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破壊先に現れたし多彩な異世界  作者: 桜音愛花
第三章 選んだ道
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神からの贈り物

 場所は変わり、鳳莱家から少し離れた先にある空き地。


「茉莉さん、茉莉さん!?」

 地面に頭を強打し、意識を失った茉莉を抱き抱える優美は焦りながらも懸命に名前を呼び続けていた。


 しかしどんなに呼びかけても腕の中の茉莉は返事をすることも、目を開けることもなかった。




 ※ ※ ※ ※


 ―遡ること二時間前―



 いつものように任務に向かった羽花を見送り自室へ戻った茉莉は、引き出しからとあるメモを取り出しそれを眺めた。


 ハッと何かを思い出し、書き込むためにペン立てに手を伸ばした時その音は聞こえてきた。



 何かが割れるような音、慌ただしい足音、そしてこの家のものではない力。


 不測の事態に茉莉はかけてあった上着を手に取り、勢いよく部屋を飛び出した。


 同じタイミングで廊下に顔を出した景に遭遇し、二人は階段を駆け下りながら会話を交わす。



「魔物、よね」

 茉莉の声に反応はなかったが、間違いなく耳に入っているため気にすることなく続けた。



「どうして魔物が侵入……羽花は!?」

「無理」

 第四異門を守る術者がいる限り、魔物はあの公園から外に出ることは不可能。

 しかし今、その結界を抜けこの家に現れた魔物がいるのは確か。



 茉莉の心はザワザワと嫌な音を立てる。


「大丈夫だ」

 目の前を走る弟の背中。

 彼は振り返ることなく力強くそう口にした。



 弟の言葉を信じ、力の集まる方へ足を向ける。

 そうして辿り着いた先、茉莉の視線の先には壁が大きく窪みその中央で項垂れる朝陽の姿があった。



「ッ、朝陽!!!」

 数メートル先にいる、幼い頃から隣で育った彼の名前を呼び叫ぶ。


「いたたた、やっぱり受け止めきれなかったか」

 背中を擦りながら立ち上がった朝陽は、2人に視線を向け片手を上げた。



「よっ」

「『よっ』じゃないわよ。何があったの?」

「見たまんまだけど、あの魔物の力はおそらく新聞紙によるもの。

 おそらく新聞紙を介して本体を移動させられるんだろうな」


 茉莉は視線を移し、魔物を見つめた。


 新聞紙をその体に纏い、サングラスで目を覆った魔物の顔は真っ直ぐと朝陽だけに向いていた。

 

 入ってきた二人のことなど眼中に無いようで一切気に止めることは無かった。



「じゃあ羽花は、」

「羽花ちゃんは大丈夫だよ」

 笑みを浮かべた朝陽は、自分の足元に落ちていた紙を拾い二人の足元に滑らせた。


「それを持って遠くに行け」

 魔物から視線を逸らさないまま告げた朝陽は、天井近くに作った結界に飛び乗り魔物を真上から見下ろした。



 そんな朝陽に茉莉は声をかけようと足を踏み出した。

「ちょっ、」

 しかしその声は朝陽には届かず終いだった。



 足元に来た新聞を拾い上げるのと同時に、茉莉を担ぎあげた景はそのまま空き地へと移動した。

 天力を使い瞬く間に到着した二人の手には、共に新聞紙が握られている。


「どうし」

「分散させんだろ」

 抗議の声を上げかけた茉莉は、弟の冷静な言葉に、焦りにより上手く働いていない脳に酸素を回した。


 その時茉莉が握りしめていた新聞が不気味に振動し、咄嗟に宙へ投げ捨てるとみるみるうちに形を変え、まるで先程見た姿の複製てあるかのように瓜二つの魔物が現れたのだった。



