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破壊先に現れたし多彩な異世界  作者: 桜音愛花
第三章 選んだ道
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思わぬ再会

「羽花ちゃん、出来そう?」

 辺り一面雪景色、周囲の至る所に雪山が聳え立つ冬真っ只中に頬を蒸気させ、汗を流す妹の隣で朝陽は声をかけた。


「で、きる」

 真冬とは思えぬ姿の羽花は、踏ん張る声を出しながらその問いに答えた。



 先日、若匡から命じられた任務。

 それは若者には荷が重いほど重大な任務だった。

 難しいどころの騒ぎではない、かと言って逃げることは許されない過酷なもの。



 その任務に立ち向かう二人は、己の限界を超え、息を切らし、諦めることなく何度でも挑戦する。




『決行日は年度末、二月後の三月三十日。

 蓮水家七代目正統後継者 蓮水羽花、そして蓮水朝陽。

 以上二名が異門封印の儀を行う』



 諦めることなく挑戦するだろう。


 例の過酷な任務はまだ始まってすらいない。

 そんな中に、こんな真冬に息を切らし汗だくになっている理由はーーーー



「こら、景。サボらないでちゃんと手伝いなさい」

「無理」

「無理じゃない」

「さみぃ」


 ガガガガ、ザクッ


 大量の雪が積もる真冬に外に出てやらねばいけない使命。

 それは雪かき。



 スコップを地面に突き刺し支えとして肘をかける景を、必死に雪を掻きながら注意する茉莉は対照的な姿だった。


 暑さでマフラーや帽子を脱ぎ捨てた茉莉に対し、スコップに身を預ける景の防寒対策はこれ以上無いくらい完璧だった。



 裏起毛のスエットの上から上下セットのウインドブレーカーを着込み、さらにその上から膝丈までのベンチコートを羽織っている。


 更には膝丈の長靴のゴムをしっかりと結び冷気の入口を塞ぎ、首にはグルグル巻かれたマフラー、赤く染った耳を覆う耳あて、更には帽子と手袋。


 極めつけは顔面の寒さを防ぐかのようにマスクも着用していた。


 その完璧すぎる防寒に、一同はひと目見た瞬間苦笑いしたのだった。



「動けばそのうち暖まるぞ」

 すっかり体が火照った上下のウインドブレーカーを着た朝陽がママさんダンプを引き摺りながら通り過ぎた。


「そうよ。動かないから寒さにやられるのよ。

 力も馬力もあるんだから手伝ってよね」

 小言を言いながら懸命に雪を掻く茉莉は上がる息を整えるように一度伸びをした。


「ほら、景。俺と一緒にこっち側や、



 おおおおおい!!!!誰がこの上に乗れっつったよ!?」


 あまりの騒がしさに後ろを振り返った茉莉は、朝陽の引き摺るママさんダンプの上に乗り目を瞑る弟の姿を発見したが、何も見なかったことにし再び手を動かす。



「ちょうどいい。このまま連れてくぞ」

 恐らく両家の術者の中で一番タッパがある男を引き摺る朝陽を、羽花は微笑みながら見つめていた。



「羽花さん?」

 手を止めてからしばらく経っても動き出さない妹を不思議に思い、優美は声をかけた。


「あ。ごめんね、お姉ちゃん」

 ハッと我に返った羽花は慌てて優美の表情を見つめ謝罪した。

 悪いことをしたわけではないのだが、何故か謝罪してしまうのは私だけなのだろうか。

 そんなことを思いながら羽花はもう一度視線を移した。



「お兄ちゃんって術者としてはすごく偉大な存在で、遠い背中なんだけど、

 こうしてみると普通の男の子なんだな、って思って」

 ママさんダンプを傾け、乗っていた男を転げ落とす兄。

 雪の上に転がされ、不機嫌な景。

 二人を見つめる羽花に倣い、優美も視線を向けた。


 ギャアギャア騒いでいた二人は、突然別人のように雪を掻き始め、二人の周りはまるで除雪車が入ったかのような綺麗な平面が出来上がる。


 恐らく一枚上手の兄の挑発にまんまと乗ったのだろう、優美は小さい頃から一緒にいる景の姿から視線を逸らし、隣の羽花を見る。


