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破壊先に現れたし多彩な異世界  作者: 桜音愛花
第三章 選んだ道
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兄の意地

「あーぁ、情けないとこ見せちゃったな」

 所々赤く染めた腕を天に上げ、グッと伸びをし一気に脱力した。

 余計な力を抜いた彼の体は今、羽ばたいていけそうなほど軽やかだった。



「俺さ、今妹と気まずい中なんだよね、気まずい中。

 だからこれからどうするべきか考えたいと思ってるんだよな」

 そっと目を開けた朝陽は、躊躇することなく魔物相手に駆け出した。


「こんなところで負ける訳にはいかないんですよ」


 笑みを浮かべながら、目にも止まらぬ早さで駆け回る朝陽を魔物は先回りしようと追いかける。


 しかしその作戦も虚しく、彼の術式により発生した暴風がその道を乱し、新聞紙が目的地に配達されるまでに影響を受け、酷くボロボロなものへと姿を変えた。



 先程とは違い、朝陽が優位に立つこの攻防。

 一件無敵のように思えた朝陽の術式を破り、視界に侵入した文字は彼の体を操った。



【膝 ま づ け】


 がくんと力を無くしたように姿勢を膝を折った朝陽は、その衝撃で頭を強打する。

 運悪く先程の攻防の際飛び散った破片が掠り、そこから再び赤い血が流れる。



 ーーーーまぁ、全部避けきれないことは百も承知。


 リセットするかのように目を閉じ、再びこの世界を映す瞳で魔物の持つ新聞紙を片っ端から粉砕していく。



「風属性、」


 気味が悪いほどギョロギョロと視線を動かしている魔物を見つけ、朝陽は風属性の天力による術式を発動させた。



 術式の発動先。

 それは魔物本体ではなく、宙を彷徨う新聞紙だった。



「君さ」

 新聞の動きを完全に止めてから、向かい合うように立つ魔物に声をかける。



「コミュニケーション取れているだろ?」

 その声に反応することなく、宙に固定された新聞紙をぼんやり見つめ、魔物は動きを止めた。



「だったら攻撃の為じゃなくて意思疎通にも使ってよ、持ってる力の一部でもいいからさ」

 暫しの沈黙の後、先に動きを見せたのは魔物の方だった。



【な ぜ わか った】



「1番初めに違和感を感じたのは、君が現れた直後。

 俺が君に発した第一声覚えてるか?」

 魔物は頷きはせず、自分の所持する文字の列から肯定の言葉を選択し掲げた。


 それを確認した朝陽はゆっくりと屋根の上を歩き、少しずつ魔物に近づいていく。


「『何しに来た』

 そう問いかけた俺に、君は何の反応も見せなかった。


 けど明らかに君の視線は物語っていたよ。

 ”俺がターゲット”だってな」


【そう だ】


「これはただの疑問だから、別に答えを強要しているわけじゃないけどさ。


 君が、俺の妹を放置してまでこっちに来たのって何の意味があるの?」


 答えを待つ朝陽に、魔物の攻撃が忍び寄る。

 それに気がついた朝陽はその身を翻し、宙へと飛んだ。

 彼が動く度に血液が飛び跳ね、先程まで立っていた空間にはまるで彼の居場所を示すかのように血溜まりが出来ていた。



「よく漫画で、話している時は攻撃しない優しい敵がいるけど君は違うんだな」

 苦笑しながら屋根の上の魔物を見下ろした朝陽は、再び口を開いた。



「一般人より術者を、術者より正統後継者を。

 だろ?」


 魔物は攻撃を一度止め、朝陽の疑問に答えた。

 返事が返ってこないと思っていた朝陽は少しばかり目を見開いたが、すぐ様いつもの表情に戻り

「優しいな」

 そう小さく呟く。



【利益が大きい の ない 術 より 方が

 狩った 他を 価値 者】



 脳内で分析している最中も降りかかる攻撃は、朝陽の脳内を乱し、体を痛めつける。



 それでも朝陽は絶対に集中力を切らすことはなかった。

