表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
破壊先に現れたし多彩な異世界  作者: 桜音愛花
第三章 選んだ道
80/137

風の天力に愛された男-2

 まずいな。


 一先ず六本の矢を手にし、再び攻撃を仕掛ける準備を整えた朝陽は、目の前の魔物に気づかれないよう顔を顰めた。


 この魔物と対戦し、大量の体力・天力――力という力が消耗し、あまり長い時間戦っていられないことに気が付いていた。


 特に致命傷を負っているのが右側だった。

 魔物の力による損傷に加え、屋根から転がり落ちた際の強打により朝陽の右腕はもう限界を通り過ぎていた。


 魔物の攻撃を受けた時には既に右腕が怪しいことはわかっていたが、受け身を取る際最善の道である”犠牲箇所はまとめる”ことにした結果が今の状態だった。


 始めは体が悲鳴を上げるほどの激痛が走っていたが、もうその痛みはどこかに消え、痛みすらも感じないまるで存在すらしていないようだった。




 ただでさえ己の命を懸けたこの術者の世界。

 五体満足でも危険なこの世界で、片腕が使えないことは大きなハンデを背負うことになる。


 いくら朝陽が並みの術者よりも実力があると言っても、上級魔物に一対一で圧勝できるかと言えば、答えは否だ。

 現に、上級に近いであろう目の前の魔物にいまいち決定打を与えられていない現状を見ると、この先の術者人生が険しいものであると伺える。



 右腕を損傷する前に交戦した際、確かに相手の方が一枚上手だった。

 その結果妹に情けない姿を見せることになったのだが、あのまま交戦していればほぼ間違いなく朝陽の勝利で幕を閉じていただろう。


 勝利を言い切れないのは、この世界に”絶対”はないからである。

 何が起こるかわからないこの世界で約束された確証はない。

 それでもことが順調に運んでいれば、魔物が旗が上げていたのは間違いないだろう。


 しかしその最悪な予想だにしない出来事が起きてしまった。

 それが『利き腕の負傷』だった。




 交戦初めから勢いよく突き進み、相手に有無を言わせない程全力で立ち向かう景とは違い、朝陽は着実に周りを確認しながら進んでいく。


 例えて言うならば、石橋を渡る際視界に映した時点で躊躇うことなく全力疾走で駆け抜けるのが鳳莱景。

 そして朝陽は、先頭に立ち安全性や状態を確認してから、周囲の手を引いて渡っていく。



 そんな彼は例え傷を負ったとしても、時間が経てば経つ程有利になっていく。

 そうして相手と技を触れ合わせ得た情報を元に戦い勝利を収めるのが、十六年この世界にいる朝陽の戦術だった。


 しかしそれは血を流そうと、天力を消耗しようと、”五体満足”だった場合の話である。

 最低条件に満たない今、もはやどちらが白旗を上げるのか誰にも予想できない。



「しかも、」

 朝陽は血液と共に流れる汗を目を瞑ることで避けながら、魔物を見た。

 そこには先程よりもしっかりと地に足をつけ、こちらを見据える魔物の姿があった。



「さっきの力、吸収し終えたか」

 相手の油断をかき、自らの攻撃を進めていた時、微量ながら魔物に自身の力を吸収されたことには気がついていた。



「受け入れる前に仕留めたかったところだよな」

 苦笑する朝陽は、期待はしていないもののそっと右肩を動かそうと試みる。


 しかし案の定ビクともせず、何一つ取り戻さない感覚に溜め息をつき口元に矢を運んだ。



「まあやるしかないよな、今の俺に出来るのはそれだけだ」



 以前若匡に尋ねたことがある。

 魔物が欲しがる人間の力、そしてその方法を。




 ※ ※ ※ ※


「あ、若爺。今大丈夫?」

「朝陽か」

 自室で書物に目を通していた若匡は読み終えた頁に印をつけ閉じた。


 若匡に促されるまま座布団に腰を下ろした朝陽は姿勢を正し、目の前の若匡に深々と頭を下げる。



「お時間を頂戴し、ありがとうございます」


