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破壊先に現れたし多彩な異世界  作者: 桜音愛花
第三章 選んだ道
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『黒』

「おい」

 駆け回る最中、後ろに引かれた茉莉は体勢を持ち堪え振り返った。

「ちょっと急にやめてよ。

 心臓飛び跳ねたじゃない」

 詰まった息を吐き出しながら口を開いた茉莉は、景の行動の意味に気が付き手を上げた。


 その動きに惹き付けられるように身を寄せた風龍は任務を遂行し、そのまま外の世界へ飛び出していった。



「あの龍がいるってことは朝陽は無事ってことね」

「とりあえずな」

「羽花の紋様は、まだなかったわね」

「……」

 二人の空気が少しだけ揺らいだ気がした。



「決めつけるのはまだ早いわよね。

 私達の所に先に来ただけかもしれないし」

 何度も明るく、強く振舞っていた茉莉だが一向に先が見えない暗闇の中にようやく現れた道筋。


 緊張の糸が解けると同時に、固く結んでいた感情も少しだけ緩み始める。

 そんな自分に喝を入れるため、頬を強く叩いた茉莉は前を向いた。


「だといいけどな」

「もう、本当に!!そういうところよ?」


 風龍が来てから攻撃の手を止めた二人は上空から魔物を見下ろしながら言い合う。


「相手に攻撃の意を感じられない。

 今のうちに体力温存しておきましょう」

「あぁ」



 そんな会話から数十分。

 二人の術者が集まるこの地下室にも最後の戦いの始まりの音が届いた。




 ※ ※ ※ ※


「そっか、みんな無事か」

 荒い息を繰り返しながら風龍を撫でた朝陽は壁に預けていた背を離し、上着を羽織り直した。


「よし、じゃあやろうか」

 目を開けた朝陽はいつもの雰囲気とは違った。

 黒いオーラを放ちながら真っ直ぐ歩く朝陽の後ろをゆっくりと風龍はついて行く。


 朝陽は首を鳴らし、目の前の魔物と向き合った。

「本体だろうが一先ずどうだっていい。

 お前は、俺達全員で必ず祓う」


 甲高い風龍の鳴き声が鼓膜を突き刺す。

 その数秒後、朝陽の体から全てを吹き飛ばすような爆風が発生し、足元に転がっていた破片が散らばった。



「いい加減俺の体も終わりを迎える。

 他の術者を早く休ませるためにも、一肌脱ぐか」


 まるで台風のような強風がこの場を支配し、黒い塊はあちこちに飛ばされる。

 近所の住宅にまで侵入してしまうと思われたその塊は、事前に張られた結界により蓮水家の敷地内に止まり、逃げ場なく強風の餌食となった。


「いい加減消えてくれない?

 俺達の時間を無駄にすんなや」

 凄まじい天力を放ちながら笑みを浮かべた朝陽。

 彼の周囲には天力の他に黒いオーラが見えているような気がした。


 朝陽は右手の負傷を感じさせない程滑らかな動きで結界から飛び降りた。


「風属性 従二位 疾風怒濤(しっぷうどとう)


