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破壊先に現れたし多彩な異世界  作者: 桜音愛花
第二章 未熟者の挑戦
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操られ者のプライド

 傀儡の背後に出来上がる糸の球。

 まるで繭のように隙間なく生成されるその塊は、止まることなくどんどん大きくなっていく。


 羽花は直感的に思った。

 絶対に触れてはいけない、と。


 未だ衰えることなく膨張し続ける塊を目掛け、鋭い花びらが空中に舞う。

 傀儡の膨大な力による糸。

 それらに対抗する天力を持ちながらも、羽花の生成する花びらはあと一歩のところで適わずにいた。

 

 花びらに触れた糸はその鋭利さに断ち切られそうになるものの寸前のところで耐え、驚く程のスピードで回復していくのだった。


 恐らく普段の羽花ならば、互角に戦うことが出来ていただろう。

 地面に蹲る雪はそっと視線を動かした。


 そこにはもう殆ど残っていない天力を振り絞り相手に対抗する憧れたヒーローの姿があった。


 後ろからの眼差しに気が付かず、ただ目の前の傀儡に全ての意識を向けている羽花は自身の体の変化に気がついていた。


 ーーーー視野が狭い。冷静な判断ができていないことは分かっている。

 天力の放出もあと数分で完全に終わる。

 それまでに目の前のあの人を片付けられるのか。


 とうの昔に限界を超えている体は、立っていられることですら不思議なくらいだった。

 震える全身で、荒い息を繰り返しながら、羽花は状況を変えるべく動き続ける。


 彼女を取り巻くように舞う儚い花びらが突然勢いよく乱れた時、初めて羽花は自分達の戦いへの乱入者に気がついた。


 脳がその存在をハッキリと認識した時には、もう既にその姿は巨大な球体の中に取り込まれた後だった。


「……え、?」

「マリオ!!マリア!!!」

 後ろで叫ぶ雪の声が、力の入らない体を揺さぶる。



 雪の悲痛な叫びが全身に染み渡りながらもどこか放心状態の羽花に届いた声。



「主人の邪魔しか出来ないクズ共が……っ!!!」

 その怒りを含んだ声が聞こえたと同時に、極限まで膨らんでいた球体は勢いよく縮み始め、限界を迎えた時四方八方に弾け飛んだ。

 気球のように大きかったものが、瞬き一つの間に卓球の玉程の大きさに変化したのだ。



 羽花の花びらと共に散り落ちる細かい粒子の中に、つい先程まで見ていた色を見つけ二人は息を呑む。


 黄色、オレンジ色、金色、銀色。

 あの球体の中に姿を消した二人を形成していた色。



「……一度しか使えない最大で最強なこの技を、俺の膨大な力を無駄にしやがっ」

 その時遠くから飛んできた花びらが咲いた枝が、糸を絡めとる指先に掠った。


 ピリッとした痛みとじわじわと滲み出る血液を視界に入れ、恨めしそうに顔を上げる。


「おのれッ」


 ずっと地上で戦っていた羽花が再び空中戦へと足を進めた。


 羽を持たない人間が、自身の体内に流れる天力を使い宙へ浮くなどかなり大量の天力を消耗する。

 万全の状態であるならば何の問題もない行動だが、今の彼女にこの行動をするということは死を意味しているのと同じ。



 それでも彼女がこの選択をしたのは。




『頼みました、蓮水羽花さん』

『ヒーローのヒーロー、期待してます』


 あの二人が横切る一瞬。

 微かに聞こえた二人の声。


 蓮水家七代目正統後継者ではなく、術者:蓮水羽花に任された、彼女達の後の攻防。


 

