表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
破壊先に現れたし多彩な異世界  作者: 桜音愛花
第三章 選んだ道
68/137

新たな任務

「羽花」

 蓮水家・鳳莱家の中央地下にある稽古場で力の放出を極めていると、突然扉を開け入ってきた若匡に声をかけられた。


「はい」

 その神妙な顔持ちに緊張しながら返事をした羽花は発動していた術を解除させ振り返る。

「最近変わったことはあるか?」

「いえ、何もありません」

 羽花の返答を聞いても尚視線を外さない若匡に、羽花も負けじと見つめ返す。

 数秒の見つめ合いの末、先に折れたのは若匡の方だった。


 彼は深い息を一度吐き、口を開いた。


「先日祓った”傀儡”のことじゃが」

「はい」

「羽花から報告を受け、傀儡が上級に属していることは分かっておる。

 他に何か情報はないんじゃな?」

「と、言いますと?」

「魔界の魔物の階級分けの存在は昔から知っておる。

 けれどそれぞれに属する数は未だ情報が無いのじゃ」


 羽花は傀儡と交わした会話を思い出しながら口を開く。

「つまり上級に人数制限があるのか、あるいはある一定の力を持っていれば何人でも上級になれるのか。

 そう言うことですね?」

「ああ」

 若匡は静かに頷き、続ける。



「上級はその名の通り、強い。

 強いというよりも臨機応変に戦い自分有利の展開に引っ張り込む力を持っておる。

 それ故に負けることは殆ど無いのじゃ。


 それ程までに強い奴らが一体何人いるのか、せめてそれだけは知りたいと思ったんじゃが」

「特に傀儡からそのような話は聞いておりません。ただ、」

「ただ?」


「上級の中でも更に位があるのは確かです」

 その言葉に若匡は目を見開き、詳細を促す。

「はい。

 傀儡との会話の最中、同じ上級に対し見下す発言が何度もありました。

 恐らく傀儡は上級の中でも真ん中より上にいたと思われます」

「そうか」

 暫く考え込むような仕草を見せた若匡は、羽花に稽古を再開するよう声をかけた。



 床に座り込み真剣な表情で考え込む若匡を気にしながらも、羽花は自分の持っている術式の精度を高めるべく稽古を始めた。

 コントロール、発動範囲、緩急の差、どんな体勢でも正確にいつも同じように放てる体幹、そもそもの体力と天力量、反射と読み。

 どれをとってもまだまだ伸びしろが多く、羽花のやらねばならないことは減ることを知らない。



 それでもめげることなく稽古に励み、着実に力をつけていく羽花の背中を、若匡はじっと見つめていた。

 初めてこの稽古場に来た日、隣に立つ同い年の少年との圧倒的才能の差を見せつけられ、それでも諦めず時に互いを励まし高めあいながら成長してきた少女は、あの時よりも大きく沢山の物を背負い、前に突き進んでいる。


