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破壊先に現れたし多彩な異世界  作者: 桜音愛花
第二章 未熟者の挑戦
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術者

「私!?」

 この部屋の全員の視線を一度に浴び、羽花は肩に力が入る。

 朝陽はそんな妹から視線を逸らし、もう一度はっきりと口にする。


「当てはまる人物はただ一人。

 第三者から見た関係性が、まさに双子の呼び方と一致します。

 ただ単に『弟』と呼ぶと、二人の該当者が出るからという理由もありますが……」


「いや、恐らくそれであっておる」

 若匡は、真っ直ぐ羽花を見つめ口を開いた。


「ポイントやらが何を意味するのか分からないが、

 正統後継者がその何かの重要な位置にいることは変わりないじゃろう」

 その言葉に一早く反応したのは朝陽だった。


「魔物と同様に、正統後継者を取り込めば力を得る…ですかね?」

「その可能性もあり得る。

 蓮水家・鳳莱家以外の術者なのだとすれば、恐らく所持している天力は少ないはずじゃ。

 だからこそ力を求めておるのかもしれんな」


 若匡に続いて、スクリーンに映るアネモネが口を開いた。


「今の話の中にもあった通り、恐らく奴らの狙いは正統後継者――羽花、つまり君なのねん。


 遅かれ早かれ、奴らは絶対君の前に現れる。

 それまで出来る限り対策を整えて、準備しておくのねん」

「御意」


 羽花の返事を最後に、この会議はお開きになった。

 次々と退席していく中、羽花は真剣な表情で何かを考えていた。


「羽花ちゃん?」

「大丈夫だよ、お兄ちゃん」

 地に手をつくことなく、勢いよく立ち上がった羽花は笑顔を見せ、こう宣言した。

「もう負けないから」


 扉の閉まる音が聞こえ、この部屋には静寂が訪れる。

 その中に取り残された四人は、神妙な面持ちで地面を見つめた。


「”強い”と”弱音を吐かない”は違うだろ」

 朝陽は顔を顰めながら、悔しそうに嘆いた。


「羽花は『強くなる、負けない』って言っているけれど、

 きっと心の奥底にあるのは『強くならなきゃいけない、負けてはいけない』という使命感ね」


「充分」


「正統後継者は本来二人合わせてなるもの。

 お互いがお互いを支え合い、高めあう――けれど羽花さんはあの日からたった一人でその責任を背負っていますからね」


 顔を上げ立ち上がった朝陽は、拳を固く握りしめ部屋を出て行った。

「今はまだ見守るだけだ。

 本当にやばくなったら、その時は意地でも止める」

 そんな彼の背中を、残された三人は静かに見守っていた。



 ※ ※ ※ ※ 


「そうかい、そんなことがあったのかい」

 男は少女を宥めながら、微笑んだ。


「だって来たのが別の人だったんだもん」

「別の人だった」

 拗ねたように呟く少年の頭を撫で、男は言う。


「大丈夫だよ。その時が来たら嫌というほど戦えるからね」

 命を懸けて、男は言葉とは裏腹に優しそうな表情で遠くを見つめる。


「何々何々!!!?何の話!?」

 そこに乱入者が一人。

「例のポイントの話さ」

 男の答えに、乱入者は目を輝かせた。


「くっそー、俺も行きたかったなぁ」

 男は悔しさを前面に出し、地面に姿勢を正し寝そべった。


「こらこら、汚っ」

「おいチビんず、元気馬鹿」

 そこにもう一人の乱入者が現れる。

 彼は男の言葉を遮り、高々と宣言した。



「誰よりも点数を稼ぐのは、この俺だ」

 鋭い目つきをさらに細め、周囲を威嚇した男は寝そべる男の上を堂々と踏み歩き、姿を消した。


「グェッ、痛い!!!!痛いな、もう!!

