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破壊先に現れたし多彩な異世界  作者: 桜音愛花
第三章 選んだ道
94/137

おと

 あれから四年。

 沢山のことを経験し、その度に学んだものは自分の財産となっていった。


 けれどこういう時に痛感させられる。

 ”自分はまだまだなんだ”と。



 確信はないが、先程からここにいる謎の塊。

 黒い塊が姿形を変え異門でみた姿と全く同じものになったが、これは本体ではない。

 恐らくこの場に本体が来るとしたら、他の術者が全員やられてからだろうと羽花は考えていた。


 羽花は自分でわかっていた。

 自分を武器は”正統後継者の証”だけだと。



 代々受け継がれるしきたり、そして稀に現れる正統後継者について。

 その存在は魔物にとって最大級のご馳走で、後継者たった一人の吸収で何百年も上級という位に居続けられる程の価値があるらしい。

 しかし今現在その証を持つ者は羽花しかいない。


 それなのに何故こんなにものんびりとした時間を過ごせているのか。

 それは力の吸収をするにあたって羽花よりも優先すべき者がいるから。


 何かを出来るようになってもまだまだ自分には価値がないのだ、と魔物の反応を見るたび感じる。

 そのことが悔しく、悲しい反面、どこか糧にしている自分がいた。



「この先もやることがいっぱいだ」

 向かってきた魔物に羽花は正面から向き合う。

 ハラハラと優雅に舞う花びらに触れた箇所を負傷しながら、羽花に突っ込んでくる。


「花属性 正四位上 落花狼藉」

 次の瞬間、舞い落ちる花びらを無害なものに変え目眩ましをし、一気に駆け抜ける。

 そっと手を伸ばし触れた背中は驚くほど冷たいものだった。


 冷たさを奪う掌を回転させ、魔物の胸からは立派な枝が伸びあがる。

 苦しそうに悶える音になるべく耳を傾けないようにし、羽花は第二ラウンドを始めた。


 羽花の先程の術式により、残された攻撃はたったの五種類。

 自分が持つ術式で威力の強いものは省かれ、発動不可となっていた。

 それに対し相手に残された力――その運の良さに気づき、羽花は顔を顰めた。

「向こうはトップ三が残ったのね」


 黒い謎の塊による攻撃。

 文字による脳の支配。

 新聞紙を介しての本体の入れ替わり。


 今まで手を焼いてきたものがこちらの術式を制限させた状態で向かってくる。

 そのことに焦りを感じたが、深く深呼吸をし気持ちを落ち着かせた。


 その少しの動揺に気が付いたのか、黒い塊がまた勢力を上げ立ち向かう。


 ――さっきから倒れこんだり、動きを止めることはなかった。

 つまりこれは本体以外を術紙によって単独で祓うことは出来ない。

 先程から何気なく術紙を触れさせてみたものの、魔体に何の変化もなかった。



 複数の集団に分かれる塊。

 その一つ一つに対抗していては時間がいくらあっても足りない、

 そう判断した羽花は、一度に全ての魔物を捉えようと身構えた。

 この空き地全てを囲うような結界が張られ、その中のもう一つの結界内にいる優美に声をかける。


「……お姉ちゃん大丈夫?」

 結界の壁に手を当て何かを考えている優美に問いかけるが、彼女は口を開かなかった。

 ただじっと視線の先にあるものを見つめている。

 彼女のそれに何の意味があるのかはわからないが、羽花は優美を覆っている結界を解いた。



「解」

 急に視界がクリアになったせいか、驚いたように目を丸くした優美の視線と交差する。

「羽花さん」

 辺りを見渡し、これからやろうとしていることに気が付いた優美は神妙な面持ちで名前を呼んだ。


「お姉ちゃんは安全な所に」

「羽花さん、それは」

「大丈夫。……天力はすぐに回復できるから問題ない」

「いえ、そうじゃ」

 言葉を飲み込み少し離れた場所に来た優美は、もう一度しっかりと視界に入れる。



 素早い身のこなし、的確なコントロール。