 決して楽な道ではない。

 ただでさえ過酷な試練を、更なる条件を抱え挑んでいる。


 小さく幼かった少女の成長を感じ、若匡は意を決し立ち上がった。

 その気配に気が付いた羽花は稽古の手を止め、そっと後ろを振り返る。



「羽花」

「はい」

「頼みたい任務がある」

「任、務?」


 羽花がこの世界に足を踏み入れ約十二年。

 今まで課せられてきた任務は十八時から朝三時までの異門の警備。


 そして一度だけ例外として四つの異門に魔物が大量発生したあの任務だけだった。


 いつもの任務であるならば、わざわざこのように言いつけることはしないだろう。

 となると前回のような、緊急事態が起き例外があるのだろうか。

 羽花は緊張のあまり冷や汗が出た。

 そんな羽花に若匡が告げたのは、今までに一度もなかった新たな任務だった。


「異門を封印するのじゃ」


 羽花はその言葉を理解できず、動きを止めた。

 そんな彼女に若匡も声をかけることなく、二人の間には気まずい空気が流れる。


「……え?」

 我に返った羽花の一言目は、まるで聞き間違えたかのような反応だった。

「異門の、封印じゃ」

 若匡は自分のペースを乱すことなく、もう一度はっきりと繰り返す。


「異門の封印………それって不可能だから今までやって来なかったのでは?」

「そうじゃ」

「ならどうして突然、」

「羽花、お前がいるから出来るのじゃ」

「え?」

「異門の封印には正統後継者の証が必要。

 その証を持つ者にしか封印は行えない」


 羽花は左手に刻まれた、何度も見つめてきたその紋様に目を向ける。

 この証が、この証にしか出来ないこと。


「最近異門の様子がおかしいことは知っておるな?」

「はい」

「今まで使われてこなかった入口からの侵入。

 ましてや大量発生。

 早急に対処しなければ、また同じことが起きてしまう」


「あの、」

 羽花は静かに手を上げ、若匡の言葉を遮る。

「なんじゃ」

「今までにも正統後継者はいたんですよね?

 異門を封印出来るのなら、どうして今までそれをしてこなかったのですか?

 封印してしまえば魔物が人間界に侵入することもないでしょうに」


 ごもっともな羽花の疑問は、すぐさま若匡によって否定された。

「異門は魔界と人間界を繋ぐ出入口ーーー悪い存在だと思われているがそれだけではない。

 人間界のバランスを保つために必要不可欠な存在なのじゃ。魔物の侵入さえなければ、の話だがな」


「それ故に必ず一つは異門を開放しておかねばならぬ。

 封印できる異門は最大三つ。

 過去の正統後継者はせめてもの抵抗で一、二、三の異門を封印した」


「しかしここ最近、年月のせいかその封印が緩み、全ての異門から魔物の侵入が可能になりつつある。

 これでは守る範囲が増え、一般人に危害が及ぶ。

 早急に他の異門を封印し直さなばならない」


 若匡は鋭い目で羽花を見つめ再び口を開いた。


「そして今、この世界には正統後継者が存在する」

 左手に視線を落としその鋭い目から逃れた羽花は、戸惑ったように体を動かす。


「今を逃せば次はいつ封印条件が整うかわからぬ。

 全ての条件が揃っている今、早急に行いたい。


 頼まれてくれるか、羽花」


 羽花は視線を彷徨をせながら力なく口を開く。


「因みに封印は、どのように」

「全ては朝陽に伝えてある。到着までに聞くと良い」

「兄に?」

「今回の任務は朝陽、羽花。二人に任せる」

「御意」


 先程よりしっかりと前を見つめた羽花は、若匡からの任務を引き受ける。

 要件を伝え終え自室へと戻って行った若匡を見送り、羽花はそっと息を吐き出した。


 どこからともなく現れたリスのハナはそんな羽花の肩によじ登り、その小さな体を丸める。


「よっ!」

 その時突然視界に入り込んだ朝陽に思わず驚きの声を上げ、しゃがみこむ朝陽の顔を見つめる。

 羽花自身も床に腰を下ろしておるのだが、二人の体格差は明らかでどうしても羽花が朝陽を見上げる構図が出来上がるのである。


「お兄ちゃん……」

「久しぶりに一緒に任務だな」

 雑に頭を撫でた朝陽はそのまま妹の隣に腰を下ろす。



「そうだね」

「羽花ちゃんさ、最近頑張りすぎじゃない?」

 いつの間にか姿を消していたハナを見られてはいないか気になっていた羽花は、そのまま言葉に首を傾げる。


「え?そんなことないと思うけど」

「一週間全身の怪我で寝込むやつが言うセリフじゃない」

 頬を膨らませこちらを睨む兄に思わず吹き出し、羽花はケラケラと笑いながら口を開いた。



「確かに説得力ないよね。

 でも頑張りすぎてないのは本当だよ。


 まだまだなんだ。

 私はもっと上に行かなきゃいけない。頑張らなきゃいけない。もっと、もっと」


 あの日の別れで再確認した自分の夢。

 それを叶えるために自分はまだまだ成長しなければならない。

 自分には足りないことだらけで、誇れるものは何も無い。


 その一心で羽花は稽古に励み、日々技術を磨いていった。


「羽花ちゃん?」

「何?」


 振り返った先にいたのはいつもの優しい笑みを浮かべる兄ではなく、どこか怒りを含んだような目で見つめる兄の姿だった。


【お知らせ】

本日より毎日投稿を再開いたします。

お手隙の際、読んでいただけると嬉しいです!


2021-11-03 桜音愛花

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