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破壊先に現れたし多彩な異世界  作者: 桜音愛花
第二章 未熟者の挑戦
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それぞれの思い

「茉莉姉、」

 部屋に入るなり早々に羽花は目的の人物を呼び止める。

 椅子に腰かけスマホを見ていた茉莉は、微笑みながら呟いた。


「その顔は、悩みの相談じゃなさそうね」

「うん。大切な話をしに来た」

 視線を逸らすことなく真っ直ぐに見つめる羽花を、目の前の椅子に誘導する。

 いつもより早く動く心臓に気が付かない振りをしながら、茉莉は口を開いた。


「聞く準備は、もう出来ているわ」

「ありがとう」

 目を細めた茉莉を確認し、羽花はこの先長く続く挑戦への引き金を引いた。


「まずは報告です。

 私は蓮水家七代目正統後継者でありながら、今朝の任務で魔物を意図的に逃がしました」

 茉莉は少しだけ目を見開いたが一言、「はい」と返事をしただけだった。


「本当ならば、異門から侵入してきた魔物は全て祓わなければならない。

 しかし昨今の魔物は、人間を襲う意思は確認できませんでした。

 とても良心的な子でした」


「私は術者です。魔物を祓わなければならない。

 そのうえ天から正式に認められている後継者……このような反する行為はしてはいけない立場だということは心得ております」


「それでも私は、善良な魔物の仕留めることは正しいとは思えません。

 長く、何百年もの間、両家で行われてきたこの使命に泥を塗る行為。

 けれど私が思い描く未来は、人々が幸せな生活を当たり前のように送れる世界を作ること」


 羽花は、茉莉をジッと見つめながら自分の意志を口にした。


「そして魔物とっても幸せな世界を作ること。

 この同じ時に生きる全ての生命が、平等に、当たり前に幸せを感じられる――そんな世界の為に私は術者を続けたいです」


 真っ直ぐな気持ちをぶつけられた茉莉は、固く閉じていた口を開け話す。


「けれどそれは、認められないわよ」

 しかし返ってきたのは応援の声ではなく、厳しく現実を突きつけるものだった。

 でも、羽花は知っている。

 目の前の彼女は、自分の為にわざと厳しく伝えているのだと。



 均衡を保ってきたこの日常に反する正統後継者の私。

 まさに千荊万棘――自分の術にあるものと全く同じ境遇。

 このことを術者に知られたら、きっともうそこに私の居場所はない。


 それほど厳しい世界なのだ、術者の世界は。


「それ素敵な世界だね、みんなで頑張ろう」

 なんて皆で力を合わせることなんてできない。

 万が一が起こりうることを、決してしてはいけない。


 それでも、私は願ってしまった。『平等な世界』を。


 ”誰もいない道を歩いて、一人で戦っていく覚悟はあるのね?”

 ――茉莉姉はこう言っているんだ。


「はい」

 羽花は真っ直ぐと前を見据え答える。


「周りから非難されても、突き進まなきゃいけないわよ」


 ”一度足を踏み入れて、「やっぱりやめます」は誰も許してくれないわよ”


