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破壊先に現れたし多彩な異世界  作者: 桜音愛花
第二章 未熟者の挑戦
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まさりおとり

 宙に浮かぶ人形ーーーーこの世界を任され日々鍛錬を重ねてきた少女はあろうことか敵に身を支配されるという屈辱を味わっている。

 しかし先程から気息奄奄な様子で、思考が伴っているのかもう判断することすら出来なかった。



「な、んで…!!!」

 雪は苦しそうに顔を顰め、左手を地面に打ち付けた。

 先程天まで高く隆起していた雪は何事も無かったかのように辺り一面に積もっており、そんな雪の拳を優しく包み込んだ。



 その後ろにいるマリア、マリオもまた後一歩のところで触れられなかった正統後継者の姿を見て表情を曇らせる。

 二人にとって蓮水羽花を助ける義理はない。

 二人が悔いているのは羽花を助けられなかったこと、つまり雪を悲しませる結果になってしまったことが何よりも心を締め付ける。



「忌み子……お前の中を流れる血は確かにすごい。それは認めよう」

「ただ、」


 傀儡は重心を後ろに傾け、その反動で人形の体を前へと吹き飛ばした。

 勢いよく飛び出した体は、そのまま雪を目掛け一直線に進んでいく。

 


「第六陣、」

 傀儡の攻撃を躱そうと咄嗟に力を放出しようとしたが、飛んでくる姿を視界に入れた時ほぼ反射のようにその動きを止めた。



 ーーーー出来ない。



 雪には先程の攻撃で自分の力の全てを失い、もう攻撃をする気力は持ち合わせていない。

 そして何より、自分の大切な人に傷をつけるなど天と地がひっくり返ってもありえない事だった。



 その事に気がついた雪はゆっくりと手を下ろし、飛んでくる傀儡の攻撃を受ける選択をした。



「え?」

「雪くん!?」

 後ろで驚く声が聞こえるが雪の視界はただ真っ直ぐ、自分に向かってくるその姿に釘付けだった。



 ーーーー今のお姉ちゃんは傀儡によって作られたものだ。

 本当はあんな奴に操られていることは許せないし、すぐにでも助けたい。


 けどもう僕には傀儡の攻撃を避け、同時にお姉ちゃんを助ける術はない。

 それならお姉ちゃんの姿に殺された方がよっぽどいい。


 耳に届く全ての音をシャットアウトし、雪はそっと目を閉じた。

 思い出すのはずっと独りだったあの暗くて寒い思い出では無く、僅か数ヶ月前に出会ったヒーローの姿だった。



 ーーーー最後にこの姿を見れただけでも充分だ。

 あとは任せたよ、二人共。



 差し伸ばした手を掴んでくれた二人に自分のヒーローの命を託し、雪は美しく微笑んだ。



 人形となった羽花の指先があと数センチの所まで来た時、その声は聞こえた。


「………ッ、やっぱり、ダメだ!!!」

 突然の乱入者に勢いを失った人形はドサリと音を立て雪の中に身を沈めた。



「チッ」

 一度目を見開き不満を顕にした傀儡は、伸ばされた雪の手が触れないうちに横たわる人形を回収した。

 ズルズルと引き摺られる羽花の体は真っ白な雪を掻き分け、それとは対照的に肌を真っ赤に染め、傀儡の足元に辿り着く。



 辿り着いたと同時にその体を迎えたのは罵声と痛みだった。

「この役立たず!!

