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破壊先に現れたし多彩な異世界  作者: 桜音愛花
第三章 選んだ道
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一縷

 真っ暗な空間にただ一人。

 光一つない空間で、身動きが取れずにいた。

 どう足掻いても何も変わらない同じ時間に嫌気が刺し、投げやりになりかけると、いつも”あいつ”がやってくる。



 ※ ※ ※ ※


 何度目かわからない舌打ちが両家中央の地下室に響き渡る。

 何も無い殺伐としたここには普段荒い息、床を駆ける音、靴が擦れる摩擦音が四六時中響いている。


 きっと一般人ならばずっと聞こえるそれらの音に憎悪の念を抱くだろうが、俺にとっては酷く心地の良いものだった。



 自分の心を高めるお気に入りの一曲と同じくらい、実は自身の精神を落ち着かせてくれるその音を俺は嫌という程聞いてきた。



「うぜぇ」

 何をしても離れることの無い謎の塊は徐々にその範囲を増やし、全身の動きを封じようとしていた。


 ありがたいことにこの塊は、並の術者からの天力は求めていないらしい。


 ”並の術者”と言っても、鳳莱景程実力のある術者はもはや平凡なんかでは無いのだが。


 しかしそのおかげで長時間触れていても天力が吸収されることはなく、景の体力温存だけでなく魔物が変化しないという二つの救いがあったのである。



 力を奪われることなく、かと言って外傷を付けられることも無い。

 ただ拘束されているだけということに景は苛立っていた。


 彼の性格所、『疲れることは最小限に』というスタンスの為、自分に害がないと判断した時点で気を抜きそうだが、そうならないのには理由がある。



 それは先程から感じる違和感のせいだった。



 任務中、ましてや他の術者が戦っているさなか堂々と休む口実があると言うのに、変に神経を尖らせていなければいけないことに何よりも怒っていた。



 ――何か、起こる。


 そう体の底から込み上げる根拠の無い自信。

 それは数分前から消えることなく、ずっとその身を襲い続けていた。



 その時落雷と共に景の前にはある新聞記事が出現した。

 体を拘束されたまま目を見開く景は、その紙から視線を逸らす。

 景が顔を背けても追う真似はせず、我が道を曲げないかのようにその場に留まり続ける新聞紙。


 景が驚いたのは、突然現れたことではない。


 今の落雷は景が意図的に行ったものでは無いからであった。

 雷属性の天力をもつ鳳莱景は、自由自在に雷を操り、問答無用に相手をひれ伏せる力を持ち合わせている。



 その力が勝手に放出されたのだから驚くのも無理はない。

 それに加え光の大きさや威力が普段の倍以上であり、景は生まれて初めて自身の力を怖いと感じた。



 ――今まで自分の力は自分の味方で、凄まじい威力で敵を威嚇する様は自分にとって頼もしい味方だった。



 それが今、




 敵になりつつあるという事実。



 自分と共にいたものが、一瞬で自分を脅かす脅威な存在になるなんて思いもよらなかった。




 室内の至る所でバチバチと爆音を鳴らしながら光る雷を真っ暗な視界で感じながら深呼吸した。



 絶対に紙面を見てはいけない。

 先輩術者を見て、脳に焼き付けられたその光景。



 様々な術式を発動しようとしても、物理的に破壊しようとしてもビクともしない黒い塊への抵抗を諦め、恐怖を感じ始めた体は無意識に見に起きる危険を確認してしまう。


 意図的に視線を逸らしていたそれに思わず向けてしまった目に飛び込んできたのは、まっさらな紙に次々と浮かび上がる大量の文字だった。



 まるで機械で文字を打つように左から右へ、一文字ずっと増えていく。



【平成十五年二月十九日

 ××市××××丁目××-××

 蓮】


 視線はその文字に食いつき、一文字も逃さぬよう凝視する己を律し、景は強引に視線を逸らした。


 そして再び鳴り響く落雷の音が、術者の耳を貫き、景はもう一度舌打ちをした。


 ――あの住所、ここじゃねぇか。



 何も書かれていないまだ何の情報もないただの紙に並んだ複数の文字が示したのは、間違いなく蓮水家・鳳莱家のある現在地だった。



