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破壊先に現れたし多彩な異世界  作者: 桜音愛花
第二章 未熟者の挑戦
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甘さ

 茉莉の問いかけに、朝陽はゆっくりと口を開いた。


『俺にはさ、絶対言えないと思うんだよ』

「なんで?」

『俺はお兄ちゃんだから』

 電話口から聞こえるその寂しげな声に、茉莉は首を傾げた。


「兄妹だからこそ話しやすいとかあるんじゃないの?」

 率直な疑問をぶつけ、乾いた喉をミルクティーで潤す。

『今、スピーカー?』

「まさか。聞かれたら困るじゃない」

『だよな』

 いつも自信満々な彼のしおらしさに茉莉は思わず声を上げる。


「どうしたの?なんか気持ち悪いわよ?」

「茉莉ちゃん、俺にだけは毒舌よね」

 普段はthe姉御って感じなのに、そう呟いた朝陽はスマホを持って移動した。


 階段を上る足音、そしてばふんと布団に寝転ぶ音が聞こえた後、その声は聞こえてきた。


『お兄ちゃんだから、今まで羽花ちゃんが危険な目に合わないようにしてきた』

「うん」

『どうやら俺はちょっと愛が強すぎるらしいし』

「何を今更。それに『ちょっと』どころの騒ぎじゃないわよ」

『………任務に関しては多少目を瞑っていたところがあるけどさ』

「いや瞑れていなかったわね。毎回(ことごと)く邪魔されていただけじゃない」

『茉莉ちゃんは俺に話させる気あります?』

「突っ込みどころが多いのが悪いんでしょ。それで?」

 茉莉の促しに、朝陽は咳払いを一度してから答えた。


『今まで羽花ちゃんの身に何かが起こりそうな時、俺は何かと反対してきた。

 でも今までのそれは羽花ちゃんが”まだ迷っている”時だった』

「迷ってる、」

『けど今回は違うだろ?きっともう”自分の答え”を出した後だ』

「何を根拠に、」

『兄としての勘だよ』

 茉莉もまだ羽花から直接話を聞けていない。だからこそこの勘が当たっているのか、はたまた外れているのか――どちらに天秤が傾くのかはわからない。



 けれどどうしてだろう。絶対に当たっている。

 口には出さず、心の中で茉莉はそう思った。


『そんな中、俺に相談してみろ。絶対に反対されるのが目に見えているだろ?

 今までだって相談をされたことはあったさ。

 でも自分の決意が揺るぎそうな時に相談する相手は、俺じゃない』

「そうね。反対されるのだから」

『だろ?

