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破壊先に現れたし多彩な異世界  作者: 桜音愛花
第二章 未熟者の挑戦
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 夢を見た。

 自分の体のはずなのに誰かに支配されているかのように思いどおりに動かせない夢を。


 視界も、何かに触れた感覚もしっかりあるというのに、何故か思っていることを口にすることも、自由自在に動くことも出来ない私は、まるで糸に繋がれ動きを制限される操り人形のようだった。


 以前も一度、このような感覚に陥ったことがある。

 あれは九年前、まだ六歳の時だった。

 初めて二人だけで任務に行き、惨敗したあの日もこんな感じだったっけ。


 夢か現実かもわからず、ただ体に走る痛みがこれは夢ではないと懸命に知らせる。

 けれど羽花はこの出口の見えない迷路を突破する道を見つけられずにいた。


 そんな時聞こえてきた声。

 あの時みたいに、自分のことを大切に思ってくれている声が聞こえる。



 先程から聞こえてくるのは”忌み子”、”無駄”、そんな言葉ばかりだった。

 羽花にはわからなかった。

『何故忌み子は駄目なのか』

『何故無駄だと言われなくてはいけないのか』



 傀儡と呼ばれた男の言葉に着実に怒りを募らせていると、ぼんやりとしていた意識が段々覚醒してくるのを感じた。



「僕は魔物が嫌いだ!!!」


 その言葉に羽花は少しホッとした。

 人間に個性があるように魔物にもそれがあるのだ、と。



 ひとまとめに”人間”と呼んでいるけども、一人一人をじっくり見ていくと顔が違う、体型も違う、性格も違う、好みも違う、育ってきた環境も違う、経験してきた事柄も違う。


 異なることばかりで、世界には七十八億人を超える沢山の人間がいるというのに全く同じ者は誰一人としていないのだ。


 それは魔物にとっても同じなのだ、と。


 雪と出会ってはっきり断言出来る。

 一概に『魔物は皆同じである』と言っていいものなのかずっと頭の中にった疑問。

 答えは否だ。



 羽花はそれを否定する道を選んだ。

 現に昨日出会った少年は、魔物であるのにも関わらず人間を襲う意思はない。

 そして魔物に仕えていた二人ーーーー力を所持していることから魔物に分類されるが、その二人も恐らく雪側の存在だろう。


 少なくともこの三名は、私達が代々戦ってきた魔物とは違うわけでーーーーもしかすると魔界には他にもこのような考えを持つ者がいるのかもしれない。

 そのことは羽花の心を少しだけ和らげる。



 徐々に取り戻しつつある自分の体に微量の天力を流し、その時を待つ。

 完全に覚醒するまでの間、羽花は外の音に耳を傾けていた。


 聞こえてくるのはまるでついこの間までの自分を表すような言葉だった。


 雪の心の叫びに共感し、発生した胸の痛みを必死にこらえた羽花は、不平等な世界で戦う彼らの元へ一刻も早く辿り着くために準備を始める。



「私が望むのは平等な世界」

 体を支配され恐怖におののいていた昔の自分とは違う。

 ただ誰かの助けを待っていたあの時とは違う。

 羽花は口元に笑みを浮かべ、勇敢な弱者の元へと急いだ。


 ーーーー忌み子がどうした、無駄な命がどうした、独りがどうした。弱者がどうした。



「弱者は落ちこぼれなんかじゃない。

 弱者には”これから強者になれるって特典”がついてるのよ」


 残り僅かな天力を徐々に、それでいて確実に狙い定めた箇所に集めていた羽花はその力を放つ。


 勢いよく流れた天力により、彼女を支配していた複数の糸ははらりと切断され、悲しげにゆらゆらと風に吹かれている。



 自らの力で自我を取り返した羽花は、そのまま自分よりも小さな三つの命を優しく抱きしめた。

 しかし羽花には油断している暇はない。


 たった一瞬、三秒にも満たない短い時間、三人を強く抱き締め体を離す。

 呆気に取られる三人を背に庇うように立ちながら、疲労と痛みで震える体に鞭を打った。



 ※ ※ ※ ※


「誰が何と言おうと、私は無駄だとは思わない」

「ふん、何をほざいて」

「それに」

 傀儡の胸から巨大な木の幹が現れるのを羽花は鋭い目付きで確認しながら叫んだ。



「自分より上の相手に何度も立ち向かって、

 誰かを守ろうと自分を犠牲にして、

 不安を振り切り新しい道へ足を踏み出して、



 そんな人達が弱いはずがない!!!」


 その言葉に顔を顰めた傀儡は、自らの胸から伸びる木を強引に折り、乱暴に抜いた。