「死ぬのかよ」



 自分の正面に掲げられている新聞紙。

 それは間違いなく死亡事故や死者数を知らせる頁だった。

 今すぐにでも拘束を解きたい景の目の鋭さはあまりにも攻撃的すぎた。



 ただでさえ身長も体格も恵まれており、無口で一匹狼な所がある景のあの眼光を真っ直ぐ受けられるものはいるのだろうか。



「……大丈夫?」

 その時左右も分からない暗闇の中に灯された一筋の光。



 昔から何度も浴びてきたこの光。



「景」

 眉を下げ、心配そうに見つめる姉に頷く事で自身の無事を知らせると安心したように表情を和らげた姉の視線と交差した。


「羽花は大丈夫よ」

 茉莉の言葉に自身の体の強張りが解けたのを感じ、無意識に気にかけていた自分に驚いた。


 自分が、他人の目なんて気にせず自分の進みたい道の先だけを見据えていた自分が、まさか他人を気にする日が来るなんて。



 景は口角を上げ、顔を茉莉の方へ向けた。


「……何?」

 突然向けられた視線に戸惑いながら問いかけた姉に景は答える。



「これ、ぶっ壊して」

「え?……ああ、これが羽花の言っていたやつね」

 羽花から聞いていた情報を元に、目の前で弟の体を拘束している黒い物体を観察する。


 見た目は先程空き地で戦ったものと瓜二つ。

 しかしその性質に大きな違いがあった。

 空き地の塊は羽花の天力を受けても何の影響もなく、ただ攻防を続けるだけだった。


 一方、景を囲む黒い物体はどうやら羽花の力を吸収してしまうらしい。


「ねえ、どうして羽花の力を吸収するって知ってるの?」

「あ?」

「だって羽花は一度も天力を放っていないのよね?」

「止めた」

「じゃあどうしてそうわかったのよ。

 景の天力が無事なら、もしかしたら」

「駄目だ」


 茉莉の言葉を遮るように口を開いた景は、黒い塊を睨みつけながら茉莉に指示する。


「ん」

 視線で訴えかけた景に茉莉は頷き、その視線を辿った。

 彼の視線が示す先――それは黒い塊が大量に纏わりつく腹部だった。



「ちょっと、お腹なんて…!!!」

「いいからやれ」

「万が一内臓に傷がついたらどうするのよ」

「最善だ」


 眉を顰める姉に気が付いた景は、術式の発動を促しながら告げる。

「手足を損傷したら動きに影響が出るだろうが。

 内部ならどうにかなる、どうにかする。


 だから絶対ここ以外に当てるな」


 睨み付ける鋭い眼差しの迫力に一瞬怯んだ茉莉だが、いよいよ悠長に会話している場合ではないことに気が付いた。

 根拠はないが背筋が震えるほどの悪寒が襲ってきたからである。



「……わかった」

 覚悟を決めた茉莉は扉から手を放し、景の正面に立った。

 深呼吸を一度した茉莉は、黒い塊に自身の証を見せてから掌を向けた。

 もう一度深呼吸し、緊張から震える体を抑えながら固く閉じていた目を開ける。



「変に術式を使わなくていい。

 そのまま当てろ」

「ええ」


 天力を術式に還る場合少なくとも一割ほど力の威力が軽減する。

 より精度が高く、より威力のある力でこの謎の物体を吹き飛き飛ばすため、景は自分の体への考慮は一切なかった。



 茉莉の体内を流れる火属性の天力が一か所に集められ、狙った箇所を目掛け一直線に飛んでいった。


 バチバチバチ


 けたたましい音がこの空間に流れ、暖色の光がこの場を制した時。

 景の腹部、そして天力の効果が触れた右腕が解放され、瞬時に解放された体の一部から雷属性の光が放たれ、彼を覆っていた全ての塊が辺り一面に転がり落ち、茉莉の術式で一か所に封印された。


「ちょっと景、大丈夫!?」

 稽古場の片隅に集めた黒い塊を見つめ安堵の息を吐き振り返ると、そこには腹部を抑え蹲る弟の姿があり急いで駆け寄った。


「景!?景!!!」


 支えようと手を伸ばした茉莉の手をすり抜けるように白目をむき、ぐわんと二度体を揺らしそのまま床へと傾いていった。


 背中を掴んだ指先はあと数ミリのところで届かず空を掴んでからコンマ数秒。

 鳳莱茉莉という救世主の登場により事態は良い方向へ進むと思われたが、

 鈍い音が響き渡るこの空間は最悪な事態へと急変したのだった。

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