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破壊先に現れたし多彩な異世界  作者: 桜音愛花
第三章 選んだ道
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鳳莱姉弟の絆

「景、景…!?」

 まるで先程の自分のように。

 ぐったりと横たわる景の肩を揺らし声をかけ続けた茉莉は、ふと今までにない異様な雰囲気を感じ振り返った。



「変幻した?」

 外見に一見変わりはないが、明らかに彼が纏う空気が変化し警戒心を強める。


 ――いや、そんなはずはない。

 この家に来てすぐに朝陽とぶつかって、恐らく最初の一体目はまだ朝陽と戦っている。

 私達が魔物から目を逸らしたのは、空き地への移動の時のみ。


 本領を発揮せず、術者からの攻撃から得られる天力に意識を全振りする魔物もいるけど、朝陽相手にそれが通用するとは思えない。


 考えられる選択肢は二つ。


 一、朝陽が打破され、本体による変幻の影響


「考えたくはないけれど、あの状態を目にしたら可能性は無きにしも非ずよね」


 二、本体以外も単独で変幻が可能



 茉莉は目の前で揺れる黒い塊に顔を向け、汗を流した。

 長時間の戦闘でかなり体力を削られている証だった。


 一度ハナによる体力、天力を全回復させてもらったのにも関わらずこれだけの疲労を感じるということは、初めから戦い続けている術者は相当だろう。


「もしそうだとしたら厄介ね」

 眉をひそめ、目を細めた茉莉は腕の中で動きを感じ、視線を向けた。

 肩の力が抜け顔を緩めた茉莉に、腹部を抑えながら立ち上がった景は言い放った。


「死なねぇよ」


 そのまま前方の魔物に向かい歩き出した景は、自由になった体で一気にとどめをさそうと駆け出した。



 ”大丈夫なの?”

 ”私が時間を稼ぐから休んでいなさい”

