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破壊先に現れたし多彩な異世界  作者: 桜音愛花
第一章 蓮水と鳳莱
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冀求-2

「水属性 従四位下 氷消瓦解」

「花属性 従三位 水月鏡花」


「グアッ」

 口元を血で汚し、膝から崩れ落ちた男は空中で自分を見下ろす翔の姿を捉えた。


 ――自分より、あいつの方が重傷だ。

 心臓の表面は傷だらけ、そもそも胸に穴が開き、血が垂れ流れている時点で死んでもおかしくないんだ。

 なのにどうしてこんなにも精度の高い攻撃を放ち続けることが出来るんだ。

 男の頭の中はそのことでいっぱいだった。


 翔は軽やかに空中を駆け回り、術を発動し続ける。

 時には遠方からの攻撃、そして不意を突くように近距離戦――刀での攻撃を仕掛けてくる。


 男はその素早い動きに翻弄されていた。

「裂」

 自分に向かって飛んでくる結晶を振り払うように腕を動かす。

 その時、腕が通った空間が歪んだのを二人は見逃さなかった。


「羽花、わかった」

「うん、見えた」


 二人は確信した。彼は『空間』の使い手であると。


 ――若爺が言っていた。

 空間術の使い手は攻撃自体を移動可能である、と。



 男の背後から切りかかろうとしていた翔の後ろに漆黒の裂け目が現れ、羽花は叫ぶ。

「後ろ!!!」

 寸前のところで身を翻した翔の頬には一筋の傷跡が残されてた。


「あっぶねぇ」

 ホッと胸を撫でおろした翔は、自身の右手に視線を移す。

 その拳を握りしめ、瞬く間に距離を取った彼は体制を整えた。


「水属性 従二位 晨煙暮靄」

 辺りが一瞬にして霞み、男は動きを止めた。


 翔はその瞬間賭けに出る。


 ――空間術の使い手なら、正しい空間を認識できないうちに止めをさ、



 翔は突然動きを止めた。

 痛みからではない、ある疑問から冷や汗が止まらなくなる。


「ここ、どこだ?」

「え?」

 翔の異変に気が付いた羽花はすぐに駆け寄り、問いかけた。


「おかしいんだ」

 焦ったように辺りを見渡す翔は、心臓の痛みを抑えながら口を開く。


「見えすぎる」

「え、何が!?」

 先程から話の意図が見えず、一度術式を解除し向き合った。


「晨煙暮靄は朝は霧、夕方は靄、そう分けられている。


 どっちも同じものだけど見える範囲で呼び名が変わるんだ。

 一キロ未満なら霧、一キロ以上十キロ未満なら靄。


 つまり霧の方が視界が悪い――今起きてるのは靄の方だ」


「じゃあ、今は夕方ってこと?」

 ようやく話の本質を理解した羽花は、翔同様真剣な顔で目の前を覆う水の粒を見つめた。


「俺達が任務を終えようとした時に、あいつが来た。

 つまり一時間経ったとしても、もう四時なはずなんだ」


「じゃあここは――」


「あいつが作り出した架空の空間だ」

 術式を解除した翔は空中に作った結界を飛び渡り、確信した。


「やっぱりな」

 翔が見つめる先には、小高い丘の上に設置されている滑り台があった。

「俺が任務終わり、あそこで何してたか覚えているか?」


 羽花は記憶を遡り、その時を思い出す。

「時計が擦れて痛いからって、滑り台に置いてた……よね?」

「ああ、でもそれがない。

 この戦いで落ちたか、飛ばされたか。でもその可能性は考えにくい」


「任務中、あの滑り台の手すりが壊れてた」

「ああ」


 今日の任務中の低級魔物とやり合っている際、

「大物と戦いたい」

 と不満を露わにした翔の攻撃が変な方向へ飛び手すりに直撃した。

 その結果、手すりが折れ曲がるという失態を起こしたのだった。


 しかし二人が見つめるその手すりは、綺麗な形が保たれている。


 通常任務後は、天睛班や術者達が交戦の証拠を消しているのだが、この魔物が現れたため本日の修復作業はまだ行っていない。

 ということは、紛れもなく架空の世界であるという証明だった。



「一刻も早く現実に戻らなきゃ」

「ああ、一般人が危ない」

「そのためにはまず、」

 沢山の傷を負っても尚、生き続け蹲る男に意識を向けた。


 ――目の前のあいつを倒す。