「私を信じてくれたなら、後悔させる訳にはいかないでしょう」

 目は虚ろ、全身にはもう殆ど力が入らずだらんと脱力しており、至る所に傷を負い流血している。


 彼女の体を保つ骨は、こちらを見上げる傀儡の支配により本来の位置ではない箇所へ向いている。


 それでも彼女は得意げに笑った。


 一人はあまりのおぞましさに鳥肌を立て、その身を震わせた。

 そしてもう一人は、まるで太陽を直に目撃したかのように目を細めていた。



「”賭けてよかった”そう思わせる、絶対に」

 彼女は体に鞭を打ち、一気に駆け出した。


「花属性 従四位」


 ーーーーこれが最期。


 心の中でそう呟き、羽花はこの攻撃の全ての動作を丁寧に行う。


 ターゲットの位置確認、体内の天力の流れの把握、次の動きに備える姿勢。

 今まで何度も繰り返してきた使い慣れた技こそ、大切に、丁寧に。



「綺麗ね」「うん」

 どこからか彼女を称賛する声が聞こえた気がした。


 羽花は笑みを浮かべたまま、自分の体を離れる最後の瞬間まで気を緩めることなく意識を集中させた。


 彼女の持つ術式の中では低級に属するこの攻撃。

 それでも丁寧に、確かな気持ちを込めたこの攻撃は位など関係がない程凄まじい勢いで標的へと進んでいった。


 先程から高難度の攻撃ばかりを使い続けた羽花のこの技に、恐らく傀儡は油断する。

 上辺しか見えていない傀儡には、技の位しか眼中にないだろう。


 先程から羽花が何か術式を発動させる度、位の数字を聞いて反応を見せていた。

 その技の完成度、精度ではなく、ただ単純に位数のみを意識していたのだった。

 三位以上のものには無闇矢鱈に手を出そうとしなかったのだ。

 しかし四位以下のものには術式発動前から強気で攻撃を仕掛けてきていた。


 そのことに気が付いていた羽花は、それを逆手に取る選択をした。

 低級の術式、それでも今までと比べ物にならない程の完成度。

 威力で言うと正三位以上の力はあるだろう。


 最後の一撃が自身の体を離れたと同時に羽花は力が抜けたように地上へと引き寄せられる。

 もう抵抗する気力がない羽花は、体に走るであろう衝撃に備えギュッと目を瞑る。

 いつになっても襲ってこないその痛みに、恐る恐る目を開ける。



 体を覆うようにふかふかの白い雪が、まるで柔らかいマットのように羽花の体を支えていた。

「ッ、雪」

 その力の持ち主である少年を視線だけを動かし探すが、どこにも見つからなかった。

「…、ゆ、き?」

 痛む体を起こそうとするが当の昔に越えた限界、それに加え死ぬ気覚悟の無茶のせいで羽花の体はもう自分の意思では一ミリも動かすことは出来なかった。


 唯一動かすことが出来る視線で周囲の状況を確認すると、そこには最悪の事態が起こっていた。



「あ、」

「わかっていたよ」

 自分の足元の方向ばかりを気にしていた羽花の顔に影が出来、その姿は現れた。

 勝ち誇ったかのように笑みを浮かべる彼の表情はまるで先程の羽花のようだった。


「君がもう限界を迎えていること、攻撃を連発出来ないこと、俺のことに気が付いていること」

 一、二、三……指を折る傀儡は真下にある羽花の顔を見下ろしながら吐き捨てた。


「馬鹿なこと」

 指を立て真下を示すそれは明らかに真下に横たわる羽花を指していた。


 悔しさからか、屈辱からか。

 羽花は口を開こうとするが、既に呼吸すら危うく言葉にならない音だけが空しく響く。


 傀儡の周りをうようよと靡く糸は気持ちが悪い程束となり、ある一点を向いていた。

 柔らかそうに泳いでいるが、先程自身の体を操っていた物とは違うことは一目瞭然だった。

 先程より明らかに太く、そしてどこか芯のようなものがある。

 動きとは対照的な固そうな材質のそれは、触れてしまえば切り傷だけでは済まないだろう。



 荒い呼吸がより浅くなり、目の前が霞む羽花はその糸の動きをぼんやりと追う。


 ーーーーこの対処法、選択肢。


 一、どうにか食いしばってあの糸を避ける。

 いや、無理だ。先程の空中戦での攻撃が本当に最後の天力だった。

 何度も土壇場で力が漲るほど、現実は甘くはない。

 現に全身が自分の物ではないかのように重く、もう自分の意思で動かすことは出来ない。



 二、天睛班に応援要請をする。

 これが一番確実な方法だろうか。

 この身の危険には間に合わなくても、傀儡を仕留めるにはきっと最適な選択肢。

 霞む視線は無意識に、手首を覆う輝かしいブレスレットへと向いていた。


 しかしこれには命の危険と同時に、羽花にとって最悪な条件も付属していた。

【他の術者の応援要請=ここにいる全魔物の抹消】

 傀儡が現れて真っ先に選択した、雪を守るための選択を覆すことになってしまうのだった。



 羽花は考える。諦めない方法を。

 しかしどう足掻いても、待ち受ける結果は自分が命を落とすことが前提の物。

 羽花の選択肢は『雪』の今後を左右するものだった。


 ーーーー情けないと思うよ。

 世界を壊すだなんて言っておいてこの様だもの。


 偉そうなことを言っておいて、新しい道に踏み出した瞬間に失敗。

 即ゲームオーバー。


 優雅に靡いていた糸は一斉に動きを止め、横たわるこの世界で最高級の食料を目掛け動き出した。



 やっぱり正統後継者は私には務まらな、


「三、だよ。お姉ちゃん」

 鋭い糸はためらうことなくその体を貫いた。


 大量の血を流し、既に限界を迎えていたその体はその衝撃を素直に受け地面に叩きつけられる。

 そのまま動きを止めたその姿を目にしたものは、体の痛みに耐えながら泣き叫ぶ。




「いやあああああああああ」





職場のハロウィンに向けて10/30(土)も投稿をお休みさせていただきます。

予め謳っていた日は変更なくお休みです。


イベント事に関する職なので、この先忙しくなりますが頑張ります*


2021-10-28 桜音愛花

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