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破壊先に現れたし多彩な異世界  作者: 桜音愛花
第一章 蓮水と鳳莱
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天力の愛

 あれから五日が経った。

 任務の代理期限が今日までとなった両家は、未だ目を覚まさない正統後継者に焦りを募らせていた。


「今日で七夜目じゃ」

 若匡は集めた面々の顔を見つめ、口を開いた。


「二人の様子はどうじゃ」

 その問いかけに、先程まで二人の傍にいた千美が答えた。


「はい、若匡さんのおかげで体にあった傷は完治し、毒抜きも済んでおります。

 ただ翔の踵骨骨折は回復に時間がかかり、羽花の右目失明には手立てがありません」

「そうか」

「目を覚まさないのは、体内の天力が回復しきっていないからかと思われます」


 報告を受けた若匡をはじめ、術者は険しい表情を見せた。

 なぜなら期限を迎えた今日現在、正統後継者の復帰の目途が立っていないからだった。


 正統後継者以外の術者が代理として任務に向かうことが出来るのは七日間のみ。

 それを超えてしまうと契約違反とみなされ、重い罰を受けることになっていた。

 その罰の内容は、ここにいる誰も知らない。

 違反した当事者だけが知らされ受ける者であり、他言することは許されていなかった。



 その契約を見守る立場にいるのは、羽花が家への報告の際に仲介に入った『天睛班』だった。

 天睛班は『術者』――つまり『蓮水家・鳳莱家』のサポートを行う団体である。


 術者に代わり、任務中のトラブルの際の報告処理・応援要請・手配など最前線で戦う術者の負担を少しでも減らそうと、陰ながら支える大きな組織であった。


 そしてその天睛班の頭こそが今現在、この契約を見届ける最重要人物なのである。

 この天睛班は両家が不正し隠蔽しないための見張りの役割も兼ね、代々継がれてきた団体だった。


「どうするべきなのじゃ、アネモネ」

 アネモネと呼ばれた者は、スクリーンに映し出されこの会議に参加していた。


 しかし両家も名前を知っているだけで、一度も顔を見たことはないのである。

 容姿、年齢、経歴、今いる場所すら知っている者はいない。


「そうねん、まあ、どうしようもないわねん」

 深刻な空気に似合わない声が、部屋中に響き渡る。

 そう、現在の天睛班の頭は独特な口調の可愛らしい声の持ち主であった。


「だってこれ以上代理は使えないわけでしょん?