 普段は近所の爺と子供の関係。

 蓮水家である朝陽にとって直属の孫ではないが、特殊な両家の片割れに産まれた朝陽は若匡にとって、茉莉と同様本当の孫のように可愛がってきた。


 しかし術者の世界では関係の無いことだった。

 言わばレジェンドと卵のような関係なのだ。

 偉大な先輩術者である若匡や両親には現若者世代全員が敬語を使っている。



 本来ならば現若者世代の中にも年齢差があり敬語が使われるはずなのだが、何せ上二人がそのようなことを気にしない性格のため、時には敬語、時には普段と変わらぬタメ口というどっちつかずであった。



 頭を上げた朝陽は単刀直入に本題を口にする。



「今回は魔物が人間の力を吸収する際の流れについてお聞きしたく参りました」

 真っ直ぐな視線を受け、若匡は口を開いた。



「魔物が力を吸収するにはある条件を満たしておることが重要じゃ」

「条件?」

「一つ、その瞬間相手が戦闘不能であること。


 意識を失っていたり、怪我を負い動けない状態。

 はたまた命が途絶えている場合。


 この場合は対象との距離十五センチ以内に手を翳すことにより力を吸収することが出来る」


 若匡は湯のみをに手をかけ、喉を湿し再び口を開いた。



「そしてもう一つ、対象を肉体ごと吸収する。


 相手の生死に関わらず、その身を自分の体内に収めることで力の吸収が可能になる。


 しかしこちらは周りに他の者がいる場合、阻止又は妨害される恐れがあるから自分一人の空間に連れ込んで行われる儀式じゃ。


 どちらかと言えば前者の方が多い手段じゃろうな」


 若匡の言葉に朝陽の脳裏にはある一説が浮かび上がった。


『朝兄!!!』


 朝陽はその言葉を飲み込み、湧き上がった疑問をぶつける。


「その二つの異なった手段は、対象者に影響の差はあるのでしょうか?」


「術者をやっていても任務を失敗しない限り、その光景を目にすることは殆ど無いじゃろう。


 古くからの言い伝えでは、前者は人体に何も変化がなく命の灯火だけが消える。

 そして後者は肉体は残らないが、吸収後、魔物から全てを吸い付くした後の抜け殻――つまり人骨が吐き出されるそうじゃ」



「なるほど」

 謎が解け要件を終えた朝陽は、感謝を述べようと口を開いたが若匡の声がそれを遮った。



「それにもう一つ、その異なる吸収の仕方に違いがある」

 その言葉に動きを止めた朝陽は興味深い眼差しで若匡を見つめた。



「前者は少量ずつ体内に吸収されていく為、魔物の体の拒否反応が軽い。

 それに比べ後者は、一度にその人間が持っている力を体内に含むせいか反応が大きい。


 その反応の大きさに耐えられず、命を落とす魔物もいると聞いたことがある。


 それを踏まえて、やはり前者の方が使われるのじゃろう」


「それに力が体内に入っていったからといって、直ぐに魔物の体に影響するわけではない。

 

 魔物の体も異物が入り込んだことによって、有害か無害か吟味する必要なあるからな。


 そのための時間、それゆえの反応。

 それを乗り越え初めて魔物は力を手にすることが出来るのじゃ。


 言ってしまえば、」



「万が一力を吸収されたとしても、魔物の体に反映されないうちに仕留めれば問題ないということですね」


 朝陽は頷く若匡を確認し、今度こそ感謝を口にした。



「お時間頂きありがとうございました。

 他の術者に伝えて参ります」


 立ち上がった朝陽に若匡はある袋を手渡した。


「みんなで食べるといい。

 隣のお宅から頂いたみかんじゃ」


 袋の中を覗き、笑顔を見せた朝陽は

「ありがとう、若爺」

 そう言ってこの部屋を出ていった。



 一人残された若匡は再び手元の書物を開き視線を落とした。



【歴代正統後継者情報】


「一番は吸収されないことじゃがな」


 ※ ※ ※ ※



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