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破壊先に現れたし多彩な異世界  作者: 桜音愛花
第二章 未熟者の挑戦
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未踏の新道

 時刻は二十三時。

 何の変哲もないこの公園で、一人の少女が命を懸けて戦っている。

 彼女の名前は蓮水羽花。

 この世界の平和を任された、蓮水家の正統後継者である。


 ※ ※ ※ ※ 


 ――向こうの木の陰に二体、あの死角に四体、そして空中に一体。

 この中で一番厄介なのは、遠距離を得意とする空中の魔物。


 それなら天力で体を守りながら、他の魔物を先に祓う。


 羽花は勢いよく飛び出し、死角となっている壁の後ろに回り込んだ。


「花属性 従一位 千荊万棘(せんけいばんきょく)


 目の前に現れた羽花に蔑み笑いながら飛び掛かった魔物は、何かに気が付き咄嗟に足を止めた。

 しかし、その判断はもう既に手遅れだった。


 魔物を囲うようにして現れた無数の棘が、魔物達の行く手を阻む。

 少しでも動けば体を貫くその鋭い先端に、魔物は寸分も動くことが出来なかった。


【千荊万棘】『花』属性に属する術者の天力によって生み出される技。


 ”荊”と”棘”は茨を指し、進む予定の道に数えきれないほどの茨があるという意味である。

 つまり、多数の困難が待ち受けていることを表す。


 この術はその名の通り、相手の周囲に多数の棘が出現し動きを封じる。

 その棘と相手の距離は、術に込める天力の量によって変化し、

 多くの天力を流すほど相手との距離が狭まるものだった。



 恐怖に支配される声が目の前、そして向こうの木々から聞こえてきた。

 羽花はその声から目を背け、天力の放出を強めた。


 何かを貫く音と悲鳴が聞こえ、羽花はそっと目を開けた。

 命が尽きたのを確認すると、倒れこむ魔物達を自身の天力で生成した蔓で縛り上げた。


 そしてすぐさま空中に結界を作り、足場として利用する。

 花びらが舞うように優雅に空を駆ける羽花の姿は、魔物の視線を翻弄するようにひらひらと舞う。


 視界を行き交う羽花に焦った魔物は周囲を見渡し、息大きくを吸い込んだ。

 その瞬間羽花は術を発動し、自らの体を覆った。


 飛ばされた大量の針は結界に刺さり、煙をあげどちらも消滅していく。


 空中に浮かぶのは羽をもつアリのような姿をしていた。

 大きく息を吸い込んだ直後、尻から飛ばされる鋭い針はおそらく触れると厄介なことになる。


 あの感じはおそらく――毒。


 そう分析した羽花は、一度距離を取り体制を整えた。


 あの針にもしも毒が含まれているのなら、掠るだけでも命取りとなる。

 それに飛距離が伸びれば伸びるほど到達までの時間が必要になり、対処に余裕が生まれる。


 羽花は自分の術の発動範囲ギリギリまで下がり、全神経を尖らせた。


 ――いつでも、来い。


 鋭い眼差しで針の発射口を凝視した羽花は、僅かに重心を下げ、微かに体を揺らし始めた。


 タイミング、速度、方向、その全てが相手との駆け引き。

 今、主導権を握っているのは向こう側。


 だからこそ、どんなものにも適応して見せる。


 足が真っ直ぐで、体に力が入っている状態からの動き出しは大幅な遅れをとる。

 いつでも、すぐにでも動き出せる体制で敵の攻撃を待つ。


 羽花は針が放たれた瞬間を見逃さなかった。

 自分に向かって飛んでくる針を寸前まで、見失わないよう注視する。


 直前で動きを変えるその針に最後まで向き合い、ギリギリのところで交わすと、

 勢いよく結界を踏切り加速しながら距離を詰めた。


 羽花は昔からどんな時でも左足に重心を置いていた。


 体育の授業でボールを蹴るとき、走り出す一歩目、自転車を蹴りだす足。

 その全てが右足から行われていた。


 だからこそ交わした直後の重心を左に寄せることで、より俊敏な動きをすることが出来る。

 これは長年の任務で見つけた、自分の一番動きやすい方法だった。


「今までの経験が、ちゃんと生きてる」

 羽花は口元に笑みを浮かべ、相手の背中に触れた。


「花属性 正三位 桜花爛漫」


 相手は何の前触れもなしに技を攻撃できない。

 針が飛ばされる時、その前に必ず大きな溜めがあった。


 命を狙う側から狙わる側へ。

 羽花が一度攻撃を躱せば、主導権を握るのは羽花の方だった。



 相手の体に現れた桜の蕾は徐々に花を開き、綺麗な花を咲かせた。

 それに比例するように魔物の勢いは衰え、みるみるうちに高度を下げていく。


 地面に近づきながらも大きく息をした魔物を羽花の目は捉えた。

 瞬時に距離を取り、重心を低くした羽花に鋭い針が襲い掛かる。

 その全てを避けた羽花は次の攻撃へと一歩足を踏み出し振り向いた。


 その時太ももを掠る感覚を感じ、動きを止める。

 先程交わした針の大群。

 一針だけ別行動をしていたんだ、意図的かまぐれか。


 顔を顰めながら地上を見ると、高度を下げた魔物が地面に横たわっていた。



 羽花の足を掠った針は、魔物の作戦ではなかった。

 羽花の術を受け、最後の力を振り絞った結果の乱れによるもの。