【疾風怒濤】『風』属性による術式。

 ”疾風”強く早い風、”怒涛”うねり逆巻く大波のことから、時代や社会の状況が激しく変化することを意味する。


 この術式もまさしくその通りで今までの流れを全て無効に新たな流れを作り出す術式である。

 この術式を何故もっと早く発動させなかったのか。

 それは今の朝陽にしか使えないからである。


 今の朝陽、すなわち暗黒なオーラを身に纏う彼。

 彼は決して二重人格ではない。

 普段温厚故の積もりに積もった魔物への怒りがある一定量を超えた時に発動するものであり、習得している術式の中にはその時にしか使えないものも多く存在する。


 茉莉の解説通り、どちらかと言えば今回の方が術式の威力はあるため、勝率が高いのはこちらの黒だった。

 かと言って元の朝陽に戻った時にこの記憶が消えているわけではないため、朝陽は毎度複雑な気持ちに陥るのだった。



 必死に抵抗しようとする魔物の動きを完全に封じる風の力。

 魔物の抵抗は次第に弱まり、一分を過ぎる頃には風の流れに身を任せるまでに衰弱していた。


 複数の風の渦を作り上げ、その魔物を囲い込んだ結果、それらは風の谷間に迷い込んだ枯れ葉のようにただずっとその場を回り続けている。


 一瞬その塊が膨張しかけたが、朝陽の手の中にいるせいか変化は見られず、そのまま同じ時を過ごしていた。


「本体か」


 朝陽は気が付いていた。

 今の不思議な現象は屋根で戦った本体が姿を現そうとしていたことに。



 恐らく力が尽きかけていた朝陽に関心を無くしたリッチャー本体は、より力を温存している術者の元へと移動した。

 しかし他の術者の離脱、または今の朝陽がただならぬ力を放っていることで再びこちらに本体を戻したのだろう。


 しかし残念なことにあと一歩及ばず。

 リッチャーの移動手段の一つの選択肢を潰した朝陽はもう一度風龍に近づき、指示を出す。


 その指示に従い甲高く鳴き声を上げた風龍の体は少しずつ存在感を薄め、気がついた頃にはもうこの場にはいなかった。



「本当は俺があいつをぶっ潰してやりたかったけどなぁ」


 その一言を最後に、まるで充電切れのロボットのように地に引きつけられた朝陽は意識を失い倒れこんだ。

 唯一この場に残る黒い塊だけがその光景を目撃していたが、強風に体を囚われているためその体に向かっていけるものは誰一人としていなかった。



 蓮水家敷地内、黒い塊およそ五体。

 その全てを捕獲し拘束済み。

 ルートの一つ、遮断成功。



 ※ ※ ※ ※ 


 一度目の合図と同時に駆け出した茉莉はそのしなやかな動きで敵を翻弄し続ける。

 面白いように追いかけまわる黒い塊を、的確なコントロールで燃やし続ける。


 昔から命中率が高い茉莉にとって、このように動き回る小さな存在をピンポイントで狙うことは特別難しいことではない。

 今回ばかりは相手に特殊な力、相手の攻撃内の力を吸収力を持ていることが何よりも厄介だった。


 そのせいで下手に攻撃を仕掛ければ、逆に相手を回復させてしまう。

 普通だったら怖気づくだろう。

 自分に力により敵が強くなるなど恐怖でしかないのだから。


 それでもやるしかない、そう決め込んだ茉莉は真剣な面持ちで狙いを定めた。

 一、二、三……六。

 一度に六体もの的に命中させ、その塊が燃え盛る容姿を目視する。


 生半可な攻撃は返って相手を喜ばせる。

 零か百か。

 茉莉に求められているのは確実に命中させるコントロールに加え、相手の貯蔵タンクすら壊してしまうほどの力を込めた天力であった。


 今回ばかりは失敗するより、全力で確実に進んだ方が最善の道である。

 失敗により首を絞められるのは間違いなく術者の方だ。

 肩に入る力をそのまま攻撃へと乗せ、凄まじい威力と共に炎が生まれる。


 小さな塊の全てを茉莉に任せた景は、一人ゆっくりと地面に降り立った。

 魔の前に立ちはだかるのはこの場で唯一人間と同じような形をした魔物の姿だった。


「雷属性――」

「ごめん、待たせた」

 術式発動の瞬間、景の腕を掴みそれを止めた茉莉は耳元で呟き、上空へと移動していく。



 景は上げていた手をそっと下ろし、静かにその時を待っていた。

 そんな景の脳裏にはあの日の出来事が浮かび上がっていた。



 謎の幼児達に拘束され、助けに来てくれた彼女の姿。

 あの時も自分は待つばかりで、体力の温存に全神経を尖らせていた。

 いつも道を作ってくれる術者に甘えてばかりでいいのか。


 出した答えは体を動かす原動力となった。

 大きな歩幅で歩く景はあっという間に茉莉に追いつき、その腕を押しのけた。


「待たねぇ」


 今度こそ右腕を伸ばした景は、術式を発動させた。


「雷属性――」

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