 もっと俺に貢献しろ、俺のために動け、俺の盾となれ!!」



 すっかり動きを見せなくなった人形に腹を立てた傀儡は手にした棒を振り回し、叫ぶ。

 身体中を支配する糸により、沢山の障害物にぶつかる羽花の体は至る所に痣を作り、可憐な彼女の姿とは遠くかけはなれたものとなっていた。


 目の前でそんな光景を繰り広げられ、雪の心はもう光を失っていた。


 彼女を救えない無力な自分。

 もう一ミリも動くことが出来ない体。

 光を失った心。


 その全てを否定するかのように雪の大きな目からは滝のような涙が零れ落ちる。

 音もなく流れるそれに、雪を庇うように立つ二人は気がついていない。


 ーーーー僕は、どう足掻いても僕だ。

 強くなんてなれない。悲劇のヒーローになんてなれるはずがないんだ。

 弱いやつは一生弱いまま。生まれた時から違う、上に立つ者は生まれた時から既に違っている。



「無駄な命だったなぁ、忌み子。

 次は愛情を貰えることを願ってるよ」


 ニヤニヤと気味悪く笑いながら再び手元を動かす傀儡によって羽花の体は勢いよく三人に向かって進む。



 マリアは迷っていた。


 ーーーーさっきは後継者が自滅してくれたから助かったけれど、次もそうとは限らない。

 雪くんに『絶対お姉ちゃんを守って。傷つけないで』と言われている私達に、あの攻撃を防ぐ術なんて、



 マリオは決めていた。


 ーーーー雪くん、ごめんなさい。

 君にとってあの人は大切なヒーローかもしれない。

 けれど僕達のヒーローは貴方なんです。

 僕達にとってどちらが大切か。

 怒られるのは重々承知、もう信用されないかもしれない。

 それでも僕は貴方の命をお守りしたい。


「裏切り者のゴミ共、親に捨てられ誰にも相手にされなかった忌み子。


 その三者の無駄な人生の終着点を祝して」


 沢山の感情が渦巻くこの空間。

 先程もあった同じ光景。


 傀儡が操る人形は鋭い角度で方向を変え、三人との距離を詰めた。

 あと数十ミリ。

 受け入れ目を瞑る者、困惑し慌てふためく者、攻撃を避けようと決意した者。


 多大な衝突を目前に、突如起こった予期せぬ事態。


「何、故?」

 先程まで嫌味ったらしく笑みを浮かべていた顔が一変、目の前の事実に目を見張り、傀儡は驚きながら口を開いた。



 勢いを殺すことなく三人に突っ込んだ羽花。

 少し離れた地面に膝を着いた彼女はボロボロの身で三人を抱き抱えながら言った。


「この世に無駄な命なんて一つもない」


 ようやく立ち上がった羽花は抱えていた三人を離し、荒い呼吸を繰り返しながらも自身の使命を達成するべく足を踏み出した。



「どんなに自分の存在がちっぽけだとしても、周りから疎まれようと、その人は絶対に産まれてくるべき人だった」


「はっ、何を言ってる。

 存在を認められないやつはただのゴミだろう?」


「存在が認められないなら、自分で証明したらいい」


「そもそもそいつらに価値なんてものはない。無駄な存在だ」


 雪は、三人を庇う憧れの背中を見つめた。


「お、姉ちゃん…」

 力の全てを使い果たし、その疲労からくる震えに耐えながら雪は涙を流す。

 悲しい涙でも、悔しい涙でもない。

 目の前に立つ少女の、あの日から変わらない格好良さの感動から来る涙だった。



「生まれた時スタートラインはみんな同じ。


 裕福な家だろうと、例え貧しい家に生まれたとしても、

 命の重さは変わらない」


 手持ちの駒を無くし、攻撃の術を失った傀儡はずっと手にしていた棒を投げ捨て、羽花に向かって拳を上げた。

 その手に怯むことなくいとも簡単に避けた羽花は、気に止めることなく続ける。


「どうして尊い命を比べようとするの?


 一般人だから、術者だから、正統後継者だから。

 だから何よ、全部同じ命だべや。


 お金があるから偉い?頭が良いから偉い?運動神経がいいから偉い?友達が多いから偉い?地位があるから偉い?」


 何度振りかざしても一向に当たる気配のない自らの拳に苛立ち、傀儡は小言のように暴言を吐き出し続ける。



「”優良”か”劣悪”か、どうして決めなきゃいけない。

 そんなもん人それぞれの個性だべや!!!!」


「個性のない人間ほどつまらない物はない!!


 一人一人得手不得手が違う、考えることが違うからこそ、

 互いに学び合い、惹かれ合い、関係が生まれるんでしょ?


 それを少し得ている物が多いからって見下すなんて、」


 先程から避け続けた拳。

 初めてその拳に自ら触れ、術式を発動させる。


「花属性 正三位 桜花爛漫」



「劣悪のプライド馬鹿にしないで!!!」

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