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破壊先に現れたし多彩な異世界  作者: 桜音愛花
第二章 未熟者の挑戦
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新たな扉

 私の左手には昔から奇妙な模様があった。

 ずっと不思議に思っていた私は、台所で夕飯を作っている母に問いかけたことがある。


「ねぇ、おかあさん?」

「なあに?」

「これ、なに?」

 突きつけるように見せた左手の甲には、炎のような形が刻まれている。

 母はガスのつまみを捻り、その模様を灯した。


 私にとってはこれが少しだけコンプレックスだった。

 お友達にも模様はあったけれど、何故かみんな形が違った。

 けれどお母さんの手には何も無く、白いすべすべの手。


 当時の私は母のそれがとても羨ましかった。

 絵本に出てくるお姫様の手にはキラキラ輝く指輪がはめられ、王子様と幸せそうに笑っている。

 彼女の手にだってこんな変な模様はなかった。


「まつりもいつかキラキラのゆびわをつけたい。

 こんなのあったらかわいくないよ」

 煌びやかな指輪をはめたって、絶対にこの模様の方が存在感が大きい。

 どんなに綺麗な輝きを放つものでさえ霞んでしまうだろう。



 お姫様に憧れを抱いていた私は、いつか迎えに来てくれるであろう王子様を夢見ていた。

 だからこそ可愛くない自分の手が嫌いだった。



 そんな私の視線に合わせるようにしゃがんだ母は、

「もうすぐお爺ちゃんが教えてくれるわよ」

 そう言って立ち上がり調理を再開した。


 上手くはぐらかされたようで頬を膨らませたが、数日後、母の言う通り私は父方の祖父に呼ばれある一室の扉を開けた。


 そこには同い年に生まれた隣家の男の子:蓮水朝陽の姿が既にあった。


 家が隣、それに加え同い歳。当然のように仲が良く、家族ぐるみで交流が多かった。


「あさひもよばれたの?」

「うん。まつりも?」

 こくりと頷き、朝陽の隣にある空席の座布団に腰を下ろす。


 何となく走る緊張感から、珍しくどちらも口を開くことなく数分が経った頃、後ろの引き戸が音を立て来客者を告げる。


「待たせたな」

 そこに居たのは、私の祖父である鳳莱若匡だった。


 お爺ちゃんは私達と対面するように置かれている座布団に胡座をかき、息を吐いた。

「今から言うことは、これから先お前達が命を懸けて続けていくことじゃ」


 言っていることはよくわからないが、真剣に話し続けるその声に耳を傾け気づいた頃には既に二時間が経っていた。


 とりあえず教えてもらったことは頭に入った、と思う。


 どうやら私達は生まれながらに不思議な力を持っているらしい。

 その力は十歳で消えるのが普通だが、私達の家の皆は消えることなく命を落とす時までずっと体内に宿っているらしい。


 それは何故か。

 異門と呼ばれる悪い奴らの出入り口を見張り、そいつらを倒すためらしい。

 放っておけばこの世界が無くなってしまうから、私達が代表して守るんだって。


 それは三歳になってから始まる恒例の教育――つまり私も朝陽も三歳になった今、その稽古が始まった。


 ということはわかったけれど、いまいちピンと来なかった。

 イモン?マモノ?なにそれ?本当にいるの?