 不本意なその攻撃は、返って相手を貫くことに成功したのだった。


 しかしその結果は、地面で息絶えている魔物にはもう届かない。

 それを確認すると、羽花は魔物達を一箇所に集め懐に手を伸ばす。


 震える手で握りしめたそれを取り出し、目の前で息絶えている魔物に視線を落とした。



 ――強くなるには、どうしても越えなきゃ行けない。


 あと数センチで魔物の体に触れるところで、視界がぐるりと回り地面に膝をついた。

 頭痛が激しく、吐き気をもよおした羽花は手を土で汚しながら咳き込む。


「ゴホッ、ッッウ、エ、ゴホッ」

 浅い呼吸をしながら、羽花は何度も手を伸ばした。



 その光景を静かに見ていた影が動く。

「あれ、帰るの?」

 踵を返した背中に、朝陽は声をかけた。


「ああ」

 短く返事をした景は、声をかけてきた男に視線を向けた。


「ん?俺??

 俺は妹が気になっちゃってさ。今から助けに行くとこ、」

「やめろ」

 景は朝陽の首根っこを掴み、遠慮なく引きずり歩く。


「ちょ、痛いんだけど??おい、景??俺歳上だぞ??」

「関係ねぇ」

「うん、そうね。年齢なんて関係ないよね。

 そもそも年齢を言い訳に威張る大人、俺大嫌いだしね」

「うるせぇ」

「ごめんなさいね!!」

 いつもは頼れる兄である朝陽も、大事な妹の一大事には精神年齢が大幅に下がる。


 そんな朝陽を迷惑そうに引きずる景は、ぽつりと漏らした。

「越えろ」


「なんか言った?」

「………」

「無視はやめてくれない?」

 羽花の元に戻してくれる気配がない景に溜め息をつき、首根っこを掴む腕を優しく解いた。


「もう行かないから、放せ」

 抵抗なく掴んでいた服を話した景に朝陽は問いかけた。


「なんで来たんだ?」

「別に」

「ふーん」

 二人の男は、足並みを揃え家へと向かった。

 歩き出す二人の後ろには、未だに地に足をつく一人の少女の姿があった。



「大丈夫ですか?」

 羽花は突然かけられた声に顔を上げた。


 そこには杖を持ち、こちらを見つめる老人の姿があった。


 ――なんで、この時間に。


 羽花は慌ててブレスレットを確認した。

 小さく表示されている【4:54】という文字に、目を見開いたまま問いかけた。


「ど、うしてここに?」

「毎朝、このあたりを散歩してるんです。

 今日は早く目が覚めてしまってね」

 杖を撫でながら「年寄りは駄目ですな」と笑う姿を見つめる。


 羽花が驚くのも無理はない。

 通常任務中は、特に魔物の侵入中はこの空間に結界が張られている。


 万が一この公園に足を踏み入れた一般人がいた場合、交戦に巻き込まれてしまうからだった。

 しかしこの結界は完全に人間の侵入を弾く訳ではなく、あくまでも簡単な防御だった。


 例えて言うならば、工事中のようにネットで侵入を防ぐのではなく、危険であると書かれた看板が立っているだけのようなものである。



 だからこそ稀に侵入してしまう者もいた。

 しかしこの結界に侵入できるのは力を所持していることが絶対条件。


 つまり術者、天力を失っていない子供。そして天力と同等の力を持つ魔物。


 子供は外出時間の影響で、夜中に出歩くことはほとんどない。

 唯一一般人で天力を保持する子供がいないのならば、強化する必要性がない。

 それゆえの結界の緩さだった。


 だからこそ目の前の老人が結界に侵入していることに目を疑った。

 今はまだ魔物が存在している時、より防御が高い状態の結界にどうやって――



「その紙が貴方を苦しめているのですか?」

 老人は、羽花の手に握られている術紙に目を向けた。


「いえ。ただ、走っていたら転んでしまって」

 笑顔を見せた羽花の頭に手を乗せ、皺々になった紙を自らの手中に収めた。


「苦しいこと、悲しいこと、嫌なこと。

 それは人それぞれ基準が違う。


 ある人が『大丈夫』だと思って他人にしたことが、

 それを受けた人にとっては『嫌なこと』だったりする。


『嫌なこと』に向き合うことは立派ですが、時には逃げることも大切だと思いますよ」


 老人は皺を伸ばすように紙を優しく撫で、放り投げた。


 それはあろうことか横たわる魔物の上にはらりと落ち、魔物の体は結界の中に閉じ込められ霧に覆われた。


「同様に、『正しい』や『間違い』も人それぞれ。


 なんせ道は一つとは限りませんからね。

 他人の『正しい』が本当は『間違っている』かもしれない。

 あなたの信じた『正しい』こそが、未来を変えるかもしれませんよ」


 もう一度羽花の頭を優しく撫で、老人はゆっくりと公園を後にした。


 術紙の結界が消え、跡形もなく消えた魔物に頭を下げた羽花は、急いで天睛班に連絡を入れる。



「こちら蓮水羽花、蓮水羽花。任務終了を報告します。

 修復作業の応援要請です。どうぞ」


 連絡を終え、一息ついた羽花は老人が歩いて行った方向を見つめる。

 そんな羽花の腕に輝くブレスレットは【4:56】を指していた。



 ※ ※ ※ ※ 



 老人は結界を抜け、公園を振り返る。

 手にしていた杖を手中に仕舞い込んだ彼は、口元に笑みを浮かべ姿を消した。


「新しい道への一歩、だな」


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