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破壊先に現れたし多彩な異世界  作者: 桜音愛花
第二章 未熟者の挑戦
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四つの入口

「おかしい」

 羽花は公園の中央に設置されている二色の球体――異門の真上に結界を作り、その上に立っていた。

 周囲を見下ろしながら、両腕を組み声を上げる。


「魔物が現れなくなって3ヶ月、か」

 こんなにも長い間、一体も、低級の魔物すらも現れなかった事は一度もない。


 翔が吸収された際も、一時魔物の出現が途絶えたが、

 今回ほど長い期間現れないのは初めてのことだった。



「なんで?」

 羽花は結界に腰を下ろし、足をばたつかせながらブレスレットを見た。

 時計の部分には【02:59:45】と表示されており、

 あと数秒で本日の任務が終了することを示していた。



 残り十秒になり、心の中でカウントしながら異門の正面に降り立つ。

 三時ジャスト。二色の球体が日頃の空間を映し、本日の任務が終了したことを示した。


 それを見届けた羽花は、念の為公園内を一周するが何の変化もない。


「こちら蓮水羽花、蓮水羽花。

 本日の任務を無事終えたことを報告致します。どうぞ」

『こちら天睛班。了解』

 いつもの連絡を終えた羽花はもう一度公園に視線を移し、帰路に着く。



「胸騒ぎが、する」

 強い風が吹き、乱れた髪の毛を整えながら羽花は歩き出した。


 家の前に到着した羽花は、ふと玄関先に何かが落ちていることに気が付いた。

「リス?」

 拾い上げた羽花の手には、つぶらな瞳をもつ、上質な手触りのリスのキーホルダーが優しく握られている。


「あ、あった!すみません」

 突然声をかけられ振り向くとそこには小学校低学年くらいの女の子の姿があった。


「それ、」

 言いにくそうに口を開いた少女に、羽花は優しく問いかけた。


「このリス、あなたの?」

 その問いかけに頷いた少女の手にリスを握らせると、目線を合わせしゃがんでいた膝を伸ばし立ち上がった。


「もう落とさないようにね」

「うん、ありがとう」

 可愛らしく微笑んだ少女につられ笑顔を見せた羽花は、走り去る姿を見届け、家に入った。


「羽花ちゃん、緊急事態だ」

「え?」

 玄関を開けると、靴紐を結ぶ朝陽、その様子を見つめる優美が立っていた。

 二人は上着を羽織り、今すぐに外に出ようとしているところだった。


 その時、たった今閉めたばかりの戸が音を立て開かれる。


「どういうことよ、さっきの」

「わからない、けど相当やばいのは確かだ」

 茉莉の切羽詰まった声に答えた朝陽もまた表情を曇らせている。


 玄関を開けた鳳莱家の二人もまた、同じようにパーカーを羽織っていた。

「な、に?」

 状況を読めない羽花は、ただ一人立ち尽くすことしかできなかった。


「羽花、移動しながら説明するわ」

 茉莉はそんな羽花の手を引き、術を発動させた。

 朝陽も術を発動させ、残り二人と共に移動を開始する。


 誰もいなくなった玄関先。

 そこには先程本来の居場所へ帰ったはずのリスが、悲し気に放置されていた。



 ※ ※ ※ ※ 


「なんで今更、」

 到着した羽花が見たもの――それはここ数十年間一度も使われず封印されていたはずの異門。

 そして、


「カカカカカカカカカカ」

「ササササササササ」

「ナナナナナナ」

 その周囲に大量に湧き出る魔物の姿。


『こちら天睛班、天睛班。応答願います、どうぞ』

「こちら第一異門、蓮水羽花、鳳莱茉莉。

 異門を囲むようにおよそ七十体の魔物を確認。

 言語の有無により低級と判断。どうぞ」

『こちら第二異門、蓮水朝陽、蓮水優美、鳳莱景。

 中級と思われる魔物、およそ三十体を確認。

 鳳莱景単独での除去が可能と判断。鳳莱景を残し、直ちに第三異門に向かいます。どうぞ』

『えー、こちら、あれ?ここ何番目だっけ?二?

 おーい、修、ここ何番目?えっ!?何、聞こえない!!!