 それに景とは、相談する程まだ打ち解けられていない。

 前の稽古で大分壁は無くなったみたいだけど、心の内を簡単に話せるにはまだ距離がある。


 それにあいつは、俺達の中では一番の実力者だ。

 ”可か不可か”一番説得力がある。怖くて相談できないだろうな』


「そうね。そもそも景は口数が少なすぎて、相談相手に向いていないわ」

 弟への厳しい言葉に、朝陽は思わず吹き出す。


『酷い姉ちゃんだな』

「シスコンよりマシよ」

『……優美には出来ないだろ』

「そうね」

『父さん達や若爺にも出来ないだろうな。

 長年のキャリアがある分、尚更反対される』

「この世界に長く身を置けば、今までの日常に慣れてしまってそれを反する気なんて起きないわよね。

 自分の習慣になってしまっている物を突然変えることは難しいから」

 茉莉は視線を落とし、パンのパッケージを見つめた。

 先程羽花と仲良く分け合ったこれは、昔からよく家で見かけた。


『そうなると一番話しやすいのは母さん達かもしれないけど、なんせ術者ではないからな。

 術者からの肯定ほど欲しい物はないだろう』

「そうね」

『となると、茉莉ちゃんしかいないんだよな』

「今回は私が無理矢理家に連れてきたのだけれど」

『まあ色々語ったけど、結局女の子同士だし、一番面倒見がいいからな。

 相談しやすいランキング不動の一位だよ、そもそも』

 朝陽は大きな溜め息をつき、ボソッと呟く。



『お兄ちゃんだから心配して、口煩く言って。

 お兄ちゃんだから一番の味方になってやりたくて。

 そんなお兄ちゃんだから、いざという時助けてやれない。


 ………お兄ちゃんって、何なんだろうな』

 力なく聞こえたその声は、茉莉の耳にこびり付いて離れない。



「それでも羽花にはお兄ちゃんが必要よ」

『ああ』

「羽花のお兄ちゃんは朝陽しかいないんだからね」

『おう』

「じゃあそろそろ戻ってくるだろうし、切るわよ」

『なあ、茉莉ちゃん』

 通話終了に指を移動させていた茉莉は、その声に動きを止めた。


『今回の件で頼みがある』

 そう言って彼の望みを聞き終えた茉莉は、今度こそ画面に触れた。

 画面には先程まで開いていたものが映し出され、茉莉はそっと画面を切った。



 それから数分後、頬を赤く染めた羽花は茉莉が貸した服に身を包み戻ってきた。

「茉莉姉、ありがとう」

「どういたしまして」

 時刻は午前七時を過ぎていた。

 お互い口を開くことなく、スマホを弄り時間だけが過ぎていく。



「茉莉ー?ご飯出来たわよー?」

 一回から母:琴葉の声が聞こえ、二人は立ち上がる。

「はーい、今行く」

 二人は揃って階段を降り、挨拶を交わし食卓につく。


 隣には茉莉、その横に父:徹。

 茉莉の正面には景が眠そうに目を瞑り座っていた。

 濡れた手を拭き徹の正面に座った琴葉を確認し、皆は箸を手にする。


 羽花の目の前には豆腐と揚げのお味噌汁、炊き立ての白いご飯、外はカリッと中はふんわり焼きあがった鮭、ふわふわの卵焼き、お漬物やたらこが小鉢に盛られ食欲を掻き立てる。


 羽花は卵焼きを一つ摘み口に入れた。

「……甘い」

 程よい甘さが口の中に広がり、思わず口から言葉が漏れた。


「羽花は昔から甘い卵焼きが好きだもんね」

 斜め向かいに座る琴葉は優しく微笑みながら、羽花に声をかける。


「覚えててくれたんだ」

 羽花は目を丸くし琴葉を見つめた。

「当り前よ。私にとって羽花だって大切な娘だもの」


 その言葉に気恥ずかしくなった羽花は

「美味しい、です」

 照れながらそう伝えた。

 ありがとう、その声を聞きながらある一点に視線を向けた。


 そこには本来ならばこの場にいるはずの少年の姿があった。

 写真の中の彼は楽しそうな笑顔を見せ、こちらにピースを向けている。



 もうすぐ三年が経つ、十二歳の春。

 中学生に上がった私達が入学式の看板の前で撮った一枚だった。

 本当の写真はこの隣に私も映っているのだ。


 写真の前に置かれている、今食べているものと同じ朝ごはん。

 翔の分なのに、あのご飯が減ることはない。そのことを改めて痛感し、羽花は心がぎゅっと締め付けられた。


「翔は途中から変わったよな」

 話を聞いて微笑んでいただけの徹が、初めて口を開く。

 その声に琴葉は頷き、懐かしそうに写真を眺めた。


「ある日突然『明日から甘い卵焼きにして!!!』って学校から帰ってくるなり叫びだすんだもん」

 くすくすと笑いあう両親の横で、茉莉は呆れたように口を開いた。


「何だっけ?遠足の時だっけ?」

 景は一度写真に目を向け、一人黙々と朝食を口に運んでいる。

「そうだったなぁ。それまでは出汁巻き派だったのに、その日からいきなり」


 ――遠足?


