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破壊先に現れたし多彩な異世界  作者: 桜音愛花
第一章 蓮水と鳳莱
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手背の謎-2

 昔、人類が滅亡の危機に陥ったあの時――己の体を犠牲にしながら人々を守る集団がいた。

 彼らは様々な攻撃を使い、謎の生命体の体に次々と攻撃を放ち、数日後たくさんの仲間を犠牲に勝利を収めたのだった。


 その集団の中にたった二人、決して膝を折ることなく最後まで経ち続けた者がいた。

 両家に伝わる書によると、二人は性別の異なる同じ年の生まれただった。

 そして今や、長きに渡り繰り返されている事柄の最初の人物であった。


 この二人の出生以降、蓮水家・鳳莱家は同じ年に異なる性の赤子を授かり続けていたのだ。

 全ての始まりはこの二人の誕生であった。そしてこの二人が生き残った惨憺(さんたん)たる戦いの最中(さなか)、それぞれの手の甲に浮かび上がった紋様こそが――



「今お前達の手にある、この紋様じゃ」


 二人は静かに己の手を見つめた。


 なぜ自分達に浮かび上がったのか、全くわからなかったのだ。

 自分達はまだまだ未熟で、最近になってようやく魔物と渡り合えるようになってきた。

 それでもまだ、「立派な術者である」と胸を張って言えるほどの自信は持っていない。


 それならば、力も技術もある上の世代の方がこの紋様にふさわしいのではないか――二人は口に出さなかったが、同じことを心の中で考えていた。


「この模様は各世代に必ず現れるものではないのじゃ」

「世代?」

 羽花は視線を上げ、嬉しそうに顔をほころばす若匡を見上げた。


「例えば、爺ちゃんにその模様が浮き出たとする。

 そしてその子供の代――つまり僕や(おさむ)の手に現れる。

 更にその子供――朝陽、茉莉、優美、景、羽花、翔の誰かに現れる。


 そしてその子供達――というように必ずその紋様をもつ子が現れるわけではない」

 翔の父:(とおる)に続き、修も口を開く。



「それにこの紋様が最期に現れたのは、およそ百六十年前。

 初代紋様適合者を含めると六組目の、」

「え?それしかいないの?」

 翔は驚きのあまり言葉を遮る。


「ああ。

 それほど厳選された者にしかその紋様が浮かび上がらないということなんだ」

「この落書きみたいなやつが?」

「こら、翔。

 神聖な証をそんな風に言うのはやめなさい」


 母からの叱りを受け、翔は口を尖らせ不満を口にする。

「だってよ、これが出たからって強くなったわけじゃないしな」

「何も変わらないよね。属性も変わったわけじゃないし」

 お互いの手を見比べる二人に、徹は声をかける。


「確かに、その紋様には力を上げる効果や技術を跳ね上げる効果はない。

 けれどこれは”正統後継者”の証だ」

「セイトウコウケイシャ」

 二人はお互いの手をじっと見つめ呟いた。


「正統後継者というのは、その名の通り”正式な跡継ぎ”。


 二人は術者として天から認められたってことで、

 つまりだな、これからは二人が引っ張っていかなきゃいけないってことなんだ。


 そんで、それはどういう意味かというと、えーっと、

 ちょっと待ってね、えー、」


「お主も鳳莱家の人間ならシャキッとせんかい」

 息子の説明の下手さに呆れた若匡は、深い溜め息をつき言葉を遮った。


 それから若匡は真剣な表情で幼い二人に向き合った。その姿を見て、羽花と翔は背筋を伸ばし、姿勢を正す。


「儂が説明する」


 その後ろでは

「怒られちゃった」

 と徹がおどけているが、そんな父の姿を極力視界に入れないよう、翔は真剣な眼差しで若匡を見つめる。



「息子が無視した……」

「徹、今はふざけている場合じゃないだろ」

 修は呆れた表情で隣に座る徹に声をかけた。



「おじさん、相変わらずだな」

「あの空気の読めなさが遺伝しなかったのが唯一の救いね」

 朝陽の言葉に、茉莉は冷ややかな目で離れた父の姿を見つめた。


 その視線に気が付いた徹は真剣な表情でピースを向けてきたが、寸前のところで茉莉が顔を逸らしたため、その姿は誰の目にも触れることはなかった。


「娘まで…」

 もうそんな徹を相手にする者は誰もいなかった。

 徹はようやく静かに若匡の言葉に耳を傾けた。

 気がつけば大まかな説明は終わっており、羽花と翔がより理解を深めるために質問をしているところだった。


「つまり正統後継者っていうのは『天から正式に認められた者』ってこと?」

 翔の問いに、若匡は頷き答える。


「そうじゃ。