 あーいつもの公園です、ここ、ちょ、俺が言いたい!!……やめっ





 ……失礼いたしました。

 こちら第四異門、蓮水修、鳳莱徹。

 こちらには一切魔物の出現はありません。どうぞ』


 情報交換を終え、羽花と茉莉は目を合わせた。

「まずは、ここにいる魔物を全滅させましょう」

「うん」

 二人はそれぞれ駆け出し、天力を放った。


「花属性 従二位 暗香疎影」

 花の香りに姿を隠し、漂う毒は羽花の周囲二メートル内の魔物を一斉に仕留めた。


 それを確認する前に、足場となる結界を強く蹴り、体の方向を変えた。

 空中に舞う羽花を目掛け、複数の魔物達が一斉に彼女を取り囲む。


「花属性 従一位 千荊万棘」

「グアッ」

「ギャ、アア」

 体を鋭い棘で貫かれた魔物は、バタバタと倒れ動きを止めた。


 力の強さはそれほどだが、なんせ数が多い。

 二人の天力、体力そして時間は着実に削られていく。


「他の異門はどうなってるの」

 数々の術を発動しながら、羽花はそのことが気になっていた。

 ふと視線をずらすと、数メートル先で茉莉が軽やかに魔物を仕留めている光景が目についた。



 ――やっぱり、綺麗だなぁ。


 初めてこの世界を知った時、若爺の戦い方を知った。

 あの時はただ漠然と「すごい」と思っていたけれど、術者になった今なら若爺の凄さが正確に理解できる。


 あんな術者はそうそういない。

 全ての格が違う。年齢というハンデを持ちながら尚、あれだけの天力を保持し、滑らかな身のこなし、多種多様な術式。

 体力も、身のこなしも有利な若者ですら若爺の足元にも及ばないほどの実力。



 たくさんの先輩術者がいる中で、そんな彼に一番近い動きをする者がいた。

 鳳莱茉莉――翔、景の姉であり、現在二十歳。

 軽やかな身のこなし、常に仲間を安心させ引っ張る偉大な存在。


 絶対的な術の強さを見せる蓮水朝陽、鳳莱景とは真逆の術者だった。

 彼女は攻撃の威力こそ持ち合わせていないが、昔から身のこなしが群を抜いて上手かった。


 相手の視線を潜り抜ける目と判断力、それらを実行できる身のこなし。

 自分の力を最大限利用し、相手を脅かすのが兄達なら、

 油断させた相手を優雅に翻弄していくのが茉莉だった。


「孫ってそういうところも受け継ぐのかな」

 羽花は、遠くを見ていた視線を戻し動きを再開した。


 宙を舞う羽花の下には、数えきれないほど沢山の屍が転がっている。

 羽花はその屍の山に手をかざした。

 その時、不意に爆発音が鳴り響き辺り一面黒い煙に覆われた。


「え?」

「羽花、大丈夫!?」

 煙をかき分け駆け付けた茉莉は、羽花の腕を引き寄せた。


「羽花?」

 名前を呼んでも、目を見開き地上を見つめる羽花からの返事はない。

 茉莉は不思議に思い、目の前で手を振った。

「羽花?」

 三度目の問いかけに、ハッと我に返った羽花は驚いた表情のまま茉莉の目を見た。


「羽花、火の属性なんて使えるの?」

 天力は生まれた瞬間から属性が決まっており、一種類の力を十歳まで――術者は命が尽きるまで保持し続ける決まりだった。

 二種類の天力を所持した者など、未だ嘗て聞いたことがなかった。


 茉莉は急いで羽花に左手の紋様を確認したが、依然と変わらず、花属性を示す紋様だけが刻まれていた。


「私は、花属性だよ?」

 羽花は自分の手を介して発生した爆発に困惑していた。

 そしてあろうことか、あんなにも苦戦していた大量の低級魔物は一気に粉々に粉砕され、命尽きていた。

 二人の交戦により当初の三分の二まで減っていた魔物は、目で数えられるほどまで今の爆発に巻き込まれ命を落とした。

 そしてそれら全てが術紙を使う必要がないほど微笑の粒子となって辺りに飛び散っているため、もう姿を目にすることは出来なかった。


 その時、二人の耳に情報が入った。

『こちら蓮水朝陽、蓮水朝陽。

 蓮水優美と共に第三異門に到着。二体の魔物を確認。

 直ちに交戦します。どうぞ』


『こちら鳳莱茉莉、鳳莱茉莉。

 大量の低級魔物が残り数体。三十分程で片付きそうです。どうぞ』


『こちら天睛班。了解。

 先程から第二異門からの情報連絡なし。

 鳳莱景、応答願います。どうぞ』


 その声に、二人は耳を傾ける。

 視線の先には、爆発の中生き残った数体がこちらを警戒しながら見つめている。

 どうやら先手を打つ気は毛頭ないらしい。


『おーい、景。

 いくら無口な男に育ったからって、連絡はしなきゃだめだぞー。めっ!!!


 ふふ、あははは、”めっ”だって聞いた?聞いてた!?ねえ、修?


 ………え?何?無線をそう使うなって?

 えー、だって今遠くにいるしちょうどいいじゃ、ねぇえええ!!!

 魔物!!魔物来た!!!俺らの所に魔物来たわ!!!……あ、どうぞ!!!』


 父親の奇行に頭を抱えた茉莉は、未だ返事をしない弟のことが気になっていた。

 いくら無口で、無気力とはいえ、任務に関してはきちんとやり遂げる男だと知っている。


 無線では、天睛班が景を呼びかける声が続いている。

 魔物との交戦で離脱した二人を除く四名がその声に耳を傾けていた。



『ザ、ザザ…』

 微かな雑音が聞こえ、天睛班は口を閉ざした。

 静寂な中に、不思議な雑音だけが響き渡る。


『………う』

 微かに聞こえたその声に一同はホッと胸を撫でおろした。

 しかし、その声はここにいる全員が求めていたものではなかった。



『お、うえん、願……う』

 景のその声に、聴いていた者全員の動きが止まった。

 あのどんな時も乱れを見せない景が、かつてたった一人で魔物を皆殺しにした景が初めて要請した”応援”。

 この景の言葉だけで、第二異門にいる魔物のレベルが嫌でもわかってしまう。



『えー、もう終わり??つまらないなぁ』

 景の声が途絶えた無線から、楽しそうに笑う声が聞こえた。


『はぁあ、退屈だね?』

 その問いかけに答えるものが一人。


『だね』


 その返答を期に、第二異門との通信は途絶えた。

 その事柄は全員の不安を掻き立てるには充分だった。

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