 半信半疑の私と、隣で真剣な表情をしている朝陽は、今日の夜お爺ちゃんと一緒にそのイモンという所に行くらしい。



 そして外の世界が静まり返り、闇に支配された時刻九時。

 お爺ちゃんに連れられ、父や朝陽のお父さんと入れ替わるようにして辿り着いた公園で、衝撃の光景を目撃した。


 魔物の存在、自分の中に流れる天力の存在、異門の正体、紋様の正体。

 私達の家は、学校の友達とは違い特殊な家柄なのだと身をもって知ったのもその時だった。


 そこから私達二人の生活は一変した。

 自分の為に使っていた時間が、人々を守るための稽古・任務にあてられるようになった。

 自分が負ければ、周りの人達が死ぬという重圧と責任感が私達の体にのしかかった。

 幸せな毎日が、苦痛の日々に変化した。

 そして何より――



「おぉ。大したもんじゃ、朝陽」

 稽古中お爺ちゃんの高揚した声が聞こえ振り返ると、そこには自分よりも遥かに先を行く朝陽の姿があった。


 自分の成長速度は言ってしまえば『平均』。

「普通の子はこれくらいらしいわよ。焦ることはないわ、茉莉はすごく頑張っているもの」

 私の焦りを見かねた母は、私にそんな言葉をかけてくれた。


 自分でも特別成長が遅いとは思っていない。それでも焦ってしまうのには訳があった。


 私達、鳳莱家・蓮水家はほぼ例外なく同じ年に異なる性の子供が生まれる。

 不思議な力つまり魔物から人々を守るためのこの”天力”という力は、私と朝陽のように同い年に生まれた子供は攻守・属性がバランスよく生まれるらしい。


 だからこそ代々このしきたりは、二人一組のコンビとして行動を共にしてきたそうだ。

 そんな私の片割れは、驚くほど成長が早かった。常に私の一歩、いや何十歩も先を迷うことなく突き進んでいく。

 同じタイミングでスタートを切ったはずなのに、気がつけば朝陽の背中は手を伸ばしても届かない程遠くに行ってしまった。


 どちらかが引っ張るのではなく、肩を並べ対等に渡り合っていかなければいけないというのに、

 この現実は私の精神をどんどん削っていった。


「朝陽、」

「ん?」

「すごいね」

 ある日の稽古の休憩中。私は、隣で水分補給している彼にそう告げた。

 当時の私は、その言葉を口にすることに大きな勇気が必要だった。


 見るからに遅れをとっている自分が、先を行く片割れを褒めるなど本当はしたくなかったのだから。

 自分がこんなにも頑張っているというのに、全く縮まらないこの距離に、先を行く朝陽自身に私は苛立っていた。


 ――どうして私は。

 ――どうして朝陽だけ。


 私のこんな劣等感と嫉妬の感情を知ってか知らずか。私の声に彼は「だろ」と笑うことなく即答したのだった。

 それが何よりも私は腹が立った。


 学校行事があった今日の任務には代理が立てられ、私達は貴重な時間を家で過ごしていた。

 とはいっても好きなことに時間を使うのではなく、結局稽古に励んでいるのだが。


 自分の稽古に納得がいったのか一足先に自室へ戻った朝陽を見て、茉莉は静かに涙を流した。

 自分以外の温もりが消えた空間に悲し気な声が響き渡る。


「もっと何かあってもいいじゃない!!!」

 なにが「だろ」よ。なんで真顔なのよ。

 どうして、


「馬鹿にしてくれないの」


 馬鹿にされた方がよっぽど気が楽だった。

「お前全然出来ていないじゃん」

「遅すぎだろ」

 そう言われた方がどれだけ救われたか。


 何も言われず、同じように時間を共有し、その度に私達の差を思い知らされる。

 それが日常生活で母に怒られるよりも、怖い夢を見るよりも、お爺ちゃんの厳しい稽古よりも、何よりも辛かった。


 その時だった。

「茉莉、景。妹か弟が出来るわよ」

 幸せそうに微笑む両親から、そう伝えられたのは。


 大きくなる母のお腹、そして隣の蓮水家のおばさんのお腹を見て頭ではわかっていても、どこか夢のようだった私がきちんと実感したのは、実際に生まれてきた羽花を見た時だった。

 母よりも二月早く出産を終えたおばさんは、生まれたばかりの娘を抱いて幸せそうに笑っている。

 その姿を見て、”嬉しい””良かった”と思う前に、安心してしまった。


 差を見せつけられる稽古や任務の時間が減る、と。

 その時間が全く無くなることはないが、ほんの数分でも短くなるなら嬉しかった。

 けれど、なぜだか心に引っかかることがあった。

 それはモヤモヤと体中を巡り、気持ち悪さがこみあげてくる。


 ”羽花”と名付けられたその子が生まれた時、特殊な光を放ち生まれたらしく、両家・そして病院に来ていた天睛班の人達はその話題で持ちきりだった。

 その話から逃げるように私は廊下にある椅子に腰を下ろした。


 あの時、自分の中には明らかに負の感情があった。

 けれどもう一つ。

「いいお姉ちゃんになりたい」

 その思ったのも事実だった。


 そこから私は考えた。

 蓮水家が女の子を出産したということは、間違いなく家に生まれてくるのは男の子。


 どう足掻いても、力で男の子には敵わない。

 いつか弟にさえ抜かされてしまうだろう。

 現に四歳年下の弟にすら抜かされる勢いなのだから、これから生まれてくる二人目の弟も私を追い抜くのは時間の問題だ。


 そして導き出した一つの答え。

 それは――


【お知らせ】

二週間お休みいただいてました毎日投稿を本日より再開したいと思います。

読んでくださった皆様に「また読んでもいいかな」と思っていただけるよう頑張りますので、よろしくお願いいたします*


2021.10.10 桜音愛花

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