『新聞紙を介して本体を移動できる』


 先ほど朝陽から聞いた情報だと確信し、距離をとった茉莉は姿勢を整えた。



「わかった。

 何かあったら連絡して」

 そう告げ真っ直ぐ魔物に突き進んだ姉の姿を確認し、景は再び姿を消した。



「御意」



 ※ ※ ※ ※



 ―その会話から一時間と三十分―


 家からさほど遠くない空き地で魔物と交戦している茉莉の元に一人の少女が現れた。

 彼女の名前は蓮水優美。

 茉莉とついに生まれた朝陽の四歳下の妹であり、蓮水家正統後継者羽花の三歳上の姉であった。



 彼女は魔物が襲来してきた時、運が良いのか悪いのか両家の玄関から数メートル先の車通りのない道路の歩道に佇んでいた。


 すっかり日課となった十八時。

 いつものように任務に向かう妹を見送った優美は、自室に篭り授業の復習をしていた。


 正統後継者が一人欠け、たった一人となった特別処置として月に七日間任務の代理を立てられるようになった。

 かと言って七日間の全てを景・優美が担当するわけではない。


 その時の状況を考慮しどちらに任されるか決まるため、七日間全ての日程で任務が入らない月だってある。



 正統後継者の証を持つ者の誕生により、毎日欠かさず行ってきた任務も無くなり、晴れて自由の身になった優美をはじめとする術者達だったが、突然与えられた空白の時間を寝てダラダラ過ごすものは誰一人としていなかった。



 これは自分達の最年少が、小さな体でその身に余るほどの重圧に耐えていることへの罪悪感からだろうか。

 優美もそのうちの一人だった。


 勿論、四人皆たまには睡眠時間に当てる時だってある。

 しれでも出来る限り起きているのだ。



 妹を見送り、机上のノートに向き合うことがすっかり習慣づいた優美は本日も例外なく、教科書を開き目を通す。


 それからいくらか時間が過ぎ、時計の針が居場所を移した時、優美は音を立てることなく静かに家を抜け出した。

 同じ体制で固まった体、回転させ疲れを訴える頭。

 それらを冬の夜――冷たく、澄んだ空気を吸うことによりリセットしようと優美は家を抜け出し、歩道まで歩いたのである。



 数分のつもりが予想以上に心地よい空間で物思いにふけること数十分。

 すっかり肌を刺すような寒さにやられ、「そろそろ戻ろうかな」そう思った瞬間、自分の辿った道の出発点から何かが爆発するような音が聞こえ、優美は無意識に振り返る。



「……え?」



 その場所から数メートル離れた歩道にいるとはいえ、人一倍視力に自信がある優美の目にはしっかりとその光景が映し出されていた。


 魔物に引き摺られるように屋根の上へと姿を現した兄、そして中級の魔物が一体。



「朝陽さんの実力なら瞬殺出来るはずじゃ、」

 目を見開きその場に立ち尽くす優美の視界に鳳莱家の二人が映る。

 彼らは瞬時に姿を消し、何処かへ向かったと知った優美は急いでその背中を追いかけた。



 ――おそらくあの場は朝陽さんがどうにかするんだろう。

 戦力の分散が目的……?



 優美は思い当たる複数の箇所を駆け回ったが何処にも二人の姿は見つけられなかった。


 何も出来ない無力な自分を改めて実感し、ずっと動かし続けてきた足を止めた時その音は聞こえてきた。



 ガンッ



 鈍い音が夜の町に響く。



 ――事故だろうか。

 それとも何かの事件、はたまた夜を彷徨う人達の喧嘩?



 恐る恐る振り返った先に広がる光景に優美は目を見開き固まった。

 脳がその重大さを理解した瞬間、優美は叫びながら駆け寄っていた。



 物心着く前からの顔見知りで、いつだって優しく微笑んでくれる。


 普段は頼れる兄がふとしたきっかけで手が付けられなくなった時、率先して叱ってくれる1番頼れる存在。



 綺麗な見た目からは想像つかないほど頑丈で、怯むことなく立ち向かう姿を後ろから数え切れないくらい見てきた。



 鳳莱家の家紋の入った上着を身につけ、道路に横たわる姿は見慣れた人物だった。




「……ッ、茉莉さん!!!!」



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