適合者の使命と"力"-1
この世界には誰もが生まれた瞬間から与えられる”力”がある。
その力は”天力”と呼ばれ、一説には
『生まれながらにして備わっている才能』
『天から与えられた才能』――――すなわち『天賦の才』から名付けられたのではないかと言われている。
天力には鳳莱若匡の『時』のように様々な属性があり、生まれて直ぐにどの属性の力を持っているか判断が可能である。
例えば鳳莱家の末っ子、翔は産声をあげた瞬間全身から青色の湯気のような光を放った。
これは青色に関する属性、つまり『水』の使い手であることを表れだった。
このように人々は皆自らの属性の光を纏って生まれ、その属性の証として三回目の誕生日を迎える頃になると男児は右手の甲、女児は左手の甲に属性を示す紋様が浮かび上がるのである。
しかしこの紋様及び天力は、十歳を迎えると消失してしまうため、人々の間では『天から与えられた子供心を擽る一時の不思議な遊び』として言い伝えられているものだった。
ただし、この力には例外がある。
一部では十を過ぎても天力が消えることがなく、自らの命が尽きるまでその力を所持し続け、人々を守るために駆使するよう命じられている。
その選ばれし者達こそが、今回幼き新戦力を加えた蓮水家と鳳莱家なのである。
三歳の誕生日を迎えてから二週間後、右手の甲に水属性の紋様が浮かび上がり、正式に水の使い手となった鳳莱翔をもつ鳳莱家。
そしてもう一方の選ばれし一族、蓮水家の羽花は闇を支配する漆黒の閃光を放ち、産声を上げた。
他の赤子とは異なり光に包まれず、一瞬発光しただけだったため、代々記されてきた書を辿り約七五〇年振りとなる『陰』又は『陽』の属性が誕生したと喜んだが、三歳になった羽花の左手には両家の期待を裏切り『花びら』のような紋様がくっきりと刻まれていたのだった。
これは、蓮水羽花が『花』属性だと証明する確固たるものである。
「ここまでが天力についてじゃ」
数か月前、目の前に立つ見知った人物の力を目の当たりにした。
驚くほど強く、冷静で、残酷で――――そして何より綺麗だった。
無駄のない動き、相手に自分の動きを読ませない体運び。
戦闘経験がなくてもわかってしまう、格の違い。
「天力……」
幼い二人が生まれた時からずっと一緒にいる若匡。
若爺はいつも穏やかで、優しくて、お菓子をくれた。
そんな爺があの日から別人のように変わってしまった。
優しく自分達の成長を見守ってくれる祖父から、厳しい指導者へと。
「若爺、」
そんな彼に、羽花は静かに声をかける。
「その天力は、みんな使えるんだよね?
みんなも、その、力が消えるまではいっしょに戦うの?」
「戦わん」
「羽花達だけ?」
「そもそも、儂ら以外あの魔物を見ることは出来ないのじゃ」
両家には天力が消失しないことに加え、一般人には見えない嘗胆のように人間界に入り込んできた魔物を認識できる力も備わっているのであった。
『天は二物を与えず』とよく言うが、両家に与えられた珍しき才能は複数個にも渡る。
生まれながらに死と隣り合わせという不遇な人生を憐れんでのことだろうか。
「これから二人には稽古をつけ、基本から学んでもらう。
まずはこちらに来なさい」
若匡の後ろをついて行くこと数分。
辿り着いたのは隣接する両家の丁度中央に位置する地下室だった。
そこはダンスのレッスン場のように壁全面が鏡になっており、かなりの人数が入っても十分すぎるほど広い空間だった。
「ここは稽古場じゃ。
みんなここで日々稽古をしておる。
まあ外の方が集中できるから、とここに来ない奴らも多いがな。
強くなるなら文句はない。
基礎を身につけたら好きなところで各々稽古するがいい」
こうして羽花と翔の本格的な稽古が始まった。
「まずは属性。
翔は『水』、羽花は『花』じゃな」
二人は先程若匡に教えられたことを思い出し、自らの手に視線を移す。
そこには間違いなく水、そして花の紋様が浮かび上がっていた。
「属性が違えば攻撃の扱いが変わってくるが、天力の使い方はただ一つ。
体内に眠る天力の本質を感じるのじゃ」
「ほんしつ……」
「頭でもなく、心臓でもなく、体内の全てに天力が備わっている。
まずはそれを感じ、一か所に集めることを意識する」
「全身にあるからこそ、意識するのじゃ。
どこからでも――――手から足から、目から心から。
いつ、どこからでも自分の思うがままに天力を出せるように」
羽花は目をつぶった。
若匡の言っていることは難しいが、なんとなくわかった気がする。
全身に流れる力を、使いたい箇所に集中させる。
そして溜め込んだ天力を体外へ放出する。
放出したらそこからさらに、自らの意志で使いこなす。
流れはわかった。
しかし、わかるとできるは全くの別物だった。
頭ではこうするのだと思っていても、そう簡単に思い通りになるなんてことはなかった。
それもそのはず、稽古は今日始まったばかりなのである。
まだまだこれからだ、。
明日も明後日も、頑張ってたくさん練習して。
あの日してもらったように、今度は自分がたくさんの人を守るんだ。
そう意気込んだ羽花は、いつもならば人一倍口を開く幼馴染が静かなことに気が付いた。
どうやら彼もまた、必死に技術を習得しようとしているらしい。
初めてこの世界を知った時、私にかけてくれたみたいに。
今度は私から強くなる決意を言おう、羽花は少し離れた場所にいる翔に視線を移す。
「つーくん!がんば、ろ……ね」