「私からしたら、羽花さんも同じですよ」

「え?」

「あ、でも一般の同い年の人よりかは考え方が大人というか。

 しっかり線引きが出来ていると思います」

「線引き?」

 羽花の純粋な視線から逃れるように優美は俯く。


「子供は上手くいかないことだったり、嫌なこと、もどかしいことがあったら素直に態度に出ることがありますよね。

 例えばイライラするから物に当たる、嫌いな人だから無視をする。


 羽花さんのように多感な時期は尚更そういうことが起こりやすいと思います」

 中にはそうならない人だってもちろんいるでしょうけど、そう付け加え続ける。


「でも大人はそうはいかない。


 学生の頃は”気が合わないから”と別行動出来ても、

 大人はそれでも共に仕事をしなければいけない。


 そこには妥協と協調性が必要不可欠。

 羽花さんにはその力がもうすでに出来つつあると思います」


「そうなのかな」

 いまいちピンとこない羽花は首を傾げる。


「家柄が家柄ですからね。

 同い年の子とは経験の差や置かれている立場が違うから当然かもしれませんが」

 そう言い終えスコップを手にした優美は、止まっていたことにより少しだけ冷えた体を温めるように重い雪を運んでいく。



 数十分後。

 すっかり綺麗になった敷地、本来の姿を現した雪に埋まっていた車。

 体温の上昇と疲労、そして達成感を感じる五人は二つの家の中央に立ち、自分達の頑張りを眺めた。



「まさかこんな結果が待っているなんてね」

「あぁ、すごいよな本当」

「想像もしていなかったですよね」

「疲れた」


 四人は敷地内のあまりの綺麗さに自画自賛し、満足げな笑みを浮かべた。

 一人は眠そうに欠伸を嚙み殺していただけだったが。


 そんな四人から離れたところで、羽花は誰にも聞かれぬよう小声で話す。

「ハナ、大丈夫だよ。今は任務じゃないし、回復術は必要ないよ」

 羽花の体力の消耗に気が付き、何の前触れもなく現れたリス:ハナは羽花の首筋に触れ、自身のもつ回復術を発動させた。


 みるみる内に体の疲労感が薄れていくのを感じ、羽花は感謝の意を述べた。

「ありがとう」

 己の任務を終えたかのように姿を消したハナは、その後出てくる気配がなかった。


 そうやらハナは必要な時だけ現れ、後はどこかに身を隠しているらしい。

 羽花しか知らないこの存在には、その仕組みは大層都合が良かった。

 このリスの正体を聞かれた際、どのように答えていいかわからない羽花にとって、ハナの存在が周囲にバレることは何が何でも避けたいことだったのだ。



 各々が自室でくつろぎ、体の疲れを癒しているとその声は聞こえてきた。

「朝陽ー、羽花ー?若匡さんがお呼びよ?」

 階段下から聞こえてきた母:千美の声に反応を返し羽花はすぐに部屋を飛び出した。



 同時に呼ばれたのなら当然だろう。

 廊下で朝陽にばったり会った羽花は、

「異門のことかな?」

 そう問いかけた。


「多分な」

 朝陽もそれに答え、二人は共に階段を下りていく。



 そうして辿り着いた地下にある稽古上。

 そこには想像もしていなかった光景が待ち受けていたのだった。



「ーーーーえ?」

「誰?」

 驚く羽花と、疑問符が浮かぶ朝陽。

 両者の異なる反応に頷く若匡。

「やはりそうか」


 若匡の結界内に閉じ込められている幼い体。

 藍色の髪の毛に所々混ざる金色の束が特徴的なこの姿。


 魔物が多量に侵入してきたあの日、それらと一緒に突然現れ、同じ異門へ姿を消したうちの一人。



「どうして、ここに」

 戸惑う声が聞こえ、若匡を不服そうに見つめていた丸い目が羽花に向けられた。



「あ、後継者。

 なんだ鳳莱兄はいないんだ」


 三人の見つめる先ーーーーそこにはあの日とてつもなく強大な力で両家の誇る主砲を捉えた月の使い手の姿があった。




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