 それらすべてに当てられても、リッチャーの体には何の変化もない。

 何度繰り返してもその体が術紙の影響を受けることはなかった。


 広範囲の術式発動による天力の消耗が激しく、加えて何連続も同じ攻撃を続け、羽花の体力にも限界が訪れた。

 先程からハナが回復術を使用しているが、回復するのは天力の残量のみで、体力は低下する一方。


「ここからは完全に我慢比べだね」


 先に仕掛けてきたのはリッチャーの方だった。


 羽花の目の前に勢いよく飛び出してきた文字。


【膝 ま づけ】

 がくんと力が抜け、大きな音を立て地面に接した羽花の足。

 そこからは勢いがよすぎたせいか、うっすらと血が滲みだした。


「……羽花さん?」

 結界内ではなく、結界の外――つまり結界と隣接するように張られた保護術の結界。

 その中には姉、優美の姿があった。


 人一人庇いながらの交戦がこれ程辛いとは。

 集中力が切れ始めた時、まるでタイミングを見計らったかのようにその音は聞こえてきた。



「この音、」

 辺りを見渡す羽花に、優美も口を開く。

「朝陽さんの術式ですね」



 そして似つかわしくない鳴き声で登場したのは、間違いなく朝陽が自身の天力で放った”風龍”だった。

 突風の中を突き進み、波打つように体をしならせる龍の姿。


 実戦で初めて見るその姿に羽花は感動した。

 稽古中に軽く見せてもらったことはあるが、外の空間、対魔物は初めて見るものだった。


 龍は羽花の首元に擦り寄り、ハナの存在に気が付くと二人とも静かに会釈した。

 羽花は龍の額に花属性の紋様を翳し、龍からの情報を読み取った。


 そこに隠されていた情報。

 それはこの龍の作り主である蓮水朝陽からだった。



『無線故障応答なし。

 魔物は三か所。全て同時に祓う。

 タイミングを合わせよ

 風の流れを待て』


 翳した瞬間、文字が白く現れた。

 その下には雷属性と火属性の紋様が刻まれていた。

 羽花は龍の体に優しく触れそっと手を放す。

 すると先程までは二種類だった紋様が一つ増え、その数は合計三種類となった。

 言うまでもなく、新たに刻まれたのは花属性の紋様であった。



 この龍は選ばれた者のみに与えられる各属性の守護神のようなものである。

 守護神であると言い切れないのは、まだ他に逸れに属する者がいるからであった。


 それぞれ特徴が違うが、風属性蓮水朝陽の持つこの風龍は風を操ることは勿論、今回のように遠く離れた仲間に情報を伝えることが可能であった。

 そして現代のネットツールのように相手が確認済みであるか表示される仕組みになっているため、情報の共有や生存確認がしやすいことが利点である。



 羽花の紋様が刻まれ、風龍はそのまま大空へと舞い上がり姿を消した。

 恐らく役目を果たし、主の元へ報告しに行ったのだろう。

 羽花は魔物に意識を向けながら結界内に佇む優美に声をかけた。


「お兄ちゃんに考えがあるみたい。

 とりあえず、相手の動きを見て待機しようと思う」

「わかりました」


 そうして過ぎていく時間。

 時間にして数分間のはずだか、ただ様子を見ながら待っているだけというのは酷く長いもののように感じられた。



 ピィイイイイイイイイン


 突如聞こえた甲高い音。

 羽花は深く息を吸い、集中力を上げた。


 始まりの合図。

 この戦いが終わりを迎えると目の始まりの合図が今鳴り響いた。



 早くなる心臓を宥めるように深く呼吸をしていたその時、いよいよ来た。

 風の流れ。

 全ての事柄の状況を変えるための大きな流れを作る大切な風。


 強風にあおられ、各所から様々な音が聞こえてくるこの空間。

 経つこともままならず、ただ魔物の位置だけをこじ開けた瞳で確認する。



 そして今、その時がやってきた。

 心の中で、最終局面を知らせる鐘が鳴り響いた気がした。

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