「はい」


「それでも、自分を信じるのね?」

「いいえ。自分を信じてくれた翔を信じます」

 茉莉は思いもよらぬ答えに、思わず息を呑んだ。


「自分一人じゃ新しい道に踏み出す勇気は出なかった。

 沢山アドバイスを貰っても、あと一歩踏み出すことは出来なかった。


 でも、そんな私をずっと信じてくれた人がいる。

 私もその人を信じたい。一緒に戦いたい」



『強くて、一人でも戦っていけるけど、二人が力を合わせたら無敵なんだって。

 信じ合ってるのが、遠くで見てた私でもわかったから。


 だから私も、翔と一緒に戦う。翔と一緒に頑張りたいの』

 茉莉はあの日、目の前の少女が今よりももっと幼かった時、自分達に向けて宣言した言葉を思い出した。


「一緒、に?」

「私は翔がいたから頑張れた。前を向いて迷うことなく進んでこれた。

 翔が、私なら必ず追いかけてくると信じて道を作ってくれたから。


 ――だから私も、いや。

 今度は私が、新しい道を切り開きたい。誰かの為に!!」


 羽花の目の前に煌めく光が現れる。

 眩しそうに目を細めた羽花が見たもの、それは――皆が、大好きな人達が笑いあう世界。

 いざこざも、命の危険も感じない、皆が平等な幸せを手に入れた世界が広がる光景だった。


 脳裏に焼き付けるように一度目を閉じる。

 この夢は、絶対に自分の手で叶えて見せる。

 そう心に決めたのだった。


 そう強く宣言した羽花を茉莉は口を開くことなくジッと見ていた。

 いつもならどうしていいかわからず慌てふためく羽花もまた、堂々と姿勢を正しその眼差しに答える。


 暫くの静寂後、茉莉はゆっくりと目を閉じた。


「私は、」

 羽花はそんな茉莉を不思議そうに見つめていたが、目を閉じている茉莉は気が付いていない。


「初めて羽花を見た時、少しだけホッとした」

 茉莉は目を伏せながら、静かに口を開く。


「当時、私はまだ六歳くらい。

 毎日の稽古や任務が本当に嫌だった」

 ハンガーラックにかけられている上着に視線を移した茉莉は、どこか悲しげな表情をしていた。


「好きなことを好きな時にしている友達。

『寝不足』の理由が任務や稽古じゃなくて、すごく羨ましかった」


 ※ ※ ※ ※


「おい、なんだよお前!!

 今日めっちゃ眠そうじゃん」

 クラスメイトがある男の子に声をかけた。

 その男子は振り向きざま、眠そうに細められた目をこすりこう言った。


「いやー、それがさぁ。

 こないだ発売したばかりのゲームあるじゃん?

 なかなかクリア出来なくてさぁ」

「あー、アレな。難しいってよく聞くわ」

「やっぱりか。遅くまでやってるから眠くてさ」

「俺もやりたい!!」

「じゃあ次の休み泊まりに来いよ!」

 そんな会話をしながら二人は楽しそうに笑いあっている。



「ねぇねぇ、今日家に遊びに来ない?」

「え、行きたい!!」

「お母さんが、一緒にお菓子作ろうって言ってたよ」

「本当に!?楽しみ!!」

 教室では女の子たちが、学校終わりの計画を楽しそうに話し合っていた。


 前まではその輪の中に茉莉もいた。

 けれど毎回参加できない彼女を誘う声は徐々に少なくなり、ここ最近はその手の話題を出されることは無くなっていたのだった。

 かといって仲間外れにされているわけではない。

 時間が会えば遊ぶし、毎日話だってする。


 けれどどこか目に見えない距離が、そこにはあったのだ。


 ※ ※ ※ ※


「すごく羨ましかった」

 口角を上げた茉莉は、今にも消えそうな程儚く、羽花は思わず手を伸ばしそうになる。

 けれど、再び茉莉が口を開いたため、その手は元の位置に静かに戻される。



「その時はまだ正統後継者がいなかったから、人が増えれば増えるほど、一組当たりの任務担当時間が短くなる。


『これで少しは解放される』

 羽花と翔が生まれた時、ホッとした」

 机の上で組まれた指先を見つめる彼女の顔に、綺麗な髪の毛がかかりその表情を隠す。



「最低よね。

 自分が嫌なことを年下の子に擦り付けようとしているのだから」

「そんなことっ」

「でも、そんな私にも心境の変化があった」

 羽花の声を遮った茉莉は、髪の毛を払い視線を上げた。


 そこには、いつもの頼りになる鳳莱茉莉の姿があった。

 彼女は目を細め、笑顔を見せる。


「今まで、私のことを話したことはなかったわよね?」

 その問いかけに、羽花は首を縦に振った。


 茉莉は勿論、他の術者の過去を聞いたことは一度もなかった。

 生まれてからも行動を共にしていない時、何をしているのか――近いようで何も知らないことに改めて気が付き羽花は少しだけ驚く。


 誰に、何が、どうあって、今に至るのか。

 偉大な先輩はどのような経験をしてきたのか。


 羽花は期待に胸を膨らませながら、口が開かれるのを待った。


 その期待の眼差しに気が付いた茉莉は、困ったように眉を下げた。

「そんな面白いものじゃないと思うけど」


 時刻は午前十時半。

 休日が始まったばかりの時を過ごす二人に、窓から差し込む温かい陽の光が差し掛かる。


 昨夜までの吹雪も治まり、穏やかな一日が始まった今。


「昔話をしようか」


 このよく見る二階建ての一室で、まだ知らぬ過去が初めて明かされるのだった。

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