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破壊先に現れたし多彩な異世界  作者: 桜音愛花
第二章 未熟者の挑戦
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マニピュレイト

「裏切者…」

「君の連れはー、もう死んでるんだっけ?

 だから歴代正統後継者の中でまだ生き残っているのは君ばかりぞ」


「ッ、」

 一瞬集中を切らした羽花の肩に、一つの人形がぶつかった。

 不意を突かれたその衝撃に羽花は思わず声を上げたが、よく考えてみるとぶつかった痛みは微塵も感じられなかった。


 ーーーーこれなら、いける。


 羽花は数秒経っても何も起こらない自分の体を確認し、勢いよく男に詰め寄る。


 あの二体の人形がぶつかったからと言って、体に何も変化はない。

 痛みが遅れてくるわけでもなく、毒が回っている様子も感じ取れない。

 つまりこれは男への攻撃を妨げる、ただの足枷に過ぎない。


 羽花は容易に避けれる人形の単調な攻撃のみを回避し、複雑な体の動きを要するものは全て天力で強化した自身の体で受け止めた。

 それでも体に走る衝撃が完全に無くなるわけではなく、羽花はその痛みを紛らわすかのようにただひたすら目の前の異様なオーラを放つ男に意識を向け続けた。


 ーーーー行ける。この距離、発動範囲内…!!!



 男の立ち位置から約八メートルの上空。地面に立つ男を見下ろす位置についた羽花は、左右の手を組み合わせ術式を発動させる。


「花属性 正三位 空花乱墜」


 人形の動きを決めているのは男の操る糸の影響。

 それならば男を仕留めてしまえば持ち主がいなくなった人形の動きも止まらざるを得ない。


 今、この瞬間なら仕留めなければいけないターゲットはただ一人。

 以前から使っていた術式を、より高度なものへ。

 最近羽花が挑戦している課題の一つでもあった。


 本来、術式は各属性によって位が決められており、低級術者だとしても高位の術を習得することは可能である。

 しかし”下”よりも”上”、”二”よりも”一”の方が難易度は上がるため、誰しもそう簡単に習得できるものではなかった。


 それに術式を習得したからと言って、それで終わりではない。

 位こそ変わらないが、術式自体にもある程度の強さの範囲があるのだった。


【一】、広域・低精度

 恐らく習得した時点の発動はこのパターンが一番多い。

 言ってしまえば、一番簡単で使いやすい天力の解放である。


 広範囲なため遠くにいる相手にも有効だが、その分天力の作用は弱まるため相手へのダメージは少ない。


【二】、狭域・高精度

 一の段階を使いこなせるようになった術者が、その術式をより極め辿り着く。

 前と比べ範囲は格段に狭まるが、その分天力が濃縮されるため相手へのダメージが大きい。

 ただし、濃縮された天力の解放は術者にかなりの負荷がかかるため、それに耐えきれる体幹強化、そして威力の高い天力を狙い通りに放つコントロールが重要になってくる。



 そして何より難しく、それでいて攻撃威力が高い術式の最高峰。

【三】、広域・高精度

 これは言うまでもなく、一よりも広い範囲を二よりも高い精度の天力で発動させることが出来るものである。

 しかし二と比べると難易度は跳ね上がるため、大抵の術者は二の段階まで極めることを目標をしており、大事な戦闘、ここぞという時の一発のためだけに温存されているのがこの三であることが多い。