 翔は拳を握って突き出そうとした。

 しかし寸前で拳を解き、手のひらを向ける。


「やるぞ、羽花」

「うん」

 パチンという音が鳴り響き、羽花は一手目を打つべく、蹲る男の元へ駆け出した。


 その後ろ姿を見つめ拳を握り閉めた翔は小さく呟いた。

「頼んだぞ、羽花」



 男の元まで十メートル。羽花は術式を発動させた。

「花属性 正三位 空花乱墜」

 前回の花びらと違い今回この術式によって現れたのは大量の枝に咲く花だった。

 数十分前、あの男の胸を貫いたものと全く同じもの。


 空中に現れたそれは、一斉に焦点を定め勢いよく動き出した。

 それに気が付いた男は腕を振りかざそうと体を捩る。


 ボトンと音を立て視界に映ったのは、振りかざしたはずの右腕、そして捩っていた上半身だった。

 どこかでパチンと指を鳴らす音が聞こえた。


 その直後、一瞬消えていた枝が再び現れ、切り刻まれた体中に突き刺さった。



「あああああああああああああ」

 耳を劈くような悲鳴が聞こえた時、辺り一面が靄に覆われた。


 しかし男は体中に感じる痛みで、そのことには気が付いていなかった。


 どこからか川のせせらぎが聞こえた気がした。

 そのせせらぎが大きくなった瞬間、一音だけ何かを蹴る音が聞こえた。


「俺らは”まだ”強くないから、痛ぇだろうな」

 空中から飛び降りた翔は、手にしていた短刀を地面と垂直に持ち、男の心臓を貫いた。


 苦しそうな悲鳴が上がったのはたった一瞬だった。

 数秒後、闇に囲まれていた世界に眩しい光が差し込む。



 集中からか息をするのを忘れていた二人は、酸素を求め大きく呼吸を繰り返した。

 すると後ろから鳴り響く拍手が聞こえてきた。


 振り返った先には、折れ曲がった鉄の上に腰掛け、指先で時計を回す男の姿があった。

 男は優雅に足を組み、再び手を叩く。


「いやー、お見事」

 にっこりと細められその目は、初めに会った時よりも不気味なものに見え二人は血の気が引いた。


 それに気が付いたのか、はたまた気が付いていないのか。

 男は包帯を靡かせながら滑り台から飛び降りた。


「まだまだ発展途上だけど、素質はありそうだ。

 待っていてよかったよ」

 拍手を止めた男は滑り台を支える柱に背を預け、そう口にした。


「待っていた?」

 羽花は疑問をぶつける。


「『人間を襲わずに』待っていたんだよ」

 ゆらゆらと横に揺れながら男は答えた。


「なんで、」

 魔物は人間を襲うために決まった場所、決まった時刻に人間界への侵入を開始する。

 その前に立ち塞がるのが蓮水家・鳳莱家である。


 その足枷が不在の絶好のチャンスにこの場から動かないメリットなんて――


「別にお前達のためじゃない」

 黙り込んだ二人を呆れたように見つめ、にやりと笑った。

「俺のためだ」

 男は靡いていた包帯の端を掴み一気に引っ張った。


 徐々に表れていく隠されていた素顔。

 それに気を取られながら二人は男の声を拾っていた。


「なぜ俺達が、人間を取り込むかわかるか?


 俺達は取り込んだ分だけ強くなれる。つまりは強くなるには人間を狩り続ければいい、簡単なことだ」

 男は二人に話す隙を与えず、独り言のように語り始めた。


「そして人間どもにはランクがある。

 最下位は何の力も持たない人間。

 その上は、生まれたばかりの力を所持している子供。

 そして術者、その上にお前達正統後継者だ」


「じゃあ俺達が一番のご馳走ってことかよ?」


「まあ、それは少し違うが今のところはそれでいい」

 翔の問いかけに、男は律儀に答えた。


「で、さっきの答えだが。

 俺は無意味な行動はしたくない。

 我武者羅に人を狩りまくるのは馬鹿のやることだ。体力も時間ももったいねぇ。」


「子供は一般人の百人分、

 術者は子供の一万人分、

 正統後継者は術者の千人分の力がある


『効率よく、量より質』がモットーの俺は、お前らしか眼中にねぇんだよ」

 男はそう言って、一歩踏み出した。


 その時突然吹いた風により、彼を纏っていた包帯は風に乗って遥か彼方へ飛んでいった。

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