 あまりの痛さに咳き込んだが、すぐにその傷口は回復しニヤニヤと気味悪く笑う。


「……何、?」

 相手の異様な空気を疑問に思い、羽花は訝しげに伺った。


「いや、つづけたまへ」

 目を閉じ、ゆっくりと首を横に振る傀儡はそのまま耳を傾けるかのように深く呼吸をした。


 相手に意識を向けたまま、素直にその指示に従った羽花はただ一言、一番伝えたかった言葉を口にする。



「部下に指示を出すだけで自分は高みの見物。

 終いにはその部下に寄り添うこともせず、見放すだけなんて貴方の方がよっぽど弱いじゃない」


「…………」

「お姉ちゃん…」

 何の反応も見せない傀儡に対し、後ろの雪はぽつりと声を漏らす。


「誰かの上に立ちたいのなら、まずは信頼される人になるべきだと私は思う。

 周りの人達が『この人の為に働きたい』『この人について行きたい』と思う様に。


 あなたのしている事はただの洗脳。

 圧倒的実力で周りを脅すただの独裁者よ!!」



 大声で叫びすぎたせいか喉に違和感を感じ咳き込む少女に、マリオは思わず立ち上がろうとするが、それを雪は引き止める。


 驚いたように振り返ったマリオは真剣な眼差しで前を見つめる雪の表情を見て、何も言えず静かに腰を下ろした。


「少なくとも、」

 打って変わって静かで、落ち着いた声が響き渡る。


「少なくとも私達の頭は周りに好かれる、そんな人」


「驚くほどの実力がある、周囲を冷静に分析できる精神もある、高い能力に引けを取らない体がある。

 私達はまだまだ足元にも及ばないほどの術者。


 それでもそれを威張ることなくいつだって私達と対等な存在でいてくれるの。


 忙しいはずなのに、昔から何かあれば必ず私達のために時間を作ってくれて親身になって話を聞いてくれる。


 時に優しく、時に厳しく。

 私達がこの世界で負けないように、自分の持っているもの全てを隠すことなく教えてくれる。

 のびのびと成長出来る舞台を作ってくれる。


 だから私達は皆、あの人について行きたいと心から思ってるの」


 心を、体を落ち着かせるように深く息をした羽花は、傀儡に対して眩しいほどの笑顔を見せた。


「私達の頭、すごいでしょう?」

 傀儡は羽花の表情を見なくても声だけでわかってしまった。

 どれだけ恵まれた環境にいるか、どれだけあの男のことを信頼しているのかを。


 傀儡は一度だけ会ったことのある鳳莱若匡のことを思い出す。


 ※ ※ ※ ※ 


 もう何年前のことだか思い出せない程遠い記憶。


 一度だけ俺は、人間界の術者:鳳莱若匡に遭遇したことがある。

 一目見ただけでわかったーーーー「この人にはえ勝たず」と。


 人間よりも魔物の方が力がある、体格も恵まれている、急所を覗いて怪我の再生が可能。

 明らかに自分の体の方が有利であるはずなのに、彼の放つオーラがその全てを否定する。



 戦いを挑めば即終了、瞬く間に死を迎えることなどわかりきっていた。

 だから逃げた、あの男に背を向けた。

 だからあの時の男のことは何一つ知らないのだ。


 そんな奴の弟子が、今目の前にいる。

 直属の孫ではない、血の繋がりがないことは知っている。



 あの男から学び、それに加え天から選ばれた後継者。

 あの男を心の底から信じている純粋無垢なこいつを、俺は自らの手で殺したい。



 俺を否定するものは何が何でもこの手で。



 ※ ※ ※ ※ 



「いかがならむな」

 傀儡の言葉に目を丸くした羽花は、不思議そうに首を傾げた。


「上に立つ者の資格?そんなことはどうだっていい。

 俺は自分の理想の世界を描くために使える駒はどんな奴だって拾い集める。


 全ては俺のためにある。

 俺の理想を叶えることが、所持する全ての駒の幸せに繋がる」


「……え?」


「主人の幸せを喜べないものはただの屑だ」


 俯く羽花の顔を隠すように艶のある前髪が垂れる。

 表情の見えない彼女だが、固く握られた拳は今の心情をはっきりと表していた。


「わかった、貴方本当に向いていないよ」

 眼球を目掛け飛んできた糸の集団をバッサリと切り刻み起きれた顔を見せる羽花に傀儡は口角を上げた。


「それではその審議を兼ねて、第二試合といこう」

 傀儡は未だ有り余る力を集め、勝利を確信したかのように不気味な笑みを浮かべていた。

お知らせしていた通り26、27日の更新をお休みさせて頂きます。

また28日より更新してまいりますのでよろしくお願いいたします*


2021-10-26 桜音愛花

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