扉の音が響き渡る。

 その音に顔を上げた修は表情を和らげ娘の名前を呼んだ。


「羽花」

「ただいま」

 酷く震えた声を出した娘に、父親は声をかける。


「おかえり。

 良かった、無事で」

 心底ほっとしたような表情に胸が締め付けられる。


「優美は?」

「疲れちゃったみたい。

 もう少し車にいるって」

「そうか」

「お客様は帰られたの?」

「いや、隣のヘルプに行ったよ」

「隣……」


 隣とは間違いなく景のことだろう。

 羽花は改めて今回の戦いによる犠牲が多いことを知った。


 父との会話が途絶え、再び訪れた静かな時間。

 父親が座る前に敷かれた布団の膨らみは当然朝陽だ。

 わかってはいるがなかなか視線を向けられない羽花は歯を食いしばる。


 どのくらい時間が経ったか。

 布の摺れる音が聞こえ、反射的に顔を上げた羽花の視界に飛び込んだのは顔面蒼白にも関わらず汗を流す兄の姿だった。


 胸から下にかけられている布団からはみ出る腕。

 左手は遠目で見てもわかるほど痙攣し、力が入っていない。

 そして何よりも酷いのは右腕だった。


 真っ赤に染まった腕はだらりと放り出されていた。

 明らかに重症なそこには絆創膏一つ見当たらず、代わりに右肩は何やら複雑な医療部品が数え切れないほど付けられている。



「羽花?」

 兄の声に勢いよく駆け出した羽花は布団のすぐ横に膝をつき身を乗り出した。

「お兄ちゃん……」

「お疲れさん。よくやったな」

 苦しそうに笑みを見せる兄に、羽花は勢いよく首を振った。



「ごめんなさい。

 私が祓えなかったから、こんな」

「ちゃんと祓えただろ」

「祓えなかったから皆に迷惑を……」

「迷惑なんかじゃない。

 どんな時でも臨機応変に対応する、それが術者の役目だ」

「ッ、」

「この怪我が自分のせいだと思ってるなら大きな間違いだからな。


 魔物が侵入したのも羽花のせいじゃない。


 俺が対処しきれなかった。

 俺の技術が劣っていた、それだけだ」


 前ならきっと彼の温かい手が頭を撫でてくれただろう。

 しかし今となってはそれは叶わない。


 リッチャーとの戦いの直前、兄と気まずかった事を思い出す。

 落ち着いたら話そうと思っていたのに――


 目を閉じ眠る朝陽の顔にかかる前髪を優しく払った修は、羽花に目配せし部屋を去った。



 パタンッ


 静かに閉められたドアの音。

 先に居間に戻っていた父が入れてくれたココアを飲み、ほっと一息つく。



 ソファに座る羽花の隣に腰掛けた徹は重苦しい空気の中口を開いた。


「羽花。

 羽花にはきちんと伝えておかなければいけないと思っている」

 父の声に羽花は心臓がばくんと跳ね上がった。


 ――聞かなければいけない。

 術者として、正統後継者として聞く義務がある。


「はい」


 羽花の返答に目を見開いた修は、コーヒーを流し込み告げた。

 聞くと決意した羽花にとってその言葉はまさに絶望そのものだった。


「朝陽の腕はもう治らないそうだ。

 他の細胞への影響を考え、切断することになった」

前回投稿の際に、誤って先のお話を更新してしまいました。

読んでいただいた方には盛大なネタバレをしてしまったと思います。

申し訳ございません。



2021-12-11 桜音愛花

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