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破壊先に現れたし多彩な異世界  作者: 桜音愛花
第一章 蓮水と鳳莱
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冀求-1

「羽花、なんか変わったよな」

「ん?そう?」

 翔のその声に、セーラー服に身を包んだ羽花は髪の毛を靡かせながら振り向いた。


「なんか吹っ切れたって感じがする」

 そう答える翔もまた、黒の学ランを着こなし、大人びた雰囲気だった。


 中学校入学から早3ヶ月。

 同じ背丈だった二人はどんどん成長していき、今となっては翔が羽花を若干見下ろすほどの差が出来ていた。


「んー、そうだね。

 前までは『みんなは好きなこと出来てずるい』『私達の頑張りを知って欲しい』って気持ちがあったから。


 そのせいでたくさん悩んで、妬んで、『この人達を守る必要なんてない』って思ってた」


「けれど『どう足掻いても私がやるべき事は変わらないんだ』って気づいた時、良い意味で全部がどうでも良くなったの」


 あの日の右目はすっかり元通りになり、羽花はしっかり前を向いて言った。


「私は天力を使って、魔物を祓う。それだけなんだって」


 ――昔は、自分の頑張りを誰かに見てほしかった。

 自分達がどれほど頑張っていて、どれほど命を懸けているか、守られてるだけの皆に知って欲しかった。


 けれど知ったところでかけられる言葉は求めていたものではなかった。


 それなら、私のやっていることは知られなくていい。

 ただひたすら、自分の使命を果たすのみ。


「それに気が付くまで、こんなにかかっちゃった」

 目を細めて笑う羽花は澄み切った青空のように綺麗だった。

 そんな羽花を優しい眼差しで見つめる翔もまた、花が咲くように穏やかに笑っていた。



「じゃあ、またあとでな」

 それぞれの家の前に立ち、お互いを振り返りながら声をかける。


「うん、あとで」


 中学生になった二人のクラスメイトは、部活動に入り毎日忙しそうにしていた。

 それでも楽しそうに活動している姿を二人はいつも遠くから眺めていた。


「なぜ自分達は」「ずるい」という憎悪の念を抱くことはもうなかった。


 二人は放課後、響き渡る部活動の音を聞きながら帰路につく。

 それが今の羽花と翔の楽しみの一つになっていた。


 ある時、羽花は言った。

「この音を聞きながら翔と歩いていると、この平和を継続できていることに誇りがもてる気がする」

 艶のあるさらさらな髪の毛が風によって靡いた。


 翔はその光景をこの先もずっと見ていたい、そう笑みを浮かべた。

「そうだな」


 ※ ※ ※ ※


「よし、これで今日の任務完了だな」

 翔は腕につけた時計を確認しながら言った。

 彼の腕に輝く時計は中にあるたくさんの歯車が正確にかみ合い、綺麗な回転を続けているデザインだった。


 時刻は三時を回った。

 あの日以来、時間外に出現する魔物はいなくなり、昼間に低級の魔物を目撃したことも一度もない。

 すっかり身にしみついたこの一日の流れが、なんだか心地よかった。


「最近雑魚ばかりだよな、大型来ねぇかな」

 滑り台のある小高い芝生の丘に寝そべった翔は不服そうな顔で空を見上げた。


「何言ってるのさ」

 呆れたように隣に腰掛けた羽花は、空に輝く星を見つめる。

 ふと先程の会話を思い出し、ポツリと呟いた。


「それでもやっぱり、戦うことは嫌いだよ」

 その声に翔は空を見ていた視線を、隣の羽花に向けた。


 羽花はジッと星を見つめており、その視線には気が付いていない。


 視線を戻した翔は、何事もなかったかのように口を開いた。


「羽花は昔からそうだろ」


 ――昔からそうだった。

 俺が何も感じず敵を祓っている横で、どんなに低級だろうが強かろうが羽花はいつも複雑な顔をしながら一歩を踏み出していた。


「羽花は優しいから天力と相性が悪いんだろうな」

 昔、若匡に言われた言葉を思い出しながら口にした。


『躊躇ってはならぬ。

 一瞬でも迷いが出てしまったら、天力の流れは乱れ、操れない敵となるのじゃ』



「きっと『出来ることなら力なんていらない』って思っているのが天力に伝わっているんだよ」

 苦笑いしながら視線を向けたその時、二人の間を引き裂くように地面に真っ黒な亀裂が入った。



「ならくれよ、その力」

 その言葉と共に侵入してきたのは全身に包帯を巻きつけた不気味な男だった。


 二人は一斉に空中に飛び上がり、その男の分析を始めた。


 包帯から覗く二つの目は怪しい色を含みながら二人を映し、不気味な三日月を形成している。


 ボキボキボキボキと関節を鳴らすその男の指は、羽花達よりも遥かに長い。

 目を凝らしてその指を見ると、どうやら関節が一つ多いようだった。


「お前要らないんだろ?俺にくれよ」

 男は両手の指を二本上げ、二人に向かって突き出した。

 上げられた二本の指は自由自在に角度を変え、痛々しいその光景に羽花は思わず顔を顰めた。



「相手の力は?」

「情報が少なすぎる」

 翔の問いかけに羽花は即答した。


 間は切り裂き侵入してきたことを考えると、1番可能性が高いのは『空間』の使い手。


 魔物には属性という概念は存在しない。

 若爺によると、それぞれの魔物には纏わる力が備わっているらしい。



 この世界を初めて知った時の熊は『火』の使い手だった。

 人間が追い払う時に火を使ったことが関係しているのではないか、そう若爺は言っていた。


 そして二年前の蚊。

 吸血することに関連し、『血』を使って攻撃をしていた。



 ならばこの男は何の技を――


「情報を探る。1回攻めるぞ」

 翔は薙刀を握り、駆け出した。


 羽花はすぐさま術を発動し、サポートに回る。

「花属性 従二位 百花斉放(ひゃっかせいほう)


