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破壊先に現れたし多彩な異世界  作者: 桜音愛花
第二章 未熟者の挑戦
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 マリアの言葉にハッと目を見開いたマリオだが、何かを払拭するかのように頭を振り声を荒げた。


「知らない……知らないよっ!!!」

 固く握られた拳をマリアは一瞥し、彼に背を向ける。

 彼女の視線の先にはそんな二人を見つめる幼い少年の姿があった。


 自分を置いて行こうとするマリアに気が付き、彼の脳裏にはあの日の光景が過る。


『要らない物』


 マリオは歯を食いしばり腹の底から叫んだ。

 当然その声は主人である傀儡にも丸聞こえだったが、彼はどこか放心状態で何の反応もなかった。


「どうして?どうして何かをしようとするの!?

 新しいことを始めたら絶対に失敗する。うまくいくはずなんてない。


 僕はもう二度と傷つきたくないんだ。怖いんだ」


 ”怖い”

 彼の心を映しだすかのように小さく震えていたその声は、白い雪の中に吸い込まれていく。


「今の日常はもう習慣みたいなものだ。失敗することは殆どない。

 それなら今のまま、このままずっと同じようにいたらいいじゃないか!!!


 どうして平穏な日常を自ら壊そうとするんだ!!」


 地面に張り付く足を必死に動かし、マリオはずっと隣で過ごしてきた小さな体に触れた。

 華奢な肩、この体で沢山の相手と戦ってきたーーー三人で一緒に。


「僕は変化なんて求めていない!!!」

 自分の思いを吐き出すことに必死で己の拳にどれだけの力が入っているか、マリオにはわからなかった。

 強い力で肩を掴まれているマリアはその痛みを噛みしめていた。


 ーーーーこれはマリオの心の叫び。私に受け止める責任がある。


 静かに目を閉じたマリアの心の中には、マリオと過ごしたかけがえのない時間が刻まれていた。

 他愛もない会話で笑いあったこと、同じ主人に仕えたくさん怪我をしたこと、心が折れそうになっても必ず隣にいたこと。


 数えきれない程の沢山の思い出が今でも鮮明に思い出される。


 ーーーー私の大切な人。




 けれど、



 次の瞬間この公園内には何かをはじくような乾いた音が鳴り響いた。

 放心状態の傀儡を除き、殆どがそれに目を見開く。


「………え?」

 痛みを感じた右手を逆の手で覆ったマリオは、驚いたように動きを止めた。



 ーーーーけれど、同調するとは言ってない。


「いい加減現実を見なさい。マリオ」

 振り払われた手に向けていた視線を上げると、そこには鋭い眼差しを向けるマリアがいた。


「私達はもう、傀儡様に愛情を向けられることはないのよ」

「そんなことっ!!」

「もう気づいているんでしょう?