 正統後継者:蓮水羽花。花属性の正三位に属する術式【空花乱墜】。

 一の効果を既に習得し、実践で難なく使いこなしている彼女は、更なる上の舞台へと稽古を重ねているところだった。


 そして今、初めて実戦で使用されたこの技は以前よりも鋭い威力で男に向かい一直線に飛んでいった。


 グサッ


 目にも止まらぬ速さで空間を切り裂いた枝は、コンマ数秒の間に男の胸に突き刺さっていた。

 練習では失敗することがなくなった技の成功に、羽花はフッと肩の力が抜けた。


 ーーーー少しだけ右に逸れたけど、合格範囲内。

 これなら実戦で充分使い物になる。


 止めを刺すかのようにもう一度狙いを定め、天力を開放させる。


 体内の血液と共に熱く流れる天力が羽花の指先に集まる。

 体の主導権を持つ羽花のタイミングで放たれたそれは勢いよく飛び出し辺り一面を覆い隠した。


「…え?」

 その光景に困惑の声が上がった。


 視界が妨げられたこの空間で、自身の力に笑みを浮かべる者がいる。

 二人の表情は対照的だった。

 相手の戸惑いの声を聞き、更に調子を上げ力を加えた。


「をかしきことかな」

 体の目の前で高速で動く彼の腕は残像のせいか、まるで千手観音のように複数の腕が生えているようだった。


 ギ、ギギギ、グンッ、グリン


 嫌な音を立て、彼の操る人形は姿を変えていく。

「清げなり、めでたし」


 腕は左右非対称に曲がり、足は内股に動かされ、顔は男から背けられどこか遠くを眺めている。

 人形は指先の細かいところまでも、男の思うままに動かされ、一本一本おかしな方向へ向けられていた。


「人形は、僕の心を映す鏡だ」

 自分の理想を追い求め、試行錯誤を繰り返し、微調整を重ねていく。


「僕の理想が現実になって現れ、僕の作品となって、大勢の目に映る」

 グイ、グキッ

「大勢の心を奪い、感動させ、心を豊かにする」

 ギギギギギ

「大勢の心を奪った人形は、沢山の愛を貰い喜びを知る」

 グリッ、ググッ

「そして愛情を貰った人形は、より豊かな心を持ち、更なる美しさを手に入れる」

 最後の仕上げに男は棒を頭上に掲げ、一回転させた。


 持ち主の動きに従った美しき人形は、くるりと衣装を揺らしながら回転し、動きを止めた。


「美しい人形は持ち主に愛され、いつまでも大勢の前で輝き続ける」


 男はせわしなく動かしていた手を止め、空を見上げた。

 その顔には恍惚な表所が浮かび、人形を見つめる瞳はまるで恋をしている少年のように純粋なものだった。


「出来た…」

 一息吐き出した男はその目を細め満足そうに呟いた。


「なほ清いげなり。我は天才なり」


 最後の仕上げに男は手にしていた棒を片手にまとめ、空いた手の指を動かした。

 棒をまとめたことにより人形は従順に形を変えた。


 男の動きに合わせ、後ろで束ねられていた髪の毛がはらりと落ち、綺麗な艶髪が月の光に照らされる。

 よく見かける可愛らしい人形のように耳の上で二つに束ねられた髪の毛は、さわさわと吹く風に靡き輝きを増した。


 男の力だろうか。

 どこからともなく現れた赤いリボンをあしらった人形は、とても可愛らしく目を惹く容姿をしていた。

 懐から一つの塊を取り出した男は、歪な形をした人形の手のひらにそれを投げ渡した。


「やはり似合っているな、ぴったりだ」



 ツインテールが似合う可愛らしい人形の手元には、つぶらな瞳の小さなリスが握られていた。


「久しぶりの再会かな」

 男は懐かしむように寄り添う二つを見つめ、目を細めた。

 その姿はまるで我が子を見守る親のようだった。


「さぞ嬉しからむな。マリオ、マリア」

 問いかけられた二人は、男を見上げそっと口を開いた。

「そうですね。傀儡様」

 二人もまた、宙に浮かぶ可愛らしい人形を見つめながら答える。

「きっと沢山の方に愛されますよ」

「私達のように」


 その時、真っ白に染める地面から呻き声が聞こえてきた。

 真っ平だった地面は、突如ぼこりと盛り上がる。

 体を起こしたその少年は、グラグラと首を動かし真上を見上げようやく目を開けた。


 少年は真っ先に視界に飛び込んできた光景に目を見開いた。

 その目は先程と変わらず、光の欠片もない漆黒の闇の中と変わらない。



 自分の真上で宙に浮かぶ人形は、歪な形を作り、体が細部までが奇妙な方向に折り曲げられている。

 そんな彼女の体からは複数の糸が繋がっており、少年はその線をゆっくりと辿った。

 そしてその糸の先端に辿り着いた時、見せつけるかのように動かされ、宙に浮かぶ人形は一段と耳障りな音を立て体制を変えた。


 その光景に目を奪われた少年は、より深い闇へと落ちていく。

 それに気が付いた男は、笑みを浮かべながら楽しそうに手元を動かす。

 そんな男の両脇でマリオとマリアは優しく微笑んでいた。


 ゴリッ、グリ、ギギギ、ガキッ


 男の動きに合わせて鳴り響く不快な音、目の前で行われる人形劇。

 少年の心は、もう真っ暗な暗闇の世界へ完全に落ちていった。



「っ、お、ねえ……ちゃん、」



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