 目の前の文字の羅列ーーーー自分の問いかけへの答えと、我が身を襲う混ざりあった二つのワード。



 頭を最大回転させながら周囲の状況把握も怠らない。

 頭が別の世界へ飛んでいきそうだが、そんな彼の脳は一つの答えに辿り着いた。



【価値のない術者より他を狩った方が利益が大きい】



「つまり、君が言いたいのは

 現正統後継者一人を仕留めるより、俺たちを狩った方がより多くの力を得られるーーー正統後継者<他術者ってことでOK?」


 相手の肯定を確認し、朝陽は深い溜め息をつく。


「別に君の考えを否定するわけじゃないけどさ。っと」

 視界に入り込む存在に気が付き、咄嗟に顔を背け視界を閉ざした朝陽はそのまま周囲を流れる風を集める。


 

 集まった風はまるで朝陽を取り囲むように周囲を固め、中心に君臨する術者を守る壁へと姿を変えた。



 その防御に僅かに怯んだ魔物は攻撃の手を止め、風の威力を受けない距離で力を発動し、たった一文字を示す。


【何】


「いや、やっぱりいいや。

 でも覚えて置くといいよ。


 うちの子はな、追い込まれれば追い込まれるほど驚く速さで成長していくんだ」


 朝陽の周囲で渦巻いていた風は、先程よりも遥かに実力を上げ魔物に向かい一直線に吹き荒れる。


 細かな破片が宙を舞い、度々二人の肌を掠っていく。

 その痛みを感じながらお互いがお互いを見つめ合い、どちらも視線を外そうとしなかった。



 暫くの見つめあいの末、先に折れたのは朝陽の方だった。


「俺はたった一人の兄ちゃんだから、情けない姿見せる訳にはいかないんだよ」

 口角を上げ僅かに微笑みながら、空中に作り上げた結界に飛び乗る。



 一つ目、二つ目。

 どんどん蹴り飛ばし先に進む朝陽が伸ばした手の先。

 そこには風の流れに潜ませながら、少しずつ天力を蓄積し生成した朝陽のもう一つの武器があった。



 長く、しなやかな指先に鋭い先端が触れ、朝陽はそれをグッと掴んだ。



 背中に背負っていた対の武器を正面で構え、朝陽は手にしたもう一つを構えようと腕を引いた。



 バキッ、ゴリン


 二種類の音が聞こえ、その直後何かが落下した音が響き渡った。

 朝陽の手を離れ屋根を滑り落ちたそれは、滑らかに地上へと姿を消した。


 そしてもう一つの武器は、魔物の力によって真っ二つに折られ、これではもう使用することが出来なかった。

 朝陽は姿を変えたその武器を自身の体に吸収し、体内を流れる天力へと戻す。


 風属性の天力により武器の形は目視することが出来なかったが、今となっては両者は姿を消しているため、結局誰の目にも触れることはなかった。



 そしてもう一つのハプニングが起こっていた。


【右腕骨折】


 とある日の事件を知らせる記事から抜粋された四文字。

 不意のアクシデントに一瞬、天力を乱した朝陽の目に飛び込んだこの四文字は、彼の体を一瞬にして蝕んだ。



 だらりと垂れた右腕は、力なく重力に従い、その存在を霞ませる。

 これでは先程の攻撃どころか、普段の術式すら満足に発動出来ない。



 蓮水・鳳莱の術者は皆散らばり、それぞれ厄介な敵と戦っていることは、数時間前の報告で知っている。

 しかし数分前から、何らかの影響で互いの通信が完全に途絶え、各々がつけているものはただの装飾品と化していた。



 当然、他の場所で交戦している他の術者に助けを求めることなんて出来ない。

 それに気がついた朝陽は微塵も心配していなかった。

 むしろはなから助けを求めるつもりなどなかった。



 彼の思いはただ一つ。


「早く終わらせて、己の悩みの解決策を見つける」

 朝陽は左手で再度生成した武器を、しっかりと握りしめながら口を開く。

 


「残された矢は四本。

 なんとしてでも、俺が勝つ」


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