 それならいい加減一歩踏み出しなさい、マリオ」

「ッ……」

 口を噤んだマリオに、マリアは落ち着いた口調で声をかけた。



「あの日私達を救ってくれた、私達に光と希望を与えてくれた傀儡様はもういない。

 私達は三人で共に戦ってきたわけじゃない」


 どんな時だって戦いの最前線にいるのは私達二人。

 傀儡様に良い様に操られ、負傷しようが折れ曲がろうがお構いなく相手が消えるまでその糸は私達を導く。

 傀儡様は離れたところからその光景を見ているだけ。まさに高みの見物。


「いつだって犠牲になるのは私達でしょう?」

 その時マリオは初めて見るその姿に目を奪われた。


「私もうそんなの嫌なの」

 マリアは泣いていた。

 初めてみる彼女の姿だった。


 ボロボロにやられても、酷い怪我を負っても、過去の悲しい出来事を話している時でさえ涙を流さなかったマリアが、音もなくハラハラと涙を流していた。

 思わず伸ばした手はその儚い姿に触れることはなかった。

 何故なら彼女が一歩足を踏み出したからだった。


「あの日捨てられて、燃やされ姿形が無くなる寸前で助けてくれて、こうして動いたり話したりする能力を与えてくれたことは今でも感謝してる。

 けれどせっかく手に入れたこの機会、私は踏みにじられて終わりたくない」

「マリア、」

 マリオは空を切った手を静かに戻し、指先を絡ませた。


「私の人生は私のものだもの。後悔なく終わりたい。


 薄情かしら、これだけ恵まれたものを貰っておいて。

 でも私はこれも自分の力だと思う。だから好きなように使わせてもらいたいの。


 マリオの現状維持も間違っていないと思う、それも大切な一つの道だから」


「けれど私は先に行くわ、マリオ。


 可能性があるのに立ち止まっているなんて勿体ない。

 時間は”無限”ではなく”有限”なのだから。

 限りあるこの現在(いま)を私は私のために使いたいの」


 流れる涙を拭わないまま微笑んだ彼女は、とても綺麗だった。

 その天使のような儚く尊い彼女は、その白い手を真っすぐ伸ばし言った。


「私と一緒に来ない?」

 自分に向け伸ばされた手に無意識に手が伸び、気が付いたマリオは慌ててその手を引っ込めた。

 今にも消えてしまいそうな彼女を繋ぎとめるかのように無意識に伸びた手。


「でも、僕は……」


 マリアは差し伸べる手と逆の手で自身のお腹を優しく撫でた。

 まだズキズキと痛むそこは、今の自分を作り出したきっかけだった。



「どっちにしろ危険(マイナス)が伴うなら、私は新しいプラスを求めて歩き出すだけよ」

「どっちも……」

「それに失敗は怖いけれどしてはいけないなんて誰も言っていないでしょ?」

 その言葉と同時に、マリオは自分よりも小さな手を掴んでいた。


「失敗しても何度だって挑戦したらいいじゃない。

 失敗だって大切な、成功までの道なりなのだから。


 やらずに後悔するより、やって後悔する方が私は好きよ」

 マリオ、あなたは?、そう言って笑う彼女につられ笑みを浮かべたマリオはギュッと強くその手を握り締めた。



 ”失敗”

 あの子供と出会ったことは失敗だったのだろうか。

 傀儡様と出会ったことは失敗だったのだろうか。


 それでもその失敗が無ければ、僕はこの力を手に入れることは出来なかったし、この小さな手と出会うこともなかった。

 こうして自分を導いてくれる存在と出会わなければ、自分を変えるきっかけはなかったかもしれない。

 もしあったとしてもずっと先のことで、こんなに早く足を踏み出せなかったかもしれない。



 傀儡様を裏切るこの行為は失敗に入るだろうか。

 それでも僕はーーーー


「いいの?」

 強く握られた手を握り返し、マリアは尋ねた。


 ”私を選んでいいの?”


「うん」

 一つになった手を自身の胸に当て、マリオは嬉しそうに笑った。


「成功の瞬間、君には隣にいて欲しいんだ。マリア」

 その手に優しく口づけ、マリオは歩き出した。


「何度失敗しても、僕は君と一緒なら何度だって歩き出せる。

 君と一緒ならきっと僕は強くなれる、怖さだって乗り越えられるんだ」


 晴れやかな心、そして決意した凛とした表情で雪の前に立ち止まった二人は、赤く染まった目を見つめた。


 雪はそんな二人に微笑み、告げた。

「ありがとう」


 生まれて初めて自分に投げかけられたその言葉に二人は頬を緩めた。


『やったあ!”ありがとう”、お爺ちゃん』

『えっ、プレゼント!?”ありがとう”』

 記憶に眠るその言葉が自分に向けられる日が来るなんて思わなかった。


「ありがとう……」

 雪の話を聞きながら、マリオは小さく呟いた。


 ーーーー僕と、出会ってくれてありがとう。



 一通りの作戦会議を終えた三人は、深く呼吸をし前を向いた。


 痛み、悲しみ、絶望を味わった者達。

 恵まれている者にはわからない感情を知り、それらより大きな糧を得た選ばれし者達。


 良い経験とは、何もプラスの出来事だけではない。

 例えマイナスな要因であっても、自分を作る大切な経験の内の一つなのである。


 沢山のマイナスを受け、深い傷を負った者達が今、自分を作る全ての時間を武器に立ち上がる。

 さあ時は来た。


 プラスを求めるマイナス達の反撃が今、この場所で始まった。




【お知らせ】

再び毎日投稿お休みのお知らせです。

10/26(火)、27(水)私用により

10/31(日)~11/2(火)ワクチン接種により

上記期間、毎日投稿をお休みさせて頂きます。


それ以外は再び投稿していきますので、お手隙の際に読んで頂けると嬉しいです*


2021-10-22 桜音愛花

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