 天から与えられた力――すなわち天力を使い人々の平和を守る。

 我々に与えられたこの使命を受けるのに相応しい認められたということじゃ」

「ふさわしい……私達が」

 羽花は若匡の言葉を呟き、繰り返す。


「だからと言って他の者が天力を使うことを禁止しているわけではない。

 あくまでも、紋様をもつ者はその意思を継ぐ資格がある、と認められたということ」


「長年、正統後継者は不在じゃった。

 だからこそ若手の訓練も兼ねて、夜の任務を術者全員に任せてきた。

 しかし、正統後継者が現れた今、その体制はがらりと変わる」

 若匡は真剣な眼差しで二人の名を呼んだ。


「鳳莱翔」

「はい」


「蓮水羽花」

「はい」


「二人を両家の正統後継者として、すべての任務を担当することを命ずる」

 健闘を祈る、そう付け加えた若匡はおもむろに立ち上がり、部屋を後にした。


「すべての、任務?」

 疑問を抱く後継者に、徹は優しく声をかけた。


「すべての任務というのは――」

「おい、お前はもう口を開くな」

「なんで!?」

「絶対に説明できないだろ」

「出来るに決まってるじゃん」

「じゃあ言ってみろよ」


 修のその言葉に、

「ちゃんと聞いておけよ、子供達」

 と鼻息を荒くし、徹は腰に手を当てて立ち上がった。


「今まで、任務を三つの時間帯に分けてそれぞれの担当を決めてきた。

 一番手は翔と羽花、次に景と――あれ?茉莉達が先だっけ?あれ?ねえ、」

 その時、徹は右肩に微かな重みを感じ振り返った。


 そこに立っていたのは、

「徹さん」

「はい」

「先にお家に戻りましょう」

「……はい」

 そうにこやかに笑う嫁の琴葉(ことは)だった。


 琴葉により徹は強制連行され、この部屋には快適な静寂が訪れた。

 修は苦笑いし、再び口を開いた。


「今までは全員で交代しながら任務を行ってきた。

 でもそれは『後継者』がいなかったから」


「後継者がいるのと、いないのとじゃ何か違うの?」

 羽花は純粋な疑問を父にぶつける。


「違うなんてものじゃないんだ。

 正しくは『正統後継者』がいる場合、その人達が全ての任務を行う。

 さっき爺ちゃんが言ってた通りな」


「これは爺ちゃんが勝手に決めたことじゃない。

 羽花と翔に強くなってほしいから、任務を任せているわけじゃないんだ」


 二人は口を挟むことなく、静かに次の言葉を待っていた。


「しきたりには”ある条件”がある。

 今までの話を踏まえて、その条件が何かわかるか?」

 修は二人に問いかけるが、いまいちピンと来ていない二人は視線を彷徨わせている。


 その光景に笑みを漏らし、修は視線を移す。

「朝陽」

 突然呼ばれ驚いた朝陽は、複雑な表情を浮かべながら答えた。


「正統後継者がいない場合」

「そうだ」

 修は二人に向き直り、説明を再開した。


「蓮水家・鳳莱家は十歳を過ぎても天力を失わない代わりに、その力を最大限に使って魔物を祓い、人々の生活を守らなければいけない。

 これが今まで二人に嫌というほど教えてきたしきたり。


 このしきたりには続きがある」


 ※ ※ ※ ※


 しかし正統後継者が現れた場合、直ちに全ての任務を先述の者に委ねることとする。


 ※ ※ ※ ※


「つまりこれからは、十八時から午前三時。

 今まで交代制で行っていた任務を二人がこなす、ということ。

 これが両家に伝わるしきたりに基づいた新しい体制だ」


「大変だということはわかっている。

 いくら紋様が現れたからと言って、まだ十歳の二人にこんなに過酷なことを任せることは心苦しい。

 けれど――」


「大丈夫だよ、おじさん」

 翔は勢いよく立ち上がり、笑顔を見せた。

「な、羽花」

 声をかけられた羽花もまた、笑顔を見せこう言った。


「私達/俺達、歴代最強の術者になるから」

 大きな声で宣言した二人を、鳩が豆鉄砲を食ったような顔で見つめていた。

 数秒後、正統後継者となった頼もしい二人を見て目尻を下げた。


「そうか、期待してるぞ」

「うん!」

 小さな頭を撫でまわす彼も、そして撫でまわされる二人もまた楽しそうに声をあげる。

 新たな歴史が刻まれたこの空間は、幸せな声で埋め尽くされる。



 ただ一角を除いては。


「なんであいつらなんだ、どうして」

「どうにかあの紋様を消すことは出来ないのかしら」

「なんでもいい、早く見つけなきゃ」

「ええ、行きましょう」


 眼光炯々(がんこうけいけい)とはまさにこのこと。

 二人は険しい目つきでその光景を眺めた後、気づかれないようにそっと部屋を出ていった。

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