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破壊先に現れたし多彩な異世界  作者: 桜音愛花
第三章 選んだ道
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ニュース

 合図と同時に駆け出した羽花は、先手必勝と言わんばかりにすぐに術式を発動させた。

「花属性 従三位 水月鏡花」


 辺り一面に解き放たれた花びらは次々と目の前の塊を粉砕していく。

 そうこうしている間に再び訪れたチャンス。

 散らばった塊が仲間を求め一か所に集まった瞬間を羽花は見逃さなかった。


 行ける、今度こそ。


 それらを覆う大きな結界。

 ピンと強力に張られた結界は、壁を突き破ろうと藻掻く塊に負けることなく形を保ち続ける。


 その上に飛び乗った羽花を狙い塊は集まるが、結界を隔てた羽花に何も影響はない。

 自身の腕を天力で強化し、その結界内に侵入させた羽花は別の術式を発動させた。


「花属性 従二位 暗香疎影」

「羽花さんっ!!!!」


 優美が叫んだのと、羽花が術式を発動したのは同時だった。

 次の瞬間結界内が濃い霧で覆われ何も見えなくなり、羽花は目を見張った。


「……え?」


 この光景はまさしく異門で見たものと同じだった。


 いつの間にか本体に入れ替わっていた目の前の塊は、羽花が発動した術式内の天力を吸収し、変幻の最中。

 この霧に覆われている間、魔物はあらゆる攻撃を跳ね飛ばすことが可能になる。



 突然の出来事に焦る反面、羽花はこの状況に感謝していた。


 自分が撒いた種は、自分で回収する……!!


 いくら相手が強かろうと、任務を任されている以上両家に迷惑をかけていることを悔やんでいた。

 だからこそ原因を作ってしまった自分の手で、この戦いを終わらせたかった。


「変幻後、体が慣れるまでに少しだけ時間がある。

 その間に確実に仕留める」


 体力を温存するため一度体をリセットした羽花にハナは擦り寄る。

 どうやらハナによる回復術もそろそろ底が見えてきたらしい。

 初めより回復速度や量が著しく低下していた。

 天力の消耗が激しく、そちらに手一杯なようで体力を回復させる力は先程から回ってきていない。



 先に限界を迎えるのは天力じゃなくて、体の方だ。


 疲労を訴える体を伸ばし、魔物の様子を伺う。

 徐々に霧が薄れ、ぼんやりと姿を表したのを確認し一気に畳み掛ける。



「花属性 従一位 千荊万棘」

 無数の棘が、変幻したばかりの体に突き刺さる。

 まだ完全に変幻に対応していない体には棘の効果は凄まじく、魔物はフラフラと体勢を崩しながらよろめいた。


 霧が晴れ、現れた姿は異門出会った時よりもふた周りほど大きく、全身には黒い塊を無数に貼り付けていた。

 黒い塊――それらはよく見ると小さな文字が集まったものだった。


 よろめく度に一文字一文字落としながら、目的もなく彷徨う。


 羽花は間髪入れず飛び出した。



「花属性 従二」



 ピィィイイイイ


 二度目の合図が聞こえ、羽花は咄嗟に身を翻した。


「ナイスタイミング、お兄ちゃん」


 万が一に備え、天力によって生成した弦でその体を拘束する。

 この間に変幻を完了されたらまた一からになってしまう。


 体はもう長く持たない。

 もしかしたら他の術者も限界を迎えているかもしれない。


 ようやく作り上げたこの機会を無駄にしてはいけない。



 緊張が走り、早くなる鼓動。

 それでも確かにカウントを始めた。

 幼少期から体に叩き込んだ時の流れ。



 八、七、…………五、四、


「しんぶんし、しんぶんし、下から」


 三、二、一。


「読んでもしんぶ――」

「花属性 従一位 枯樹生華(こじゅせいか)


 ※ ※ ※ ※


「雷属性 従一位 電光雷轟」

「風属性 従一位 風雲之会(ふううんのかい)