 何のお咎めなしにするなら正統後継者出すしかないわよん」


「なあ、修」

 険しい顔のまま隣に座る修を呼んだのは、翔の父:徹だった。

「どうした?」

「あいつ、空気読めなさすぎない?」

 口元を掌で隠すように顔を近づけた徹に、アネモネは話しかけた。


「徹さん、徹さん。

 角度的に逆の手で隠さないと丸見えなんですけどん。

 というか、あなたにだけは言われたくないですけどねん」


「あちゃー、聞こえてたか」と呟き額に手を当て、天を仰ぐ。

 修はそんな徹を見ても口を開くことはなかった。


「まあ一つだけ案はありますが、貴方達には無理なことですねん」

 その言葉に誰よりも反応した者がいた。


「どうやってやるんですか!?」

「どうしたらいいですか!?」


「おや、朝陽と茉莉は威勢がいいですねん」

 アネモネは感心したあと、二人に向かって質問を投げた。


「その様子じゃ手段はわからなくても、方法はわかっているようですねん」

 二人は複数の視線を感じながら頷く。


「正統後継者の代理ではなく、その座を奪う」

「正解ですねん、正統後継者を別の誰かにしてしまえばいいんですねん」


「そんなこと!!?」

 修は食い気味に声を荒げた。


「正統後継者は現れることですら奇跡――そう言いたいのですねん。

 それは正しいですん。

 けれどもしかしたら、その証を持つ者が消えた場合、他の者に現れる可能性もあるかもしれないのねん」


「消、えた場合?」

 朝陽は疑問をぶつけた。


「ええ、要は証を持つ者を”殺してしまえばいい”のねん」

「は?」

「え?」

「だから最初に言ったのねん。『貴方達には無理』ってねん」

 わざとらしくため息をついたアネモネは、絶句する面々を無視し話を続ける。


「選択肢は、

 ・現在の正統後継者を殺し、新たな出現者を待つ

 その間は前みたいに交代で任務が可能なのねん。正統後継者がいないのだからん」


「そしてもう一つは

 ・目覚めるのを待ち、代理を立て続けお咎めを受ける――これしかないのねん」


「その必要はねぇよ」

 扉が壊れるほどの勢いで開けられ、その音の大きさに誰もが肩を跳ね上げた。


「今日の任務は俺が行く。それで全部解決だろ」

 スクリーンに向かい、そう宣言したのは数分前まで目を覚まさなかった翔だった。


「っ、翔!!!」

「大丈夫か!?」

 扉の近くにいた朝陽と茉莉は、勢いよく立ち上がり駆け寄った。


 琴葉も今すぐ駆け寄って自分の腕で抱きしめたかったが、母親ではなく鳳莱家の妻として、目覚めた正統後継者に問いかけた。


「目が覚めたのは一安心。

 けれど、その怪我じゃ任務は出来ないでしょ?」

「そうだな、踵骨骨折はそう簡単に治るものじゃないって先生が言っていたからな」

 修のその声に、翔は呆れた視線を向けた。


「おじさん、何を見てるんだよ。

 俺立ってるだろ?ここに来たのだって歩いてきたんだから大丈夫だって」

「まだ五日だろ!?骨折は誤診だったのか?」

 その場で飛んで見せる翔に、ここにいた誰もが目を疑った。


「レントゲンを見せてもらいましたが誤診では、」

「天力で回復しよったな」

 千美の言葉を遮り、若匡は口を開いた。


「まあな」

「『まあな』って、そんなこと」

「回復術が使えるほど天力は貯まっていなかったはずじゃ」

「いや、そもそも出血とかならまだしも骨折を完治させるなんて出来るわけ――」

「でも出来たじゃねぇか」

 朝陽と茉莉が困惑の声を上げるが、翔は強引に遮り言った。


「やってみたら出来た。治った。

 だからいいだろ?任務は俺が行く」

「……何を考えた」

 若匡は孫の謎の回復に、訝し気な眼差しを向けた。


「急に体が熱くなって目が覚めた。

 なんとなく天力が回復してそうだったから、『天力で体治らねぇかな』って思ったら治ってた」

 それだけだ、そう口にした翔にアネモネは拍手した。


「すごいねん。君は本当に天才だねん。

 初日から天力を放出、技の習得も見てすぐに使えるようになる、そして今回の異例の回復。


 本当に天力に愛されているんだねん、翔」


「んなことはどうだっていい。任務の話だろ」


「あぁ、正統後継者が目覚めたのは吉報だが君は任務には行けないのねん」

「は?なんでだよ。

 怪我はなんともないって言ってるだろ」

「怪我が問題じゃないのねん」

 その言葉にこの部屋いる全員が耳を傾けた。


「今いる正統後継者は”二人”。

 両家に課せられたしきたりは『同じ年に生まれた二人で任務を行う』


 つまり、君一人目覚めたところで何の解決にもならないのねん」


「じゃあどうしたらいいんだよ」

 翔はスクリーンを睨み付けた。


「だからさっきから言ってるのねん。

 正統後継者を殺すか、契約違反を起こすか。


 翔が目覚めて変わったことがあるとするならば、”殺す人数”なのねん」

「は?」

「さっきまでは”どっちも殺す”だったけど、こんな天才術者を手放すのは正直痛い。

 なら二人のうち片方を欠けば、正統後継者の証は『二人揃っていない』から消えるはずなのねん」


「それは、羽花を殺せってことかよ」

 口を開こうとした翔の肩に手を置き、朝陽は鋭い眼光でスクリーンを見た。


「こら、朝陽」

 父の声は彼に届いておらず、彼は低く声を上げる。


「天睛班のトップだろうが言って良いことと悪いことがあるだろ」

「朝陽!!!」

「父さんは自分の娘がこんな風に言われて悔しくないのかよ!?


 それに俺達は人々を守るためにいるんだろ!?

 そんな俺らが契約違反だからって、一人の人間殺していいのかよ!?


 羽花は蓮水家の正統後継者である前に、”一人の人間”だろうが!!!」

 声を荒げる朝陽を、一番近くで翔は見つめていた。


「うん、君の言うことは正しいのねん。

 けれど、正直あの子がいてもいなくても何も変わらないのねん。


 あの子は頑張っているけど弱いからねん。

 生まれた時は期待したさ、珍しい光を纏っていたからねん。

 けれどどうだい、天力の放出も、術の習得も、全てが遅すぎる。


 かと言って特別凄いわけではないのねん。

 遅いわりに出来は、よくて”中の下”」


「羽花が、弱い?」

 翔の頭の中に、今まで一緒に過ごしてきた時間が流れてきた。


 たくさん一緒に戦ってきた。

 数えきれないほど一緒に悩んできた。

 たくさん泣いた。

 それでも、いつだって一緒に進んできた。



『皆が笑いあえる世界を作りたい!!!


 世界中のみんなが、私達が、全員が幸せになれる世界を!!!』


「ふざけんなよ。

 羽花は誰よりも強くて、誰よりも優しいんだ!!!」


 朝陽は目を見開いた後、隣に立つ自分よりも小さな術者を見て嬉しそうに笑った。


 そんな二人を見て茉莉も目を細める。


 その時、立ち上がる二人の後ろの戸が静かに開いた。



「大丈夫です。今日の任務は二人で行きます」


  そう宣言した羽花の右目――色素の薄い瞳はスクリーンに照らされキラキラと美しく輝いてた。

9/4分の投稿です

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