 男との距離を埋めるかのように大量の花が一斉に開花する。

 男は四方八方、咲き誇る花に囲まれた。


 翔は音を立てないよう意識を集中させながら、男との距離を一気に詰めた。


【百花斉放】『花』属性に属する術者の天力によって生み出される技。


 多くの花が一斉に咲くことを意味する。

 また、多くの人が自由に活発に活動することである。


 この術は大量の花で姿を隠し、相手の不意をつくことを目的とした術である。



「花属性 正四位上 落花狼藉(らっかろうぜき)

 大量に咲いていた花が一斉に散り始め、さらに視界を晦ます。

 花びらが空中に舞い始めた瞬間、翔は腕を後ろに引き付け勢いよく刀を突きつけた。


 ――よっしゃ、入る。



「甘ぇわ」


 耳を指す音が聞こえた時には、手にしていた薙刀は根元から折れていた。

 柄の部分しか残っていない刀に一瞬目を見開いた翔は、自分の体に違和感を感じた。


「は、?」

 翔の背後から右腕を回し、心臓を掴むその男はニヤリと笑う。


「痛くないだろ?

 相手を傷つけて痛みを感じさせるのは、下手くそな証拠だ」

 狂ったように笑う男は文字通り”心臓を掴んでいた”。



 羽花は全身が動かなかった。

 花びらが消え見晴らしが良くなった先で見えたのは、翔の胸を男の腕が抉っている光景だった。



「つば、さ」

 動かない唇を無理やる動かして出たその声は、酷く震えていた。


 羽花の頭は混乱していた。

 何をしたらいいのか、どうしたらいいのかわからなくなっていた。

 そんな羽花を嘲笑うかのように、男は叫ぶ。


「おい、女。変な動きするなよ?主導権は俺にある」

 肩を震わせた羽花は、迷いながらも術を発動させようとしていた手を下ろした。


 それを見た男はにんまりとしながら体を横に揺らす。

「はぁ、いいねいいねぇ。

 正統後継者とか言われてる選ばれた奴が、俺の言葉に従っている。」

 いい気分だ、表情殺し低く呟いた男は、自らの揺れに合わせ苦しそうに声を上げるもう一人に視線を移した。


「ねえねえ、心臓を掴まれてるのってどんな感じ?

 痛、くわないよね?だって俺強いし。


 気持ち悪い?ねえねえどんな感じ?」


 息も絶え絶えになりながら翔は口を開いた。


「……な」

「え?なになに?」

「……むな」

「胸糞悪いって?」


「だよねー!」と目を細める男は次の瞬間目を疑った。


「……怯むな!!!羽花!!!」

 叫び終えた後、吐血し喘ぐ翔を男は軽蔑の眼差しで見つめる。


「無理するからじゃ、ん」

 その時男の背中に鋭い何かが刺さった。

 その箇所は徐々に熱をもち、鋭い痺れが男の体を蝕んでいく。


「なんだ、これ」

 背中に手を回し、その根源を抜き取った男は手に持つ矢のような枝についた花びらを眺め呟いた。

「き、づいてなかった、のかよ」

 荒い息を繰り返しながら翔は初めて背後にいる男を振り返る。


「あ?」

「最初からこの技、放ってたじゃねぇか」


紆余曲折(うよきょくせつ)】どの属性の術者も習得可能な術式。

 ただし使用する際、自らの属性の術式と組合さなければならない。


 遠回りで曲がりくねっていること。また、込み入っているためすんなりいかず色々変化することである。


 今の羽花の攻撃がまさにこれである。


 初めに発動させた百花斉放で武器を生成、そして落花狼藉により紛れながら男の元へ放たれる。

 しかしなぜ気づかなかったのか。

 それは他の花びらのように一定の動きで舞い散るのではなく、それらに紛れながら軌道を変えゆっくりと進んでいたからである。


 予期せぬ事態で一瞬怯んだ羽花は、天力が乱れ術式が解除されかけた。

 しかしあの一言で何とか持ちこたえた枝は鋭い形を保ったまま標的へと突き刺さっていったのだった。



「ごちゃごちゃめんど、ッ」

 男は口から血を吐き出した。


 再度背中に感じた何かが突き刺さる痛み。

 先程とは打って変わって、傷口は驚くほど冷たく、今にも凍りそうな勢いだった。


 ――そんなはずはない。

 こいつの刀はさっき俺が圧し折った。それにこいつは俺の腕の中にいて動けないはず。


 ぎょろりと開けた目で腕の中に閉じ込めている翔を見る。

 翔は額に脂汗を流しながら、口角を上げた。


「舐めんなよ。正確さであいつに勝てる奴はいねぇんだよ」

 言い終わると同時に、氷でできた短刀が男の腕を切り落とし、腕の中は空っぽになっていた。


 背中の痛み、腕の痛み、至る所から流れる大量の血。

 それらを感じながら男は地上に降りた二人を視界に入れた。


 俺の血が付いた短刀をもち、こっちを見ている花の女。

 そして俺の腕を抜き取り、青白い顔をしながら睨み付けてくる水の男。



「面白れぇ。その力、必ず俺が奪ってやる」

 男は切り落とされた腕の包帯を巻き直し、目から赤黒い光を放ち笑った。


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