 羽花は盛り上がっている三人を見つめながら、考える。



 ――遠足?卵焼き?もしかして、

 羽花は今までの沢山の思い出を思い返し、ある一つの出来事が脳裏に過った。


「『羽花が甘い卵焼き好きなんだって!!!俺も今日からそれにする』」

 三人は声を揃え言い放ち、爆笑している。

 心なしか、感情の乏しい景も口元が緩んでいる気がする。


「私?」

 突然出てきた自分の名前に、羽花は首を傾げた。

 あれは小学校二年生の秋に行われた遠足での出来事だった。



 ※ ※ ※ ※



 目的地に到着し、各々が仲良い友達とお弁当を食べていると突然その声が聞こえてきた。

「っうわ!!!」

 聞き慣れたその声の方を振り返ると、地面を覗き込む男子達の姿があった。


「どうしたのー?」

 一緒にいた女の子の友達はその集団に声をかける。

「ふざけてたら、翔が食べようとしていたおかず、落としちゃったんだよ」


 どうやらお弁当を食べながらふざけていたら、衝突してしまい箸を持つ手が緩んでしまったらしい。

 まさに今口に運ばれるところだった卵焼きは、悲しくも地面に転がっていったという。



「何してるの危ないよ」

「翔、可哀想」

「勿体ない」

 話を聞いた女の子達が次々と声を上げる中、羽花は音もなく立ち上がった。


「羽花?」

「ちょっと行ってくるね」

 グループの子達は、お弁当を片手に歩き出した羽花を不思議そうに見ていた。


「翔」

「羽花?」

 後ろから名前を呼ばれた翔は振り返る前からわかっていたようで、名前を呟きながら顔を向ける。

「私、これ以上食べると帰りにお腹痛くなっちゃいそうだから食べて」

 そう言って最後の一つだったおかずを箸で掴み、やや強引に翔に口へ入れた。


「えっ!?…んぐ」

 突然のことに驚きを上げながらも、口を動かし、飲み込み終わった翔は目を丸くした。

「卵焼き、甘くね?」

 羽花が翔に食べさせたのは、お弁当箱にぽつんと残る卵焼きだった。

「うん。私、卵焼きは甘いのが大好きなの」

 自分の大好物をシェアした羽花は、満足そうに笑う。


「好きなのに、良いのかよ」

 翔はそんな羽花から顔を逸らし呟いた。

「うん!翔だっていつも大好きなパン、分けてくれるでしょ?」

「それは美味しいものは羽花と共有したいからで、」

「私も同じだよ」

 嬉しそうに笑う羽花に、素っ気なく

「そうかよ」

 と呟く声を遮りクラスメイトは話し始めた。



「はぁ、お前ら本当に仲良いよな」

「幼馴染でも小学校上がったら疎遠になったりしないの?」

 近くの男の子達は自分のお弁当を食べながら疑問をぶつけた。


「ない」

 二人は声を揃えて即答した。


「即答かよ。

 あ、そう言えば羽花。俺も卵焼きは甘い派だぞ」

「俺も俺も!スイーツみたいで美味しいよな!」

「私は出汁の方が好きだなぁ」

「私も甘いのが好き。いやでも出汁も捨て難い…」

「俺は出汁!!」

 卵焼きはどっち派かという議論が始まり、周囲は笑いに包まれた。

 羽花は空になったお弁当箱を片手に、楽しそうに笑っているのだった。


 クラスメイトと楽しい思い出を作った二人は、一緒に同じ道を歩き家の前に帰ってきた。

 別れを告げ、荒々しく扉を開けた翔の第一声は帰宅を告げる言葉でも、今日の出来事の報告でもなく――



 ※ ※ ※ ※ 



「昔っから羽花大好き人間だからねぇ」

 呆れたように写真を見つめる茉莉は、卵焼きに視線を移し笑った。

「ここまで来たら逆に気持ち悪いわ」


 茉莉のその声を聞きながら羽花はもう一度静かに、卵焼きの後ろにいる翔の姿を目に焼き付けていた。


【お知らせ】

8/19より毎日投稿を始め今日まで続けてきましたが、

明日9/26~10/9までの2週間毎日投稿をお休みさせていただきます。


仕事の都合上、毎日投稿が難しくなるためこの期間は不定期で更新していきたいと思います。


10/10から毎日投稿を再開いたしますので、お手隙の際目を通していただけると嬉しいです*


2021.09.25 桜音愛花

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