 その言葉は静かに飲み込んだ。

 弟の性格上、それを飲まないとわかっているから。



 その代わり――



「勝つわよ」

「あぁ」

 二人でまずは目の前の敵を倒すこと、ただそれだけ。



「火属性」

「雷属性」


 二つの天力が黒い的を貫く。

 四方八方に飛び散ったそれらは完全に消滅することは無かった。


 もう一発放とうとした茉莉に景は問いかけた。

「他の奴らは」

「朝陽はわからない。羽花と優美は空き地。

 何?」

「別に」

 それだけ言うと景は再び魔物との距離を縮め術式を発動させた。

 一番大きな塊、その頭上から凄まじい勢いの雷光が走る。


「待っ、」

 光が現れる直前。

 何かに気がついた茉莉が静止の声をかけるも間に合わず。

 雷鳴が轟く頃には時すでに遅し。



 ぐんぐんと巨大化する塊に景は瞬時に距離を取った。

「景が攻撃する直前、入れ替わったのよ」

 茉莉の言葉に舌打ちした景は空中の結界の上に座り、魔物を鋭い目で睨みつけた。


「わかんねぇ」


 景がそうぼやくのも無理はない。

 いつ入れ替わるかどころか、本体との違いもわからないのだった。



 ――襲撃当初からやけに朝陽に固執していた。

 それなのに今、こちらに本体を送ったということはつまり。



「やるしかないわね」


 術者は死と隣り合わせ。

 生まれながらにその立場に置かれ、拒否権もなくその使命を継いでいかなければならない両家の子孫達。

 だからこそとうの昔から、



「死ぬ覚悟は出来ているのよ」


 今私達がやらなければならないこと。

 それは蓮水朝陽が敗北したと言う前提で事を進めていかなければならない。


 これで生きていたのなら戦力が増えてラッキー。

 もし離脱したとしても想定内。



「景、これは間違いなく本体よ。

 つまり天力をぶつければその分吸収される」


 茉莉の隣に姿を現した景は静かに耳を傾ける。

 数秒のやり取りを終え、二人は一気に駆け出した。



「火属性 正二位 活火激発」


 辺り一面に火の粉が上がり、炎が立ちこめるこの地下室。

 その熱はリッチャー本体と思われる黒い物体にも有効なようで、炎に触れた瞬間から俊敏な動きが制限されている。


 本来、術者は自分の天力による影響はない。

 例えば火属性の茉莉が天力を放出したとしても暑さに支配されることは無いし、水属性の翔が水浸しになったり寒くなったりするなどの影響は全くない。



 しかし今回は場所が悪かった。

 屋内、それに加え密室。

 例え力自体の影響は受けなくても、術式により大量の炎を密室内で燃やし続ければ当然室温や体温が上がる。


 術者だからといって、物理的な環境の変化には対応できないのだ。



 この熱の影響を受けているのは、直に受ける魔物でも、これだけの炎を生成するために天力を消耗している茉莉でもなく、上空から魔物の様子を伺っている景だった。



 襲来当初から少しずつ天力を失い、途中の無茶な攻撃により大ダメージを受けた景には、この熱の篭もる空間は地獄のようなものだった。


 いつものすました顔が真っ赤に染まり、小さく揺れる体に茉莉は気がついていた。

 それでも目的のために心を鬼にし、茉莉は更に火力を上げる。


「頼むわよ、景」



 ※ ※ ※ ※



「つまり天力をぶつければ吸収される」

「俺がやる」

「え?」

 真っ直ぐ前を向いた景の視線の先には様々な大きさの塊。

 そしていつの間にか姿を現した数時間前に初めて見た魔物の本来の姿だった。


「俺は吸収される。

 お前は消耗」

「つまりわざと吸収されるってことね?」


 頷く景を確認し、茉莉も魔物に視線を向けながら考え込む。


「魔物が変化するには、ある一定の天力を溜め込む必要がある。

 そして体内で選別され、初めて吸収出来る」


「それなら一定の天力を貯められる前に、取り込んだ天力を使わざる得ない状況を作り出す」


 立ち上がった景を見上げ、茉莉は苦笑する。


「とんでもない威力をもつ貴方についていけって言うのね」

 そんな茉莉の頭の中に一人の術者の姿が思い浮かぶ。


 自分より七つも年下で、まだ中学生の一人の女の子の姿を。

 一人だけ天力を放てず、術者としてのスタートラインにすら立てず悔しい思いをしただろうに。

 周りには既に術者として実践を踏んでいる先輩。

 唯一の動機はそれすらも超えるほどの才能の持ち主。

 それでも腐ることなく、どんな壁が立ちはだかってもその度に乗り越えてきたあの子の姿。



 ――負けていられない。


 茉莉は笑みを浮かべながら立ち上がり、前を見据えた。



「行くわよ」

「あぁ」



 ※ ※ ※ ※


 辺り一面に広がる炎が地下室の床を覆いつくし、その中にはリッチャーの姿もあった。

 よろよろと頼りない動きを見せながらも経ち続けているのは、間違いなくその身に降りかかる景の力を吸収しているからだろう。


「景!!!」


 空中の対角線上にいる茉莉からの呼びかけに、一度動きを止めた景は顔を上げる。

「やっぱりそうよ」

 その声と同時に動きを再開した景は拳からバチバチと離れたところからでも聞こえるほど大きな雷鳴を放ちながら一気に振り下ろす。

 見事命中したその力はみるみるうちに吸い込まれ、この場から一瞬で姿を消した。



 ――私達の仮説の中に吸収についてもう一つの新事項があった。

 昔爺ちゃんから教えてもらった他に考えられること。

 魔物は一度に二種類以上の天力を吸収することは出来ない。



 この仮説が正しいと判断されたのは、まさに今。

 茉莉と景の二人がかりの攻撃から導き出されたものだった。



『取り込んだ天力を使わざる得ない状況を作り出す。

 ”れば”の話だけど』


 二人が全身全霊で挑んでいるこの攻撃は成功が約束されたものではない。

 これは一つの賭けであった。


 万が一魔物が複数の天力を同時に吸収可能な場合、消耗させるどころかどちらの力も吸収されてしまうことになる。

 そうなればある一定を超えるだなんてほんの一瞬のことで、二人には更に辛い試練が訪れる。


「魔物がまだ身近な存在でいてくれたことが唯一救いね」


 魔物が打つ術なし、欠点なしの完璧な存在だったのなら二人は今頃吸収されていただろう。


 二対一。

 数で優位に立っている今時点での試合経過は五分五分。

 しかし何が起こるかわからないのがこの実践というこの時しかない尊い時間だった。


 優位に立っていたとしても、苦しみ足掻いているのは術者の方だった。

 この結末が明かされるのはまだもう少し先のお話。


【お知らせ】

12月に入り作者の職が忙しい時期に入ります。

そこで本日更新分をもちまして、

一度毎日投稿を週4投稿(土、日、火、木)に変更させていただきます。


尚、再開の目途が立ち次第すぐにお知らせさせていただきますので、

よろしくお願いいたします。


2021.12.01  桜音愛花

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