 踏まれないように足元注意の看板立てた方が良いのかなぁ」

 男は寝そべりながら、両手を頬に当て呟く。


「いや、そもそもそんなところに寝そべらなきゃいい話でしょ」

「それに考えている時は、頬ではなくて顎か額に手を当てると思いますよ」

「可愛い子ぶってるのよ」

「ぶってるのですね」

 双子は自分のペースで騒ぎ立てる男に訂正を入れ、男に頭を下げる。


「それでは私達はこれで。失礼いたします」

「失礼いたします」

「うん、ゆっくり休んで」

 双子を見送った男は、寝そべる彼を視線に移す。

 どうやらまだ何か考えているようだった。

 こういう時の彼はろくなことを考えていないことを知っている男は、あえて口を挟まなかった。


 以前神妙な面持ちで考え込んでいる彼に問いかけ、返ってきた答えは

『トイレに今行くか、後から行くか。どっちがいいかな?』

 というものだった。


 男はその様子に溜め息をつきぼやく。

「さて、五人の私の弟子は、あの座につくことは出来るのかな」

 この場に残された二人の男は、揃って口角を上げたのだった。


「よーし!今日は歯磨き、左下からやろーっと」


 ※ ※ ※ ※


 空には雲一つない青空が広がり、清々しい気分になるはずだが羽花の心は曇り空だった。


「寒い……」

 裏起毛の長袖、トレーナー、カーディガンと体が重くなるほど着込んでも尚、冬の寒さを感じることに腹を立てながらボソッと呟いた。


 季節は巡り、辺り一面が真っ白に覆われる冬に突入し、

 外の気温は0度を下回ることが当たり前の毎日を過ごしている。


 特に寒がりの羽花はストーブに背をつけ暖を取りながら、学校の課題に取り組んでいるのだった。

 

「うわー、今日も寒いな」

 寝巻き姿のまま居間に顔を出した朝陽はソファに腰を下ろしスマホを確認した。

 羽花はその姿を見て思わず口を挟む。


「お兄ちゃん、寒くないの?」

「ん?」

「その格好」

 羽花が指さした先には、緩めのTシャツと黒のスウェットに身を包む朝陽の姿があった。

 顔の良さのお陰か。

 グレーと黒という暗色だと言うのに、寝起きですら輝いて見える朝陽は妹からの指摘で、自らの体を見下ろし口を開いた。


「んー、寒いけど。楽なんだよな、Tシャツ」

 他人のその姿を見ているだけで寒くなった羽花はストーブから離れることなく質問した。



「今日、夜から雪降るんだよね?」

「あー、天気予報で言ってたな」

「20cmくらい降るらしいですよ」

 二人とは違い、きちんと着替え終えた優美はアイスを手に持ちながらストーブに当たる。


 その様子を見届けた羽花は中央を占領していた体を端に寄せるが、

「そのままで大丈夫ですよ」

 という優美に甘え、再び体制を戻した。


「お姉ちゃん、寒くないの?」

「寒いけど、アイスは食べたくなりません?」

「わからなくもないけど…」

「それに、ストーブに当たりながら食べるアイス最高じゃないですか」

 アイスを突き出した優美は、そのまま羽花の口元に近付けた。

 そのまま一口齧った羽花は、その瞬間自分の体温が奪われていくのを感じ、より体を縮こませる。


「うーーーー、せっかく温まったのに寒くなった」

「そういえば、冬にアイスを食べるのはここだけっていう話もあったわよね」

 母の千美は人数分のお椀をお盆に乗せ顔を出す。


「でも、お友達に聞いたら

『私のところでも冬にアイス食べるよ』って言ってたから、実際のところどうなのかしらね?」

 テーブルにお椀を置き、箸を配る姿を見て、羽花はその中を覗き込んだ。



「あ!!お汁粉だ!!!」

「かぼちゃのね」

 よく見るとあんこと共に切り餅とかぼちゃがゴロゴロと入っている。これは羽花の大好きな食べ物だった。


「ほれ、羽花ちゃん」

 寒さでストーブから離れられない妹にお椀を手渡すと、朝陽は早速かぼちゃを口に含んだ。


「かぼちゃの甘さと、あんこの甘さが絶妙だよね」

「そうね」

 美味しそうに頬張る息子に微笑みながら、千美は羽花に視線を向けた。


「それを食べて、今日も任務頑張ってね」

 お餅を口に入れた羽花は笑顔で答える。

「うん、これでもう負けないね!」

 力餅って言うんでしょ?と笑い合う二人を、ソファに座る二人は静かに見つめていた。



「………」

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