 ゼロ。



 魔物が発生した三地点。

 全ての魔物が同時に体にダメージを負い、命が尽きた。


 これにより本体は危機的状況に陥った際、瞬時に本体を移動させていた道を断たれ、再生することなく敗北したのだった。


 三地点全てで術紙による処理を終え、跡形もなく消え去った新聞紙の使い手:リッチャー。

 二月十八日から十九日にかけて長時間に渡り続いた戦いは幕を閉じた。


「出来た…出来た!!!」

 結界が消え現れた紙を拾いながら息を切らす羽花。

 その顔には疲労と達成感に満ち溢れていた。


「報告しなきゃ」

 繋がるかどうか不安を持ちながら、羽花はブレスレットを口元に近づける。


「こちら蓮水羽花、蓮水羽花。

 天睛班応答願います」

『…………ら、

 こち、ら……天睛班、どうぞ』

 途切れ途切れではあるが繋がったことに一安心し、現状報告を行う。


「空き地にて本体、その他大勢の魔物を祓い終えたことを報告いたします」

『了解。負傷箇所に報告願います』

「掠り傷や出血はありますが、特に問題なし。

 周りの建築物に影響あり。

 直ちに復旧作業を要請します」

『了解。至急そちらに向かいます』


「こちら蓮水修、蓮水修。

 住宅街、及び一般市民に問題はありません。

 鳳莱徹と共に帰宅します」

『了解』


 天睛班との通信が切れたことを確認し、羽花は息を吐いた。

 体も心臓もようやく解放され力が抜ける。


 良かった。


 一般人は誰一人として怪我はない。

 そもそもこの死闘の存在を知らない。

 これが私達の役目。


 姿を消していたハナが座り込む羽花の膝の上に現れた。

 その小さな体に触れても、もう自分の体に変化はない。

 漲っていたはずの力を全く感じられなかった。


 ハナの回復術にも限りがある。

 それを限界まで使い切ってようやく勝てた相手だった。


「ハナにも無茶させちゃったね。ごめんね」

 優しく撫でる手に擦り寄ったハナはそのまま動きを止め、目を閉じた。

「ありがとう」

 その言葉に返事をするように小さく鳴いたハナはそのまま姿を消した。



「羽花様!!」

 数分後、遠くから自分の名前が聞こえ羽花は重怠い体に鞭を打って立ち上がった。

「本当にお疲れ様です!!!」

 元気に駆け寄る少年の姿を見つけ、羽花は表情を和らげる。


 まだ十歳という若さでありながら天睛班に所属し、その類稀なる才能を買われ、若きエースとして上に立つ。

 天睛班には沢山の所属者がいる。


 通信・事務作業、復旧作業、重傷者の介護など担当が決まっているため、より多くの人材が必要になる。

 その中でも最も多いのが、対魔物の影響を一番受けやすい――


「じゃあみっちゃん達は向こうをお願い。

 壮馬さん達はあっち。

 僕達はあの範囲を担当する」

「はいよ」

「おお」


 この復旧部隊である。


 十歳だからと言って見下されるなんてことはない。

 年齢など関係なく実力がものをいう世界なのだ。


 それは所属している全員がわかっている。

 だからこそ自分よりキャリアや年齢が下だとしても、不満を持つ者は少なく、上の者を慕い作業している。


「よいしょ」

 羽花はボロボロの体を伸ばし、複数に分かれた集団の一つに混ざりこんだ。

「ちょっと羽花さん、何やってんすか」

 隣にいたみっちゃんと呼ばれた四十代の男は目を見開いて声をかける。


「その”さん”とか”様”ってやめてくださいよ」

 苦笑する羽花に、みっちゃんは首を振り体に視線を移した。


「そんな傷だらけで、ゆっくり休んでいてください。

 今迎えの車向かってますから」

「え?皆ここまでどうやって来たんですか?」

「歩きっす。割と早い段階で結界の外で待機してましたよ」


 その声を聞いて周りで作業中の皆が次々と声をかける。

「いやー、凄かったよな」

「なっ!俺感動したよ。

 あんなに小さかった羽花さんがあんなに成長していただなんて」

「こりゃそのうち朝陽さん達に追いつくかもなぁ」


 気まずさから足元の抉られた地面を治そうとしゃがみ込めば、男達はそれを阻止し羽花を遠ざける。

「もう、休んでいてくださいって」

「私がやらかしたんだから手伝いたいです」

「俺達は羽花さん達をサポートするためにいるんですから、任せてください」


 そう押し切られ渋々手を止めた羽花は、ガードレールにもたれ掛かる。

「そういえば皆は無事なんだろうか」

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