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破壊先に現れたし多彩な異世界  作者: 桜音愛花
第一章 蓮水と鳳莱
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人間-1

 ―同時刻 任務地―


「あー、なんか久々過ぎてワクワクするよな」

「ワクワクなんてしないわよ、魔物が現れないに越したことはないじゃない」

 時刻は十九時をまわり、二人は空中から見下ろしながら言葉を交わす。


「なあ」

「その上から言うの、やめてくれない?」

「ねえ」

「気持ち悪っ!!!……やっぱりいいわ、さっきので」

 茉莉は腕にできた鳥肌を擦りながら隣の男を見上げた。


 そこには予想に反して、真剣な表情をしている朝陽の姿があった。

 彼がこんな表情をするのは一つしかない。


「羽花のことね」

「……あぁ」

 朝陽は肯定し、口を開いた。


「翔と、何があったかわかるか?」

「私にもわからない。けれど避けているのは確かね」

「最近、異常発生している魔物は関係あるのか?」

「おそらくないわ。

 翔は朝陽と同じで、敵が居れば居るほどやる気を出すタイプだから」


 茉莉のその言葉に、朝陽は天力を解除し、地上に降り立った。


「にしても、異常発生ってどこがだろうな。静かじゃん」

「報告と違いすぎるわね」


 任務復帰二日目の夜。

 任務を担当している後継者からの報告を聞き、身構えていた二人は初日である昨日、一体たりとも発生しなかったことに度肝を抜かれた。



 そして、本日。

 任務開始から早一時間、二人の心には妙な確信があった。

 ――今日も絶対に現れない、と。



 本来神出鬼没の魔物達。

 出現頻度にムラがあり、二日間現れないことだって過去には何度もあった。

 しかし昼夜問わずの謎の大量発生の後の静けさが、不安を掻き立てる。


「やっぱり、おかしいよな」

 華麗に着地した茉莉は、上着のフードを整えながら答える。

「やっぱりあの”噂”は本当のようね」

「だから俺は嫌だったんだ」

 眉間に皺を寄せ目を細める朝陽を、茉莉は静かに見守った。


「間に合うかしら」

「やるしかないな」

 二人は自身の手を見つめ呟く。


 これは報告が来る数分前の出来事であった。



 ※ ※ ※ ※



 二人は激しく脈打つ心臓を鎮めながら、ゆっくり目を開けた。

 平和に過ごしてきた人々が、生まれて初めて魔物と対面する瞬間だった。

 その直後、至る所から困惑と恐怖の声が上がった。


 罪悪感が込み上がるが、二人が優先すべきことは多蚊を祓うことだった。


「羽花、俺が時間を稼ぐ。家に報告してくれ」

 すれ違いざまの呟きに、羽花は頷く。


 羽花は翔の放つ結晶を避け、クラスメイトや先生たちが集まる場所へと急いだ。

 本当にこの選択が正しかったのか不安が残っている。

 けれど羽花にはもう一つ別の感情があった。


 自分達が日々命懸けでやっていることを知ってもらえる、そんな嬉しさが羽花にはあった。

 恐怖のオーラを纏うその場に膝をつき、落ち着いた口調で説明を始める。


「突然見えた化け物が怖いことはわかっています。

 けれど私達に、この人数を守る力はまだない。

 だから力を貸してください」

 下げていた頭を上げ、恐怖に支配された目と向き合う。


「私達がみんなのことを守りながら、あの化け物を倒します。

 しかし万が一私達が間に合わなかったり、身の危険を感じた時、これを化け物にぶつけてください」

 羽花がみんなに手渡したのは、先程羽花が放っていたものと同じ花びらだった。


「これには先端に少しだけ毒が仕込んであります。

 相手を殺すことは出来ませんが、少しだけ動きを止めることは出来る。

 そうしたら私達はすぐ駆け付けます」


 再度頭を下げた羽花は、先頭に座り込んでいた担任に花びらが詰まった袋を託し、前を向いた。


 ここにいる一般人全員を背に庇うようにして、羽花は身につけていた光沢のあるピンク色のブレスレットを口元に近づけた。


「こちら蓮水羽花、蓮水羽花。

 天睛(てんせい)班応答願います。どうぞ」

『こちら天睛班。どうぞ』

「羽花・翔の研修地にて魔物の侵入確認。

 大量発生により応援要請願います。どうぞ」

『了解。

 直ちに蓮水朝陽・鳳莱茉莉の二名を送ります。どうぞ』

「了解、以上。」

 羽花は連絡を終え、腕を下ろす。


「安心してください」

 そう微笑んだ羽花は、こちらに向かってくる魔物に術を発動させた。


 瞬時に切り刻まれる大量の蚊を見て、後ろで悲鳴が上がる。


 ――ひとまず、このあたりの多蚊は一旦祓い終わった。

 翔の方に、


「おい、羽花!!!」

 一歩踏み出そうとした羽花を呼び止めた声は酷く震え、裏返っていた。

 咄嗟に振り返った羽花の目に映ったのは、鋭い眼差しを向けて立ち上がった一人のクラスメイトだった。


「おい、俺を守れよ。……絶対に」

 これは信頼の言葉ではないと、彼の表情を見てわかった。

 それは恐怖で本性が現れた人間の姿だった。


 自分の身を守るため、自分が生き残るため――我が身の保身を縋る言葉だった。

 羽花は言葉を発することなく微笑み、飛んだ。

 

「醜いなぁ」


 羽花による大量の花びら、翔による氷の薙刀がたくさんの蚊を貫き切り刻む。

 半数以上を仕留めようやく勝機が見えてきた時、二人は今までに感じたことのない力のオーラを感じ身の毛がよだつ。


 ――理性も本能も言っている。

 振り向いてはいけない、と。


「翔、」

「あぁ」

 二人は荒い息を押し殺し、呟く。


「見ちゃ駄目だ」

「うん」


 ――けど。


「花属性 従二位 暗香疎影(あんこうそえい)

「水属性 従二位 晨煙暮靄(しんえんぼあい)


 大量に飛び回っていた蚊は突然発生した(もや)により視界を妨げられ動きを静止した。

 そしてバラバラと瞬く間に、地面へ叩きつけられた。



【暗香疎影】『花』属性に属する術者の天力によって生み出される技。


 どこからともなく漂いくる花の香りと、月光などに照らされまばらに映る木々の影を意味する。

 主に梅の花の香りのことを指すが、羽花のこの術式は花の香りに混ぜられた毒を、相手が知らずのうちに吸い込み、体の崩壊が始まるものであった。



【晨煙暮靄】『水』属性に属する術者の天力によって生み出される技。


「晨煙」は朝に出る霧、「暮靄」は夕方に出る靄を意味する。

 その名の通り術を発動させる時間帯で発生する霞の濃度が変化する。


 現在の時刻は二十時。

 空気中の水蒸気が凝結し、霧よりも細かい水滴となり浮かんでいる。



 それらによって視程を妨げ、敵に自らの動きを悟られにくくしているため、

 羽花の花の香りによる毒は相手に発生方向を知られずに周囲に漂わせていた。



 周辺の音が消え、術を解除した二人は徐々に視界が良くなっていくのを感じた。

 そうして初めて視界に映した姿は、紛れもなく――「人、間……」だった。


「こんにちは」

 鼻にかかった甘い声が脳に直接響いてくる。

 本人から発せられる音は聞き取れないほど小さなものなのに、脳内に直接入り込んでくるその声はまるで媚びているような感じがした。


「こんなに私のお友達がやられたんです。

 どなたがやったのか、ご存じですか?」

 眉を八の字に下げ、首を傾げたその女はこう名乗った。


「私、美蚊(みか)と申します。仲良くしましょうね?」

 にっこり微笑む彼女は、血色の良いピンク色の唇を動かし、妖艶な空気を纏っていた。

 まるで口紅を塗った後のような動きに二人の視線は、そちらに集まった。


「綺麗でしょ、私の唇。

 毎日の保湿、スクラブもしていて、とっても気持ちがいいんですよ?」


 全身を黒で統一した服装、短いスカートから覗く足は適度な柔らかさを残しすらりと伸びており、その白肌は網タイツにより強調されている。


 胸元が広く開いた襟付きのジャケット、そして中のチューブトップは丈が短く、彼女の美しい腰回りが惜しげもなくさらけ出されている。



「あなた、人間じゃないですよね?」

 羽花はそんな彼女から距離を取り、問いかけた。


 その声に顔を向けた美蚊は、目を細め冷たい声で言い放つ。

「私、女の子嫌いなの」


「え?」

 羽花は思わず目を丸くし、素っ頓狂な声を出す。


 そんな羽花に興味はないのか、退屈そうに視線を逸らした先で、美蚊の綺麗な口元が弧を描いた。


「ねえ、そこのボーイ。私とお話しない?」

 首を傾げ、ゆっくりと近づいてきた美蚊は上目遣いで、翔の瞳を覗き込む。


 暫くの間、ぼんやりと彼女の瞳を見つめていた翔は、肩に乗せられた美蚊の腕を振り払うことなく受け入れた。

「……翔っ、!?」


 そんな羽花の反応を勝ち誇った顔で見つめた美蚊は、優しく翔の体を抱きしめる。

 その背中に手を伸ばす翔の動きを、羽花は目を見開いて追うことしかできなかった。

 そしてその手が細い体に届いた瞬間――


「ゴホッ」


「やっぱこの手は使えるな」

 と満足げに笑う翔は、羽花の腕を掴み空中に作った結界に飛び乗った。


「ボーイ?」

 背中を氷の短刀で貫かれた彼女は、口から血を流し咳込みながら上空にいる翔を見上げた。


「つーか、触んなよ。気持ちわりぃな」

 そんな彼女を冷酷な視線で見下ろす彼は、まさに『水』――いや『氷』の使い手だった。



 口元を拭った白い肌は赤く汚れ、それでも尚妖艶な笑みを絶やさない彼女は、

 倒れていた一匹の蚊を手に取り、口づけた。

 その瞬間、この場にいた大量の蚊が一斉に飛び上がり、けたたましいほどの翅の音が響き渡った。


「皆で楽しく、遊びましょう」

 細められた目は怪しい色を含んでおり、舌なめずりした彼女は酷く妖艶なオーラを放っていた。

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